Side:アインス


イヅチカナタ……この程度ならば取るに足らん存在だと思ったが、此処でタマハミとなったか!
タマハミ状態になった事で、吹き飛ばした触手が復活し、その触手を地面に突き刺して、本体は宙に浮いた状態か……此れでは低
い位置の攻撃は当たらないから苦戦は必須だろうが……その程度で怯む私達ではない!!



「生きる邪魔をする奴は、私が狩りつくす!人だろうが『鬼』だろうが一匹残らず!」

「長い間この手で護ってきた里だ。貴様になぞ、くれてやらんぞ!!」

「来ますか……ですが断言します。今日こそ勝つのは私達です。」

「ハハハ、『鬼』も必死か?だが、其れは此方も同じだ!」

「……負けない……負けてなるものか!私は、先輩と共に生き続ける!」

「……敵は化け物か?だが、最後まで立ち続けて見せる!」

「こんな所で死ねるかよ!俺は、ウタカタ一の伊達男だ!」

「辛くたって、諦めない!どんな運命にだって、立ち向かってみせる!」

「……一体、ドレだけの魂を喰らって来た。その全て……今此処で返してもらう!」

「此れが敵の真の姿……恐ろしい力です。ですが負けません、大切な方々の為に!」

「コイツが1000年溜め込んできた力か?俺の魂燃やして、ぶち破るぜ!!」



我等は『鬼』を討つ『鬼』たるモノノフだ!
因果を喰らう『鬼』よ、1000年に渡る戦いの最終章を始めようじゃないか……尤も、最終章の結末は、貴様の敗北と死によってのフ
ィナーレと既に決まっているがな!!










討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務88
『最終決戦~何地彼方~』










とは言え、タマハミ状態になったイヅチカナタは先程までとは比べ物に成らんほどの力を感じる……最強の『鬼』故に、危機的状況に
陥る事は少ないが、其れだけに危機的状況に陥った時のパワーアップは他の『鬼』とは比べ物に成らないと言う事か。



「その可能性は否定できないが、タマハミになったと言う事は、私達がイヅチカナタを追い込んだ証でもあるからな――ならば、此の
 流れに乗って、一気に押し切ってしまうのが得策だろうアインス?」

「あぁ、其れが一番だよ桜花。」

戦いの流れと勢いは私達にあるのだから、ならば流れがある時は流れに乗って、さらに勢いに乗ってそのまま押し切る!!
そして、其れが出来るだけの実力者が、この場には集っているからね――



――ドガァァァァァァァァァン!!!



って、タマハミになって凶暴化したせいで、攻撃も無差別だなイヅチカナタは……触手を支えにした状況から、目からのビームを無差
別に放射するとは……しかもあのビームは、喰らったらヤバそうだ――着弾した場所に巨大なクレーターが出来ているからな。
如何にモノノフと言えど、アレを真面に喰らったらお陀仏間違いなしだ……私でも、重傷は免れないかも知れん。

と言うか、あの場所には富嶽と大和が居なかったか!?おい、大丈夫か!!



「ふ、ギリギリだったが、桜花が天岩戸を使ってくれたおかげで無傷だ。」

「的確な援護って奴か?助かったぜ桜花!」

「ギリギリだったが、間に合って良かったよ。」



天岩戸を使ってくれてたのか……うん、ナイスタイミングだ桜花。
此れで一定時間、桜花と富嶽と大和は、イヅチカナタの攻撃を気にせずに攻める事が出来る訳だが……あの巨体が触手を支えにし
て宙に浮いていると言うのは少しやり辛いな?
桜花と大和は太刀のリーチがあるから攻撃が届くが、富嶽はジャンピングアッパーでもやらない限りは攻撃が届かんからな……とな
れば、支えである触手を破壊するのが上策だな!!



『ガァァァァァァァァァァアァ!!』


――ブオォォォォォン!!




うわ!今度は触手を振り回して攻撃か!――ってちょっと待て!今の攻撃は一体如何やった!?
今の攻撃の最中もお前宙に浮いてたよな!?触手が地面を離れてるのに、なんで宙に浮かんでられるんだお前は!?ヒノマガトリ
や、ダイマエンの用に翼があるなら兎も角、翼もないのに浮くとか舐めてんのかお前は!!



