Side:アインス


現状、元姫とダリウスとソフィーと言う新たな仲間を得る事が出来た訳だが、だからと言って状況が何か変わった訳では無い――否、
刹那や志貴に元姫とダリウスとソフィーを持って行かれなかっただけ、環が有利になったかな。

何にしても戦いは避けられん。


と言う訳で、祠のある場所まで来たんだが……此れはまた、何と言うか笑ってしまう位に刹那軍が祠を守っているな?……如何考えて
も一戦交えるのは避けられんか。
英雄の数は兎も角として、流石の私でもアレだけの軍勢を相手にするのは骨が折れるんだがな。



「アレだけの軍勢を相手にして骨が折れるで済ます君に驚きだよアインス……多少の苦戦はしても、負けないと言ってるのだからね。」

「アインスさん、凄いです!!」



まぁ、やって出来ない事は無いだろうが、如何せん相手の数が多くて面倒だ――此処は地道に削って行った方が消耗しなくて済みそ
うだから、真正面から仕掛けるが吉だよ。



「真正面からとは、君らしいなアインス?」

「此れもまた、私を救ってくれた小さき勇者から教えて貰った事だよ桜花。」

どんな困難でも、真正面からぶち当たれば道は開けると言う事を、彼女は私に教えてくれたからな――その教えを信じて、私は邁進す
るだけだ。――奇跡を起こしたあの力は、馬鹿に出来ないからな。









討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務95
『正統なる王・刹那』










で、出撃前に何を難しい顔をしているんだ環は?



「刹那兄様は、祠を守っている様ですね……きちんと話し合えると良いのですが……」

「環殿……本当に良いのね?」

「……はい。
 私は、刹那兄様の真意を確かめたいのです――其れが、どんなに辛い事であっても。
 皆さま、御迷惑をおかけしますが……私と共に来ていただけますか?」



ふ、是非もないよ環――何よりも此処に居るのはお前の仲間であると決めた連中だからな。ならば、お前と刹那が話す事が出来る様
に、精一杯力を尽くすだけだ。



「ありがとうございますアインス様!そして、皆様も!!」

「なぁに、礼には及ばないぜ環!コイツは俺達が自分で選んだ道だからな――だから、お前さんも遠慮しないで自分の要求をドンドン
 言いな。
 お前の望みは俺達が叶えてやるぜ!」

「ふ、言うね時継?流石は勇者を自称するだけは有るかな。
 だが、彼の言うように、俺達に出来る事があるなら何でも遠慮なく言ってくれて構わないよ環。俺達のリーダーは、君だからね。」



如何やら、環チームは結構纏まりが良いみたいだな?
モノノフ達が打ち解けられたのは当然の事かも知れないが、元姫とダリウス、そしてソフィーもまた最初から環軍に属していたかの様
に馴染んでいるからね……まぁ、其れだけ互いに気を許していると言う事だろうがな。

そして、其れは結束の強さを現していると言っても過言ではないからな……刹那や志貴に負ける気が全然しないよ。
では、出撃しようか!!



「あぁ、行こうアインス!」

「アインス殿の武には隙が無い……今回も期待してる。」

「では、期待には応えて見せよう元姫。」

先ずはダリウスの術とソフィーの錬金術を使った遠距離攻撃、時継の射撃で先制攻撃を仕掛け、其処を私と桜花と紅月で斬り込み、追
撃として元姫の鋲をばら撒くのが一番だな――って如何やら相手の動きも悪くないようだな?



「刹那さんの所へは行かせないわ。」

「お前か青いくノ一。……まさか、私に瞬獄殺で瞬殺されたのを忘れた訳じゃないだろうな?」

「忘れてはいないけど、あの技はもう喰らわない……此処で貴女達を止める。」

「お願いです、通してください!
 私は、刹那兄様と話し合わないといけないんです!」

「そう言われて、通すと思う?」

「思いませんが、此処は通らさせて貰います――マホロバのモノノフ、紅月がお相手いたします。
 アインス、此処は私に任せて貴女は環と共に刹那の元へ向かって下さい。」



紅月……分かった!行くぞ環!



