Side:アインス


カシウスが残して行った最後の依頼はリベール通信の記者とカメラマンの護衛――其れだけならば只のヌルゲーなのだが、ゴール地点である屋上
に誰かが居たとなれば話は別だ。
気付く事が出来たのは私とヨシュアだけだが、私とヨシュアが気付くことが出来たのならば僥倖だ――そのお陰で、屋上に潜んでいる輩を見つける
事が出来たからな。
で、私とヨシュアの言葉を受けて柱の陰から現れたのは髪をオールバックにした眼鏡の男……胡散臭い事この上ないな。



《な、何この人?》

《さぁな……だが、アイツは間違い無く先天的な属性は闇だろうな。》

《え?悪い人、なの?》

《いや、属性で人の善し悪しが極まる訳じゃないから一概にそうは言えない――だがまぁ、闇属性と言うのは変わり者が多いのは事実だがね。
 因みにだがエステル、お前の先天属性は光で、私は闇だ。》

《光と闇って一緒に居て大丈夫なの?》

《今まで大丈夫だったんだから大丈夫だろう……其れに、光と闇が共に存在すれば、其処にはカオスの力が発生する――其の力を得る事が出来
 れば……》

《え~と、アインスの世界にあったカードゲームの超戦士になれる?》

《正解だ。》



「なんと、先客がいたのかよ?」

「うわあ、びっくり~~。アインスちゃん、ヨシュア君、良く気付いたねぇ?」

「私もヨシュアも、人の気配を察知するのは得意だからね……其れで、お前は何者だ?」

「すみません、ごめんなさい。手持ちのミラは全て差し上げますので、どうか命だけは助けて下さい!」



……コイツ、私達を盗賊と何かと勘違いしてるんじゃないだろうか?
まぁ、こんな所は余程のモノ好きでない限り訪れる事はない場所だから、盗賊紛いの連中がお宝目当てに来たと勘違いしても仕方ないが――尤も
塔内部のお宝は、私達が全部回収してしまったけどね。









夜天宿した太陽の娘 軌跡22
『翡翠の塔の屋上で出会ったのは?









その後、エステルと交代して、遊撃士の紋章を見せてやったら、如何やら私達が何者か気付いたみたいだな。



「君達は遊撃士ですか?」

「そうよ。アタシはエステル。こっちの男の子はヨシュア。銀髪になったアタシはアインス……もう一人のアタシって所ね。」

「もう一人の?……君は複数の人格があると言うのでしょうか?」

「そう言う事。
 もう十年も前の話だけど、ある日突然アタシの中にアインスの人格が現れたの……あの時は、お化けが話し掛けて来たって、本気で驚いたわ。」

「はぁ……何とも不思議な事があるモノですねぇ?で、遊撃士の紋章を持たない其方の方は?」

「俺達はリベール通信の記者だ。この塔の取材をする為、コイツ等に護衛して貰ってる。」

「そうでしたか……はぁ、驚かさないで下さいよ。こんな場所に入り込んでくるから、怪しい人達かと思ったじゃないですか。」

「そう言う貴方も、充分怪しいと思いますけど……一体何者なんですか?」



……よし、よく言ったヨシュア。
寧ろ怪しさだけで言うのならば目の前のコイツの方が私達よりも遥かに怪しいからな……私の知る限り、オールバックには碌なのが居ない。
仙水忍にクロロ=ルシルフルに海馬剛三郎にバージル……ドイツもコイツも一クセも二クセもある悪役だからな……リシャールもオールバックだった
が、彼は除外だなうん。



