Side:アインス


大和とオヤッさん、そして木綿の魂を奪還する事には成功したが、だからと言ってウタカタの状況は改善されてはいない――モノノフ
一人の魂を結び直したくらいでは駄目だな矢張り。

桜花達を取り戻すのもそうだが、此処は橘花の魂を取り戻す方が先かも知れん。
少なくとも神垣ノ巫女が戻り、里の結界が復活すればイズチカナタの影響とやらも薄くなるだろうし、そうなれば自力で意識を取り戻
す人だっているかもだ。



「えぇ、その可能性は否定できません。
 早急に橘花を助け出す事を推奨します。」

「あぁ、其れじゃあ早速向かうとしよう――恐らくだが、橘花の魂と桜花の魂は意識は別でも同じ場所に居る筈だろうしね。」

「妹思いの桜花ならばその可能性は高いだろう。
 それと、今回は、俺も行くぞアインス。助けられてばかりでは、お頭としての面子が立たんからな。」

「ふ、其れは頼もしいな大和。」

オオマガドキの英雄が一緒ならば、とても心強い事この上ない。
時の狭間とやらで、思い切り暴れてやるとするか――皆の魂を、ウタカタの地に結び直す為にもな。



「アインスさん、皆さんの魂を、どうかお願いします!」

「あぁ、任せておけ木綿!」

取り戻してやるさ、ウタカタの皆を!










討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務83
『魂結び~神垣ノ巫女を取り戻せ~』










再び時の狭間にやって来た訳だが……生身で此処を訪れた感想をどうぞ、大和。



「正直、この世の光景とは思えんな?
 こんな場所に魂が捕らわれていたのかと思うと、正直背中が寒くなる思いだ……あのまま戻ってこれなくなっていたらと考えると
 ゾッとするな。」

「はい、向こう側に魂が渡ってしまったら二度と戻って来る事は出来ませんので。
 ですが、其れは生身で落ちても同じ事ですので、くれぐれも戦闘中に地面から落ちないようにして下さい。」

「そうだな、普段の『鬼』との戦闘よりも周囲に気をつけねばなるまい。」

「まぁ、落ちたら落ちたでその時は、私が飛んで行って捕まえれば良いだけの事なんだけどね。」

さて、今回時の狭間に現れる『鬼』はどいつだ?
鳥居の向こうからは、さっき戦ったクエヤマとは桁違いの力を感じる――この力、指揮官級か?とすれば、最低でもゴウエンマクラス
が相手と言う事か。
普通なら負ける事のない相手だが、イズチカナタの力の影響で強化されている可能性もあるから、油断は禁物だな。



『グオアァァァァァァァァァァァァ!!』



ふ、ゴウエンマではなく、相手はお前かゴズコンゴウ!
棍棒を持っている分だけゴウエンマよりも攻撃力が高く、『鬼』としての格もゴウエンマよりも上の指揮官級……桜花と橘花を取り戻
す為の相手としては申し分ない!
だがな、牛ならば『モー』と鳴け、この牛頭!



『姉さま、姉さま。見て、お団子を作ったんです。』

『ふふ、橘花は可愛いな。どれ、ちょっと食べてみよう。』

『カナデ……お前の居ないこの世界に、一体何の意味があるって言うんだ!』



これは、桜花と橘花の他に息吹の魂も居るのか?
息吹の魂は独立した夢を見ているようだが、桜花と橘花は共通の夢を見ている感じみたいだな?……何にしても、その魂は必ずウ
タカタに連れ帰る!
ホロウ、擲弾を何個か貸してくれないか?出来れば火薬の量が多いのを。



「構いませんが、何をする心算ですかアインス?」

「ちょっとした罠をな。」

擲弾の弾頭を外して、中の火薬を地面にパラパラと、これで準備は完了。
さぁ、かかって来い牛頭!お得意の突進で私を吹き飛ばしてみろ!或は、炎の拳で焼き尽くしてみるが良い――尤も、私はそう簡
単にはやられんがな!



『ゴォォォォォォォォォ!!!』



来た来た、拳に炎を宿しての突進パンチ。
真面に喰らったモノノフであっても相当なダメージは間違い無いし、私でもアレを真面に喰らったら流石に痛い一撃だが、今回に限っ
ては其れは自滅へのプレリュードだ!!