「行かせない……!」

「貴女の相手は此方です……小隊を引き連れただけだったのが災いしましたね?
 他の英雄が居たのならば、また或いは違ったのかも知れませんが――兎も角、貴女は此処で無効化させて頂きますよ。」



他の英雄が居ても蹴散らすけどな。
しかしまぁ、これだけの軍勢が居るとなると地上を移動していたのでは時間がかかるばかりだ……少々魔力を大目に使ってしまうが環
だけでなく、桜花と元姫とソフィーも空を飛ばせていくか。
ダリウスと時継に地上で暴れて貰えば、其方に注意を引き付ける事も出来るからね――と言う訳で、宜しくな~~!!



「ったく、人使いが荒いぜ!つーか、自分だけじゃなくて他人も空飛ばせられんのかお前は!」

「おやおや、鬼である俺も驚きだよ。」



まぁ、私は色々と規格外だからこの程度は大した事じゃないさ。
さて元姫にソフィーに環、空を飛んでみた感想は如何だ?



「驚きです!」

「空を飛ぶ事が出来るなんて思わなかった。アインス殿は、本当に何でも出来るのね?」

「空を飛ぶなど、鳥でなければ無理だと思っておりました。」

「まぁ、環に関しては、魔力がある訳だから、鍛えれば私と同じように飛ぶ事が出来るかも知れないがな。」

「そう言うモノなのか?……魔力に関しては君の方が詳しいだろうから何とも言えないだろうが。
 ――ん?アインス、さっきのくノ一とは別の奴が紅月たちの方へ向かっているみたいだぞ!!」

「なに!?」




「さてと、そろそろ此方かも攻めようかな?――先ずは手始めに、あそこの拠点を頂くとするか。」




赤い服に身を包み、妙な剣を持った少女……刹那軍の英雄だな?
しかも彼女からは普通の人間ではない気配を感じる――この間の魔人の娘とやらとも違うが、闇の力をその身に宿している様だね?
……人と人非ざる者の混血か、或いは何らかの力で後天的に純粋な人でなくなったか――何れにしても、あのくノ一よりも遥かに強い
のは間違いなさそうだな。



「彼女にあの拠点を抑えられると、紅月殿達が不利になる……何としても止めなくてはね。」

「だな……と言う訳で空からこんにちわだ!」

「うわぁ!空から降って来たって、普通じゃないね貴女達……此れは、奇襲をかける心算が逆に奇襲をかけられたって所かな。」

「まぁ、そんな所だ。――お前はあのくノ一よりも強いみたいだから放ってはおけんしな。」

「くノ一って、かすみさんの事だよね?
 成程、どんな術を使ったかは知らないけど、空を飛んでかすみさんを躱したって事か……でも、私の前に現れたのは間違いだよ。」



ほう、大きく出たな?
ならば、私と戦ってみるか小娘。



「小娘って、まぁ、この見た目じゃしょうがないだろうけど、私は半妖って言われる存在で、もう何百年も生きてるんだけどな……」

「何百年……其れが如何した、私は1000年だ!!」

「上には上がいた!?」

「そう言う事だ。年長者は敬え。」

っと、アホな事やってないで……一つだけ聞かせろ、刹那はそんなに王位が欲しいのか?



「そうみたいだよ。その為なら、家族とも戦えるって言ってた。
 だから、話し合おうなんて考えない方が良い――きっと刹那さんは、其の子を傷つける。」

「そんな……刹那兄様……」



そんな顔をするな環。
安心しろ、お前の事は必ず刹那の所まで連れて行く……と言う訳だから、悪いが押し通らせて貰うぞ半妖とやら――!!



「はぁ、まぁそうなるよね?言って聞くくらいなら、其の子だって王になるのを諦めてる筈だろうしさ。
 ――でも、やるって言うなら手加減は出来ないから恨まないでよ?出てきたアンタ達が悪いんだ。……デモンフォーム!!」



――轟!!



