Side:アインス


翡翠の塔に迷い込んだ、ルックとパットを助ける為に塔に入り、二階で魔獣に襲われている二人を寸での所で助ける事が出来たか……エステルと
ヨシュアが同時に飛び込みつつも、微妙に緩急をつける事で、同時攻撃ではなく途切れない連撃にしたのは見事だった。
が、魔獣はまだいるな?
それ程強力な魔獣ではなさそうだが、其れでも地下水路に出て来た雑魚中の雑魚と比べれば、倍は強いか……だが、だからと言ってエステルとヨ
シュアが苦戦するかと聞かれたら其れは否だ。
カシウスと言う半分人間辞めてる様な奴に訓練されたエステルとヨシュアでは、並大抵の魔獣など準備運動の相手にもならないだろうからね。

《それにしてもこの魔獣、飛び猫と言ったか?……何と言うかこう、微妙に愛らしいな?一匹だけ倒さずにお持ち帰りしては駄目だろうか?》

《あのねぇ、その辺の犬や猫じゃないのよ?魔獣なの!ペットになんかできる訳ないでしょ!?》

《ペットがダメなら使い魔と言う事で如何だろう?》

《いや、其れでも無理でしょ普通に!魔獣を手懐ける事なんてお父さんにだって無理……いんや、お父さんだったら出来ちゃうかも知れないわ。》

《カシウスだったら魔獣どころか、やろうと思えば女神が使役する神獣すら手懐けてしまう気がするんだが如何だろうか?》

《娘として否定出来ないのが悲しいわね……》



ホントにカシウスは色々と人間を辞めてるとしか思えん……私が全盛期の力を取り戻しても、余裕で勝てるとは言い難いからなぁ?――下手したら
将を圧倒しかねんぞアイツは。
『突然変異的に生まれた強い奴』と言うのを何かの漫画で呼んだ事があるが、カシウスは正にそう言う存在なのかも知れないね。

ともあれ先ずは、魔獣退治だが……見た目は羽の生えた猫か――この場にシュテルがいたら、間違いなく懐かれていただろうな。









夜天宿した太陽の娘 軌跡15
『Moving The Prologue?』









「はぁぁぁぁ……旋風輪!!」

「隙あり……貰った!!」



魔獣との戦いが始まった訳だが、予想通りこの程度の魔獣では、エステルとヨシュアの敵ではないな――エステルが旋風輪で飛び猫を蹴散らした
所に、ヨシュアが追撃の双連撃を叩き込んで確実に狩っていく。
突撃隊長のエステルと、突撃隊長の一撃で散り散りになった敵を確実に仕留めるアサシンのヨシュアと言った所か?
息もぴったり合ってるし、コンビとしては最高だなこの二人は。



「此れで……」

「終わりだ!!」



そして最後の一匹も、エステルのジャンプから力一杯振り下ろされた棒と、低い姿勢から繰り出されたヨシュアの斬撃を受けて、セピスへとその姿を
変えたか……うん、此の戦闘で新たなクォーツが作れるだけのセピスが集まったかも知れないね。



「取り敢えず、此れで全部かな?」

「そうね。ふっふ~~ん、楽勝楽勝♪」

《本当に楽勝だったな……朝飯前、いや時間的には夕飯前かな?》

「言葉的には朝飯前が正しいけど、時間的には夕飯前が正しいわね……ヨシュア、この場合ってどっちが正しいのかしら?アインスも悩んでるみた
 いなんだけど?
 ヨシュア的にはどっちが正しいと思う?」

「いや、どっちでもいいから……って言うか、アインスって時々しょうもない事を考えてるよね?」



しょうもないとは失礼な。
こう言う一見すると下らないような事を真剣に考えた先に新たな発見と言うモノがあるんだぞ?――鳥のように空を飛びたいと言うバカみたいな思
いを真剣に研究した結果飛行機が生まれた訳だしね。
何時の時代だって、新たな技術なんかを生み出したのは、誰かのしょうもない考えからだったんじゃないかと思うんだよ私は――かく言う私だって
『あらゆる技術や知識を無限に記録したい』と言う、夢物語の様な考えから生まれた訳だからな。



「ヨシュア、アインスがなんか物凄く難しい事を言ってる気がする。」

「失礼を承知で言わせて貰うなら、其れは多分エステルにとって物凄く難しい事なんじゃないかと思うよ?」

「いやいや、此れはヨシュアでもちょっと難しいかも知れないわよ?」

「そう言って、君が僕に解かせようとした問題で、僕が解けなかった物は此れまで一つも無かったと思うんだけど、其れって僕の気のせいかな?」

「ぐ……其れを言われると何も言えない自分が悔しいわ。」



……仲の良い事だな。
さてと、ルックとパットは大丈夫かな?