「でも、君も空飛ぶわよねアインス?」

「初穂、よく見ろ。私にはこの様に6枚の立派な翼がある。つまり空を飛べても不思議じゃないんだ。」

「あ、其れもそうよね?……って、其れって戦闘時限定でしょ!!」



まぁ、この翼は魔力体だからね。
しかし、翼も無しに身体を宙に浮かせる事が出来るとは……トコヨノオウやトコヨノオオキミですら、タマハミ時に翼が巨大化する事で
漸く飛べたと言うのに、其れもなく浮遊可能とは、流石は最強の『鬼』か。



『ウオォォォォォォォォン!!』

「っと、流石に激しい攻撃だな!」

と言うか、なんか私の事を集中的に狙ってきてないか?
皆だって攻撃をしているのに、其れは一切無視して、私だけを狙うって……『鬼』にモテても全く嬉しくない上に、こんな下手物は願い
下げだぞ!!



「如何やらイヅチカナタは、アインスを最大の脅威と認定したようです……先ずは貴女を始末する事に決めたのでしょう。」

「最強の『鬼』に脅威と認定されたのは、誇るべきか否か迷う所だなオイ?
 だが、私を集中的に狙ってくると言うのならば、皆への攻撃は疎かになる筈……ならば、私が囮になるから、皆はイヅチカナタに攻
 撃を集中してくれ!」

「委細承知!隊長の覚悟、無駄にはせぬ!」

「任せときな!イヅチカナタの首は、ウタカタ一の伊達男が取るぜ!」

「ぬかせ、イヅチカナタの首は俺が取る!」



私一人に集中すると言うのは、逆に言えばウタカタ、シラヌイ、百鬼隊の連合軍の皆を疎かにすると言う事だからな……私に集中し
ている間に倒されてしまえ!!








――――――







No Side


アインスを集中的に狙うイヅチカナタと、其れに攻撃を集中させる、ウタカタ・シラヌイ・百鬼隊の連合軍と言う図式になった最終決戦
は、略互角の展開となっていた。

アインスはイヅチカナタの攻撃を避けるなり捌くなりしてノーダメージだが、モノノフ連合軍の攻撃を受けているイヅチカナタもまた大し
たダメージが入っている様には見えない――つまりいずれの攻撃も決定打にはなっていないのだ。


「ちっ……鎧割を発動したにもかかわらず、決定打になり得んとは……ふざけた奴だ。」

「此方の攻撃に怯む気配もない……タマハミになったイヅチカナタは無敵だとでもいうのか?」

タマハミになったと言う事は、イヅチカナタを追い詰めた証だが、追い詰められた事でイヅチカナタは強化され、その影響で防御力が
タマハミ前よりも大幅に上昇しているのかも知れない。

ある意味で千日組み手にも似た状況の戦いだが、先に一手を加えたのはイヅチカナタだった。


「ビーム!……って、しまった!!」


アインスに向けて目からビームを放つと、其れを避けた先に触手を展開してアインスを拘束!――否、アインスも拘束されまいと、両
手足を突っ張って、握りしめられないようにしているが、アインスの力を持ってしても握られないようにするのが精一杯だ。

だが、これでは何も出来ないのと同じであり……


――バッキィィィィ!!



そんな状態のアインスを、イヅチカナタは剛腕で殴り飛ばす!!
殴り飛ばされたアインスは岩に激突し、土煙が上がる――が、イヅチカナタの攻撃は其れで終わらず、更に触手を使っての百裂拳
攻撃をブチかます!!
余りにもすさまじい攻撃……如何にアインスでもと、誰もが思ったが――



「ウタカタの破壊神を舐めるな!!」



――ドォォォォォォォン!


――バキィィィィン!!




