Side:大和


……こんなところに何の用だ、九葉?



「……お前か……其方こそ、戦の準備があるのではないか?」

「其れはそうだが……妻に挨拶をしにな――そして、この地に眠る、俺達の仲間に。」

「……アレが逝ってから、もう十年か……モノノフ訓練兵、七百三十一期生……生き残っているのは、もう私とお前だけだな。」



まったく……長い月日が過ぎたモノだ……歳をとる訳だ、俺も、お前もな。



「……私はお前が嫌いだった。
 モノノフの才能に溢れ、将来を嘱望される若き英雄。寡黙だが、周囲に慕われ、何時も仲間達に囲まれている――私が望んでも得
 られぬものを、お前は何時も持っていた。」

「……奇遇だな。俺もお前が嫌いだった。」

揺るがぬ信念で、一人暗闇を行く。誰にも理解されずとも、動じる事も無く人を捨てられる覚悟……その全てが、気に入らなかった。
だが、俺達の道は分かれたが、全ての道が分かれているからこそ何度でも交われるのさ――お前と俺の道が、このウタカタで交わっ
たように。
其れが、人の生きる道と言うモノだ……俺は、そう信じているぞ。










討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務86
『決戦の前に~The Road~』










「……矢張り好かぬな。お前の言う事は、いつも私には遠い。」

「遠ければこそお前に届く。近くでは聞こえぬ言葉が。」

「……戦も近い。そろそろ本部に戻るぞ。」



先に戻っていてくれるか?俺には待ち人がある。……待っているのさ、此処にあやつが来るのを。



「……そうか。ならば私は退散するとしよう。
 さて、黄泉の住人に聞けているかどうかは分からんが……見守ってやれ、お前の愛した者を――必ず勝て、大和。」

「ふ……分かっているさ、九葉。」

勝利を導くのが俺の……ウタカタのお頭としての使命だからな――その使命は、必ず果たすさ……何よりもアインスが居れば俺達の
勝利は絶対と言えるからな。

必ずやイズチカナタを討つ……其れだけだ。








――――――








Side:アインス


夜が明けたか……皆の魂を奪還するために大型の『鬼』と6連戦をしたと言うのに不思議と疲れはない――昨晩は、景気付けの意味
で桜花や相馬と飲んだのに、酒も残って居ないしね。



「やぁ、おはよう。君も目が覚めたかアインス。」

「桜花?そう言えば、昨日は相馬は帰ったが、お前は其のまま家に泊って行ったんだったな。」

と言うよりも、酔ってそのまま寝てしまったと言う所だが……其れでも、こうして確り目覚めて居るんだから、桜花も割と酒には強い方
何だろうね。

さてと、取り敢えず身支度をな。
スカートアーマーを装着して、上着を着て、スカートアーマーのベルトに刀を装備してと……よし、完璧だな!!
いよいよ今日、イズチカナタを討つ……イヅチカナタを討って、ホロウと千歳と、そしてオビトが続けて来た1000年の戦いに終止符を
打つ!気合は充分か桜花?



「勿論だ!
 しかしなんだな……君と初めて出会った時の事を思い出す――あの時は未だ、橘花を守る事しか頭になかった。
 だが、何時しか守りたいものが増えた――このウタカタに集った仲間達。そして……アインス。君を守ろう、私の全てに代えて。
 あぁ、死んでも守るとかそう言う事じゃないから安心してくれ。私が守りたいのは、君の心だ……私と言う存在を持ってして、君の心
 の支えとなる、そう言う事だ。」

「私の心の支えにか……なら、頼らせて貰おうかな。」

「ふふ、任せておけ。」



任せた。
悪いが先に本部行っててくれるか?出撃前に里を見て回っておきたいし、オヤッさんや樒に、出撃の挨拶をしておきたいんだ……其
れと、出撃前に禊をしておきたいからね。



「分かった。では、本部で会おうアインス。」

「あぁ、また後でな。」

さてと、先ずは禊だな。
札の色は赤だから大丈夫だな――まぁ、札の色が青でも私は関係なく中に入るけどね?ぶっちゃけて言うなら、ちゃんと着てるんだ
から何の問題も無いと思うしな。

