Side:アインス


イヅチカナタを倒して世界は平和になった――とは行かないのが、この世界なのだろうね。
因果を喰らう『鬼』を倒しても、依然として『鬼』は存在しているし、人々が『鬼』の脅威から解放されてはいないからね……まぁ、だから
こそ、私達モノノフは存在価値があるのだけどね。

で、今日も一頑張りと思って本部前まで来たのだが……何をしてるんだお前は、千歳?



「おんしは……アインスか……
 ……見ての通り、こうして人の身に戻った。これも、おんしのお陰かな――だが…………私に生きる資格が本当に有るか?
 世界を滅ぼそうとした者が、のうのうと生きていてよい訳もあるまい?」

「……お前の気持ちはよく分かるが、お前は滅ぼそうとしただけで、滅ぼしてはいないのだから生きる権利は充分にあるよ。
 そもそもにして、世界を滅ぼそうとしたどころか、数多の世界を滅ぼして来た私がこうして生きているのだから、お前が生きていて悪
 い道理は何処にもない。
 だから、一緒に生きよう。」

「フ……私にまだ生きろと言ってくれるのか――なら、私はおんしと共に歩もう。限りある『人』の生を。」



お前が、その道を選んだことに感謝するよ千歳。
ウタカタの里は、お前を歓迎するよ。


――キィィィン



「ありがとうアインス。ホロウを……千歳を頼む。『モノノフ』を頼んだぞ!」



あぁ、分かっているよオビト。
ホロウも千歳も、私の仲間だからな……ともに歩んでいくさ――何れ訪れる、終わりの時が来るまでな。










討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務89
『決戦が終わった其の後で』










イヅチカナタを討っても『鬼』は居なくならないので、モノノフの任務が尽きる事は無い――まぁ、イヅチカナタみたいな化け物とやり合
った後では、そんじょそこ等の大型の『鬼』など、雑魚以外の何物でもないがな。



「その意見には賛同するが、ミフチを瞬殺できるモノノフなど、君位のものだぞアインス?」

「ハッハッハ、本当に凄い奴だ。お前、本気で百鬼隊に入隊してみないか?」

「魅力的なお誘いだが、お断りさせて貰うよ相馬。
 私が居るべき場所は此のウタカタの里だからね――何らかの事情で、此処を離れる事になったとしても、ウタカタが私の帰る場所だ
 からな……百鬼隊に所属する事は出来んよ。」

「成程な……まぁ、予想はしていたがな。」



悪いな相馬、私はウタカタの守護神なのでね。
さてと、無事に帰還した訳だが……如何した大和、何やら難しい顔をしているが、何か厄介事でも起きたか?



「……アインスか。丁度良い所に来たな。――お前は確か、美麻と美柚と親しかったな?」

「美麻と美柚……あの新聞姉妹か。
 確か、霊山新聞社から来た姉妹だろう?最近はウタカタで取材をしていたみたいだが……其れが如何かしたか?」

「……二人に届けて欲しい物が有ってな。霊山から舞い込んだ、此の書状をな。」



霊山からの書状?
其れは何とも穏やかではない感じがするが……



「随分と懐かしい名前に、何事かと思えば……あの鼻垂れ小僧め、また厄介な事を押し付けて来た物だ。」



……九葉?
お前が出てくるとなると、単純な事ではないみたいだが、一体何事だ?



「二人に渡せば分かる――すまんなアインス、頼んだぞ。」



大雑把だな大和……まぁ良い、あの二人に此れを渡せば分かると言うのなら容易い事だから、任されたよ。
とは言え、里の何処に居るかは分からないからな……瞬間移動を使うか。あの二人の気配は分かるから、そっちの方が面倒くさくな
いからな。

と言う訳で、瞬間移動!!



――バシュン!!



はい、一瞬で新聞姉妹の近くに到着!



「はぁ……」

「美麻姉、またため息。今日だけで13回目……疲れてる?」



したんだが、如何やら美麻の方が何やら本調子ではないようだな?



「いやいや、大丈夫っすよ。
 身体の方は元気一杯、完全完璧っす……色々、思う所があるんすよ。今後のあっしらの身の振り方について。」



ふむ……何やらお前達にも事情があるみたいだな?