岩の欠片を吹き飛ばしてアインスが現れる!
流石に無傷とは行かず、服は彼方此方が破け、腕や足には擦り傷や裂傷が見られるが、イヅチカナタの巨体からの攻撃を受けたと
言う事を考えれば奇跡的な状態だろう。

更に復活しただけでなく、バインドでイヅチカナタを拘束し、その動きを封じたのだから見事なモノだろう。
そして、動きを封じたと言う事は、最強の一撃を放つ布石に他ならない。


「咎人達に滅びの光を。星よ集え、全てを貫く光となれ。貫け極光!スターライトブレイカー!!


そして放たれたのは、嘗てアインスが居た世界で生み出された、不敗の奥義であるスターライトブレイカー。
この世界でも、数多の『鬼』を葬って来た文字通りの必殺技――此れが決まれば、如何にイヅチカナタと言えども終わりだろう。


『ガァァァァァァァァァァァ!!!』


だが、イヅチカナタは、唯一自由が利く目に力を溜めると、此れまでにはなったのとは比べ物に成らない程の極太ビームを放ち、スタ
ーライトブレイカーにぶち当てる!!
つまり此処からはアインスと、イヅチカナタの力比べだ。
勿論、アインスが打ち勝てるようにと、モノノフ連合軍の皆も、イヅチカナタに攻撃を加えて行く。


「スターライトブレイカーで押しきれないとは……最強と言われるのは伊達ではないか!!」

『ガァァァァァァァァァァァァァ!!!』


攻防は正に互角!
このまま行けば泥試合だが……此処でもイヅチカナタが仕掛けた。
目からのビームだけでなく、2本の触手からもビームを放ち、攻撃の威力を底上げし、徐々にスターライトブレイカーを押し返し始めた
のだ。


「アレが押し返されるだと!?そんな馬鹿な!!」

「この、調子に乗るんじゃないわよ!馬鹿!!」


モノノフ達が攻撃を加えようとも、3連ビームの威力は衰えずにスターライトブレイカーを押し返し――


「く……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


ついにアインスを飲み込んでしまった。
更に駄目押しとばかりに、イヅチカナタは身体を回転させながら四方八方にビームを無差別連射し、モノノフ連合を殲滅せんとする。

その攻撃の苛烈さから、全てを避ける事は出来ず、全員が被弾し、この一撃にて大ダメージを受けてしまう。
桜花が『堅甲』を発動していたおかげで、即死こそ免れたが、其れでもこれ以上戦う事が出来るかと言われたら、其れは可成り怪し
い部分があるだろう。――其れだけのダメージを受けてしまったのだ。


「まさか、一撃で此処までとは……だが負けん!お前を倒し、人の世を守って見せる!!」

「こんな所で倒れて英雄を名乗れるか……貴様は俺がぶちのめす!!」


だが、其れでも桜花と相馬は、満身創痍の身体に鞭打って立ち上がる――否、皆がそうしたいだろうが、今の一撃でごっそりと体力
と精神力を持って行かれてしまったため、立つのも難しいのだ。
此のままでは、イヅチカナタが世界を飲み込んでしまうのは間違い無い。状況は正に絶対絶命だ。



――キィィィン……ドガァァァァァァァァァァン!!!



が、此の土壇場で地面からは白銀の光の柱が立ち上り、その中から凄まじい力が溢れてくる。



「此れは……まさかアイツか!生きていたのか!!」

「ふふ……ははは……何処までも凄い奴だな君は……生きていたのかアインス!!」


その光の柱の中から現れたのは、イヅチカナタの攻撃に呑み込まれたアインスだった。
押し返された攻撃を真面に喰らって生きていた事には驚きだが、それ以上に驚きなのは、今のアインスの容姿だろう――力を制御
する為の紋様とベルトは消え去り、髪は此れまでよりも鮮やかな白銀となり、其れに合わせるように目の色も銀色になっている。

更にそれだけでなく、手にした6本の刀も同様に銀色に輝く魔力を纏っている。

そして――


――ババババババババババババ!


