Side:アインス


何だかんだで、城での日々は過ぎて、今日で一週間――つまりは、私達がグランセルから離れる時が来た訳か。
出立は昼食を済ませてからの予定なので、其れまではクローゼと過ごす事にしていて、今は私が表に出て、嘗てこの目で見て来たベルカの聖王と
覇王の話をしている所だ。
思えばこの一週間、エステルとクローゼにせがまれて、私が此れまで見てきた世界の事を話す事が多かったな――過去の闇の書の持ち主の下で
束の間の間に起きた事、私を作った者の事、本当に色々話したものだ。
まぁ、内容が内容だけに全部を全部本当の事を言う訳にも行かないから、所々は脚色したけれどね。

「そして姫騎士、後に聖王と呼ばれる女性は、戦乱の世を終わらせるべく、最も愛していた覇王の下を去る事を決意し、戦争を終わらせる為の最終
 兵器を動かす事を決め――そして、彼女の決意は実を結び、永きに渡り続いたベルカの戦乱は終わりを迎えたんだ。」

「そんな事があったんですか……其れで、戦争が終わった後で聖王と覇王はどうなったのでしょう?」

「さてな、詳しい事の顛末は私も知らないが、聞いた話では二人が会う事は二度となかったそうだ――最終決戦で命を落としたとの話もあるが、真
 実を知る者は誰も居なかったみたいだしね。」

《悲しいわね……お父さんが言ってた『戦争は何も生まない、奪って行くだけだ』って言うのの意味が、ちょっとだけ分かったかも。》

《少しだけでも分かれば充分だよエステル。》

だが、此の二人は悲劇的な最期を遂げてしまったのかもしれないが、聖王と覇王の系譜が途絶えない限り、何時か二人はきっと再会できるさ。



「アインスさん、其れは一体如何言う?」

《どういう事?》

「聖王と覇王の血統――と言うか、ベルカの民の血統は少々特殊なモノで、先祖の記憶が子孫に受け継がれるんだ。
 無論記憶の全てではないし、ハッキリと覚えているのか朧げな記憶かと差異はあるけれどね……ならば、何時の日か聖王と覇王の記憶を持った
 子孫達が何処かで再会する事も有るのかも知れないという訳さ。
 聖王と覇王の話は悲劇ではなく、未来に思いを託した可能性の話なんだよ。」

「其れを聞くと、悲しい話ではないかも知れません。」

《ん~~~……良く分からないけど、悪い事じゃなかったってのは分かったわ。》



エステル……いや、お前は其れで良いんだなうん。
まあ、今私が言った事はあながち間違いではない――砕け得ぬ闇事件の時に時を超えて現れた二人の少女からは、聖王と覇王の力の片鱗を感
じられたからね……聖王の方は、少々特殊な感じを受けたけれどな。
ヴィヴィオとアインハルトと言ったか……仲良くやってくれてる事を願っているよ。
ん?そう言えばヴィヴィオは10歳で、13年後の世界からやって来たなのはの娘だと言う事だったが……まさか、やらかしたのかユーノ、或いはクロ
ノ!?……まさかあの二人の何方かが聖王の系譜だったとか?……いや、まさかそんな筈はないよな。ない筈だ、多分。










夜天宿した太陽の娘 軌跡10
太陽と夜天と白き翼のScramble』










で、その後はクローゼがメイドさんを何人か呼んで、皆でトランプで遊ぶ事になったんだが、どうやらこの世界のトランプのゲームと言うのは、ポーカ
ーやらブラックジャックみたいなモノが主流で、大人数で遊べるのはババ抜きとか神経衰弱くらいらしい。
まぁ、ババ抜きも良いんだが、此処はジジ抜きにしないか?



