Side:梓


囮作戦2発目。
今度は息吹と共に出撃し、現場で桜花と合流――そして今回の相手はカゼキリだったんだが、ハッキリ言って、お前如きは私の敵ではない。
私を倒したいのならば、最低でも桜色の砲撃を得意とする小さき勇者を最低でも5人連れてこい。其れ位でなくては私を倒す事は出来ないぞ。


――斬!


『ガァァァァァァァァァァァァァァァ!!』


「まして、こうも簡単に四肢を斬り落とす事が出来る程度では、大凡私の相手としては役者不足だ。
 貴様程度では全く腹も膨れないだろうが、せめて我が刀の錆となるが良い――此れで終いだ、深き闇に沈め!!」


――ズバァァァァァァァァァ!!!


『グギャァァァァァァァァァァァアァァァァァ!!』


そして二度と現れるな――と言うのは無理な事なのだろうが、現れたらその度に狩る、其れだけだ。だから、消えろ!!


――ゴォォォォォォォォォ!!


「いやぁ、見事なもんだねぇ?この分だと、俺は要らなかったかもな?」

「そんな事はないぞ息吹?……お前が居たおかげで、思った以上に楽に相手を倒せたからな……確かに梓の実力は凄まじいけれどね。」


まぁ、ある意味で私は存在その物が反則だからね。
ともあれ、囮作戦は一定の効果を上げているから、きっと悪くは無いのだろうね――尤も、今現れてる軍勢が、鬼の全勢力であるとは思えな
いけれど。

だが、そうであっても、着実に鬼を倒しているのだから問題はないさ。――其れに、来る端から片付けて行けば、何時かは元凶に大当たりだ。
だから焦らずに行こう。きっと私達は勝てるだろうからな。

しかし、今回の戦いで、新たに『酒呑童子』のミタマを手に入れたが、敢えて言わせてくれ……酒呑童子って『鬼』じゃなかったか?
まぁ、力を貸してくれるのだから文句はないが……鬼が鬼に喰われてミタマとなると言うのも、何とも不思議な話だな。













討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務9
『取り戻した力。夜天の祝福の復活』











さてと、里に帰還した私は、この前のミフチと、今回のカゼキリの素材とその他の素材を持って鍛冶屋を訪れて、オヤッさんに新しい武器を作っ
て貰ってる最中――うん、素人目に見ても中々の業物になりそうだな此れは。



「おし、出来たぜ。
 ミフチの素材から作った水属性の打ち刀『霞斬り』と、カゼキリの素材から作った風属性の打ち刀『嵐迅』だ。性能の方は保証するぜぇ?」

「此れは……見事だなオヤッさん。」

何方の刀も手に馴染む……まるで長年使って来た得物だと勘違いしてしまいそうだ。
何よりも、水色の刀身と、エメラルドグリーンの刀身は其れだけで美しさも兼ね備えているからね……武器としての完成度も高く、しかも芸術的
な価値も併せ持つとは、オヤッさんは世界レベルの鍛冶屋である事は間違いないな。

この2本、有り難く頂戴するよ。



「腕によりをかけて作った二振りだ、存分に使ってやってくれ。そっちの方が、刀も喜ぶだろうからよ。」

「あぁ、そうさせて貰うよオヤッさん。」

此れだけの業物を、実戦で使用せずに、床の間の装飾品にしてしまうなどという事は、勿体ない事この上にないし、オヤッさんの作った武器は
戦いの中でこそ、真の輝きを放つからね。
此れからの御役目で、この2本は大事に使わせて貰うよ。



「そりゃ結構だが……オメェ、3本一緒に持ち歩く心算か?」

「その心算だが?
 基本的には闇払・弐式を使用し、水や風が弱点の相手が出て来た時には霞斬りや嵐迅を使用しようと思ってね。だから、3本一緒に持って
 居た方が何かと便利なんだ。」

「てぇこたぁ何か?最終的には無属性と五大属性で、計6本の刀を携帯するって事か?」

「……そうなる、か。」

「やめとけっつっても聞かねぇんだろうから……
 よし、もう少しだけ待ってろ。6本一緒に持ち運べるように、特注の装備を作ってやるから、腰に装備してるその外套みてぇなのを貸しな。」