「此れは申し遅れました。私、考古学者のアルバと言います。
 古代文明の研究の為に、この塔の調査に来ていたんですよ。」



考古学者だったのか……其れならば、此処に居るのも分かるが、たった一人で此処に来て良く無事だったな?塔の内部は魔獣の巣窟と化して居
ると言うのに。



「その意見には同意するわアインス……貴方、よく無事だったわね?」

「いや、ははは。遺跡調査には慣れてますからね。魔獣から逃げ回る足腰には自信があるんです。
 ……流石に今回は死にそうな目に遭いましたけど。」

「む、無茶苦茶な学者さんね……」



マッタクだな。
しかし、考古学者って事はこの塔の事に詳しいのだろうか?……と思ったら、ナイアルが同じような事を聞いてくれたな。
人並み以上には詳しいとの事だったが、其処にナイアルが喰いついた……『何か面白そうな話は無いか?』と聞き、アルバは何かを思い出したよう
に話してくれたんだが――セプト=テリオンか。
エステル、お前は覚えているか?



《教区長さんから教わった事があるような……》

《古代人がエイドスから授かったと言う力を秘めた『七の至宝』の事だ。……ヨシュアは、ちゃんと覚えてるみたいだぞ?アルバに答えているから。》

《うぅ、頭使うのは苦手なのよ。》



苦手な部分は克服していくようにしようね。
さて、アルバの話によれば、古代人はセプト=テリオンの力を用いて海と大地と空を支配し、生命の時間や神秘も解き明かしたが、千二百年前に謎
の厄災によって古代文明が滅びると共に、セプト=テリオンも失われたとの事。
まぁ、此処までは七曜協会の聖典にも載ってる伝説なんだが、アルバが言うには七至宝の一つがこのリベールに眠っているらしい――『輝く輪』と
は、何とも大層な名前だな。



「輝く輪……なんだか不思議な響きの言葉ね。」

「その伝承が本当ならば、リベール最古の遺跡であるこの塔に何か手がかりがあると睨みましてね。其れで調査に来た訳なんですよ。」

「は~~、夢のあるお話ですねぇ~~。」

「そうでしょう!?古代のロマンを感じますよね!?いやぁ、分かってくれる人が居て嬉しいなぁ!」



……コイツ、ドロシーと同類なのか?
得意分野では物凄い力を発揮するが、それ以外ではどうしようもないポンコツ……何だろう、此れはとっても正解な気がしてならないな。



で、ヨシュアが何か分かったかと聞いたが、如何やら有力な情報は得られてないらしい――屋上にある謎の装置の事が分かればと言っていたけれ
ど、結局は何も分かってない事に変わりはないからね。
此れにはナイアルも『記事にするには弱い』と言って記事にするのは止めたみたいだな。



「ふ~ん、意外とちゃんと取材してるのね?」

「不確実なニュースソースを記事にする訳にはいかねぇからな。ゴシップ載せてもヨタは載せねぇのがリベール通信のポリシーなんだ。
 まぁいい、予定通りいくとするか。
 ドロシー、ロレント全景を収めたショットを数枚。それ以外はお前の感性に任せた。あちこち動き回って、思う存分良い絵を撮りまくれ。」

「わっかりました!不肖、ドロシー・ハイアット、思いっ切り撮りまくりまーす!」



そんなこんなだったが、ナイアルとドロシーは本来の目的を達成する為にお仕事開始――ロレントの全景以外はドロシーの感性に任せる辺り、ナイ
アルは、写真に関してはドロシーの感性を信頼してるって事なのだろうな。
この二人、結構いいコンビじゃないかと思うな。