「ジジ抜きとは何でしょうアインスさん?」

「基本的にはババ抜きと同じなんだが、ババ抜きがジョーカーが外れ札だと言うのが分かってるのに対し、ジジ抜きはゲーム開始前にトランプの束
 の中から1枚を選んで伏せた状態で置いておくんだ。
 そうなると、ドレが外れ札なのかはゲームが終わるまで分からないだろう?――つまり、ババ抜き以上のドキドキ感が味わえるゲームなんだ。」

「はずれが最後まで分からない……面白そうですね、それで行きましょう。」

「ならば決まりだな。」

ジジ抜きは本当に最後までドキドキが止まらないからね。――そうだ、この際だから私が知る限りのトランプのゲームを教えてやる事にしよう。



・ジジ抜き(エステルと交代)


「クローゼ……さぁどっちを取るの?」

「確率は半分……エスエルさん、右のカードを頂きます!……当たりです!」

「あ~~ん!負けたぁ!!エースが外れ札って、詐欺でしょ此れ!!」



エステルよ、其れがジジ抜きだから仕方ないさ。



・ダウト(私が表に出てる)


「な、七です。」

「メイドさん、其れダウトだ。……はい、ダウトだったな。」

「な、何で分かったのですかアインス様?」

「一週間も一緒にいれば人の癖は大体分かる――貴女は嘘をついたり話をはぐらかそうとするとき、無意識なのだろうが右目の下を触る癖がある
 んだ。だから分かった。」

「えぇ、そうなんですか!?」

「いや、嘘だ。」

「嘘なんですか!?」

「嘘って言うのは冗談だけどな?」

《いや、其れどっちよアインス?》

《更に、冗談と言うのが虚偽申告だ。》

《もうそれ、訳が分からん!!》



だろうな、私自身自分で何を言ってるのか若干分からなくなって来たからね……クローゼ、お前は分かるか?



「敢えて言いましょう、意味が分かりません。」

「だよね。」



・大富豪(引き続き私)


流石にエース3枚には全員パスしかないか……ならば此れで私の上がりだ。3,4,5,6,7,8の階段フィニッシュだ!



「では、私はアインスさんにチェーンして9,10,J,Q,K,A,2の階段上がりです。」



クローゼとワンツーフィニッシュが出来た。なんだかとっても嬉しかった。



で、色んなゲームをしながらあっと言う間に時は過ぎてランチタイムとなったんだが……どうしてこうなった?
なんで、私とエステルとカシウスは女王陛下とクローゼと一緒にテーブルを囲んでいるのだろうか?……カシウス、此れはお前が考えた事だったり
するのか?



「お父さん、アインスが此れはお父さんが考えた事なのかだって。」

「ん?いや、俺は何もしてない。
 殿下のお望みでな、光栄な事に俺達と一緒に食事をしたかったんだそうだ。」

「へ?クローゼがそう言ったの?」

「すみませんエステルさん、少しだけ我が儘を言っちゃいました。
 エステルさんとアインスさんがロレンスに帰ってしまう前に一緒にお食事をしたかったんです――この機会を逃したら次は何時になるか分からな
 いので。」



クローゼの提案だったのか……少し驚いたが、そう言う事なら別に構わんさ。
寧ろ此方としても、リベールの王族と食卓を囲むことが出来ると言うのは光栄の極みでしかないからね――少しばかり無作法かもしれないが、楽し
ませて貰うよ。



「アインスも楽しませて貰うってさ。」

「其れならば良かったです。」



拒否する理由もないからね。
……そう言えば、エステルはテーブルマナーとか知ってるのだろうか?……若しかしたら、私がリアルタイムで教える必要があるのかもな――最悪
の場合は、私が表に出る事も考えておいた方が良いかも知れないね。



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クローゼと女王陛下との昼食も終わり、いよいよロレントに帰る時が来たか。……其れにしても、流石は王族、ランチからフルコースとは恐れ入った
よ。内容も凄かったからね。
前菜に冷やしトマトのあん肝詰め、スープにアボカドの冷製ポタージュ、魚料理はブルマリーナのムニエルにトマトのクーリと玉ねぎのクリーム煮添
え、そしてメインディッシュは骨付き子羊肉の塩釜香草焼きで、デザートは季節の果物のゼリー寄せ……堪能させて貰ったよ。まさか、デザートの
ゼリー寄せが盛られていた器がヌガーで作られた食べられる器だったというのは驚きだったがな。

