Side:桜花


囮作戦の3つ目……慢心していた訳ではないが、まさかこれ程の窮地に陥るとは思っていなかったな――よもやこれ程の鬼が居るとは、流石
に予想外だったよ。

此れでは狼煙を上げる事もままならないが、私からの連絡は可成り前から途絶えているから、お頭ならばきっと異変を感じ取ってくれる筈だ。
咲いて散るが花の誉れとは言え、こんな所で散る事は出来ない。



『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

『きしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

『ガオォォォォォッォッォォォ!!』




何よりも、モノノフとして、鬼にやられて絶命するなど絶対に御免だからな……援軍が来るまで持ち堪えて見せる!だから――

「華と散れ!!」


――バキィィィン!!


この命、貴様等に簡単に渡してやる心算は毛頭ない!!欲しければ力尽くで奪ってみると良い――お前達ならば出来るかも知れないぞ?
さぁ来い!私の太刀の錆になりたいモノからかかって来ると良い!













討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務10
『梓の全力!粉砕・玉砕・大喝采!!』











Side:梓


連絡が取れなくなった桜花を救出すべく、富嶽、初穂と共に戦の領域にやって来たのだが、なんとも賑やかな事に成っている様じゃないか?
鬼があっちコッチ我が物顔でうろついてるのはよくある光景だけれど、この数は幾ら何でも非常識にも程があると思うな私は。
一区間に30匹以上って言うのは、流石にやり過ぎだろう?マッタク今日は、鬼のバーゲンセールでもやっているのかな?



「ちぃ、肩慣らしにもならねぇ雑魚共が群れやがって……オラァ!大人しく眠って居やがれ、クソッ垂れが!
 ったく、一々相手にすんのも面倒だが、無視できる数でもねぇしよ……オイ新入り、纏めてスカッと終わらせられるような技はねぇのか?」

「ちょっと富嶽、幾ら梓でもそんな便利な技が使える訳ないでしょ!?
 そりゃあ、複数のミタマを宿せる特異体質ではあるけど、武器は打ち刀なのよ?此れだけの数の鬼を一気に纏めて倒すなんて絶対無理!」

「いや、やろうと思えばできるぞ?出来るようになったと言うのが正しいが。」

「「マジか!?」で!?」



より正確に言うのならば、安倍晴明のミタマが、この身に眠っていた力を解放してくれたと言う所だ――折角だから試運転を兼ねて、久々に使
って見るか!

遠き地にて、深き闇に沈め……デアボリックエミッション!!


――キィィィィィン……ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!



『『『『『『『『『『ギヤァァァァァァァァァァァァァ!!!』』』』』』』』』』×沢山



ふむ……久々だが精度も威力も全く落ちていないね?いや、あの小さな勇者と戦った時よりも、僅かながら強くなっているのかも知れない。
梓の魂と融合し、人として鬼と戦ってきた成果かも知れないな――尤も、管制人格であった時とは違い、魔力は無限ではないから、これだけ
の魔法を連発したら、あっという間に魔力切れを起こすだろうけれどね。
さて、道が開けたぞ?先を急ごう。……如何した、2人とも?



「な……なんだ今のは!?魂のミタマのタマフリによく似てたが、威力と攻撃範囲が段違いじゃねぇか!?」

「凄すぎるわよ今の!妖術!?陰陽道!?」



似たような物だが、此れは魔法と言う物だ。
詳しい事は省くが、魔法を使う事が出来る人間と言うのは、魔力と言う物を生成する目に見えない機関を持っていて、其処で作られる魔力を
使って様々な魔法を使うんだ。
今使ったのは、広い範囲を攻撃する範囲魔法と言う物で、他にも魔力で作った弾丸を撃ち出す射撃魔砲、激流の様に魔力の奔流を撃ち出す
砲撃魔法、傷を癒す治癒魔法なんかがあって、私は治癒以外の魔法を一通り使う事が出来るよ。
ただ、魔力も体力の様に消費するモノだから、今ほどの魔法を何発も連続で使う事は出来ない――今のだと、大体1日5発が限度だろうな。
6発目を撃ったら、間違いなく魔力切れを起こして倒れる。……鍛錬次第で魔力量を増やす事は出来るが、今は其れ位だね。



