Side:アインス
無事に試験に合格してエステルとヨシュアは準遊撃士になった訳だが、正遊撃士への道は此処からなのだから気を引き締めて行かねばだ……今
は準遊撃士ランクを上げて、一日でも早く正遊撃士になれるように励まねばだろうね。
「そうね、その為にも頑張らなくちゃ!!」
「えっと、アインスと話してたのかなエステル?」
「そうよ?アインスが言ってた事を要約すると、これからも頑張れだってさ。」
……エステルよ、其れは幾ら何でもざっくりし過ぎじゃないか?――否、大きく間違ってる訳でないからアレなんだが……此れがエステルの良い所
でもあるからね。
多少強引であっても、その行動力で周囲を引っ張っていく事が出来るのがエステルだからな。
で、その後、エステルとヨシュアの知り合いでもあるルックとパットと少し話と言うか、そう言うのをして、後は家に帰るだけだ……しかしまぁ、ルックは
なんだってエステルには突っかかるのかねぇ?
私やヨシュアには生意気な態度はとらないのだが……まさか、あの子実はエステルに気があるんじゃ?……生意気な態度で突っかかるのは、好き
の裏返し――ツンデレか。
ヴィータのツンデレは見ていて微笑ましかったが、何だろう、男のツンデレは例え相手が子供であっても若干引いてしまうのは……もしもクロノ執務
官がツンデレだったら――想像するだけで気持ちが悪いなうん。
「ねえヨシュア、アタシってルックに嫌われてるのかな?何だか会う度に突っかかられてるんだけど?」
「ん~~~、其れは無いと思うよ?むしろ逆じゃないかな?」
「逆?」
「男の子って事さ。」
ふふ、エステルは頭に大量の『?』を浮かべているが、ヨシュアにはルックの態度が何であるのか分かるみたいだね――男の子の事は、男の子の
方が分かると言う事か。
夜天宿した太陽の娘 軌跡14
『First Mission!子供達を救い出せ!』
さて、雑貨屋でカシウスに頼まれていたリベール通信も購入したし、此れで本当に今日のやる事は全て終わったな……エステル、ヨシュア、今夜何
か食べたい物はあるか?
準遊撃士になったお祝いに、私がお前達の食べたい物を作ってあげるよ。
「ヨシュア、アインスが準遊撃士になったお祝いにアタシ達の食べたい物を作ってくれるって。何かある?」
「え?……そうだなぁ……アインスの料理は何でも美味しいから、何でも良いと言えば何でもいいんだけど、敢えて言うのならアレかな?ナスと挽き
肉を辛い味で炒めたやつ。」
「あぁ、アレめっちゃ美味しかったわよね!ご飯にかけて食べると、また格別なのよ!!」
麻婆茄子かな?……麻婆豆腐を作ろうと思ったら豆腐がない事に気付いて、咄嗟に麻婆茄子にしたんだが、あれはあれで好評だった訳か。
分かった、麻婆茄子だな。
手作りしておいた春巻きの皮があるから、麻婆茄子の春巻きにするか。それから、ハムの炒飯とキノコと卵の中華風スープ、其れからもやしとほう
れん草のナムルだな。
《アインス、聞いてるだけでお腹減って来たんですけど。》
《デザートは……揚げ物をするから、中華風の護摩団子にするか。餡子がないから中身はチョコレートになるが。》
《あぁ、もうすぐにでも食べたいわよ!!》
だろうな、私も自分で言っていて食べたくなって来た……早く家に戻って料理を始めるとしようか――
「エステル、ヨシュア!良い所で見つけたわ!」
「あれ、アイナさん?」
「如何したんですか?やけに慌ててますけど……」
と思っていた所で現れたのはギルドの受付嬢であるアイナ……ヨシュアの言うように、随分と慌てているみたいだけれど何かあったのか?……否、
何もなければこんなに慌ててる事はないか。
「少し面倒な事になったの……今日はカシウスさん、自宅にいらっしゃるのかしら?」
「うん、家で書類の整理をするとか言ってたけど。――ねぇ、何かあったの?」
「ルックとパット、知ってるわよね?」
「勿論。さっき会ったばかりだし。」
「彼等が如何かしたんですか?」
「其れが……ユニちゃんが教えてくれたんだけど、二人して北の郊外にある『翡翠の塔』に行ったらしいのよ。」
「「!!」」
翡翠の塔、だと?
エステル、あそこは確か魔獣の住処になってるんじゃなかったか?
《うん、アタシもそう記憶してるわアインス……まさか、ルックが言ってた秘密基地って、翡翠の塔だった訳!?……あのおバカ、あんな所に子供だ
けで行くなんて自殺行為じゃない!!》
《あぁ、マッタクだ……決して手強い魔獣ではないが、子供が対処出来る相手ではない――一歩間違えば命に係わるぞ?》
《そうよね……!》
「あそこは危険な場所だから……シェラザードも出掛けているからカシウスさんに保護を頼みたいの。」
「「何言ってんのアイナさん!(何を言っているアイナ!)」」
「エステル?え、今アインスとハモッた?」
「そんな事は如何でも良いの!今すぐ追いかけなくちゃ!アタシ達が連れ戻してくるよ!」
「でもねぇ、貴女達は資格を取ったばかりだし……」
「アイナさん、此処はエステルが正しいと思います。急げば、塔に着く前に追い付けるかもしれません。」
よし、よく言ったヨシュア!