まぁ、其れは其れとして姫殿下が直々にお見送りに来るとは思わなかったよ。



「クローゼ、こんな所に来て良いの?」

「ふふ、此れもちょっとした我儘です――次に会えるのは何時になるか分からないのでせめてお見送り位はと思いまして。お忍び用に少し髪型など
 も変えていますから、身内でもない限りは私と分かりませんよきっと。
 ――それであの、アインスさんと変わって貰っても良いでしょうか?」

「アインスと?良いわよ。」



――シュン



私をご指名とは何かあったのかクローゼ?



「アインスさん……私は貴女を慕っています……私はまだまだ子供ですが、其れでも……」



――チュ



此れは、頬にキスされたのか?……まさか、こう来るとは思ってなかったから驚きだ。――クローゼ、頬へのキスは親愛の証と言うが、そうとっても
かまわないのか?



「問題ないです……其れが、今の私の気持ちですから。」

「そうか……ならば、その想いは受け取っておこう――答えは、お前が大人になった時に、同じ気持ちであった時にするとしよう。」

《アインス、如何言う事?》

《悪いが其れには応える事は出来ないなエステル――だが、いずれお前にも分かる時が来るさ……お前にとって本当に大事な人が現れたその時
 にきっとな?》

《???》

《今は分からないだろうけれどね。》

で、私もクローゼに親愛のキスを送ってロレントに帰還だ――この一週間はとても濃い時間だったね。



「最後の最後で、凄いモノを見てしまったな俺は……まさか殿下とお前さんがねぇ……お忍び用の格好だったから気付いた奴はいないと思うが、今
 の事は他言無用の方向が良いだろうな。」

「カシウス、子供同士の戯れを覗き見るのは感心しない。」

「お前さん、自分の事を子供と言うか?」

「少なくとも身体は子供だ。」

そして頭脳は大人だ……なんだか、どこぞの名探偵みたいだな。



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其れからあっと言う間に5年の時が流れたな。
此の5年の間にクローゼやリシャールとはドレだけ手紙のやり取りをしたのか、最早数えるのも面倒になる位……それだけ頻繁にやり取りをしてい
たと言う事か、それとも5年の月日故の蓄積なのか、多分両方だね。

――それと此の5年の間に、エステルが棒術の訓練を始めたのも大きな事だね。
それにしても、今日は大分遅いなカシウスは?



「ホントよね……せっかく作った料理も冷めちゃったし……だからって、お父さんが帰ってくるまで棒術の訓練って気分でもないのよね。昼間思いっ
 きり身体を動かしたしね。」

《自分の限界は自分で見極めた方が良いぞ。》

「分かってるわよアインス。オーバーワークにならないように気をつけてるから大丈夫だって――って言うか、ちょっとアタシの事心配し過ぎじゃない
 アインス?――若しかしてシスコン?」



失礼な事を言うなエステル――姉として妹の事を気に掛けない筈がないだろう?……お前は少しばかり危なっかしいからね。



「ムキー、其れってアタシは馬鹿だって言いたいの!!!」

《いや、そんな気は全くない。お前は純粋すぎるから心配なんだよ。》

其の純粋さに漬け込んで、誰が何をしてくるか分かったモノじゃないからね――特にカシウス・ブライトの娘ともなれば尚の事だからね。



――ガチャ



っと、カシウスが帰って来たみたいだぞエステル?



「そうみたいね、おかえりなさいお父さん!!」

「おぉエステル!元気そうで安心したぞ――其れと喜べ、今回は土産付きだ!!」

「えぇマジで!!」



矢張りカシウスだったか。――して、土産とはなんだ?



「アインスが土産はなんだって。」

「そう焦りなさんな、コイツだ。」



そう言って布の中から現れたのはエステルと同じ位の少年か……此れが土産とは笑えない冗談だが、今にして思えば、アレはエステルにとっての
運命の出会いだったのだろうね。
黒髪の少年よ、君は一体何モノなのだ……?







 To Be Continued… 





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