――ドガァァァァァァァァァァァァァァン!!!



『グァァァァァァァアァァァァ!?』




トラップ発動『万能地雷グレイモヤ』ってね。
お前が拳を叩きつけた場所は、私が擲弾の火薬をばら撒いておいた所だ――1発だけならば兎も角として、10発分の火薬の爆発
と言うのは如何にお前でも効いただろう?

だが、本番は此処からだ!


――ギュオォォォォォォォ!!


『斬刀-遮那王』と『絶剣・巌流』に魔力を纏わせた二刀流で相手をしてやる!
貴様の弱点属性である『水』と『地』の二刀流だ……完膚なきまでに叩きのめしてやるから覚悟しろ!!先ずは、トラップでダメージ
を負った右腕貰い受ける!!


――ズバァァァァァァ!!


「一撃で部位破壊とは見事だアインス。此の隙に攻撃を集中しろ!」

「言われずともその心算だ!!」

「必殺の十字砲火です。」



腕の浄化は『祓殿』を発動しておいたのでその効果に任せるとして、大和の言うように此処は一気に攻めるが吉だ!
逆手の二刀流で、疑似双刀を再現して、斬って斬って斬りまくる!!大和も太刀のコンボを使い、連続斬りからの斬心開放を叩き込
み、ホロウは貫通弾で複数の部位にダメージを与えて行く。
並の『鬼』ならば、これで完封だが……



『グオアァァァァァァァァァ!!』



其処は強化された指揮官級の『鬼』……そう簡単には行かないか。
マガツヒ状態になって、棍棒を振り回し――


――メキャァ!!


私の顔面にクリーンヒット。うん、流石に痛い。
フッ飛ばされはしなかったけど、痛い……鼻血は、出ていないみたいだな。



「痛いでは済まないのではないかと思います。普通ならば。」

「アインスだからこそだろう……並のモノノフだったら、今の一撃で絶命していてもおかしくないがな。」

「まぁ、頑丈だからな私は。」

だが、顔に攻撃をかましてくれた事は許せんな?
顔は髪と並ぶ女の命とも言える場所だ……其処を打ん殴るとは、万死に値すると知れ!!――そして、私の怒りに火を点けた事を
地獄で後悔しろ!


――バキィィン!!


飛びあがってから、双刀の『飛燕』を繰り出し、ゴズコンゴウの角を破壊!
此れでゴズコンゴウはスタンするが、その隙に二刀流の連続攻撃で部位を斬って斬って破壊しまくる!大和の斬撃と、ホロウの銃撃
も確りと決まっていたからこそ出来た事だがな。



『何かを忘れている気がする……大切な何かを。』

『私は神垣ノ巫女……守りたいものは、確か……』

『……分かっているさ、何時までもウジウジと格好悪いってな。
 なら、少しは格好良くするさ。今日から俺は、ウタカタ一の伊達男だ!』




そして、ゴズコンゴウにダメージを与え続けた事で、桜花達の魂が意識を取り戻し始めたな――なら、この勢いに乗って一気に攻め
立てる!!

「砕け散るが良い!!」

魔力を纏った二刀流で一閃してダメージを与え、更に回し蹴りで蹴り飛ばす!……ゴズコンゴウ程の巨体が錐揉み回転して吹っ飛
んで行く様は可成りの迫力があるな。



――ギュイィィィィン……


『ゴガァァァァァァァ!!』




だが、其れだけのダメージ受けた事で危機状態に陥ってのタマハミか。
四つ足状態になって、凶暴性が増したその姿は、野生のバッファローさながらだが、今更私がそんな物に驚くと思っているのか?
私は幾多の世界を滅ぼして来た破壊神……そんな私から見れば、『鬼』など矮小な存在でしかない――其れが例え、お前の様な指
揮官級の『鬼』であってもな!!



「敵も追い詰められていると言う事だ、一気に決めるぞ!」

「好機到来です。ブチかまします!」



あぁ、一気に決める!!
狼虎滅却……紫電一閃!!



――バガァァァン!!


