Side:梓


「と言う訳で、結局の所は『鬼』が如何なる存在であり、何故我々人間に敵対の意思を示すのかは分かって居ませんが、鬼と言う存在は魂を
 喰らってその力を増幅させる事は間違いないでしょう。
 そして、喰らった魂の質が高ければ高い程、鬼の力は強大になる……つまり、鬼に喰われた英霊の魂の奪還は、鬼を倒す事以上に重要な
 モノノフの使命という訳です――お分かりいただけましたか梓さん?」



あぁ、良く分かった。礼を言うよ秋水。
だが、そうなると、複数のミタマを宿す事の出来る私の存在と言う物は大きい物になるのかも知れないな?……この身に複数体のミタマを宿
す事が出来ると言うのならば、其れを利用しない手はないだろう。

複数体のミタマを宿せると言う事は、鬼に捕らわれた英雄達を解放するだけではなく、其の力を幾らでも得る事が出来るという事に他ならない
のだからな……此れって、普通に凄い事だよな秋水。



「でしょうね。
 僕も、まだ18故に世界の全てを知った訳ではありませんが、複数のミタマをその身に宿すことが出来るとは……若しかしたら、貴女は現代に
 現れた『ムスヒの君』であるのかも知れません。」

「矢張り凄いのか……して秋水『ムスヒの君』とは?」

「遥か遠い昔に存在していたとされるモノノフの祖先であり、その存在はモノノフに語り継がれてきた伝承の中にしか見出す事は出来ません。
 ですが、貴女は若しかしたら、伝説を再現する存在であるのかも知れません――期待していますよ、梓さん。」



期待ね……まぁ、其れには応えるよ秋水。
我等モノノフは、里の人々の思いをこの身に背負って戦っている故に、鬼との戦いに負ける事は出来ない――まぁ、負けてやる心算など毛頭
無いけれどね。

私の前に現れた鬼は、全て此の刀の錆とする……其れだけだ



「ならば、見せて頂きますよ、貴女の戦いを……梓さん。」

「見るのは構わんが、尾行だけは止めておくれよ。」

「善処しましょう。」

「其処は分かったと言ってくれ、秋水。」













討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務8
『囮作戦Round1!ミフチを叩け!』











と、秋水に啖呵を切ったは良いが、思うと今日は御役目は出ていなかったから、任務は無しか……何処となく締まらない感じは否めないな。
身体を動かしていないと、如何にも退屈に感じるのは、或はヴィータの影響かも知れないね。――あの子は、動き回るのが好きだったからね。

じゃなくて、このままではやる事なしだ……ならば、今日はなはとと遊んでしまおうかな……偶にはそう言うのだって悪くないだろうしね。



「よう新入り。テメェに聞きてぇ事があるんだが……空を飛ぶ、馬鹿デケェ『鬼』を見たこたねぇか?」

「と、富嶽か
 空を飛ぶバカでかい鬼?……いや、私は見た事がない。第一、馬鹿デカいと言う程の巨体が飛んで居れば気が付く筈だろうからね。」

「知らねぇか……なら良い。
 もし見かけたら知らせな。ソイツは、俺の獲物だ。」



獲物……何やら因縁のある相手の様だな。
分かった。もし見かけたら知らせる事にする――だが、決して1人で倒しに行こうとなどしないでくれよ?万が一の事があったら、私は教えた事
を後悔しなくてはならないからね。
つまり、見たら教えるから、退治するのには私も連れて行けだ。構わないだろう?



「言うじゃねぇか。ま、テメェの腕なら足手纏いにゃならねぇだろうから、そんときゃ頼らせて貰うぜ新入り。」



そうしてくれ。
さて、富嶽は行ってしまったが此れから如何しようか?
……この間倒したカゼキリの素材で、たたらに新しい刀でも作ってもらって、後はなはととマッタリ過ごすか。茶屋で団子でも食べながらね――



「あ、梓さん。此処に居たんですか、皆さん本部にお集まりですよ――お頭より、作戦の伝達があるとか。」

「と思って居たら、招集が掛かったか。」

「はい?」

「いや、何でもない。」

どうやら、なはととマッタリ過ごすのはまた今度みたいだが……新たな御役目が出てなくて退屈していたのは事実だからね、ある意味で良いタ
イミングで招集が掛かったとも言えるか。
其れに、作戦の伝達という事は、新たな御役目が出来たという事でもあるからね。