「!」

「あ、隊長……」

「お前達に霊山から書状が来てる。大和に渡してくれと頼まれた。」

「へい?あっしらに手紙っすか?お頭に頼まれた?
 ドレドレ…………」

「…………」



……渡した書状を読んで行くうちに、顔が険しくと言うか、表情が消えていくと言うか――如何した、悪い知らせだったのか?



「そっすね……最悪の知らせかもっす。
 あっしらの父親からっす。『ウタカタの里に居る事は分かっている。遊びは終わりだ、戻って来い。』と。」

「ん?其れは一体如何言う事だ?お前達は霊山新聞の記者としてウタカタに来たんじゃ……」

「僕達が霊山新聞の記者だと言うのはウソ。
 ホントは、ウタカタの里が見たくて、霊山を抜け出して来た――僕達のお父さんが、霊山新聞の社長。」



何と、そうだったのか!
これは、完全に騙されてしまったな……多少ゴシップ感が強かったとはいえ、お前達の書く記事は読む側が引き込まれる不思議な魅
力が有ったので、分からなかったよ。



「騙していて、御免なさい……」

「隊長さんには、前に少しお話ししたっすよね……霊山では、モノノフの本当が報じられないって。
 あっしには、其れがどうにも我慢ならなかったっすよ……」



其れでお前達は、此の最前線であるウタカタに来たのか。
まぁ、此処に来ると言う選択其の物は悪くないだろうな――大和が言うには、このウタカタは最前線に有って、最も霊山の影響を受け
ない里だからね。
目的は、モノノフの本当の姿が見たかったと言った所かな?



「正解。でも、もう……」

「書状が来た以上はこれ以上は無理と言う事か……だが、新聞は如何する?
 私もだが、ウタカタにはお前達姉妹が発行する新聞を楽しみにして居る奴等が結構居るんだが……廃刊にする心算なのか?」

「あは、隊長さんは本当にお人好しっす。」

「霊山新聞は、霊山『モノノフ』の直轄組織。
 その要請は、お頭でも拒否できない。無視すれば、この里に迷惑が掛かる……」



……迷惑が掛かる、ね。
お前達が其れを無視した事で、霊山がウタカタに何かしようと言うのならば、仕掛けてきたその瞬間に私が『100倍デアボリックSLB』
で撃滅してやるから問題は無いのだが、そう簡単なモノでは無いのだろうね。

美麻と美柚は項垂れて行ってしまったからな……仕方ない、取り敢えずは大和に報告して、其れから如何するかだな。


――バシュン!!



と言う訳で、書状を渡して来たぞ大和。――因みに今回は、凛音の槍先に登場してみたが如何だろう?



「槍先の微妙な一点に立つ事の出来るお前に感心だ……その状態で立って居られる凛音も大概だがな。
 ――其れで、二人は何と言っていた?」

「如何にも、霊山に戻る心算みたいだ……ハッキリとは言わなかったけどね。」

「……そうか、霊山に戻るか。…………」

「……姉妹の父親は私達の後輩でな。霊山で瓦版屋をしていた。
 だが、先頃『霊山新聞社』と言う組織を立ち上げたらしくてな……その実像は、霊山の為の政治宣伝組織だ。
 都合のいい情報を垂れ流し、偽りの安全を流布する為のな――真実など欠片もない。……其れで娘達に愛想を尽かされたらしい。
 そして二人は、『百鬼隊』の後をつけて、ウタカタまでやって来た……」



其処までして、モノノフの本当を知りたい、か……



「殊勝な事だ。
 私達に書状を送って来るとは、あやつも余程困っているらしい……だが、犬は好かん。私は何も見なかった。
 どうするかはお前達で決めろ。」



お前、其処で丸投げか九葉。
私達で決めると言うよりは、あの姉妹に決めさせるのがベターだろうな……一番大切なのは彼女達の意思だからね。



「……選択は己でしろ、か。其れも良いだろう――アインス、スマンが二人を頼む。」

「あぁ、任されたよ大和。」

私としてもあの二人を、此のまま放っておく事は出来ないし、何よりもあの姉妹が発行する新聞を金輪際読む事が出来なくなってしま
うと言うのは些か寂しいからね。
何よりも此処は霊山からは最も遠い最前線……進むも退くもお前達次第だ。――此処で何を成すのか、見せて貰うとするさ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