「お、終わったの?」

「す、スッゲェ!!!エステル、結構強いんだな!女のくせにやるじゃんか!」



無事、みたいだな。
だがなルック、女のくせにと言うのは少々いただけないなぁ?確かに単純な腕力で言うならば女性よりも男性の方が強い場合が多いが、それでも
男性よりも強い女性は探せばいくらでもいるからね。
現にエステルだって、ヨシュアを除いた同世代の連中と比較した場合、そんじょそこ等の男共では相手にならないからなぁ……まして、私が表に出
たら、勝てるのは多分カシウスだけだろうしね。



「こんのおバカ!!」

「いってぇ!何すんだよ!!」

「本当にアンタはマッタクもう!乗り気じゃないパットまで、こんな所に連れて来たりして……反省しなさい!52の関節技、拷問卍固め!!」

「いたた!やめろってば!!」



で、要らん事言ったルックにはエステルからのお仕置きがだな……棒術が使えない状況でも戦う事が出来るように、元の世界の漫画の技で実現
可能なモノを何個かエステルに教えていたんだが、如何やらちゃんと使えているみたいだね。
――出来るかどうか分からないが、クォーツが充実して使えるアーツが増えたら、私の世界の魔法も教えてみようかな?エステルは勘が良いから
意外と覚えられるかもしれないしね。



「暴力女!馬鹿エステル!!」

「おまけに命の恩人に対してその口の利きよう……キッツイお仕置きが必要みたいね?……大旋風、喰らってみる?」

「エステル、其れは流石にやり過ぎ……」

「あ、あのその辺で許してあげて?」

「いいのよ、この悪ガキには、此れ位した方が身の為……」

「!!エステル、後!!」

「え?」



此れは、もう一匹魔獣が居たのか!!
咄嗟の事でエステルは反応しきれてないし、ヨシュアが迎撃に出るにしても距離が離れているか……ならば、此処は私の出番だな?……水の力
で消し飛べ!!



――バガァァァァン!!



「へ?」

「むぅぅぅぅぅん!!」



――バコーン!!



私がアーツで魔獣を吹き飛ばしたと思ったら、その魔獣に更なる追撃が……如何やら、到着したみたいだが、少しばかり遅刻だと思うぞカシウス?



「と、父さん?」

「良かった、来てくれたんだ。」

「ふ、まだまだ甘いぞエステル。
 見えざる脅威に備える為、常に感覚を研ぎ澄ませておく……其れが遊撃士の心得だぞ?――咄嗟にアーツを使ったみたいだが、アレはアインス
 が発動したモノだろうしな。
 まぁ、直ぐに塔に向かった行動力と、咄嗟の判断は評価できるが、詰めが甘かったようだな、ん?」

「うぅ……面目ないです。」

「助かったよ父さん……ゴメン、僕がついていながら。」

「まぁ、守る事に関しては、お前もまだまだと言う事だ。精進すれば其れで良い。……では、帰るとしよう。
 よーし坊主共、歩けるな?」

「は、はい……」

「かっくいい……カシウスおじさん、エステルの何倍もカッコイイよ!」

「ハッハッハ、当たり前だ!それじゃあ、町に戻るぞ。」



……で、あっという間に場を纏めて、ルックとパットを連れて行ってしまったか――ヒーローは遅れて現れると言う言葉があるが、今のカシウスは正
に其れだな。



「む~~……助けてくれたのは感謝するけど、なんで父さんが良い所を全部もってっちゃうのよ~~!!納得いかなーい!!」

《あぁ、其れに関しては私もマッタク同意見だよエステル……最後の最後で現れて、美味しい所を持って行きよってからに――私のアーツも、本来
 ならば、エステルとの同時攻撃の可能性を感じて貰える筈なのに、カシウスの登場で全て霞んでしまったじゃないか!!》

「アインスもそう思うわよね!!」

「アインスもなんだ……でも、仕方ないよ。なんたって、カシウス・ブライトだからね。」

「「其れを言ったら身も蓋もない!!」」

「?……声が……?」

「「気のせいだ!!」」


最後の最後でカシウスに美味しい所を持って行かれてしまったが、そうであっても子供達を無事に助け出す事が出来たのは良かったよ――後は
ギルドに報告するだけだね。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