「それでは、お仕事頑張って下さいね。」

「了解だ、木綿。」

さてと、先ずはモノノフ本部……矢張り自宅から行った方が早いと言うのは解せん。
遅れてスマナイ。



「全員集まったな。」

「あぁ、私で最後だ。――其れで大和、作戦とは?」

「ここしばらく、モノノフが大型の『鬼』に襲撃されている件は聞いているな?――これ以上被害が出る前に、此方から仕掛ける。」

「いいね、反転攻勢と行きますか。」

「囮の者を放ち、『鬼』を誘い出す。そして、其処を一気に叩く。
 桜花、囮の隊の指揮はお前に任せる。『鬼』が現れたら、狼煙で知らせろ。」

「お任せを。」

「残りの者は里で待機。
 狼煙が上がり次第、出撃して『鬼』を討て!――さて、何か質問は?」

「……聞いときてぇんだが、敵の中に羽付きの『鬼』は居るか?」

「今のところ、確認されていないな。」

「……そうかい。ま、さっさと片付けようぜ。」

「フ……そうだな。
 ……作戦は以上だ。奴等を狩り出す。各自、準備にかかれ。」



囮作戦か……悪くない手だ。
しかも、桜花が囮隊を指揮すると言うのであれば、相手がよほどの鬼でない限りはしくじる事はないだろうからね……とは言え、危険な役目で
ある事は変わらないんだ、気を付けてな桜花?



「なに、簡単にやられる程柔ではないさ。
 君の方こそ、狼煙を上げた後は任せるぞ梓。」

「あぁ、そっちは任せておいてくれ。」

「その意気だ2人とも。
 さて梓、桜花。お前達にやってほしい事がある。」



大和、私と桜花にやってほしい事?まぁ、余程無茶な事でなければ勿論やるが……私達は、囮作戦以外に何をすればいいんだ?



「囮作戦で大型の『鬼』を討ったら、奴等の身体の一部を持ち帰ってほしい。」

「身体の一部ですか……?勿論可能ですが……」

「橘花に見て貰う。」

「…………!」



橘花……あの少女か。
そう言えば、桜花に血縁者かどうかを聞くのをすっかり忘れていたな?……って、如何かしたか桜花?何だが、少し顔が険しい気がするが…



「では、橘花の千里眼を?」

「あぁ、必要になるかも知れんのでな……万が一に備えて、準備だけはしておく。」

「……分かりました、やりましょう。
 梓、雑事は私が引き受ける。君は『鬼』を討つ事に集中してくれ。――戦場で待っているぞ。」



今は、其れを気にしている場合ではないな。
でも、今の顔で橘花と桜花はまず間違いなく姉妹で、橘花の『千里眼』とやらは使用者に可成りの負担がかかる物……其れを使う事を理解し
ていても、納得は出来ないと言う感じだったからね。

……とは言え、狼煙が上がるまでは暇だな。
禊――をしている時間はないだろうから、茶でも飲んで待っているとしよう。……なはとCome on!



『キュイ~~♪』

「天狐?一体何処から現れた?」

「私が呼んだんだよ大和。
 この子はなはと、私の家で暮らしている天狐だ。」

「そうか……まぁ、天狐に懐かれると言うのは良い事だから、大事にしてやると良い。……この場に『アイツ』が居なくて良かったな。



勿論大事にするさ。
この子は良い子だし、よく懐いてくれるし、夜は一緒に布団で寝て居るもんな?さて、お茶だお茶――はい、此れはお前のだよ、なはと。

うんうん、こうして茶を飲んでいる姿も癒されるな。
其れじゃあ私も……うん、美味い。



――ユラァ~~~~……



ん?外に何か……煙?――否、狼煙か!という事は、桜花が鬼と遭遇したと言う事か……思ったより早かったが、出たのならば討つだけだ!
大和、里の守りを考えると、誰が出撃するのがベストだ?



「そうだな……今回は、梓と初穂、お前達が出撃しろ。
 現場で桜花と合流し、現れた大型の『鬼』を討て!」

「了解!行くわよ、梓!」



あぁ、行こう!



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



と、いう訳で、やって来ました『雅の領域』。
桜花が鬼を引き付けている筈だから、急ぐぞ初穂。



「言われなくても分かってます!君の方こそ、遅れちゃダメよ?」

「分かってる、行くぞ!」

狼煙の上がった位置から考えて、桜花はこっちだな――居た!相手はミフチか。
待たせたな桜花!囮役、お疲れ……此処からは、私達のターンだ!ミフチも、周りに現れたササガニも、纏めて1匹残らず殲滅してやろう!!



「待ちわびたぞ。さぁ、反撃だ!!」

「いっくわよーーー!!」



のこのこと現れた事を後悔すると良いさ……精々、深い闇に沈むが良い!