大和とホロウの鬼千切りが炸裂し、更に私の『鬼千切り・極』が炸裂してゴズコンゴウは完全KO!
紫電一閃は、将の技を見よう見まねで使ってみたんだが、何とか巧く行ったようで良かったよ。



『此処は……私は一体何をして……?』

『……アインスさん、私を迎えに来てくれたんですか?』

『……聞こえたぜアインス、アンタの声が……』



そして、戻ってきたようだな桜花達の魂が。――さぁ、ウタカタに帰ろう。お前達は、こんな所に居るべきじゃないからな。


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と言う訳でウタカタに帰還だ。――大丈夫か、桜花、橘花、息吹?



「此処は……?」

「ウタカタの里だ。意識が戻ったみたいだな。」

「……暗闇の中で、過去の記憶がグルグルと頭の中を巡っていた。あれは、一体……」

「イズチカナタの『因果崩壊』により、過去と現在の結びが断たれていたのです――ですが、もう大丈夫です。
 皆さんの魂は、再びこの地に結ばれました。」

「そうか……アンタの声が聞こえたぜ、アインス。」



そうか……聞こえてると信じていたよ。



「アインスさんの魂を身近に感じまして、そうしたら、ふっと意識が戻って。」

「……また、カナデと一緒の夢を見たよ。
 随分と甘い夢を見たもんだ…………許さねぇぜ、イズチカナタ!」



ふ、その怒りは今の状況では好ましいぞ息吹……正直、私も怒っているからな!
ならば、戦うだけだ――ウタカタの地の全ての魂を奪還する為にな!



「あぁ、任せておけ!」

「ふふ、その意気だな桜花!」

其れとは別に、橘花、お前に頼みたい事がある――もう一度、この地の全域にお前の結界を張ってくれないか?



「それは……勿論ですが……」

「神垣ノ巫女の力なら因果崩壊の影響を排除する事も出来る筈だ――私の『魂結び』にって、皆と魂を結んでいる今なら魂の奪還ま
では、果たせないだろうが、消えゆく全ての魂を、この地に繋ぎ止める事が出来る筈だ。」

「…………!
 ……分かりました、やってみましょう。
 科戸の風の 天の八重雲を吹き放つの事の如く 朝の御霧 夕の御霧を 朝風 夕風の吹き払ふ事の如く 祓へ給ひ 清め給へ。
 八百万の御魂集いて 聞こし召せと白す!」



――キィィィィン!!!



これは……ウタカタを覆っていた不気味な光がなくなった!?
ウタカタに、何時もの空が戻って来た!――ははは、青空が見えるぞ!!もう、不気味な紫の空じゃないんだ!!



「……やっぱりお天道さんが一番だな。」

「マッタクだ。よくやってくれたな橘花。」

「アインスさん……ありがとう……」

「行くぞアインス、仲間達の魂を取り戻しに!」



言われるまでもないさ桜花。
残る皆の魂も必ず取り戻して、ウタカタをあるべき姿に戻す!!――私がこの世界でモノノフに、今世のムスヒの君となったのは、全
て、因果崩壊によって奪われた魂を取り戻し、そしてイズチカナタを倒す為だったのだろうからね。

桜花と息吹が戻った事で戦力も整って来た……残る皆の魂、速攻で返してもらうぞ!!










 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場



禊に来たんだが、お前も居たのか桜花。



「魂を『鬼』の力で捕らえらえていたのだから、相当な穢れを受けているだろうからね……先ずは、其れを清めねばだろう?」

「成程、其れは確かに其の通りだ。」

尤も、それ程穢れているようには見えないが、精神的な意味合いが大きい故、禊での浄化は必要なんだろうな。
だがな桜花……禊は、色々とアレなんだ、禊装束は水で透ける程に薄いし、色も白だから、バッチリと色々見えてしまっている次第
であってな……ごめんなさい、いただきます。



「何を?って、ちょっと待てアインス!」

「大丈夫、家まで連れてくから!!」

「いや、そう言う事でなくてはな!?」



この後で何があったのかは、各自脳内妄想で補っておいてくれ。
取り敢えず言える事は、桜花は可愛い!此れに尽きるな、うん。