Side:エステル


……此処は何処?――炎に包まれた街に、倒れてる多くの人達……この人達は、もう死んでいるの?……この光景はまるで戦争其の物……何で
こんな事が起きてるの?
どうしてこんな……



「……矢張り今回もこうなってしまったか――最早この呪いを超える術は存在しない……闇の書の運命は、始まった時が終わりの時――この先どれ
 だけ時が移ろおうとも其れは変わらぬのだろうな。」



その燃え盛る街に佇んでいるのは、銀髪赤目が特徴的な女の人?顔には不思議な紋様があって、腕や足には赤いベルトが巻き付けられてて拘束
されてるみたい……此れだけでも異質なのに、この人は泣いてる……?



「見つけたぞ闇の書!お前だけは絶対に許さねぇ!!俺の家族とダチ公を食いやがって……ぶっ殺してやる!!」

「……出来るのならばやってくれ……私は少々長く生きすぎたのでな――そろそろ人生にピリオドを打っても良いと思っていた……だが、その安息
 はまだ先のようだ……
 だが、お前達には恨みを晴らす権利がある……ならば、私はせめて其れに応えねばな。」



この人って、若しかしてアインス?……って事は、此れはアインスの記憶?……アインス、貴女は私が思っていた以上の苦労をしてたんだ――其れ
を夢で見るとは思わなかったけれど。



「…………」



って、なんかこっち見てるんだけど!?



「……成程、私がお前に憑依してしまった事で、私の記憶を『夢』と言う形で見せてしまったのか……此れまで、こんな事は無かったので驚きだよ。
 とは言え此れは所詮夢に過ぎん。目が覚めたら詳細は碌に覚えていないだろう。お前も、私もな。
 だが、此れから始まるのは目を覆いたくなるような凄惨な状況だ……だから、目を閉じ、耳を覆って眠れ――夢の世界で眠りに就けば、現実世界
 で目が覚めるからね。」



そう言うモノ、なの?良く分からないけど……でも、そうね――貴女の言う通りにしてみるわ……










夜天宿した太陽の娘 軌跡3
突撃!突貫!!王都グランセル!』










Side:アインス


……何か、懐かしい夢を見ていた気がするな?――いや、懐かしいと言うのは少し語弊があるか……詳細は覚えていないが、夢の内容は忌まわし
い過去のモノだった様に思う。
エステルが居たような気もするが、此の子も同じ夢を見ていたのだろうか?



「……はい、こちらはぼーきゃくのかなた。ご用件をどうぞ。」



……どんな寝ぼけ方だ其れは?エステルも同じ夢を見て居のであっても、アレは決して忘却の彼方ではないぞ?うん、絶対に違うと言いきれるな。
エステル、寝ぼけてないで目が覚めたのなら顔を洗ったらどうだ?
そして、顔を洗ったら少しばかり身体を貸してくれ。



「ほえ、何で?」



朝食を作らねばならないし、今日はグランセルまで行くのだから弁当を作らねばな。
日帰りなのかは分からないから夕食は兎も角、昼前に帰って来ると言う事は無いから昼食用の弁当は必須だろう?……日帰りでない場合、夕食は
グランセルのホテルか何かで摂るにしても、昼食くらいは用意せねばだ。
外食は意外と金がかかるし、何よりもカシウスが飲み始めたらトンデモナイ額になりかねんからな……外出用のポケットボトルも用意しなくてはなら
ないかも知れん。



「あ~~……其れは確かに。
 でもアインス、お父さんだけなら其れ程でもないわ……寧ろ、シェラ姉が加わった方がヤバいって。」



シェラ姉……旅芸人一座の女の子だったかな?
シェラザード・ハーヴェイ……褐色肌に銀髪が特徴だと聞いているが、其の子も飲むのか?と言うか、シェラザードはまだ未成年じゃないのか!?