と、言う訳で再び新聞姉妹を探して瞬間移動――した先が私の家のすぐ傍か!!……此れなら瞬間移動の必要はなかったな。



「あ、隊長さん……どうもっす……
 帰って来いって言われてから、何だか色々と考えてしまったっすよ……
 ……あっしは、何をやってるんすかね……本当を伝えない霊山新聞に反発して、家を飛び出して……けれど戻れと言われたら、其
 れをはねつける正しさもない…………だって、ウソなんすから。
 あっしが記者だって事も、ウタカタ支部が出来たって事も……其れが分かってしまった以上、もうこの里には居られないっす。
 本当を求めて来た筈なのに、気付けはウソの上塗り……其れで何が出来ると思ってたんすかね……」



お前はお前で悩んでいたんだな美麻。
お前達に何が出来るかは知らんし、如何するのが正しいのかも知らんが、心の中にモヤモヤが残っているのならば里に留まれ、そし
て新聞を書け。



「……新聞を書いても、何が変わるって言うんすか。」

「…………しっかりしろ、美麻姉!」

「美柚ちゃん……?」

「ウソを吐いた事で、僕達は信念を曲げたかもしれない……でも、これ以上ウソを重ねないで。」

「ウソ……っすか?」

「美麻姉は、自部の気持ちにウソを吐いてる。」



ふむ……美柚は掴み所がな奴だと思っていたが、意外と鋭いみたいだな――美麻が己の気持ちにウソを吐いてると言うのは、私か
ら見てもその通りだったからね。



「ウソがばれてしまったと言う事は、もうウソが無いって言う事――本当の僕達で、本当に僕達がやりたい事をやれる……絶好の機
 会じゃないか。」

「美柚ちゃん……」

「だから胸を張ろう、美麻姉。
 もう一度、僕達がやりたかったことを見直してみよう。」

「…………」



ふむふむ、如何やら何か起きそうだな。
少なくとも美麻がこれ以上塞ぎ込む事は無さそうだから、きっと何とかなるだろう――何の根拠もないが、彼女達を見ていたら、なんと
なくそんな気がしてしまったからね。

取り敢えず任務が終わった後だから、オヤッさんに武器を整備して貰って家に戻って――



「天知る地知る、美麻が知る!突撃!隣のモノノフさん!」

「……美麻、何故いるし。」

「ふっふっふ、よくぞ聞いてくださったっす!
 貴女の里のモノノフさん、何時もは何をする人ぞ?戦士の休息、私生活!ズバッとまるっと、お聞かせ願う新企画!
 『突撃!隣のモノノフさん!』。栄えある第1回はアインスさん、貴女に大決定したっす!」



どこぞの落語家が巨大なしゃもじを持って押しかけて来そうな企画名だが……こんな事が出来るとは、復活したみたいだな美麻?



「あは。心配してくれてたっすか?
 隊長さんは、優しい人っすね……あっしら、決めたっすよ。
 霊山に戻るのは、もう仕方がない……ならくよくよしてる時間は無い!今できる事、やりたい事を最後まで貫こうって!」

「そうか……その意志は大事な事だから絶対に忘れるなよ美麻?
 己の出来る事、やりたい事を最後まで貫こうと言う意思は、時として世界を変えるだけの力を発揮する事があるからね。」

「了解っす。
 さて、納得頂けたようなので、早速取材開始っす!
 まずは、そうっすね……今晩の献立について、お聞かせ願うっす!」



……そんな物を聞いてどうするんだお前は?
だがまぁ、その元気さが戻って来てくれてよかったよ――まぁ、此れから先、里のモノノフの皆には、新聞姉妹からの取材が来るだろ
うから、まぁ精々覚悟をしておいてくれ。


……尤もこの取材中に、何度か新聞姉妹が里のモノノフに追い回される事になったのだが、其れはまぁ、パパラッチの宿命って奴だと
思っていた方が良いのかも知れないね。











 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場



取り敢えず、任務を終えたので禊をしましょう、禊をね。
だ~れも居なかったのでJoJo立ちで禊をしていたんだが……那木、暦、初穂……貴様見ているな!



「なんで分かったし!!」

「アインス様の感覚の鋭さは異常でございます。」

「いや、流石は先輩と言った所だ。」



まぁ、私の感覚は人並み外れているからね。
そんな所に居ないで一緒に禊をしようじゃないか――裸の付き合いではないが、モノノフ同士、共に禊をするのも悪くないからね。