Side:???
泉が枯れるまで、あと僅か。そうなったら、この世界は……もう、迷っている暇は有りません。
「……環。」
「はい、分かっています、お母様。」
私が成すべき事は……外界から英雄様を呼び出し、この世界を滅びから救って頂く事……もう、この世界には其れしか残されていな
いのですから。
清らかなる泉よ、代々の王を守りし神器よ、異界への道を開きたまえ。
力ある者を、この地に誘いたまえ。――世界を、救うために!
――カッ!!
「きゃあ!」
「環……」
大丈夫です、お母様……恐らく儀式は成功しました――ですが、如何やら英雄様方は、この世界に散り散りに召喚されてしまった様
です。
……一刻も早く、英雄様方と会わねばなりませんね……
討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務89
『開幕!無双スターズ!!』
Side:アインス
新聞姉妹の熱心な取材の甲斐もあって、ウタカタのモノノフの真実を書いた新聞が発行された訳だが……その内容はマッタク持って
痛快そのものだったよ。
桜花の蜘蛛嫌いに始まり、息吹の伊達男ぶりや、速鳥のポンコツぶりを誇張なく伝えてくれていたからな……此処までバッサリと真実
を書かれてしまっては文句を言う気にもならないな。
「あぁ、君の言う通りだなアインス……此処まで堂々と書かれてしまっては文句を言う気すら起きないさ……此れは、完全に彼女達に
してやられたかな?」
「その可能性は否定しないよ桜花。」
だが怒ってやるなよ?――此れは彼女達の必死の力の結晶だからな。
「大丈夫、其れ位は分かっているさ。
彼女達の力を集結して発行された新聞を処分する気にはならないよ――が、此れから君は大変なんじゃないかアインス?
今更だが、君は底が知れないからな?あの姉妹が、新聞のネタ目当てに里では四六時中引っ付いて来るんじゃないかと思うぞ?」
「まぁ、その可能性は捨てきれないが、そもそもにしてあの新聞、私をネタにしてる事が物凄く多かったから今更だ。」
其れに、付きまとわれるどころか、勝手に家に上がってたりするんだからもう慣れたよ。……この世界だから良いようなモノの、主の居
た世界だったら、間違いなく不法侵入で逮捕されている所だなあれは。
その新聞姉妹も、霊山からの新たな書状……内容は良く知らんが、要約すると『もう勝手にしろ』的なモノだったらしい。
で、其れを読んだ大和の計らいで、美柚も美麻もウタカタの里に残れる事になった――と言うか、新たな里の一員となったと言った方
が正しいな。
何れ、シラヌイや百鬼隊は里から去ってしまうから、あの2人が里の住人になってくれた位の方が賑やかでいいかも知れん。
「そうだな。
ではアインス、彼女達に新聞のネタを提供してやる事にしようか?」
「そうするか。
私とお前の2人だけで、オンジュボウとショウケツジュの2体同時討伐を果たす――私達の武勇を、派手に里に報道して貰うか。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
と言う訳で『戦』の侵域にやって来た訳だが……うん、ハッキリ言って余裕だな。
ショウケツジュの攻撃に対してオンジュボウを盾にしてたら、弱点属性喰らいまくってオンジュボウは私と桜花が攻撃する事無く倒され
てしまったし、ショウケツジュに関しても……
「一刀両断!闇に沈め!!」
「花と散れ!橘花繚乱!!」
『ギャァァァァァァァァァァァァァ!!』
私と桜花の波状攻撃で完封した挙げ句に、ダブル鬼千切りで完全滅殺!