序にナイアルの提案で、アルバも私達と一緒に街に戻る事になった――まぁ、今更護衛対象が一人増えた所で大して変わらないから問題はないし
な。

ドロシーの撮影が終わるまで休憩となったんだが、その最中、ナイアルから気になる事を聞いたな?
さてと、今はヨシュアと一緒に居るんだが……



「うわ~、良い眺めね~~!この高さからだと、ロレント地方全体が見渡せるわ。
 こんなに眺めが良いんだから、観光名所にしたら儲かるかも……」

「……うん、そうかもね。」



……何だ?ヨシュアの様子がおかしい気がするが――



《うん、なんかおかしいわ。何時もだったら『其れは如何かと思うよ?』とか言ってきそうなのに、同意するとかオカシイ事この上ないわ。》

《其処で判断するのも如何かと思うがな……何かあったのだろうか?》

《……聞いてみるわ。》

「如何したの?何か元気なくない?」

「君が気付いたって事はアインスも気付いてるよね?……はは、君達は誤魔化せないな。
 屋上に出てから……ちょっと気分が悪くなってね。」

「「大丈夫なの?(か?)」」

「声が二重に……其れだけ真剣に心配してくれてるって事か。
 大丈夫だよ、少し風に当たったらすぐに良くなると思うから――折角の機会だから、君とアインスは色々見学して来なよ。」

「で、でも……」

「こうした機会に見聞を広めるのも遊撃士としての心構えだよ。何か面白い事が有ったら、後で僕にも聞かせて欲しいな。」

「もう、口が巧いんだから……分かった、少しうろついて来る。」



少し気分が悪くなったか……慣れない高所に来て眩暈でも起こしたのかな?高所からの景色を見て眩暈を起こす人は少なくないからね。其れをヨ
シュアが起こすと言うのは意外だったけどね。
まぁ、ヨシュアの提案は一理あるから、アルバやナイアルに話を聞いてみようじゃないか――若しかしたら、特ダネをゲットできるかもだからね。



で、ナイアル達に話を聞いたんだが――まさか本当に特ダネがあるとはな。
ナイアルの話では、最近ボース地方で大きな強盗事件が相次いでいるとか。
しかも、その犯人は空を移動する手段を持っているらしくて捜査は難航しているとの事……空賊の可能性もあるが、エレボニアの偽装工作の可能
性――イヤガラセの可能性もあるか。
真相は闇の中、其れを明らかにするのがブン屋の仕事と言い切るとは、ナイアルはジャーナリストとしての誇りがあるみたいだな。
だが、其れは其れとして此れは少々気にしておいた方が良いかも知れないな。
市長邸には、セプチウムの結晶が保管されている訳だから、その情報を嗅ぎ付けた空賊紛いの何かに狙われる可能性は大きいだろうからね。

さてと、ヨシュア気分は如何だ?



「ヨシュア、未だ気分は悪い?」

「いや、だいぶ良くなった。もう普通通りに動けると思う。」

「良かった。
 何が原因だったのかな?塔の中で酸欠になったにしては、アタシ達は大丈夫だった訳だし……突発性の高所恐怖症だったりして?」

「そ、其れは無いと思うけど。」

「エステルちゃん、ヨシュア君~~!」



っと、如何やら撮影は終わったみたいだな?
撮影が終われば此処に居る理由も無いからロレントに戻るとしよう。



で、帰りの道中もまるで問題はなかった。私とエステルとヨシュアの前には、そんじょそこ等の魔獣などは塵芥に等しいからな。バッチリとクォーツの
素材になって貰った。
雑魚が、そのまま死ね。クククク、ハハハハ……ハ~ッハッハッハッハ!



《アインス?》

《スマン、嘗ての主の名が八神だったのでついな。》

《それ、貴女が表に出てる時にはやらないでね?》

《……確約は出来ないが、出来るだけやらないようにするよ。》

《マジで頼むわ。》



取り敢えず此れでカシウスから引き継いだ仕事はコンプリートなんだが……此れで終わりと言う事にはならない気がするのは、私の思い過ごしなの
だろうか?私の思い過ごしで済めば、其れが一番なのだがな……








――――――








Side:???


マッタクチョロいもんだね?こうもアッサリ此れだけのセプチウムの結晶が手に入るとは思わなかったよ――其れの引き渡し現場に遊撃士が居たの
には驚いたけど、アイツ等は準遊撃士って事だったから正遊撃士と比べれば大した事はない……茶髪ツインテールのノーテンキ女は僕の事を全然
疑ってなかったしね。
そう言う訳で、このセプチウムは貰って行くよ!アディオ~ス!!












 To Be Continued… 





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