Side:アインス


さて、最後の研修が始まって、先ずはシェラザードによる此れまでのおさらいだったんだが、此れはマッタク持って問題なく終わる事が出来た――エ
ステルは理解するのに時間がかかる反面、一度理解してしまえば忘れる事はないからね。
私が分かり易く教え直したと言うのもあるだろうが、其れでも一度理解してしまえば忘れないと言うのは大したモノだと思うよ。

尤も、ヨシュアは私が教え直さなくとも一度で全てを理解していまったのだから凄いとしか言いようがないけれどね。



「ふぅん?ヨシュアは兎も角、エステルが此処まで確り理解してるなんて、正直言って意外だったわ――そのザルみたいな脳ミソに、もう一度叩き込
 む心算でいたから拍子抜けしちゃったわ。」

「あのねぇシェラ姉、人の事をサラッと馬鹿にしないで欲しいんだけど?
 確かにアタシが物覚えが悪いのは認めるけど、一度覚えた事をキレイサッパリ忘れる程馬鹿じゃないわよ?って言うか、アインスが理解し易く説
 明し直してくれたおかげで、習った事はちゃんと頭に入ってるって。」

「あらまぁ、アインス様様ねぇ?
 でも、此れだけちゃんと分ってるなら、これ以上はおさらいは必要ないわね……なら、そろそろ実地研修で最終試験を始めましょうか?」



……実地で最終試験だと?ペーパーテストがあるんじゃないのか?



「あのシェラ姉、アインスも言ってるんだけど実地で最終試験なの?ペーパーテストとかじゃなくて?」

「エステル……この前シェラさんが言ってただろう?研修の最終試験は実地でやるって――其れを聞いて、『机に向かわないならラッキー』って喜ん
 でたの、誰だっけ?」

「そう言えばそんな事を言っていたようないないような……」

《アインスは覚えてる?》

《全く全然覚えてない。》



「……ごっめーん、アタシもアインスも覚えてなかったわ♪」



――ズデーン!!



ヨシュアもシェラザードもずっこけたか……まぁ、其れもまた仕方ないだろうけれどな。
取り敢えず、実地試験となればエステルにとっては有り難いモノだね――ペーパーテストだと簡単な引っ掛け問題にやられる危険性があったが、実
技であればエステルは略無敵だからね。










夜天宿した太陽の娘 軌跡13
『夜天と太陽と漆黒、準遊撃士に』










さて、実地試験と言う事で、先ずはその準備として街のオーブメント工房での研修で、戦術オーブメントとクォーツを入手した――エステルが入手し
たオーブメントとヨシュアが入手したオーブメントは似ているが異なるモノみたいだな?
エステルは属性固定スロットなしで4-3の2ラインなのに対し、ヨシュアは時属性固定スロット2つの5-2の2ラインか……アーツと言うのはオーブ
メントのライン上の属性合計値によって使える物が決定されるらしいから、同じ6スロットでも、ライン数とライン上のスロット数で使えるアーツが可成
り異なって来る訳か。
で、エステルは水属性、ヨシュアは時属性のクォーツを夫々装備したか。
此れでエステルは水属性のアーツを使えるようになった訳だが、其れは同時に私も水属性のアーツを使えるようになった訳で……私とエステルが
二重人格状態であると言う事を考えると……えい。



――キュイィィィィン!!



「うわ?今のはティア?エステルが使ったの?」

「え?アタシは何もしてないわよ?って言うか、行き成りアーツを使う事が出来る訳ないでしょ?」

《あぁ、其れをやったのは私だ。》

《は?何してんのよアインス!》

《お前がアーツを使えるならば私も使えるだろうと思ったからやってみたら大成功だったみたいだね……しかも私の場合、元々魔法を使えた影響な
 のか、通常アーツに必要な駆動時間を全く必要としないでアーツが使えるみたいだ。》

《なんだかとっても反則臭いわね其れ?》

《まぁ、二重人格である私達ならではのスペシャルな特典だな。》



「ヨシュア、今のアインスがやったみたい……人格交代しなくてもアーツが使える上に、アインスが使うアーツは駆動時間無しなんだって。……流石
 に此れは強過ぎよねぇ?」

「そうかも知れないけど、だけど戦闘になった時には可成り強いと思うよ?
 エステルが棒術でガンガン攻めてる所に、アインスがアーツを放てば、一人で物理とアーツの波状攻撃を仕掛ける事が出来る訳だから、可成りの
 戦力になると思う。」