――――――








No Side


防戦一方だった囮隊だったが、梓と初穂が加入した事で、守りに徹する必要はなくなり、一点其処から攻勢に回って、一気にミフチとササガニ
に対して攻撃を開始した。

梓、桜花、初穂の3人がミフチの相手をし、残る囮隊の隊員がササガニを処理する布陣だ。


「此れで都合3回目か、ミフチと戦うのは……だが、矢張り負ける気はしないな?
 図体はデカく、その鎌での一撃を喰らったら、如何にモノノフと言えども無事では済まないだろうが…大きい故に、その攻撃は見切り易い!」

「加えて、ミフチの動きは基本的に直線的だからね。」


そしてそのミフチも、この3人が相手では恐れる相手ではない。
個体としては、以前に戦った個体よりも幾らか強いのだろうが、経験豊富な桜花と、ウタカタに着任する前に1人でミフチを倒した梓にかかって
は大した相手ではない。

梓が神速の居合で右の鎌を斬り落とせば、桜花も鋭い逆袈裟切りで左の鎌を斬り落とし、ミフチの最大の武器を使用不能にする。
其れだけでも充分だが、更に初穂が、ミフチの腹の部分にある突起物に鎖鎌の鎖を絡ませ、そのまま大きく空中で体重移動をして、その勢い
を持ってして、梃子の原理でミフチの巨体を引っ繰り返す!


「いくら大きくても、完全に引っ繰り返されちゃったら何も出来ないわよね?」

「ナイスだ初穂!……一気に決めるぞ桜花!」

「あぁ……決めよう!」



其れが如何かしたか、と思うだろうが……蜘蛛と言う生き物は、平地で裏返しにされてしまうと、自力で元に戻る事はとても難しいのだ。
そして其れは、蜘蛛の姿をしているミフチにも当て嵌まる――引っくり返されたが最後、簡単に起き上がる事は出来ないのである。

この絶対的な隙を逃す手はない。


「覇ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっぁぁぁぁぁ!!」

「ふ!覇ぁ!!せぇい!!」

「それ!其処ぉ!!」



梓は逆手居合連斬で斬りまくり、桜花は斬心を発動してミフチを斬りつけ、初穂は分銅射出からの空中連撃でミフチに着実にダメージを与えて
行く……正に圧倒的だ。
特に梓と桜花、2人の剣士による攻撃は、より効果的であるらしい。――既に、ミフチは破壊可能な部位全てが破壊されているのだから。


「終わりだ……深き闇に沈め。」

「華と散れ……橘花桜蘭!」


そして、止めとばかりに、梓の疾走居合と桜花の斬心切り抜け開放が炸裂!


――キン

――カチン


『ガァァァァァッァァァァァァァァァ!!!』



梓が納刀し、桜花が太刀を鞘に納めると同時に、ミフチが断末魔と共に崩れ落ち、此処に囮作戦其の一は、無事に完了したのであった。








――――――








Side:梓


相手は、此れまで戦った中では最も強いミフチだったが、其れでも私達の敵ではなかったな……まぁ、私と桜花が一緒であるのならば、大概
の鬼には負けないだろうけどね。

勿論、初穂も良い働きをしてくれたがな。



「む……なんか、取ってつけた言い方。」

「其れは仕方ないんじゃないか?私や梓と比べたら、君の実力はマダマダだからな初穂。」

「ムキー!桜花のくせに生意気よ!」



桜花のくせにって……君は一体何処のガキ大将だ初穂?
――まぁ、其れ位元気な方が頼りになると言えばなるんだが……如何にも、初穂からは不思議な波動を感じるな?今度、大和に直接聞いて
見るか……里のお頭ならば何か知って居るかも知れないからな。

ともあれ、先ずは囮作戦其の一、無事に終了だ。
とは言え、これで終わりじゃないからな……次も囮役は頼んだぞ桜花?



「任せておいてくれ――真打は、頼んだぞ梓。」

「了解だ。」



――カツン



拳を合わせ、其れを誓いとする……悪くないね、こう言うのも。――将だったら、寧ろ歓迎だったかもな。
ともあれ、囮作戦は始まったばかりだからね……精々、桜花に誘き出されてやって来るが良いさ鬼共よ……私が、その全てを切り裂いてやる
からな!!










 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場



さて、任務をこなした後の禊は、最早お約束なのだが――



「貴女……無事でよかった。」



先客として樒が居た……まぁ、同性だから遠慮する事もないだろうから、一緒に禊をしようじゃないか。



「そうね……貴女と過ごす一時、きっと悪くない。」

「だろう?」

という訳で、樒と一緒に禊をした。
次の任務で、得られるハクの量は少し多くなりそうだ――何となく、そんな感じがしたな。