「うん。だから、割とお母さんにお父さん共々、お酒の事でシバかれる事は多かった気がするわ。――ホント、お父さんもシェラ姉もお母さんにだけは
 絶対に頭が上がらなかったわね。」



レナ・ブライト最強説だな。



「お母さんはマジで最強だったと思うわ。
 其れよりもアインス、お弁当って何を作るの?」



其れは出来てのお楽しみだ。
何、我が主から教わった最強の弁当メニューを考えているから期待してくれ。あの最強の弁当メニューの右に出る弁当など、早々存在しないと私は
信じているからね。



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朝食を終え、弁当を包んで出かける準備を終え、其処からカシウスと共にロレントまで行って、ロレントの発着場でグランセル行きの飛空艇に乗って
一路グランセルへだ。
因みに今日の朝食のメニューは、御飯と焼き魚と味噌汁……魚は庭の池で取ったから良いとして、まさかこの世界に味噌があるとは思ってなかった
ので、味噌汁を作る事が出来たのは予想外だった。
まぁ、カシウスもエステルも気に入ってくれたようで何よりだったけれどね。

それにしても飛空艇か……初めて乗ったな?エステルは乗った事有るのか?



《去年の女王生誕祭に行く時に乗ったけど、それ以来だからスッゴク楽しいわ!雲の上を飛ぶなんて、凄いわよね♪》



あぁ、確かに凄いが……だからこそ分からない。
この飛空艇は一体どうなっているのだ?普通、雲の上にまで来てしまったら、余りの酸素の薄さに呼吸するのも一苦労だと言うのに、この飛空艇は
甲板に出ても息苦しさをまるで感じる事がない……そもそもにして、此れだけの高度をこの速度で飛行している状況で甲板に出たら、間違いなくすぐ
に身体が冷えて生死の境をさまよう事になるのだが、一体どんなカラクリが仕込まれているのだろうか?
分かるかエステル?



《へ?え?何、何の話?良く分からなかったからもう一度最初から言ってくれるかしら?》



……スマン、お前に聞いた私が悪かった。
こう言った事は、お前ではなくカシウスに聞くべきだったね――そもそも6歳児に飛空艇の原理やら何やらを聞いて分かる筈がないからね……お前
がIQ300位の超天才児ならば話は違うのかもしれないがな。



《な~~んか、馬鹿にされてる気がするんですけど?》



馬鹿になどしていないさ。
エステルは純粋にして素直だからね……少しばかり、ノーテンキで脳味噌が足りない部分があるのを否定する事は出来ないが、其れがお前の良い
所でもあるから、其の純粋さを失わないでくれ。



《なんか、ちょっと釈然としないわね……》



ハハハ、あまり深く気にするな。
其れよりもエステル、眼下に城らしきものが見えてきたが……若しかしてアレが『グランセル城』なのか?――だとしたら凄い城だな……海からせせ
り立つ城など、古代ベルカでも見た事は無い。
一体どんな技術で建設されたのか……



《アタシも見るのは2回目だけど、ホントに凄いお城よね?
 女王生誕祭の時には、あのお城のバルコニーから女王様がグランセルの都民や女王生誕祭の為にやって来たリベールの人達に手を振って挨拶
 をするのよ。》

《そうなのか?……因みに、リベールの女王とはどんな方なんだ?》

《ん~っとね、もうだいぶお婆ちゃんなんだけど、上品で優しそうな人かな?……あんな人がアタシのお婆ちゃんだったら最高だわ!》

《そうか、よくわかった。》

エステルはまだ子供だが、だからこそその評価は信ずるに値する――子供の純粋さで下された評価と言うのは、大人の色々な事情で下された評価
とは違ってそのものズバリだからね。
エステルがそう言うのであれば、この国の女王は素晴らしい人なのだろう……出来れば謁見してみたいものだ。
尤も、一介の遊撃士の娘では、其れも難しいだろうがな。



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と、そう思っていたのだが、グランセルに着くや否や、カシウスに連れて来られたのは飛空艇から見えたあの城だと!?……オイコラカシウス、城に
一体何の用が有るんだ!?
私もエステルも予想外の事態に驚いているんだがな!?