「ホントに、予想外の事してくれるわね……でも、此れで工房の研修はお終い――次はいよいよ最終試験ね。」



工房での研修が終わって、次はいよいよ最終試験か……ペーパー試験ではない実地試験とは、さて何をするのやらだが、エステルとヨシュアのコ
ンビならば、余程の無茶な内容でなければ大丈夫だろう。
まぁ、余りに無茶振り上等な内容だった時は私に変わってくれエステル……速攻でクリアした上で、シェラザードに盛大にクレーム入れてやるから。



《アインス、其れは多分大丈夫だと思うわよ……幾らシェラ姉でもそんな事しないでしょ?》

《最終試験の内容を、酒が入った状態で思い付いたとしたら?》

《其れは……ちょっと怖いわ。》



だろ?
まぁ、流石に其れは無いと思うんだが、酒が入ったシェラザードは色々と面倒と言うか、中々にぶっ飛んでいるから、素面の状態で最終試験の内容
を考えたと言う事を願うだけだな。
取り敢えず此れで最後だから、悔いの無いように思い切りやって来いエステル、ヨシュア。



「うん、分かったわアインス!!」

「エステル、また口に出てるよ?」

「ヨシュア、アインスが悔いのないように思い切りやって来いですって!!」

「……あのさ、僕の言う事スルーしないでくれるかな?」

「さぁ、行くわよヨシュア!!最終試験もクリアして、遊撃士になってやるわ~~!!レッツゴー!!!!」

「お願いだから僕の話を聞いてよ……」



……ヨシュア、頑張ってくれ。

それにしても、エステルは、一体何時になったら自分の気持ちに気が付くのやら……少なくともエステルがヨシュアを如何思ってるかは私には筒抜
けなんだが、本人に自覚がないからなぁ?
ヨシュアも隠してる心算なんだろうが、私に言わせれば分かり易い事この上ない――私が言っても良いんだが、其れよりも自分で気付くなり、自分
で伝えた方が尊いから黙っておこう。



《アインス、何か言った?》

《いや何も。》

ま、頑張り給え少年少女。



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そして、最終試験こと認定試験は、地下水路での捜索で、水路の何処かにある宝箱の中身を回収するとの事だったんだが――その水路に魔獣が
出るとは聞いていなかったな?
尤も、この程度のアクシデントに対処できないようでは遊撃士には成れないのだろうけれどね。

だが、魔獣はそれほど強い訳でもなくて、エステルの棒術とヨシュアの双剣のコンビネーションで出てくる傍から殴って斬り裂いてフルボッコだな?
考えるよりも先に身体が動く『動』のエステルと、あくまでも冷静に状況を判断し、そして的確な一手を打つ『静』のヨシュアはコンビとしては最高であ
ると言えるからね。

《時にエステル、少し試したい事があるんだが……》

《何かしらアインス?》

《旋風輪を使ってくれるか?》

《え?別にいいけど、何をする心算?》

《其れは見てのお楽しみだ。》



「何をする心算か知らないけど了解!!ハァァァ……旋風輪!!!」



そしてここで……はぁ!!!



――カキィィィィィン!!!



「えぇ!?旋風輪を当てた魔獣が凍っちゃった……」

「此れは一体……若しかしてアインスがやったのかな?」

「そうだと思うけど……」

《アインス、一体何をしたのよ?旋風輪で魔獣が凍り付くとは思わなかったわよ!?》

《旋風輪に水属性を付与してみたんだ……物理とアーツの波状攻撃が可能ならば、クラフト技限定で属性を付与する事も出来るのではないかと思
 ってな――今のは、差し詰め『氷結旋風輪』と言ったところかな?》



「……クラフトにアインスが属性を付与したみたい――今のは氷結旋風輪だってさ。」

「何て言うか、もう何でもアリだよねエステルとアインスって……こう言ったら何だけど、君達のコンビなら大概の事は何とか出来るんじゃないの?
 僕は割と本気でそう思うよ。」

「ん~~……そうかも知れないけど、アタシはヨシュアも一緒の方が良いな?5年も一緒に居たんだから、今更離れるなんて想像出来ないし♪」

「……其れは僕もだよエステル。
 さてと、如何やら目的物まで辿り着いたみたいだよエステル――此処までの道中に有った宝箱には、薬やアクセサリーは入ってたけど、試験課題
 と言えそうな物はなかったから、最奥にあったこの宝箱がきっと当たりなんだと思う。」

