Side:アインス


カシウスが残して行ってくれた仕事を全部終え、翡翠の塔からロレントに無事に帰還した……アルバ教授と言うイレギュラーがあったモノの、無事に
帰還出来たのは喜ばしい事だ。
護衛が怪我でもしてしまったら、私達に仕事を任せたカシウスに申し訳ないからな。



「――いやぁ、助かりました。こんなに安全に遺跡から帰れたのは初めててです。エステル君、ヨシュア君、そしてエステル君の中のアインス君。
 本当に何とお礼を言ってよいやら。」

「いえ、当然の義務ですから。」

「出来れば、次の調査では最初から遊撃士を雇ってよね?」

「はは、財布と相談してみます。
 其れでは皆さん……また何処かで会えると良いですね。」



アルバ教授、其れはフラグだぞ……此れは、次も間違いなく遊撃士は雇わずに単身で遺跡の調査に行くに違いない――そして、彼とはこの先長い
付き合いになる気がしてならない。
どうにも私にはアイツが只の考古学者とは思えない部分がある……闇の属性ではあるモノの、胡散臭さはあるがだからと言って悪の波動は感じな
かった。妙な奴だ。



「さてと……俺達も此処で失礼させて貰うぜ。最初は如何かと思ったが、中々良い働きをしてくれたな。一応礼を言っておこう。」

「ふふん、此れが実力よ☆」

「俺が知ってるブレイサーと比べりゃまだまだヒヨッコだと言いたい所だが、お前さん達はそんじょそこ等の準遊撃士とはモノが違うらしい。
 物理攻撃とアーツを同時に行うなんてのは初めて見たからな……カシウス・ブライトの子供達ってのは伊達じゃねぇ訳だ……だが、慢心しないで
 精進しろよ?」

「う……言われなくても分かってるわ。」



ナイアル達とも此処でお別れか……最後の最後で一本取られたなエステル?――だが、ナイアルの言う様に慢心しないで精進するのは大事だ。
ヨシュアが直ぐに雑誌社に戻るのか聞いていたが、今日一日はロレントに居るらしいから、案外又すぐ会う事になるかも知れないな。



「父さんから引き継いだ代理の仕事も此れで終わりか……思った以上に結構やりごたえがあったわね~。」

「うん、そうだね。
 其れと、戦いだけが遊撃士の本分じゃない事が、少し判ったような気がする。」

「うん……私も分かった様な気がするよ。」



私もな。
遊撃士とは只戦うだけでなく、如何にその時々で迅速に的確な判断をして、最良の結果を導き出すのが大事なのだと思ったからな……パーセル農
園では、其れを特に感じたからね。
まだまだ先は長そうだが、取り敢えずギルドに報告に戻るか。









夜天宿した太陽の娘 軌跡23
『強盗?其れは穏やかじゃないな?









さて、ギルドに報告に戻って来たんだが、お前が此処に居るのは珍しいなシェラザード?何時もはあちこち飛び回っていると言うのにな。



「シェラ姉、アインスが此処に居るのは珍しいなって。」

「先生から引き継いだ仕事が漸く終わった所でね。丁度報告をしてたって訳。」



つまり、私達と同じと言う訳か。
尤も、シェラザードは正遊撃士だから、カシウスが残して行った仕事の難易度は私達が引き継いだ仕事とは難易度が比べ物にならないのだろうけ
どね。



「アイナから聞いたけど、アンタ達も結構頑張ったみたいね?
 ヤレヤレ、毎日苦労してしごいた甲斐があったもんだわ。」

「へへ、感謝してます。其れじゃ、アタシ達も報告しちゃおうかな?」

「良いわよ、話して頂戴。」



で、私達の仕事はエステルが報告して無事に終了。――したのは良いんだが、仕事から解放された事で、シェラザードが思い切り飲むと宣ったのが
大問題だ。
しかも、エステルとヨシュアを付き合わせる心算みたいだからな。



「え~~?酔っぱらったシェラ姉の相手するの?」

「エステル、アタシの誘いを断る心算?……ふ~ん、良い度胸してるじゃない?」



ほう、そう来たか……エステル、ちょっと代われ。



《アインス、任せるわ。》

《任せろ。》



――シュン



「ん、アインスに代わったわね?」

「あぁ、代わったよシェラザード。
 誘いを断る……当然だろうこの酒乱。ハッキリ言わせて貰うがお前は酒癖が悪過ぎる。騒ぐし、踊るし……挙げ句の果てには脱ごうとするしな?」