其れはすまないな。……では、頼む。
6本装備と言うのは確かに無茶かも知れないが、我が主がやって居たゲームの『伊達政宗』は6本の刀を装備していたから出来ないという訳
でもない筈だからね。



「ほらよ、出来たぞ。」

「流石オヤッさん、仕事が早い。」

ふむ……此れも見事だな?
私の腰マントの金属ベルトの部分に、左右3つずつ、計6つの金属製の輪っかが追加されている。此処に刀を鞘ごと差し込んで使う訳か。
しかも穴自体には鞘が動かないようにロック機構が備えられているのに、金属ベルトとの接合部と、夫々の輪っかの接合部には可動域が設
けられていて自由に動くから、此れなら激しく動いても刀が邪魔になる事もない。
此れは助かるよオヤッさん。刀共々、此方も有り難く使わせて貰うよ。



「まぁ、俺に出来る事なんざ此れ位だからな。
 実際に命張ってんのは、オメェ達だ。だったら俺達里の人間は、戦う以外の方法でオメェ等を助けてやらねぇとだ……まして、俺はオメェ等の
 商売道具作ってる訳だからよ、最前線に出てる奴に必要なモンを作るのは当然てモンだ。
 ……囮作戦の真最中って事だったが、死ぬんじゃあねぇぞ?オメェなら大丈夫だろうが、油断だけはしねぇようにな。」

「あぁ、分かってる。」

元より、この身体は人の身であっても可成り頑丈な類だとは思うから、相当な相手でない限りは致命傷を負う事は無いと思うけれどね。
さて、いつまた桜花から狼煙が上がるか分からないから、本部で待つか。

って、本部に誰かいるな?アレは――橘花か?
こんな所で何をしているんだ橘花?



「こんにちは梓さん。またお会いしましたね。――囮作戦の実行中と伺いました……モノノフの務めとは、厳しいものですね。
 どうか、無理はなさらないでください。いざとなれば、私の結界が里を守ります。」

「……結界?」

「そう言えば、お話ししていませんでしたね?『鬼』の侵入を防ぐ結界を張るのが、私の役目です。
 見えますか?あそこに見える大きな岩が。」



アレか……何やら不思議な形をしているが、確かに大きいな?其れに、此れだけ距離が離れていても、アレからは不思議な力を感じられる。
あの岩が、今言った結界と何か関係が?



「はい。
 アレは結界子と言って、里を守る結界の媒介になってくれるんです。あの結界子に私の力を送り、里の周囲に結界を張り巡らしています。
 小型の『鬼』一匹程度なら、それで十分防ぐ事が出来ます――例え一匹と言えど、里への侵入を許す訳には行きませんから。
 常に結界を張って、里を守る必要があるんです。こう見えて、結構大変なんですよ?」

「だろうな。ウタカタ全体を結界で覆うと言うのは、可成りの力を消費するモノだろうからね。」

「ふふ、すみません。大変なのは、みんな同じですね。
 ……梓さん如何か里をお守りください。謹んでお願い申し上げます。」



なんだ突然に?言われるまでもない、任せておけ。



「ありがとうございます……私の力は、あくまで守るための物であり、結界を破られたら、もう為す術がありません。
 結界を失い、絶滅した里は数多くあります。北のアカツキや、東のホオズキの里のように……
 巫女もモノノフも、皆『鬼』に喰われてしまったそうです。――富嶽さんは、ホオズキ唯一の生き残りと聞きます。未だ尽きせぬ怨讐に、身を
 焦がしているそうです。」

「!!」

富嶽が……という事は、アイツが探してる『鬼』は、ホオズキの里とやらを全滅させた元凶……確かに、己の手で討ちたいだろうね。



「もう誰にも、そんな運命を背負わせないために……一緒に頑張りましょう!」

「あぁ、勿論だ。共に頑張ろう!」

「はい……!
 梓さんの御着任を、謹んで寿ぎ申し上げます。里の良き守り手となられますよう、汝に英雄の導きがあらんことを。」



英雄の導きね……何だか色んな英雄をこの身に宿しているが……果てさて誰の導きに従うか、迷う――事も無いか。
主義思想は異なれども、少なくともこれまでに宿したミタマは酒呑童子であっても、この世に蔓延る『鬼』を払う事を望んで居るのだからね。