2体の大型鬼を2人で相手にしながらも、討伐所要時間は15分……うん、これは多分破られる事のない記録だと思う。
「そうか?君だったら、出会い頭に『鬼』を拘束して、其処に集束砲とやらを撃ち込んで1分もかからずに倒す事が出来るだろう?」
「そう思うかもしれないけど、中々そうはいかないんだ。
スターライトブレイカーは強力だが、あれを使う為には先ずは魔法攻撃を使って空気中に魔力をある程度散布しておかないと使う事
は出来ないからね。
……まぁ、集束砲が無理でも、デアボリックエミッションを3連発で放てば大抵の『鬼』は滅殺出来るけどな。」
「……君が味方で本当に良かったよ。」
ふ、褒め言葉と受けっておくよ。
さて、『鬼』の骸も鬼祓いで浄化したし、里に戻るか――
――ヒィィィィン……
「って、何だこれは?」
「体が光っている?此れは一体……」
これは……何処かに呼び寄せられているのか?……召喚魔法の類だろうが、一体誰が……く……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
……く……まさか、召喚魔法で呼び寄せられるとは思わなかったが、此処は一体何処だ?
石造りの床やゲートに青々とした草木に色鮮やかな花……明らかにウタカタの里でない事は間違い無いな?――だからと言って何
処かの『領域』と言う感じでもないが……取り敢えず、大丈夫か桜花?
「あぁ、大丈夫だアインス……しかし、此処は一体?」
「其れは私にも分からないが……如何やら、そんな事を気にしている場合ではなさそうだ。」
『『『『『『『『『ガァァァァァァァァァァァ!!!』』』』』』』』』
大量の『鬼』が襲って来てくれたからね!
状況は良く分からんが、先ずは奴等を始末しなければだ――行くぞ、桜花!!
「あぁ、行こうアインス!!」
「マフウにガキ……所詮は雑魚の集団、私とお前の敵ではない。道を開けろ雑魚共!!」
私と桜花の前では、ガキとマフウ如きは塵芥に過ぎん……1分もしないで、集団を滅する事が出来た。……が、此処は何処なんだ?
「来なさい、私が相手です。」
「化け物共め……覚悟しな!」
ん?今声が聞こえたな?……行ってみるか!――と言う訳で、ちょっと私に捕まってくれ桜花。
「捕まるって、これで良いのか?」
「あぁ、それで良い。そして捕まったら……阿修羅閃空!」
――ヌゥゥゥン……
で、桜花と共に無敵移動した先には、ヤッパリ『鬼』が居たので、間近にいたマフウを掴んでそのまま瞬獄殺!!――ふ、滅殺!!
さぁ、他に私に滅されたいのは誰だ?
「その武器、金眼四つ目の鬼の紋……お前達、『モノノフ』か!」
「その身のこなし、見事なモノです。」
で、マフウに瞬獄殺をブチかました場所に居たのは、ウェーブのかかった長い黒髪と赤い目が特徴的な長身の女性と、私の膝下位の
大きさの……何だこれ?絡繰人形か?
兎に角『モノノフ』を知って居る人達か――と言うか彼女達もモノノフなのだろうな?女性の方は薙刀を、絡繰人形?の方は銃を装備
しているからね。
あぁ、確かに私達はモノノフだ。
が……何やら見慣れない敵も居るみたいだ……コイツ等も新種の『鬼』か?
「分からないが……随分数が多いな?手早く終わらせたいが……所で、君達は此処が何処か分かるか?」
「俺にも何処か分からねぇ……気付いたら此処に立ってたんでな。」
「妙なモノです……4人揃って記憶が欠落したと言う事でもないでしょうが……」
4人もの人間が同時に記憶をなくすなど、そんな事があるとは思えん……記憶が欠落してるのは、以前のホロウだけで充分だよ。
何にしても、先ずは此処が何処なのかを知るのが先決だが――
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!だ、誰か!!」
「「「「!!!」」」」
女性の悲鳴!!急いで助けるぞ!!
此れだけ化け物が多くては、徒党を組んで襲われたら一溜りも無いからな……取り敢えず纏めて吹き飛べ!ナイトメアハウル!
――ドッガァァァァン!!
「相変わらず君は凄いなアインス……しかし、新種の『鬼』か……見た事があるか?」
「いいえ、初めて見ます……と言うか、これは『鬼』なのでしょうか?」
『鬼』と言うよりも『プ二』だな此れは。
鬼とプ二……一字違いでこの落差は如何なモノか……が、この程度は私達の敵じゃない!!