「確かに、目のやり場に困るんだよね。」

「ヨシュアがこのように純真無垢な少年だったから良かったようなモノの、思春期真っ盛りの『エロこそがガソリン』な男子だったら、お前は間違いな
 く襲われてるからな?」

「シェラザード……未成年相手に何してるのよ。」



マッタクだ。
酒の余興とかなんとか言ってたが、そのレベルを超えているからな。

で、シェラザードはターゲットをヨシュアオンリーにしたみたいだが、そうはさせんからな?お前がヨシュアに手を出すと言うのならば、其れは私が全力
で阻止させて貰う。主にエステルの為にな。



《何でアタシの為なの?》

《其れは、秘密だ……まぁ、何れ分かる時が来るさ。》

《???》



今は未だ分からない、それで良いさ。――恋心と言うモノは、中々どうして複雑で難しいモノらしい……数多の知識を詰め込んだ筈の私ですら恐らく
は正確に理解しているとは言えないだろうしね。



――ガシッ……!



「え?ちょっとアインス、なんで頭掴んでるのよ?」

「ヨシュアに手を出したら駄目だと言うのは分かるよなシェラザード?
 もしも手を出すと言うのならば、私が此のままお前にアイアンクローからの暗黒地獄極楽落としのコンボをかました上で、カシウスに報告する心算
 だが如何だ?」

「ちょっと待ってよ、先生に報告するだけなら未だしも、アンタの攻撃喰らったらアタシ死ぬじゃない!」

「大丈夫だ……半分位の力でやってやるから。」

「ストップアインス!君の場合、半分の力でもシャレにならないよ!其れに、準遊撃士が正遊撃士に怪我させたとか大問題だから。」

《あ、其れはアタシも困るわ。》



む、其れは確かに大問題だな……ふぅ、命拾いをしたなシェラザード。
からかうのを止めろとは言わんが、度を過ぎたからかいは時に痛い目を見る事があるから注意しておけ……何事も、許容範囲と言うモノはあるのだ
からな。



「そうね、肝に銘じておくわ。」

「ならば良し。」



――シュン



「あら、エステルに戻ったのね?」

「うん、もういいみたい。……其れよりもシェラ姉!本気でヨシュアに変な事しないでよね!?それと、ヨシュアも何鼻の下伸ばしてんのよ!!」

「えぇ?ちょっと、其れは誤解だよエステル!!」



鼻の下を伸ばしていたと言うよりは、シェラザードに迫られてアタフタしていたと言うのが正しいのだが、鼻の下を伸ばしていたように見えてしまう辺り
が恋する乙女の盲目フィルターなのだろうか?
と言うか、ヨシュアが他の女性に構われるのが面白くないのに、如何してエステルは自分の気持ちに気付かないんだ?とくせい『どんかん』の持ち主
なのか?



「た、大変じゃあ!!」



っと、賑やかなギルドに、突然慌てた老人の声……って、この声は市長じゃないか。



「アレ、市長さん?」

「はぁはぁ、ぜぃぜぃ……エステル君とヨシュア君……おぉ、シェラザード君も居るか。」

「如何したんですか、そんなに慌てて?」

「い、一大事なんじゃ!家を強盗している時に、私が留守に入ったらしいのじゃ!」

「「へ?」」


うん、思わずエステルとハモッた……家を強盗してる時に、私が留守に入ったって何の事だ?エステルも盛大に混乱しているぞ……多分、頭の上を
『?』マークが群れを成して編隊飛行しているんじゃないかと思う。
或いは『?』マークの形をしたアンノーンが。



「市長さん、先ずは落ち着きなさいよ。大きく息を吸って……ゆっくり吐いて。」

「う、うむ……すぅ~~~~……はぁ~~~……
 実は、私が留守にしている時に、家に強盗が入ったらしいのじゃよ。」

「「「「!!!」」」」



強盗、だと?穏やかではないな其れは?


クラウス市長の話では、教区長と話す事が有ったので教会に行っていたが、家に戻ると誰も出て来なくて、オカシイと思ったら強盗に入られた後だっ
たとの事だ。
クラウス市長、家の人達は大丈夫だったのか?