で、居たのはお前か橘花。



「アインスさん……いよいよですね?」

「あぁ、いよいよだ……此れで『鬼』との戦いが終わる訳では無いが、少なくとも一つの区切りにはなる筈さ。」

「イヅチカナタを討てば、少しは『鬼』の攻勢を抑えられるかもしれません……如何か御武運を……そして、必ず帰って来て下さい。」

「勿論だ、約束する。」

生きて帰ってこその勝利だからね。
橘花と禊をした効果で、五大属性への耐性が強化されたみたいだな?――次は……オヤッさんの所に行くか。

「オヤッさん!」

「アインスか……いよいよだなぁ?
 オメェさんが負けるとは思えねぇが、今度の『鬼』は、ワシ等の魂を奪っちまうような奴だから充分用心して行けよ?――行ってきな
 若いの……オメェならやれる。」

「うん、行ってくるよオヤッさん。」

私と言う存在がオヤッさんの鍛えてくれた刀を使うんだ、どんな『鬼』が相手であっても負けはしないさ!――例えそれが、因果を崩壊
させる程の力を持った『鬼』であってもね!!

次は……ん?アレは大和?神木の前で何をしてるんだ?

「こんな所で何をしてる大和?」

「お前か……待っていたぞ、アインス。数多のミタマを宿す、ムスヒの君よ。
 ……伝承に謳われた英雄と、共に戦えたのは幸いだ――お前と出会ってから、もう随分と時が過ぎた気がする……感謝する、此れ
 までの全てに。」



私を待っていたか。
だが、感謝される事はしていないぞ?……本来彼岸へと渡る筈だった魂が、何の因果がこの世界に流れ着き、死にゆく者の願いを
聞き、其の者の魂と融合して私が生まれた――私は、モノノフとしての役目を果たしただけさ。



「ふ、お前らしい物言いだな。
 其れは兎も角として、お前の『魂結び』の力か、先程から俺の中のミタマが疼いていてな……お前に自分を託せと。
 この地の全てのミタマが、お前に力を貸したがっている――だから結べ、八百万のミタマを。俺の中の、獅子のミタマを。」



――キィィン……バシュン!


『よう、俺と一暴れするか?』


――ミタマ『北条氏康』を手に入れた。



「お前に託す、俺の半身を。……行くぞアインス、数多のミタマがお前を支える。……俺がお前を支える。」

「大和……あぁ、行こう!」

「あぁ、目指すは敵の待つ、雷鳴の荒野……俺もお前も所詮は人。だが、人だからこそ、魂を結んで戦える。
 1000年の結び……その手で未来に受け渡せ。」



あぁ、勿論だ。
次は樒に……って、こんな所で何をしている凛音?お前が本部から出てきているとは珍しいな?



「あら、貴女……戦の前のあいさつ回りかしら?」

「ん?まぁ、大体そんな所だ。」

「…………大したものだ、アインス。
 仲間を統率し、数多のミタマを結び、この地に兵を集結させた。他の誰にも成し得ぬ、貴様の功だ――暦が援軍を出せと言った時、
 あの子の目には強い意志が芽吹いていた……貴様のおかげだ、アインス。
 礼を言わせてくれ。おかげであの子は強くなった。」



其れは、私の力ではない……元々暦に有った強さが開花しただけの事――私との出会いは切っ掛けに過ぎん。
尤も、私と出会った事で暦が変わったと言うのであれば、其れは其れで悪い気はしないよ……私も心優しい主と、不屈の勇者と出会
った事で変わる事が出来たのだからね。



「一つ……貴様に託したいものがある。さっきから、私の中のミタマが五月蝿くてな……貴様に、自分を託せと。」


――キィィン……バシュン!!


『アタシと遊びたいなら、その腕一本賭けな!』


――ミタマ『茨木童子』を手に入れた。



凛音からも分霊があるとは!……だがしかし、コイツがミタマって何故?茨木童子って、お前だって『鬼』だろ!?……酒呑童子にも
言える事だが、『鬼』がミタマとなって『鬼』を討つのに力を貸すってのは一体……
モノノフが討つ『鬼』と、神話や伝説に出てくる『鬼』は別の存在と言う事なのかも知れんな。



「今生のムスヒの君よ、私の相棒を宜しく頼む。じゃじゃ馬だが、必ず役に立つはずだ。
 其れと……あの子を……暦を頼む。私の可愛い部下だ、まだ幼いが、何れもっと強くなる――己自身の道を見出す強い意志を、貴
 様から貰ったのだから。
 ……では行くぞ、アインス。北の『鬼』との戦に終止符を打つ。」