「あんなモンが5発も撃てりゃあ上等だろうが……ったく、本気で味方なら頼もしい限りだぜ。」

「ホントよ!貴女が来てくれたのは、ウタカタにとってはとっても幸運な事だったわね!」

「其れは如何も、有り難くお言葉頂戴するよ。
 でだ、思ったんだが地上を歩いて行くから鬼と遭遇する訳で……だったら、飛んで行かないか?魔法を使えば飛ぶ事も出来るからね?」

「空を飛ぶって、何でもアリかオイ!」



うん、ある意味なんでもアリだな魔法は。
極端な事を言うのならば、時間の跳躍や死者の蘇生を除けば、魔法は大抵の事を可能にしてしまうからね?
だが、だからこそこの力を持つ者は、自分の力を認識して、其の力に責任を持たないといけないのさ。其の力に、飲み込まれて、力に支配され
てしまわない様にね。



「其れは、確かに其の通りかも。
 でも梓、魔法を使って飛ぶ事が出来るのって貴女だけでしょ?私と富嶽は、結局歩いて行くしかないんじゃない?」

「確かに自力で飛ぶ事が出来るのは私だけだが、お前達2人の事は私の魔法で浮き上がらせてやれば、それで万事解決だ。飛行魔法や、
 対象を浮遊・空中移動させる魔法と言うのは、あまり魔力を使う物でもないしね。」

そんな訳で行くぞ2人とも――あまり時間もある訳じゃないからな。


――フワリ……



「うお!?」

「わわ、本当に飛んでる!
鎖鎌引っ掛けて飛ぶのとは全然違うわ!――って、梓、其の6枚の黒い羽根は?」

「飛ぶ時限定で現れる魔力の羽根だ。中々にお洒落だろう?」

「うん、メッチャ様になってる。」



イメージは鴉の羽根なんだが……何で鴉だったんだろうか?私や騎士の容姿、そして獣耳担当がガチムチマッチョとか、夜天の魔導書を作っ
た人物のセンスは、一般人とはちょっとずれていたのかも知れないな。


さて、目的地が見えて来た。
桜花は……居た!小型の鬼の大群が相手では、幾ら桜花でも分が悪いか……ならば!!

「刃持って血に染めよ……穿て、ブラッディダガー!!


――ドドドドドドドドドドドドド!!!



「な、此れは!?」

「はい、空からこんにちわ!!」


――グシャァ!!!


「空からって……飛んで来たとでも言うのか君は!?そして、着地序に鬼を倒しただと!?」

「空から来たカラクリについては後で説明する。
 そして此れは狙ってやった訳じゃない。着地点に偶々鬼が居ただけの事なんだ……まぁ、お前以外の人が居る筈がないから着地点の確認
 をしなかったのは否定しないけれどね。」

「……まぁ、助かったから良しとしよう。
 君が纏めて倒してくれたのだろうが、幾ら私でもあの数を相手にするのは少し骨が折れた……あと1分遅かったら、厳しかったかもな。」



其れはギリギリだったな?
では、ギリギリになってしまった侘びとして、此処からは思い切り暴れさせて貰うとしようか?空を飛んでショートカットして来たから初穂は兎も
角、富嶽は暴れたり無いだろうし――何よりも、私が倒した雑魚で終わりではないのだろう?



「あぁ、その通りだ。
 小型の鬼との間でもヒシヒシと感じていたよ……此方を攻める期を窺っている大型の鬼の気配をね。」

「ほう?ソイツは面白そうじゃねぇか?
 隠れてねぇで出て来やがれデカブツ!雑魚共は、蹴散らしちまったぜぇ?――まさかと思うが、ビビっちまった訳じゃねぇだろ?」



鬼に恐怖と言う感情があるかどうか、其処が問題だが、今のに臆して出てこない相手ならば戦うに値しないが、相手が大型の鬼ならば敵前
逃亡は考え辛いからな……富嶽の言うように、隠れていないで出てきたらどうだ!!



――ギュオォォォォォォン………ドスゥゥゥゥゥゥゥン!!!



『グガァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!』



空間を引き裂いて、現れたなデカブツが……相撲取りをそのまま鬼にしたような体型から見るに、途轍もないパワーを秘めて居そうだな……。



「な、なんなのよコイツ!」

「コイツはクエヤマ!……まさか、待ち伏せていたと言うのか――罠に嵌められたのは、私達の方だったか……作戦を利用された!!」

「利用されたって……」

「私達の方が誘き出されたんだ!
 君達だけでも戻れ……里の守りを固めるんだ!!」



私達を出撃させ、里の守りが手薄になった所で里を狙うか……ふむ、理に適ったやり方だが、だったら尚の事この場を退く事は出来んな?
仮に、私達が里に戻って守りを固めた所で、お前がやられてしまっては同じだ桜花。結局、コイツは里に向かうのだからな。
ならば、里の守りは息吹と那木に任せて、私達はコイツを速攻で討って里に戻り、そして里の守りを固めるのが最上策だ――違うか!?



「ハッ、良い事言うじゃねぇか新入り!
 俺等の後にゃ里があるんだ、俺等が退くって事は、後ろのある里を危険に曝す事でもある……だったら退く事なんざ出来ねぇだろうが!!
 其れに、ここで退いちまったら、何のために生き恥曝して生き延びたのか分からなくなっちまうからな!!」

「大丈夫よ桜花、私達ならやれるわ!!」

「君達は……えぇい、もうどうなっても知らんぞ!!」



今更だな?モノノフとして鬼と戦い始めてからと言う物、どうなっても知らない戦場など何度も経験し、そしてその度にそれを超えて来た!それ
は、お前も同じだろう桜花!!
ならば、今回も其れを超える……其れだけだ。



『グガァァァァァァァァァァァァァ!!!』

「……!!梓――!」

「フン!」



――ガキィィィィィン!!


「あ、あの巨体の拳を、刀を使ったとは言え防ぎやがっただと……?」

「すご……」



うん、推定体重3トンはありそうな巨体だから、パワーも相当なモノがあると思ったが、其れは間違いではなかったみたいだね?
刀で防いだとは言え、衝撃だけならば、あの子から喰らった零距離砲撃と同じ位だったからな……尤も、アレを喰らって無傷だった身としては
此の位の攻撃など、取るに足らないがな!!



――ズバァ!!



加えてコイツは地属性であるようだから、オヤッさんに作ってもらった嵐迅が最大の効果を発揮できる。
挨拶代わりに振り下ろして来た腕を斬り落とさせて貰ったが……此れで済んだと思うなよ?お前もまた五体満足では死なせない……何よりも
私の友を屠ろうとした時点で、塵殺確定だからな?

嘗て、世界を滅ぼす呪われた魔導書と謳われた、この身の力、存分に味わわせてやる!!――消えろ!!



――ズバァ!!



「逆の腕も一撃で……マッタク持ってトンでもねぇが、コイツは好機だ!
 内部生命力での攻撃ってのは、外部生命力がある時と比べりゃガタ落ちだからな……後は足の攻撃にだけ気を付ければ、大した事ねぇ!
 隙だらけだぜぇ!!」



続いて逆の腕も一太刀で斬り落としてやる。
まったく凄まじい切れ味だ……以下に地属性に強い風属性とは言え、此処までとは――矢張り、オヤッさんレベルの職人だから、此れだけの
刀を鍛える事が出来たんだろうな。

ふむ……折角だから、面白いものを見せてやろう。



「面白いものって……君が言うと、なんか嫌な予感がするんだけど……」

「面白いものと言うよりは、衝撃的な物かも知れないがな?……行くぞ、ランニングスリャー!!



――グワシ!……バガァァァアァッァァァァァァァァァァァン!!



「「!?……あの巨体を持ち上げて、更に走ってから地面に叩き付けたぁ!?」」

「オメェ本当に新入りか?其れ以前に、本当に人間か?」




辛うじて人間だと思う。途轍もなくチートな身体をしてるのは否定しないし、否定する心算も全く無いけれどね。
其れよりも、私としては主がやって居た格闘ゲームの技が鬼に有効だったことに驚きだよ。……あのグラサンの軍人さんは、素敵だったけど。

だが、この程度で終わりではないだろうクエヤマとやらよ?
私の力は示してやったんだ……ならば本能的に分かる筈だ、私を滅するにはタマハミの状態になるしかないという事がな!