「アインスが家の人達は大丈夫だったのかって!ミレーヌおばさん達大丈夫だったの!?」

「大丈夫、全員無事じゃよ。屋根裏部屋に閉じ込められただけじゃ。」

「よ、よかったぁ……」



人に被害が出なかったのは不幸中の幸いと言う奴なのだろうな……強盗事件の多くは、金品の窃盗だけでなくその家にいた人も殺傷されるケース
が多いからね。
其れを考えると、犯人の目的は本当に金品だけで、無用な殺傷は好まないタイプなのかもしれないな――まぁ、犯罪者である事に変わりはないが。



「此処に居ても埒が明かない。市長さん、現場を見せて貰える?」

「うむ、宜しく頼む!」

「待ってシェラ姉。アタシ達も行くわ。」

「今回は、僕もエステルと同意見です。何か役に立てるかもしれません。……アインスも居ますしね。」

「あ~~……確かにアインスが居てくれると助かるわね。彼女が居れば速攻で犯人の目星が付くと思ってるアタシが居るのが否めない。」



すみません、自分バグキャラなモノですから。……実際に人格交代して自分にアナライズを使ってみたら、ものの見事にステータスの数値がテンプレ
的にバグってたからな。
HP:9#%7*&$ってどういう事なのか分からないからな。



「アイナ、アタシ達は事件の調査に入るわ。
 何か面倒事が起きたら全部リッジに押し付けてやって。多分酒場でのんびりしてる筈だから。」

「えぇ、分かったわ。皆も気を付けてちょうだい。」



……何やらシェラザードがトンデモないことを言ってるような気がするんだが、全員其処はスルーなのだな……顔も知らないが、リッジとやらは頑張
ってくれとしか言えないな。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

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・・・・・・

・・・



で、市長邸にやって来た訳なんだが……うん、ものの見事に滅茶苦茶だな?其れこそお手本のような荒らしっぷりだが……其れが逆に不自然でも
あるな?



《不自然って、どういう事?》

《エステル、此の部屋には金庫があるだろ?
 強盗の目的が金品であったのならば、真っ先に金庫に目が行く筈だから、此処まで室内が物色されていると言うのは逆に不自然なんだよ。
 無論、金庫の中身以外のモノを物色した可能性もゼロではないが、強盗と言うのは言うなればスピード犯罪だから、目的が果たせたら其れで終い
 にするのがベターなんだ。》

《成程ね……って、金庫!!》

《……犯人の狙いは、女王陛下に献上する筈だったセプチウムだったのだろうね。
 だが、此の金庫にセプチウムが保管されてるのを知っているのは市長の他には私とお前とヨシュア……そして、あの時居合わせたジョゼットと言う
 ジェニス王立学園の生徒だけだ。》

《ちょっと待ってよアインス!ジョゼットさんが犯人だって言いたいの?》

《そうは言ってない。
 だが、白昼堂々の強盗事件となると、突発的なモノではなく、計画性があるモノであると考えた方が自然なんだ――犯人は金庫にセプチウムが保
 管されている事を何らかの形で知っていたからこそ、自分が容疑者から外れるように、部屋を荒らしたように偽装したのだろうからね。
 何よりも奇妙なのは、本の類は一切手を付けられてない事だ――此の部屋にある本の中には貴重なモノもあるから、其れこそ売ればそれなりの
 金になる筈なのに、其方には見向きもしてないみたいなんだよ。
 白昼堂々の犯行で、確実な小金よりもリスクのある大金を狙うといのは、矢張り解せないんだ。》

《ん~~~~、何だか難しいわね?》



今は難しいだろうが、調査を進めて行けばお前も分かって来ると思うぞエステル……取り敢えず先ずは、市長邸のありとあらゆる所を調査だな。
さて、ドレだけ有力な手掛かりが残ってるのやらだな。
其れでは、名探偵エステル&アインス、助手はヨシュアで調査開始だ――真実は何時も牙突!



《牙突?》

《間違えた。真実は何時も一つだな。》

まぁ、何にしても事件の犯人は絶対に許さん……女王陛下に献上するセプチウムを盗み出すなど言語道断だからな――見つけ出したら、問答無用
で叩きのめしてやらねばなるまい。
状況から見て恐らくは複数犯だろうが、強盗共は、其れだけの事をしたのだからね。











 To Be Continued… 





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