Side:アインス


さて、状況を整理してみよう。


・私がカシウスに説教垂れてエステルと共に外出する約束を取り付ける。
・外出する日の朝に朝食と弁当を作る。
・飛空艇に乗ってグランセルに到着。
・カシウスに女王陛下と謁見する事になっていると言う理由でグランセル城へ。
・女王陛下と謁見したら、姫殿下にも会いました。←今此処。


いやはや、女王陛下と謁見するだけでも凄い事だと思ったが、まさか姫殿下も一緒だったとは……何よりも、エステルと同じ位の年で姫――王女の
地位にあると言う事に驚きだ。
なぁ、エステル?



「…………」



エステル?おーい、エステル?聞こえるか?聞こえたら返事をしろ~~?……ダメだ、全く聞こえてないな此れは。予想外のショックで脳味噌がフリ
ーズしてしまったようだ。
とは言え此のままでは駄目だろうから、強制的に人格交代だ!!



――シュン!



「ん?お前さんが出て来たのかアインス。どうかしたか?」

「いや、女王陛下と姫殿下の揃い踏みにエステルがフリーズしてしまったので強制的に人格交代をして出て来た。――其れと、私も自己紹介をして
 おいた方が良いと思ったしね。」

「成程な。」



まぁ、行き成り変わってしまったから、女王陛下と姫殿下を驚かせてしまったかもしれないけれどね。










夜天宿した太陽の娘 軌跡4
夜天と太陽と白き翼の出会い』










其れで女王陛下と姫殿下だが……あぁ、矢張り予想通り驚いているな?行き成り目の前の子供の髪の毛が栗毛から銀髪になったのだから、当然
と言えば当然だがな。
姫殿下の方は、驚き以外の感情も見て取れるが……其処は、子供故の好奇心みたいなものだろうね。



「髪の色が……エステルさん、其れは一体如何した事でしょう?」

「綺麗な銀髪……」

「女王陛下、姫殿下、私はエステルではない。
 私の名はアインス。アインス・ブライト……この身体に宿った、エステル・ブライトとは違うもう一つの人格だ。以後お見知りおきを。」

「もう一つの人格……カシウスさん、エステルさんは二重人格と言う事なのでしょうか?」

「いえ、元からそうだった訳ではありません陛下。
 彼是十日ほど前の事になりますが、突然エステルが独り言を言い始めまして、其れが如何も誰かと会話をしている様で……何事かと思ったら、突
 然髪の毛が銀髪に変わって、彼女が現れたと言う訳です。
 話を聞くと、彼女の身体は滅んだらしいのですが魂だけは滅びずにエステルに憑依してしまったとの事……俄かに信じられる話ではありませんで
 したが、目の前で実際に起きている事であれば、信じるしかありませんでした。」

「その割には、アッサリと私がエステルの中に居る事を承諾して貰ったような気がするが……実はそんなに驚いていたのか。
 マッタクそうは見えなかったのだがな?」

「お前さんねぇ、行き成り娘の髪の色が変わって、しかも人格まで変わったとなれば驚いて然りだろう?
 務めて冷静に対応した心算だが、本当は口から心臓が飛び出す程に驚いていたんだぞ俺は……悲鳴を上げなかっただけでも表彰モノだろ。」



務めて冷静に、ね。
その割には、私が居ればエステルからの小言が減るとか言って、割とノリノリだった記憶があるんだが……まぁ、其れには言及しないでおこう。した
らしたで面倒くさそうだしね。



《はっ!驚きのあまり、完全に固まっちゃったわ!!》

《漸く再起動したかエステル。悪いが、人格交代をさせて貰ったぞ。》

《え、なんで?》

《女王陛下と姫殿下の前で固まったままと言う訳にも行かないだろう?其れと、私の自己紹介もしなければならなかったからね……と言うか、お前
 みたいなお転婆娘でも、驚いてフリーズする事が有るのだな。》

《お転婆って……まぁ、否定しないけど、アタシだって驚く事位あるわよ。》

《……20リジュは有るであろうカブトムシにも驚かないのにな。
 其れで如何する?人格を交代するか?》

《ううん、今はアインスが女王様達と話をしてるんでしょ?其れが終わってからで良いわ。》

《そうか、分かった。》

さてと、女王陛下に姫殿下、私に聞きたい事は有るだろうか?私に答えられる事であればなんでも答えるが……



「アインスさんは、死後エステルさんに憑依したと……貴女もまた、先の戦争の被害者なのですね……」

「いや、そうではないんだ陛下。
 私はそもそもこの世界の住人ではない上に、人間ですらない存在だ――私は、この世界とは異なる世界に存在していた魔導書の人格であり、そ
 の魔導書が破壊される事で消える筈だった存在だったんだ。」

「アインス、お前さん陛下相手なんだからもう少し言葉遣いと言うモノをだな……」



其れは無理だカシウス。
生まれてこの方、敬語を使った事がある相手など私の制作者と私が壊れる前の主と、最後の主である八神はやてだけだからね……そもそもにして
作者的に私が我が主以外に敬語を使うのは違和感バリバリらしいからな。尚、夜天のなのはは除外の方向で。



「アインス、お前さん何言ってるんだ?」

「多分、この世界の標準言語だと思うぞ。まぁ、ベルカ語が通じる事に驚きだがな……と言うか、若しかして自動翻訳されてる?」

「そんな馬鹿な……いや、でもお前さんの口の動きと言葉が一致してない事があるから、若しかしたら若しかするのかも知れん……オイオイ、其れ
 はどんな超常現象だ?」

「大丈夫だカシウス……僅か9歳の少女が星をも砕くピンクの破壊光線を放つのとか、光の速さと同じレベルでの高速移動するのに比べたらマッタ
 ク全然超常現象じゃない。」

「お前さんの世界の子供は随分物騒だな!?」



いやマッタク持ってその通りだよカシウス。
魔力を蒐集した事で私も使えるようになったが……あの小さな勇者の最終奥義であるスターライト・ブレイカーは私でも引いたからね――まさか、魔
力をかき集めて其れを力にするとは思わなかったし、その威力が星をも砕く程だとは予想外だったからね。
まぁ、アレのおかげでナハトヴァールを砕く事が出来た訳だから、あの技には感謝だけれどね――時にカシウス、漫才染みた此の空気は、果たして
如何した物だろうか?