これで終わりだ……刃持って血に染めよ……穿て、ブリーティガードルヒ!!
「消し飛びな!」
悲鳴が聞こえて来た場所に辿り着いて、先ずは私のブリーティガードルヒと絡繰人形?の銃での一撃がプ二を仕留めたが、其れを逃
れたガキが――とは言っても備えは二重だから大丈夫だがな。
「花と散れ!」
「織り成す刃……走れ!」
桜花と薙刀の女性が、ガキを斬り捨てて無問題……さて、大丈夫か?
「はい……ありがとうございます、英雄様方。」
「どうせなら、勇者って呼んでくんな。」
「……何だ、その拘りは?」
「この方々ならきっと……英雄様、お願いいたします――如何か、この世界を救ってくださいませ。」
……はい?
いやいや、ちょっと待て。世界を救うとは、一体如何言う事だ?……其れにお前は人間……なのか?ぶっちゃけて言うと人面犬なら
ぬ犬面人にしか見えないんだが?
其れに英雄って、一体何?……詳しい説明をお願いできるかな?
「はい、英雄様。
ですが……此処はまだ、化け物がうろついている様子――安全な場所へお連れ致します。私と共に来てくださいませ。」
……うん、まあそれがベターだろうな。
此処が何処なのか、なんで私達は此処に居るのかとか、聞きたいことは山ほどあるが、其れも落ち着いた場所でなくては聞く事も出
来ないからね。
で、移動して来た訳なんだが……説明をお願いできるかな?
「申し遅れました。私はこの世界の第一王女、環と申します。」
「私は小夜。
環の母親で、巫女を務めているの。……皆様を巻き込む事になって、申し訳ないわ。」
「信じて頂けるか分かりませんが……此処は、皆様がいらっしゃった所とは別の世界でございます。」
予想はしていたが矢張りか……だが、なんでそんな事になったんだ?
「私が、儀式によって皆様をお招きしたからです。
この滅びかけた世界を救えるのは、異界の英雄様だけですから……まず、この世界の状況をご説明いたします。」
「滅びかけた世界……是非とも説明願いたいな。」
「はい……この世界は、『泉』の奇跡の力によって長く繁栄して来ました。
もともとこの地は、作物の一つも実らぬほどに荒れ果てておりました――歴代の王が三種の神器によって泉の力を操り、各地の祠
に恵みを行き渡らせる事で、人が暮らせるようになったのです。
しかし……前の王が亡くなった時、何故か泉と祠は急激に力を失いました。
新たな王が戴冠の義を行う間もなく、泉も大地も枯れてしまったのです。
此のままでは滅びを待つばかり……怯える私達に、お母様は古い言伝えを教えてくださいました――『泉が力を失い、世が滅びに
向かいし時、異界の英雄降り立たん。
英雄、祠に己が力を与え、泉を再び蘇らせん――英雄を導きし者、戴冠の儀を経て王となり、世に大いなる繁栄をもたらさん』。
私も、泉に残された最後の力を使い、巫女であるお母様の力を借りて、皆様をこの世界にお招きしました。
異界の皆様は、この世界に対して多大な影響力をお持ちです。どうか、そのお力を祠と大地に分け与えて下さいませ。
泉と祠の間で、水脈を通じて、正しく力が循環する様になれば泉も蘇る筈――其れが、お母様の見立てです。
図々しいお願いとは承知しております――ですが……如何か、私と共にこの世界を救ってくださいませ――!」
要するに、この世界は滅びかけてるから、其れを何とかする為に力を貸してくれと言う事だな?……数多の世界を滅ぼして来た私が、
世界を救うために異世界に召喚されるとは妙なモノだ。
取り敢えず状況は分かったが、一度元の世界に戻る事は出来ないか?皆が心配してるだろうし、準備もあるからね。
「それは……出来ないのです。」
「世界間を移動する為には、大きな力が必要……。
でも、あなた方を呼び出すために、私達は泉の力を使い果たしてしまったの。」
「つまり、この世界を救う以外に帰る手段は無いと言う事だな?」
「なれば、是が非でも其れを成し遂げなければなりませんね……」
「申し訳ありません……泉が蘇りましたら、必ず皆様を元の世界にお帰しいたします。」
「オイオイ、そんな顔するなって。
俺達が虐めてるみたじゃねぇか……そう言う事ならまぁ、力になるぜ。」
「そうだな……巻き込まれたと言え、世界の滅びを黙って見ている事が出来る程、私はお人好しじゃないのでね……私達の力が必要
だと言うのなら、存分に使ってくれ。」
「ありがとうございます……!」
気にするな。
だが、私達以外に協力者はいないのか?他の英雄とか、お前達以外の王族とか……
「英雄様は、他にも多くいらっしゃいます。
ですが……如何言う訳か召喚の儀が巧くいかず……皆様をこの地にお呼びする筈が、世界中に散り散りになってしまったのです。」
「そうか……と言う事は、他の英雄を探し、協力を頼めば、祠も制圧しやすくなるかもしれないな。」
ふむ、確かのその通りだな桜花……で、王族は?