「お父さん、なんでお城に!?アインスも驚いてるんだけど!!」

「ん?そう言えば言ってなかったな……俺の用事ってのは、女王陛下直々の呼び出しがあったからの事でな、此れから女王陛下と謁見する事にな
 ってる訳だ。
 だから、俺が此処に居ても何ら問題はないぞ。」

「はぁ!?」



はい、異議あり!!
確かにお前は居ても問題ないだろうよカシウス。女王陛下直々の呼び出しがあったのだからな……だがしかし、私とエステルはどうなる!呼ばれて
いない私達は完全に居たらアウトだろうが!!



「『 はい、異議あり!!
  確かにお前は居ても問題ないだろうよカシウス。女王陛下直々の呼び出しがあったのだからな……だがしかし、私とエステルはどうなる!
  呼ばれていない私達は完全に居たらアウトだろうが!!』ってアインスが。」

「あ~~……其れについては大丈夫だから安心しろ。女王陛下にも俺達の事は伝えてあるからな……きっとな。」

「?」



カシウスの返しにエステルが「?」を浮かべているが、其れは私も同じだ……何がきっとなのか、説明して貰いたいものだな――出来れば400字以
内でな。
まぁ、カシウスが大丈夫だと言うのならば大丈夫なのだろうな……普段は飄々として捉えどころのないちょび髭親父だが、やる時はガッチリとやる男
だからねカシウスは。

そんな事を話している間に、女王宮に到着だ。……この空中庭園も見事だな?後でじっくり見てみるか。
さてと、女王宮の中に入っていよいよ女王陛下とご対面か。



「本日はよく来てくださいましたねカシウスさん……こうして、また会う事が出来て嬉しいわ。」

「其れは光栄ですな女王陛下……既に軍を退役した私に、謁見の機会を与えてくれた事、真に感謝に堪えません。」

「そう畏まらないで下さい……貴方が居なければ、先の百日戦役でリベールはエレボニアに吸収されていたでしょう……ですが、貴方が反抗作戦を
 指揮してくれたおかげでリベールはリベールとして生き残る事が出来ました。
 其れに対して、礼を言っても罰は当たらないでしょう?」

「私は軍人として成すべき事を成したにすぎません……ですが、其れがリベールの為になったと言うのであれば、其れは身に余る光栄でしょう。」



そして現れた女王陛下は、成程女王の器だと納得できる人だな?
大分お歳をめしてはいるが、美貌は健在のようだし、何よりも人を引き付けるカリスマ性と言うモノがにじみ出ているからな……もしも過去の闇の書
の主に、この様な人が居たら私の呪いはもっと早く解かれていたのかもしれないな。



「カシウスさん、其方の方は?」

「おぉっと、紹介が遅れましたな?不肖の娘のエステルです。ほら、エステル挨拶だ。」

「えぇと、エステル・ブライトです!!」



で、エステルがカシウスに促される形で女王陛下に挨拶したが、ちょっと緊張した感じが何とも可愛いと言うか何と言うか……人によっては、今ので
ハートブレイクされてしまうかもしれないな。



「エステルさん……お父様に似て良い目をしているわね?……将来はきっといい子になるでしょうね。」

「有難きお言葉です女王陛下。――時に付かぬ事を聞きますが、其方の子は……若しかして姫殿下だったりしますかな?」

「えぇ、その通りです……クローディア、挨拶なさい。」

「はい、お祖母様。
 クローディア・フォン・アウスレーゼです。以後お見知りおきをお願いします。」



で、女王陛下の側に控えていたエステルと同じ位の女の子が自己紹介したのだが、まさか姫殿下だったとは驚きだったよ――菫色の髪に、意志の
強そうなルビー色の瞳が印象的だな。

此れが、この先一生モノの付き合いとなる、私とエステルとクローディアの出会いだった――まさか、グランセルに出かけて、こんな出会いが待って
いるとは、夢にも思わなかったけれどね。










 To Be Continued… 





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