『キシャァァァァァァァァァァッァァァァァ!!!』


「此れは……タマハミ!!」

「うげぇ……何アレ、気持ち悪い……」

「悪趣味ここに極まれりか……テメェは、平気そうだな新入り?ゲテモノにゃ慣れてんのか?」



ある意味でな。
闇の書の闇のグロテスクさはあの程度は無いし、主がやって居たホラーゲームに登場する職人芸的なまでに綿密なドット絵で描き込まれたG
と蛭の生理的嫌悪感に比べれば、遥かに生易しいさ。

とは言っても、あんまり見て居たいモノでもないから速攻で終わらせる!!
桜花、富嶽、初穂、20秒時間を稼いでくれ!――この一撃で終わらせるが、此れを放つには其れだけの時間が必要になるのでね。



「20秒か……了解した!」

「20秒……任せな!!!」

「其れ位楽勝よ!」



頼む。
あの子ならば、10秒で済むんだが、生憎と私は集束の能力はあの子ほど高くないのでね……最低でも20秒が必要になってしまうな。

だが、20秒を稼ぐの位は、桜花達ならば造作もないな?
クエヤマは、巨体の割に動きが早いが、しかし見切れないレベルじゃないから、桜花は翻身斬で攻撃を躱しながら切り込み、初穂は縦横無尽
に空中を飛び回って的を絞らせず、富嶽は不動の構えで攻撃を防ぎつつ、カウンター気味の一撃を放ってダメージを与えていくか……あ、足
が吹っ飛んだ、更には角も。


「いっけー!!」

「魂を込める……橘花桜蘭!


其れだけでは終わらずに、初穂と桜花が、鬼千切りで反対の足と背びれも斬り飛ばす……此れでクエヤマは丸裸!そして私も準備完了だ!


――キュゴォォォォォォ……


「咎人達に滅びの光を。星よ集え、全てを貫く光となれ。撃ち抜け……スターライトブレイカー!!


――ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!


星をも砕く一撃に、お前に耐えられるはずがない。――精々地獄で閻魔の裁きを受けるが良い。元々、鬼は地獄の住人だったのだからな。



「あの巨体を跡形もなく吹き飛ばすとは……何と言う威力だ。マッタク、出鱈目な存在だな君は……」

「出鱈目?違うな、私は存在が反則だ。」

「自分で言ってりゃ世話ねぇぞオイ。」


確かにな。
でもまぁ、此れで任務完了だ――里に戻るとしよう。……特に、桜花の安否は直ぐに伝えなければならないからね。


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という訳で、里に帰還。……皆、待っていてくれたようだね。



「皆様、よくご無事で……」

「良く踏みとどまった……富嶽、お前の活躍は聞いている。」

「俺の手柄じゃねぇさ……だろ、梓?」



そうだな、皆のお陰だ。
皆が力を合わせたからこそ、この結果が残った――そう言う事だ大和。



「マッタク、命知らずだな、アンタ等は。」

「放っとけ。」


息吹と富嶽は……まぁ、此の2人はアレなんだろうから今更彼是言うのは無駄だな。
だが大和、作戦の成功を喜んでばかりはいられないぞ?今回のクエヤマの待ち伏せを考えると『鬼』の動きは明らかに此れまでとは違う…!



「………矢張り、橘花に見てもらう必要があるか。」

「橘花様の千里眼を?」

「あぁ、倒した鬼の欠片は回収しているな?」



スターライトで消し飛ばしてしまったが、素材と欠片は辛うじて残っていたからな……此れだ。



「よし。――木綿、橘花を呼んできてくれるか?」

「橘花様を?わ、分かりました!!」



此処で橘花の出番か。
千里眼の事は、前に聞いていたが、いよいよそれを使う時が来たという訳か……一体どれ程の力なのか、其の力の程見せて貰うぞ橘花よ。












 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場