で、ロレントに戻るなり、カシウスは『報告は任せた』と言って、さっさと家に帰ってしまったな……適当と言うか何と言うか、こんな事を繰り返してい
たら、何時か娘に後ろから殴られるんじゃなかろうか?
まぁ、ギルドへの報告は別に手間がかかる事ではないし、遊撃士ならば依頼を熟すたびに行う事だから拒否するモノでもないけれどね。

そして報告をしたら、アイナからカシウス宛の手紙を渡されたのだが、果てさて一体誰からの手紙なのかだな。――アイナは仕事関係だと言ってい
たが、外国支部からと言うのが少しばかり気になるね?
外国からの仕事となれば、暫くカシウスは家を空ける事になるかも知れないからな……まぁ、もしそうだったとしても、エステルも子供じゃないし、ヨ
シュアも居るから、問題はないと思うけれどね。


家路の途中で、エステルがヨシュアに何やら不安をぶつけていたみたいだが、其れは見事にヨシュアが何とかしてくれたよ――魔獣に気付けなか
った事がショックだったみたいだが、ヨシュアの励ましで其れも吹き飛んでしまったみたいだからね。
――此れは、正に一心同体である私には出来ない事だしな。

だが、其れは其れとして、準遊撃士になったお祝いだけでなく、初任務達成記念として、メニューにもう一品……そうだな、酢豚を追加するか。



「酢豚?」

「え?何、エステル?」

「アインスが、初任務達成記念として、今夜のメニューに新たに酢豚を追加するって……でも、酢豚って何?」

「酢豚……聞いた事があるな?
 確か東方の料理の一つで、素揚げにした豚肉と野菜に甘酢のタレを絡めた料理だったと思うよ?……甘酸っぱいタレと、素揚げにされた食材の
 組み合わせが最高だとか。」

「何それスッゴク美味しそうなんだけど?」



実際凄く美味だ。
我が主の酢豚は、そんじょそこ等の中華飯店など話にならない位の美味しさだったからね――流石に私はまだその域には達してないが、其れでも
お前達を満足させられるように腕によりを掛けさせて貰うさ。



「あは、アインスが腕によりをかけて作るって♪」

「そうなんだ、其れは楽しみだね。」



あぁ、楽しみにしていてくれ。舌が蕩ける程の中華を食べさせてあげるよ。――其れにしても、矢張り一匹だけお持ち帰りしたかったな飛び猫……
羽と尻尾をモフりたかった。
あの魔獣、モフモフしているな――って、なんだかどっかで聞いたようなセリフだな?



《アインス?》

《いや、なんでもない。気にしないでくれ。》

《そうなの?なら良いけど……何かあったら言ってよ?アタシ達の間に隠し事はなしよ!》

《あぁ、分かっているよ。》

元より、同じ身体を共有してる以上、嘘を吐く事など不可能に近いからね――さて、もうすぐ家に到着か……カシウスに手紙を渡したら、直ぐに夕食
の準備をしないとだな。








――――――








Side:カシウス


報告はエステル達に任せたが、如何やらちゃんと報告は出来た様だ――まぁ、ヨシュアとアインスも一緒だから、大丈夫だとは思っていたがな。
其れに、塔での事だって、俺が出張らずとも何とかなっていただろう――最後に現れた魔獣に対して、咄嗟にアインスがアーツを使ったみたいだか
らな……駆動時間も無しにアーツが使えると言うのは、二重人格の特権かも知れんな。

さて、ギルドから預かって来たと言う俺への手紙だが……ふむ、帝国方面からの連絡か。

帝国の方は最近何やらきな臭いモノを感じていたが、何かあったのか?……いや、何もなければ手紙など寄こさんか……ふむ……ん~~……む
……う~む……


……なんだと!?


此れが本当ならば見過ごす事は出来んな……マッタク、軍を退役して遊撃士になったってのに、何だって俺には普通の遊撃士じゃ到底対処出来
ないような依頼が舞い込むのかねぇ?
だが、頼られてしまった以上は動かん訳にも行かんが、ある意味で此れは良い機会かも知れんが、俺が受けていた以来の内の幾つかをエステル
とヨシュアに回しておいてやるとするか。

二人にはいい経験になるだろうし、もしも危険な目に遭ってもその時は、アインスが出張れば大抵は何とかなるだろうからな……準遊撃士の修業
を頑張って貰うとするか。


それにしても、何とも嫌な感じのする手紙だったが、俺にはこの手紙がどうにも只の手紙には思えん――この手紙はそう……何か大きな事が起こ
る前触れのような気がしてならない。

其れが、俺の杞憂である事を、願うばかりだな……









 To Be Continued… 





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