「ふふ……あはははははは!!」

「クローディア?」

「如何なされました姫殿下?」

「も、申し訳ありませんお祖母様、カシウスさん……アインスさんとカシウスさんのやり取りがあまりにも面白かったので笑いを堪える事が出来なくな
 ってしまいました。
 ですが、久しぶりに心の底から笑った気がします……お父様とお母様が亡くなってから、本当に久しぶりに本気で笑った様に思いますから。」



姫殿下が大笑いしたと思ったら、彼女は両親を喪っていたのか――だから、子供の身でありながら王女と言う地位に居ると言う訳か……女王陛下
の娘が亡くなったとなれば、王位の継承権は直結の孫が引き継ぐ事になるからね。
それにしても久しぶりに笑ったか……では姫殿下、こんなのは如何かな?



「アインスさん?」

「髪をモジャモジャにしての爆発アフロ!からのAGO顔……からの両手での顔プレス!そして指で目を吊り上げて『女装したカシウス・ブライト』!」

「プッ……!」



更に追撃のツインテールで頬被りを再現して『怪しい泥棒』!そしてトドメに頬を両手で引っ張ってギガンゴラー!このコンボに堪えられるかな?



「あはははは!!む、無理無理ですよアインスさん!其れを笑うなだなんて、無理です!大抵の人は、笑ってしまいますよ其れは!!」

「よし、勝った。」

《アインス、貴女何を競ってるの?》



エステル、其れは突っ込んでは駄目だ。と言うか突っ込んだら負けだ。



「はぁ、はぁ……涙が出る位笑ったのは本当に久しぶりです。
 お祖母様、アインスさんとエステルさんと少しお話をしたいのですが、席を外しても良いでしょうか?」

「クローディア……そうですね、子供同士の方が話も合うでしょうから、空中庭園でゆっくりして来なさい――カシウスさんとの話は、私が居れば良い
 事ですからね。」

「ありがとうございます、お祖母様。」



で、話の流れから私とエステルは姫殿下と空中庭園で一時を過ごす事が確定したとさ……ロレントの郊外に住んでる田舎娘が王都の姫殿下とマン
ツーマンで過ごす事など、100年に1度あるか無いかと言う所だな。
貴重な体験だなエステル。



《ゴメン、貴重過ぎて若干理解が追い付いてないわ……まさか、姫殿下様と空中庭園で過ごす事になるなんて予想もしてなかったから、如何すれ
 ば良いのか分からないわよ!!》

《そこは任せろ、私が場を作った上でお前と変わるから――歳は同じ位みたいだから、通じる話もあるだろうしな……まぁ、姫殿下との一時を楽しめ
 ば良いだろうさお前もな。》

《確かに、其れが一番かもね。》



人生は何時だって、楽しんだ奴の勝ちなんだから、楽しまねば損だよエステル……実際に私は、人生の大半を損して来たからね――私が踏みしめ
て来た道が人生と言えるかは微妙だがな。
だがまぁ、姫殿下と一緒に空中庭園で昼食と言うのも悪くないか。



「其れではアインスさん、一緒に来ていただけますか?」

「其れがお望みであるのならば仰せのままに。」

そう言って、跪き、其処から手を取って手の甲にキスを落としてやった……手の甲へのキスは、挨拶みたいなモノだから別に問題にはならないだろ
うしな。
とは言っても、子供には少々刺激が強かったかな?



「手の甲への口付けは忠誠の証……そう言う事なんですかアインスさん?」

「へ?この世界ではそうなっているのか!?」

其れはマッタク持って予想外だったなオイ!!
此れはまぁ、アレだ親愛の証だと思ってくれたらいい……其れに、お前とて本気で言った訳では無いだろう姫殿下?



「バレていましたか。」

「まぁ、其れ位は分かるさ……私も少しはしゃぎすぎてしまったようだしね。」

《マッタク何してくれちゃってるのよアインス!》

《スマンスマン、この世界で初めての遠出と言う事で私も浮かれていた様だ……だが、反省も後悔もしていない。寧ろ反省と後悔をしたら負けだ。》

《どんな超理論よ其れ!!》

《知らん!》

だが、姫殿下と絆を紡ぐ事が出来る機会を得る事が出来たと思えば悪い事でもあるまい?――姫殿下は、私達の事に興味があるようだからね。
ならば、先ずは空中庭園でランチと洒落込む事にしようじゃないか。
庶民が作った弁当ではあるが、姫殿下も満足する出来であるのは間違いないしね。



《そう言えば、ごはんを握ってたみたいだけど、あれなにしてたの?》

《アレは私が嘗て存在していた世界の究極の携帯色であるおにぎりだ……中に詰める具を変える事で千差万別の味を生み出す最強のメニューだ
 よ――おにぎりは最強だ。》

《あ~~……サイですか。》

《サイの体当たりの破壊力は1tを超えるらしいな……生身で喰らった即死確定だな。》

《いや、知らんしそんな事!!》



だろうな。
取り敢えず、期せずして発生した姫殿下とのランチタイムを楽しむとしようか?……この姫殿下とのランチタイムは、中々に楽しめそうだからね。










 To Be Continued… 





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