しかし、其れは其れとして富嶽が滅んだ里の出身と言うのは気になるな?
復讐の思いは、時として人に凄まじい力を与える事もあるが、復讐に捕らわれては、何処かで道を踏み外して取り返しのつかない事に成り兼
ねないからね……富嶽が探している『鬼』の事、大和ならば知っているだろうか?

「大和、少しいいか?」

「ん?何か用か?」

「富嶽が探している鬼について、何か知らないか?」

「富嶽の探してる『鬼』か?フ……気になるか?」



其れは気になるさ。
彼は、ホオズキと言う鬼に滅ぼされた里の出身なのだろう?ならば、里を滅ぼした『鬼』に復讐する事を考えているのではないかと思ってね。



「その可能性が全く無いとは言い切れんな。
 己の里を滅ぼした相手――奴が羽付きの『鬼』を追うのも、その辺りの事情があるのだろう。だが、あまり詮索してやるな。
 誰にでも過去がある。お前にも、背負っているものがあるだろう?其れを受け止め、乗り越える事も必要だ。
 時には、その助けとなってやれ。」



背負っているものを受け止め、そして乗り越えるか……其れは確かに必要な事だな。
私も、主やあの子達が居たから、呪われた魔導書の管制人格であると言う事実に流されずに、受け止めることが出来て、そして乗り越える事
が出来たのだからね……そうでなかったら、僅か半年とは言え主と暮らす事は出来なかっただろうさ。



「……少し、喋り過ぎたな。」



かも知れないな。……詳しい事は、富嶽に直接会って聞いてみるしかないか。
確かさっきは、本部の石段の下に居たが……うん、まだ居るな。――富嶽。



「テメェか……何か用か?」

「単刀直入に聞こう……仇を探しているのか?」

「……テメェ、誰に聞いた?」


誰、と言う訳ではないが、お前に関する話を色々と聞いてね……それらを総合的に考えた結果、お前は『鬼』によって滅ぼされた里の生き残り
であり、里を滅ぼした元凶を追っていると言う答えに辿り着いたんだ。
正答とは行かないかもしれないが、当たらずとも遠からずと言う所じゃないか?



「ったく……何処の誰だか知らねぇが、人の過去をペラペラ喋りやがって。
 ……大した事じゃねぇ、何処にでも転がってる話だ――里が『鬼』に攻められて全滅した。そんで、間抜けが一人だけ生き残っちまった。
 ただ、そんだけの話だ。」

「……矢張りそうだったのか。遣る瀬無いな。」

「別に、珍しい話でもねぇだろ。
 俺が追ってる『鬼』ってのは、その時に仲間の魂を喰った野郎だ――『鬼』に喰われた仲間の魂を解放する。其れが俺の戦う理由だ。」



仲間の魂を……その時は、手を貸すぞ富嶽。



「はっ、放っとけ。テメェのケツはテメェで持つ――昔話は終いだ。さっさと任務に戻りな。」

「富嶽……分かった。だが、此れだけは約束してくれ――絶対に無理だけはするな。」

お前も私も、外から入ってきたとは言え、もうウタカタの一員なんだ……絶対に欠ける事の出来ない存在なんだ。――だから、先走って馬鹿な
真似だけはしないでくれ……目の前で誰かが死ぬのは、もう沢山だ。



「!!……テメェも、目の前で仲間を……ち、わ~ったよ。多少の無理はするだろうが、無茶だけは絶対にしねぇって約束するぜ。
 この間の約束通り、テメェが羽付きの事を教えてくれた時にゃ、力を貸してもらうからよ………と、随分話し込んじまったな?任務に戻れとは
 言ったが、考えてみりゃ俺も任務がある訳だし、一緒に行くか?」