「だな。
 時に凛音、お前は一体どっちの口調が本当のお前なんだ?」

「どっちの口調が本当の私かだと?
 ……さぁね、忘れてしまったわ……じゃ、そろそろ行きましょうか。イヅチカナタとやらを倒しに――其れが終わったら、私と博打でも
 やらないかしら?
 好きなのよね、運否天賦って奴が。」



博打って……里のお頭がそんな事を堂々と言って良いのか?
私の知る限りでは、博打は御法度だったと思うがな?……まぁ、富嶽に言わせれば『金銭を賭けなければ問題ない』との事だがな。



「あッははは、そんな顔しないでちょうだい、気が向いたらでいいわ――さぁ、行くわよ!」



先日の禊でも思ったが、凛音の本性は博打好きの……言っては悪いが『女博徒』と言った所か……まぁ、実力は申し分ないし、御法
度とは言え、個人の趣味に彼是言うのは間違いだからね――まぁ、気が向いたら付き合うさ。

さてと……樒、調子は如何だ?



「ぼちぼち……結構ハクが溜まって来た。」

「ほう、其れは良かったな?」

「良かった……でも、折角貯めたハクも、世界が滅んでしまったら意味がない……だから、絶対に勝って。」

「任せろ、お前の財産を無駄にはさせん。」

「……まさか、本気で返されるとは思わなかったけど……貴女ならやれる。八百万のミタマに好かれた貴女ならばきっと。
 忘れないで、貴女は一人じゃない……ウタカタの仲間と、そして数多のミタマが一緒に居るから……」

「樒……うん、忘れないよ。」



『アインス……卿ならばきっと。』



ん?……何だ?……頭の中に声が……この声はオビトか?



「おお?何だ、アインスではないか!最後に私に会いに来てくれたのか?」

「いや、お前の声が聞こえたのでな……と言うか此処は自分の意思で来れる所だったのか――じゃなくて、最後にとか言うな縁起が
 悪いぞ。」

「アハハ、そう心配するな。
 卿と私が力を合わせれば、勝てない『鬼』などきっとない。結べぬモノなど、きっとない――1000年前、私はイズチカナタに敗れた。
 何度戦っても、結果は同じだろう。
 けれど1000年の時が流れ、私は卿と出会った。そして卿なら、きっとイヅチカナタにも勝てる――それが歴史の意味だ、アインス。
 紡いできた歴史が、我等を支えてくれる。だから決して『鬼』になど負けない……百万の軍勢が、我等と共に在るのだから。
 そうだろう、卿ら!」

『おうよ!四天王筆頭に任せとけ!』

『西軍総大将が『鬼』を喰らってやる!』

『どんな『鬼』にも勝てる策を授けてやる。』

『再び魂を櫛となし、お供します。』

『おめえと一緒に戦わせて貰おうかい。』

『壬生の狼がお前の背中を押してやる。』

『奥州十七万騎が道を開いてやる。』

『行こうか、主。それに、わらべも。時代に新たな風を吹かせに。』




此れは……私の中のミタマ達か!!……此れだけの英霊のエールを貰ったのならば絶対に勝たねばだ。
何よりも私の名は『強く支える者』『幸運の追い風』『祝福のエール』だからな……祝福のエールが、英霊のエールを貰った以上、勝利
は絶対だな。



「うむ、行くぞアインス。遠い過去と、遠い未来を結ぶために。」

「行ってくる……が、其れは私だけじゃなくお前もだ……一緒に行こう。」

「うむ!私はいつも卿と共に在る!……最後に一言だけ言わせてくれ――ずっと傍にいてくれて、ありがとう。
 よし!では行くぞアインス!汝に英雄の導きがあらん事を!」



……礼を言うのは私の方だオビト。お前が居なかったら、私はイヅチカナタの因果崩壊に呑み込まれてしまっていただろうからね。
行こう、1000年の戦を終わらせるために!!



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そして本部に来たが……皆集まっていたか。



「さて、行くか!」

「決戦の時だ。」



相馬、桜花……あぁ、此れが北の『鬼』との最終決戦だ!!
ウタカタも、百鬼隊も、シラヌイも関係ない……此処に集ったすべてのモノノフの力を持ってして、イヅチカナタを討ち滅ぼす……其れ
だけだ!!



「此処から先は、頭も隊長もない、ただのモノノフとして死力を尽くすだけだ……やれるさ、俺達なら。」

「準備は宜しいですか?――1000年の戦いに決着をつける為に、此れより進撃を開始します!」



此れが最終決戦……イヅチカナタ、必ずや貴様を滅してやる……精々燃え尽きるが良い、潔くな――!!









 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場