「王族は、あと二人いるわ。
この子の兄・志貴と、従兄の刹那……でも、儀式の直前から、何故か姿が見えないの。」
其れは妙だな?こういう時こそ、皆で協力すべきだと思うのだが……
「えぇ、その通り。
でも……『王になるには、泉を操るだけの力が必要。そして、其の力を秘めているのは環しかいない。』――そう伝えてから、二人と
も口数が少なくなって……
何を考えているか、私にも分からないの。」
「そいつ等の事も気になるが……まぁ、今は考えても仕方ない。一先ず、その祠ってのを見せてくれ。」
「はい、直ぐにご案内いたします。
その前に、念のため、準備を整えて頂けますか?」
準備ね……確かに其れは大事だな。
んで、準備をする中で、互いに自己紹介をして見知らぬモノノフの名を知ったよ――女性が紅月で、絡繰人形が時継か。
「時継、お前はマホロバのモノノフと言っていたが、その身体は一体?」
「あぁ……これか?
ちょいとヘマをして、やられちまってな……カラクリに魂を移して、何とかやってるのさ。」
カラクリに魂を移してって……サラッと言ってくれたが、其れは相当に凄い技術だと思うぞ?戦乱期のベルカですら、其れ程の技術力
は無かったからな。
……で、如何した桜花?紅月を見つめて……
「紅月……もしやと思うが、アナタはあの『八つ草の英雄』の紅月なのか?」
「……私の事を、そう呼ぶ人は居るようですね。」
「矢張りそうだったのか!……貴女ほどの『モノノフ』に会う事が出来るとは光栄だ……宜しく頼む!」
「えぇ、此方こそ宜しくお願いしますね桜花、アインス。」
「あぁ、宜しく頼むぞ紅月、時継。」
マッタク持って面倒な事になったが、『モノノフ』が4人も居るなら安心だ――何が起きるか分からんが、協力して乗り越えるぞ!
「あぁ、そうだなアインス。」
「……だな。さっさと世界を救って、元の世界に帰ろうぜ!」
「世界を救う……大した事ですが、其れが成すべき事ならば、やり遂げるまでです。」
決まりだな。
行き成り異世界に召喚された挙げ句に世界を救えと言うのは可成りの無茶振りだが……私達が居れば其れも不可能ではないな?
突然の事で若干理解が追い付いていないが、何にしても暴れさせて貰うとするさ!
……其れは兎も角として、小夜と言う女からはごく僅かではあるが闇の力を感じたな……彼女の先天属性が『闇』である可能性は充
分にあるが、先天的に闇属性を宿す事は可成り低確率だから、其れを踏まえると彼女は若しかしたら闇属性とは別の『闇の力』を秘め
ているのかも知れないな……一応、要警戒だな。
何にしても、この世界を救わない限りはウタカタに戻る事は出来ないのだから、さっさと世界を救わないとだな。
To Be Continued…
おまけ:本日の禊場
|