「そうね、開けてみましょうか?」



そんなこんなで目的物を見つけて、開けてみたら中から出て来たのは小箱が二つか……宝箱の中に更に箱が入ってると言うのは些か過剰包装で
あると思うんだがなぁ?
ゴミを減らす為に過剰包装は駄目だ絶対。

其れよりもエステル、其れは開けちゃダメだぞ?
今回の任務は対象の回収であって調査ではないからな……下手に開けてしまったら減点の対象になりかねない――依頼人の依頼物の中身を勝
手に見る遊撃士など、信用できる筈がないからね。



《大丈夫、分かってるわよアインス――とは言っても、貴女が居なかったらアタシ普通に開けてたかも――その時はヨシュアが止めてくれるかもだけ
 どさ……危ない危ない。》

《好奇心旺盛なのは分かるが、少しは自制も覚えような?》

《はーい!》



「取り敢えず回収したから戻ろうかエステル?」

「そうね、戻りましょヨシュア。」



で、戻った結果試験は合格。
シェラザードは箱が開けられた痕跡がないかチェックしていたから、箱は開けなくて大正解だったな――で、その後本部に戻って、さっき回収した小
箱を渡され、開けてみたら中には『準遊撃士』の紋章が入っていた。
此れでエステルとヨシュアは晴れて準遊撃士になった訳か……其れは私もだけれどね。



「そうか僕が遊撃士か……なんだか不思議な気分だな。」

「もう、ヨシュアったら、何しんみりしてんのよ?もっとパーッと喜ばないと!!ひゃっほ~~!やったぁ!!」

「はしゃぎ過ぎだよエステル。」



はしゃぎすぎ、ね。
まぁ、確かにはしゃぎすぎかもしれないが、準遊撃士とは言え、遊撃士になると言う夢の第一歩を叶える事が出来たのだから、私としては此れ位は
喜んでも罰は当たらないと思うがな?

何よりも、エステルは試験に合格する為に私に苦手な勉強を教えてくれって言っていたくらいだからね……あれだけ頑張っていたのだから、準遊撃
士とは言え、遊撃士になれたのが嬉しくない筈がないさ。

とは言え、此れは夢の第一段階を叶えたに過ぎん――正遊撃士になるためには、更なる努力と実績が必要になるから、此れからは其れを確りと
積んでかねばだ。

取り敢えず試験合格おめでとうだエステル、ヨシュア。



「アインスもおめでとうだって!!」

「分かったから、抱き付かないでよ!!ちょ、危ないから!!」

「何よ、良いじゃない此れ位~~!!」

「良いとか悪いとかじゃなくて危ないから!!」



……傍から見るとカップルにしか見えない遣り取りだが、こんな事をナチュラルにしてるくせにこの二人は実は付き合ってる訳じゃないと言って、私と
カシウスとシェラザードとアイナ以外で信じる奴はいるのだろうか?
果てさて、この二人の距離が縮まるのは何時の日になるのかだな。








――――――








Side:リシャール


……ロレントで活動させていた部下からの報告によると、エステル君が準遊撃士になったか――彼女が準遊撃士になったと言う事は、同じ身体を
共有しているアインス君もまた準遊撃士になったと言う事か。
だが、私の予想は正しかった――彼女達が16歳になる時がその時だと考えていたが、その通りになったからね……では、そろそろ本格的に計画
を始めるとしよう。

「カノーネ君、彼等との連絡は?」

「既に終えていますわ大佐……彼等にはロレントとその周辺で事件を起こすように指示しました。」

「ならば良い。」

先ずは彼女達の実績作りからだな……先ずは、此れから起きるロレント周辺での事件を、解決して貰うとしようか――この事件をエステル君とアイ
ンス君がどう解決するのか、とても楽しみだ。
そして、機会があれば会いたいモノだ……手紙のやり取りをしていたとは言え、彼是10年も会っていないからね――どのような少女になったか、少
々気になる事ではあるからね。



「大佐はまさか年下好み……」

「カノーネ君?」

「何でもありませんわ、おほほほほ……」



はぁ……君は優秀だが、マッタク持ってヤレヤレだよ。









 To Be Continued… 





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