此れは……姿が変わっただと!?
赤い肌に赤い髪に黒い角と反転した瞳……その姿、まるで『鬼』だな?――しかもこの力、将に匹敵する程の炎か……並の相手なら
ば圧倒されてしまうだろうね。
此処は、私がやるしかないかな。



「此処は私に任せて下さい!」

「アインス、君は環と元姫を連れて刹那の元へ行ってくれ。彼女の事は私とソフィーで抑えておく。」



っと、ソフィーと桜花!
お前達が彼女を……いや、行けるか。桜花の実力は、地上戦に限れば将に匹敵するレベルだから、コイツとも遣り合えるだろうし、其
処にソフィーの錬金術での援護があれば、勝てずとも負ける事は無いだろうからな?――分かった、此処は任せたぞ2人とも!!

元姫と環を連れて再び空へだ。
此のまま一気に刹那の元へと言う所だが……環、今の話だと刹那がお前と話をするとは思えないが、其れでも行くか?……こんな事
を言ってはアレだが、会わないと言う手もあるんだぞ?



「確かにそうかも知れませんが、私は刹那兄様の本心を聞きたいのです……」

「貴女は、本当に刹那殿が好きなのね。」

「はい。伯父様が亡くなった10年前から、本当の兄妹のように育ちましたから。
 ずっと憎まれていたなんて……全く気付きませんでした。」



憎んでいたか……果たしてそうなのか?
本当に環の事を憎み、そして王位を欲するのであれば、環が英雄をこの世界に呼び寄せる前に暗殺してしまえば良いだけだ――環は
刹那を本当の兄の様に慕っていたようだから近付くのは容易だからな。
だと言うのに、態々明確な敵対関係を構築してと言うのは些か解せんな?……と言う訳で、聞かせて貰おうか刹那!!


――ドォォォォォン!!


「空からだと!?」

「うん、その反応は本日2回目だ。」

「……簒奪者がノコノコと現れるとはな――其れとも、邪魔な俺を倒しに来たか?」

「違います!
 私は刹那兄様と話し合いがしたくて……」

「俺は王になる。譲らないと言うのなら、お前を倒す。
 それ以外、話す事など何もない!」



コイツ……本気で言っているのか貴様!
貴様のその思いが、ドレだけ環を傷つけていると思っている!本当の兄の様に慕っていた相手から、こんな理不尽を喰らっている環の
事を考える事は出来ないのか!!



「貴方は、傷付ける事を厭わないほどに、環殿を憎んでいるの?」

「俺が得る筈だった物を持って居るんだ……恨まない理由が無い。」



成程、確かに理由としてはもっともらしいが……その割には動きが鈍い――否、動きに迷いがあると言った方が正しいかな?
中々に鋭い剣技だが、迷いを孕んだ攻撃では私を捉える事は出来ん!



「んな、これは分身か!?」

「「「「「「「「「「如何にも。さぁ、ドレが本物か分かるかな?」」」」」」」」」」

「く……分からないが、ならば分身ごと纏めて吹き飛ばすだけだ!!ウォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」



!!此れは……遠吠えで、音で分身をかき消しただと!?
前に会った時は瞬殺したが、コイツは中々やるじゃないか――だが、相手は私だけではないから注意をしておいた方が良い。元姫!



「任せて。はぁ!!」

「く、後から!!」



卑怯とは言ってくれるなよ?此処は戦場なのだから、1人を2人で攻撃するのは全然ありだからな。
そして、一瞬とは言え私に背を向けたのがお前の敗因だ刹那……行くぞ、昇龍裂破!!


――ガァン!ガガァン!!ガガガガガァン!!!


三連続で昇龍拳を繰り出す必殺技『昇龍裂破』……これで決まりだな。



「がぁ!!……く、此処は退いてやる。
 だが、二度と甘い考えで俺の前に来るな――次は、どんな手を使ってもお前を倒す!」

「其処まで、私が憎いのですか、刹那兄様……」



刹那……!!
退けたとは言え、何とも後味の悪い結果になってしまったな此れは――大丈夫か環?