アインスの姿が掻き消え、同時にイヅチカナタの巨体が宙を舞った!
更にそのイヅチカナタに対して、不可視の攻撃が上下左右四方八方からこれでもかと言う位に叩き込まれる――やっているのは言
うまでもなくアインスだ。

最強の『鬼』に反撃も許さない程の超絶攻撃――死の縁に立ったアインスは、土壇場で神代の絶技である『身勝手の極意』に覚醒
したのだ。
意識と身体を切り離し、無意識に身体を任せる事であらゆる攻撃を回避し、同時にあらゆる攻撃をヒットさせると言う極意で、イヅチカ
ナタを圧倒しているのだ。

そしてアインスの奮闘は、戦闘不能となったモノノフ達をも蘇らせる!!


「テメェが頑張ってる時に、寝てる事なんざできねえょな!!」

「アンタがやるなら俺もやる……其れが、ウタカタ一の伊達男の生きる道だぜ!」

「影は光に付き添うモノ……自分は隊長の影となって支えるのみ!」

「私の魂は、常に貴女と共ありますアインス様!」

「こんなとこで負けない……勝って、君と一緒にウタカタに帰るんだから!!」

「先輩……私は、絶対に負けない!此処でイヅチカナタを討つ!!」

「土壇場での大勝負に大博打……良いじゃない、そう言うのは嫌いじゃないわ!」

「俺達の世界は俺達の物だ……貴様等の好きにはさせん!!この世界を守り通すぞアインス!!」

「今こそ決着の時です……私達の力を、アインス、貴女に預けます。」


その魂の力が昇華し、絶対の力となってアインスに集約される。――其れは最強の一撃を放つ準備が出来た合図に他ならない。


「見せてやろう。私達の絆の力を!」

「極めし一撃、今こそ放たん!」

「この力、お預けいたします。」

「見せ場は譲るぜ……決めてくれよ!」

「私達の力、見せてやりましょ!!」

「この一撃、テメェに預けた!」

「秘伝、鬼千切り・極!」

「練り上げた一撃、見せてやれ!」

「必殺の一撃、貴女に託す!」

「貴女のカッコいいとこ、見せて頂戴?」

「万事、貴女に託します……今こそ、天地を貫く時です。」


「「「「「「「「「行っけーーー!!」」」」」」」」」」」


「此れで終いだイヅチカナタ……深き闇に沈め……鬼千切り・極ぃ!!


そして発動した最強の一撃は、イヅチカナタの触手を斬り飛ばすだけでなく、身体を引き裂き、目を潰して致命傷レベルのダメージを
与えて行く。
如何に最強の『鬼』であっても、これだけの攻撃に耐える事は出来ず、イヅチカナタはその巨体を遂に地面に倒れさせたのだった。








――――――








Side:アインス


はぁ、はぁ……まさか、土壇場で新たな力に覚醒するとは思わなかったが、そのおかげでイヅチカナタを葬る事は出来た様だな?
鬼千切り・極を喰らったイヅチカナタは、地面に倒れ伏した後に天に昇って、爆発四散したからね。

そしてその光が飛び散り、光が落ちたその場からは植物が芽吹いて……此れは一体?



「イヅチカナタに喰われた全てが、この地に還っているのです。」



何とまぁ……枯れ切った巨木が枝を伸ばし、青々とした葉を茂らせ、更には実までならせるとは……其れだけの力をイヅチカナタは
喰らっていたと言う事か。



「此れは……此の湖畔は。」

「千歳?……オイ、お前その姿は!!」

「え?」



湖に映った自分の姿を見てみろ!――お前はもう、半人半鬼の存在ではないぞ!!



「なっ!此れは……クックック……アハハハハハハ……アッハハハハハハ!!
 ……生きろと言うのか、この世界で。」

「千歳……私には、貴女の苦しみを消す事は出来ません。ですが、生きて下さい、私と共に――1000年の時を、今に結ぶ為に。」

「……分からぬよ、今更、人の生き方など。
 だが……其れでも生きろと言うのなら、まだ私にその資格があると言うのなら――やってみよう、今一度だけ。」



ふ……其れで良い。
大分遠回りをしてしまったのかも知れんが、お前達の戦いは、今此処で終わったんだ……だから、これからは共に生きて行こう。


さぁ、帰ろう私達の生きるべき場所――ウタカタの里に!!











 Fin――ではなく、To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場