「ふふ、ワイルド系と一緒と言うのも一興だ……では、共に本部に行こうか。」

「……なんで、腕組んでんだ?」

「嫌か?」

「いや…悪かねぇ。」



なら良いじゃないか……って、何やら本部が物々しいな?何かあったのか?……否、何かあったから物々しいのか。



「あ、大変よ梓!!」

「初穂、如何した?」

「桜花から連絡が途絶えた――刻限を過ぎても戻らない。何かあったようだ。」



なんだって!?
桜花から連絡が途絶えただなんて……嘘だろう?
彼女の実力は、魔力なしでの将と互角かそれ以上の力を持っていると言うのに、そんな桜花との連絡が途絶えたなど、只事じゃないぞ!!



「……やばいぜ、行動限界が近い筈だ。」

「急ぎ、救援に向かいましょう!」

「落ち着け、状況が分からないまま動けば全滅するぞ。」



その意見には賛成だが、此れが落ち着いていられる状況か!
大事な仲間との連絡が途絶え、そして異界での行動限界時間が迫っている……誰かが行かなきゃならないじゃないか――誰も、行かないと
言うのならば、私が行くぞ!!



「……言うじゃねぇか新入り。」

「梓……なら、私も行くわ!桜花を助けて見せる!!」

「ハッ、やめとけ。お子様一人にゃ荷が重いぜ。」

「この……!」

「俺が行く。」

「え……?」



富嶽?……いや、お前ならば頼もしいが――



「ちょうど退屈してた所だ。いざとなりゃ俺が殿をやる――オイ新入り、テメェも付き合え。」

「付き合えだと?……言われずとも、私は元々出る心算で居たんだ。お前に言われなくても、前線に飛び込んで居たさ。
 という訳で、私と富嶽で桜花の救出に向かう――それで構わないだろう、大和?」

「……これ以上、戦力は減らせない。戻らなければ、見捨てるぞ。」



構わない!
此処で朽ち果てるようならば、私も富嶽も桜花も、所詮はその程度の存在でしかなっただけだけの事……だが、此処で朽ち果てる心算は毛
頭ないがな!!



「大丈夫、梓だったら必ず戻って来るわ!!私も一緒に行くし!!」

「ふ……ならば行け。そして、必ず生きて戻って来い!」



無論、言われるまでもない!!必ず生きて戻って来るさ……そうでなければ、この里を守る事は出来ないからな。さて――



『私の声が聞こえますか?』



ん?この声は……安倍晴明か?夢の中以外でも声が聞こえるとは思わなかったが、如何した?何かあったのか?



『貴女から、陰陽道とは異なる不思議な力を感じたので、其れを探ってみたのですが……成程、途轍もない力を秘めていたようですね。
 何の因果か、其れは封印状態にありましたが、私の陰陽の秘術でその封印を解いておきました。此れで、貴女は其の力を使える筈です。』

「!!」

不思議な力って……其れは魔力じゃないのか?
魔力は失ったと思っていたが、まさか封印状態にあったとは予想していなかったよ。――だが其れが解き放たれたと言うのならば、私は本来
の力を100%発揮する事が出来るからね……礼を言うよ安倍晴明。



『全ては人の世の為に……貴女の活躍、期待していますよ。』



ならば応えよう!
世界を滅ぼす呪われた魔導書と謳われたこの力……今度は世界ではなく、鬼を滅ぼす為に使おう!待って居ろ桜花、今行くからな!!












 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場



とは言え、出撃前の禊は大事だ、モノノフの常識だ――という訳で禊をしに来たんだが……



「き、君って……凄いわよね?」

「何がとは、敢えて聞かないぞ初穂。」

初穂が居た。
まぁ、何のことを言わんとしてるかは分かるが、大きいと大きいで大変なんだぞ?肩は凝るし、場所によっては足元が見えなくなるからな……



「ムキー!其れって嫌味!?嫌味なの!?」

「いや、割と真剣な悩みなのだが……」

「其れは其れで、逆にムカつく!」

「理不尽だなオイ。」

取り敢えず初穂と禊をした――如何やら、気力の最大値が増したみたいだ。――此れなら、桜花救出の任で息切れを起こす事はなさそうだ。
さて、行くか!!