確かにカシウスに任せる方が、資格を取ったばかりのエステルとヨシュアに任せるよりも確実かも知れないが、一刻を争う事態である今は、直ぐに
動く事の出来る私達三人が行くのがベターだからな。
「……分かったわ。責任は私が持ちます。
遊撃士協会からの緊急要請よ……一刻も早く子供達の安全を確保して。」
「了解!」
「分かりました。」
早速の初仕事か……エステル、ちょっと変わってくれ。
《え、何で?》
《一刻を争う事態だからかな?》
《?……何か考えがあるのよね?分かったわ。》
――シュン
「エステル?否、アインス?」
「一刻を争う事態なのでな、代わって貰った……行くぞヨシュア。」
「って、なんで僕を担ぎ上げるのさ!?」
「何でって、二人で走って行くよりも、私がお前を担いで走った方が遥かに速いからに決まっているだろう?私の力を甘く見て貰っては困るな?」
「甘くは見てないけど、此れって絵面的に如何なの!?」
《アタシがヨシュアを担ぎ上げてるって、確かに凄い光景よね此れ……》
ハハハ、突っ込みは不要だ……行くぞヨシュア、舌を噛まないように口を閉じていろ!!全速力で行くからな?
「え?ちょっと待ってアインス、君の全速力って確か……」
「100アージュを5秒だ。」
「つまり時速に直すと……」
「1時間に72000アージュ進む計算になるな。」
「其れは人間が耐えられる速度を越してる――!!」
《ヨシュア、頑張って!!》
確かに人間が耐える事の出来る速度を超えてるかもしれないが、五年前にあれだけの怪我を負っていながら物の数日で回復してしまったお前なら
ば大丈夫だろヨシュア?
エステルも頑張ってと言っているから覚悟を決めろ……此れはお前の物語だ!って言うのはちょっと違うな。
「待ってアインス!幾らなんでも其れは――!!」
「悪いが待ってられる状況ではないのでな!!」
《アインス、レッツゴー!!》
《任せておけ!!》
全力疾走待ったなしだ……今こそ私は真に祝福の追い風となる!!
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で、あっという間に翡翠の塔に到着した訳だが、件の子供達の姿はどこにも見当たらないな……既に塔の内部に入ってしまったのかも知れんな?
ならな、直ぐにでも塔に突入したいのだが、大丈夫かヨシュア?
「ヨシュア、アインスが大丈夫かだって。」
「だ、大丈夫。これ位なら、何とでもなるから。」
そうか、ならば安心だな――塔に着いたと同時に人格を交代して、此処からはエステルとヨシュアのターンだ……魔獣との戦いが起きても、私が出
張れば大抵何とかなるが、其れではエステルとヨシュアの成長を妨げてしまうからな。
さてと、塔の内部に入った訳だが……何処からか子供の声が――矢張り入っていたみたいだな。って、お前は何をしてるんだエステル?
「エステル?」
「ルック!パット!聞こえるなら返事しなさい!!
……あんにゃろども、アタシを無視する心算?」
「……否、ひょっとしたら二階に上がったのかも知れない。兎に角、奥に進んでみよう。」
まさかの大声には驚いたが、返事がないとなると、ヨシュアの言うように上の階に行ってしまったのかも知れん……此れは、少しばかりダンジョン探
索になるかもな。
で、二階まで来たのだが……
「うわぁぁぁあ!?」
「た、助けてぇ!!」
此れは奥から悲鳴が……エステル!!
「みなまで言いなさんなっての!!ヨシュア、二人で突入するわよ!!」
「了解。行こう、エステル!」
言うが早いかエステルとヨシュアが同時に飛び出してルックとパットに迫っていた魔獣をブッ飛ばして切り捨てる。実に見事なコンビネーションだね。
――今ので全滅させた訳ではないが、少なくともルックとパットを助ける事は出来たな。
「エステル姉ちゃん!」
「ヨシュア兄ちゃんだぁ!!」
「アンタ達、危ないから下がってなさい!」
「エステル、残りが来るよ……油断しないで!」
「分かってるわよヨシュア……さぁ、一気に片付けるわよ!!」
一気に片付けるか……その意気やよしだエステル。
とんだ初仕事になってしまったが、先ずはこの魔獣達を倒してルックとパットの安全を確保しなくてはだな――まぁ、此の程度の魔獣が相手ならば、
私が出張らずとも、エステルとヨシュアならば余裕で倒せるだろう。
この二人の実力は、あの小さき勇者に勝るとも劣らないレベルだからね――まぁ、その二人を簡単に倒してしまうカシウスは一体何者なんだと言う
事になるのだが、其れは追及しない方が良いんだろうなきっと。
――――――
Side:???
アラン・リシャール……アイツの計画は中々に壮大なモノだが、確かに其れがなればリベールは将来的に盤石となろう――尤も、その計画を教授に
利用されては笑えないがな。
だが、其れも俺にとっては如何でも良い事だ……俺は俺の役目を果たすに過ぎんからな。
アラン・リシャールの計画の第一段階は、没落貴族であるカプア一家を焚きつけて強盗事件を起こし、其れにエステル・ブライトを関わらせ、そして事
件解決の一端を担わせる事か。
……剣聖の娘が如何程の力を秘めているのかは知らんが、大分買っていると見えるな。――とは言え、此のままシナリオ通りと言うのも些か退屈
なので、少しばかりアドリブを入れてやるとするか。
カプア一家の長男に、少しばかり暗示をかけてやるか――教授のモノほど強力ではないが、簡単な暗示ならば俺もかける事が出来るからな。
お前達には悪いが、目的達成の為に、少しばかり踊って貰うぞカプア一家よ。
To Be Continued… 
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