「刹那兄様は、矢張りずっと私の事を憎んでいたのですね……倒す事も厭わないほどに……」

「……環殿、貴女は本当に王になりたいの?家族と戦ってまで……刹那殿と戦いたくないと言うのなら、王位を譲ると言う手もあると思
 うのだけれど。」

「其れは出来ません。
 王になれるのは、この世に私しかいないのです。
 泉の恵みを世界に巡らすには、強大な力が必要です――お母様は、其れを秘めているのは私だけだと……」



そうなのか?
それならなぜ、刹那と志貴はお前を拒むんだ?――世界が滅んでしまえば、王位など何の意味もない。
其れでも此方を阻むと言う事は……彼等は別の手段を持って居るんじゃないか?――こんな事を言うのはアレだが……環、お前を突
き動かしているモノが義務感だけなら、降りると言うのも一つの選択肢かも知れないぞ?



「私もアインス殿に同感ね。」

「あ……私は……申し訳ありませんアインス様、元姫様……少し……考えさせてくださいませ。」

「……まぁ、そうなるだろうな。……よく考えると良いさ。」

環はまだ幼い……幾ら力を秘めてるとは言え、こんなつらい役目を背負わされるとは……こんな理不尽を彼女に強いなければならな
い程に、この世界は危機的状況にあると言う事か……酷いな。

それにしても……刹那の真意は何だ?彼が、本気で環を恨んでいる様には見えない。
――大切な家族を傷つけてまで、貫きたい事……其れは一体何なんだ……?



「分からないけど、家族と戦うなんて、環ちゃんが可哀想すぎるよ。」

「環は大分落ち込んでいたからな……志貴や刹那とは仲が良かったらしいし、無理もない。」

「ただ、妙なのよね。
 世界が滅びに向かっているこんな時に、なぜ彼等は戦う事を選んだのかしら?」

「若しかしたら事情があるのかも知れんな――環には言えないような何かが。」

「何かって……何だろう?
 うー……うーん……。うーん……?」



考えても、答えを出すのは難しいだろうな。
この世界に来たばかりの私達には、如何せん判断材料が少なすぎるからね。



「そうですよね……。
 あ、其れならいっそ聞きに行っちゃうとか!」



その手が有ったか!
大分大胆な発想だが悪くないぞソフィー。環の前では言えない事も、私達だけになら話してくれるかもしれないからな。



「そう。下手に連れて行って、環殿が傷付く姿も見たくない。
 私達だけで、先ずは刹那殿と話してみないと。」



だな。
まぁ、その為の下準備は必要になるし、環の目を盗んでのことになるから慎重にならねばだけどね――志貴や刹那は一体何を考えて
環を阻むのか、其れは絶対に知っておくべき事だからな。









 To Be Continued… 



おまけ:本日の浴場



一戦交えた後は、露天風呂で疲れを癒しましょうそうしましょう。
と言う訳で風呂に来たんだが……お前も風呂かソフィー?



「はい!此処のお風呂いいですよね~~大きくてゆったりしてて……疲れが癒されます♪」

「その意見にはもろ手を挙げて賛成するよソフィー。」

気持ちのいい温泉に仲間と共に浸かりながら、紅葉を楽しみつつ酒を楽しむと言うのは、何とも言えないな――此れこそ極上の贅沢と
言っても過言ではないだろうさ。

如何だ、試しに飲んでみるかソフィー?



「ふえぇ?ちょっと遠慮しておきます――お風呂の後の牛乳がありますから!」

「あぁ、あれか。
 そうだな、確かに風呂上がりの牛乳は格別だからね。――だが、作法を間違えるなよ?
 風呂上がりの牛乳は、バスタオル1枚で、腰に手を当てて一気に飲むのが正しい作法だ!主がそう言っていたし、古事記にだってそ
 う記されている!」

「そうだったんですか!分かりました!!」



って、信じちゃったよ此の子は!?
ドレだけ純真なのか……将来悪い男に騙されないか、私はちょっぴり不安になってしまったよ……