Side:アインス


異常を感じて外に出てみたら、里全体が不気味な紫色に染まっているだと?――朝焼けや夕陽で茜色に染まった里は美しいと思う
が、不気味な紫色の里などゴメン被るぞ。

っと、おい無事か那木?



「なるほど、アレが夏日星ですか!
 では、あの星は何と言うのでございますか?」

「おい、那木?」

「まぁ、アインス様。
 私、ただいま友と天体観測中でございます!――星々の彼方に思いを馳せると、きらきらと胸がときめくのです!
 ……おや?私、何か大切な事を忘れているような……」



冗談だろオイ……私の事を認識しつつも、亡き友と天体観測をしていると言うとは、如何考えたって普通じゃない――それ以前に、
今の那木の目には光がない。
狂っていると言う訳じゃないが、少なくとも正気ではない……考えたくない事だが、これは若しかしなくてもイズチカナタの影響なの
かも知れんな……











討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務81
『終わりの始まりと、崩壊への反抗』










那木の後で、皆と会ったが……やはり私の事を知っている、或いは何処かであったと認識しつつも、意識はウタカタにはない様だ。
息吹はカナデが死んだ事を忘れているようだし、相馬は参番隊はもうない事を忘れている……此れは如何考えても尋常じゃない。
……まぁ、初穂から大和は子供の頃は悪ガキだったと言うレア情報を得る事は出来たがね。

とは言え、此のままでは埒が明かん。
そう言えば、未だ樒とは話していなかったが……お前は無事か樒?



「今集中してるから……。
 あまり話しかけないで……因果の結びが……解けそう……魂を……この世界に繋ぎ止める……とりあえず……時間は稼ぐ……
 後は……貴女が何とかして。
 私じゃ力不足……」



お前は、辛うじて無事だったか樒。
だが、何とかしろと言われてもな……如何すれば良いか、私にも分からないんだが……



「ホロウのところに……行って……魂を結んで……つなぎとめて……貴女なら……出来る……」

「ホロウのところにか……分かった、行ってみる。
 必ず何とかするから、もう少しだけ頑張ってくれ樒……お前までおかしくなってしまったら、ウタカタは――否、この世界は終わって
 しまうだろうからね。」

「頑張る……でも、出来るだけ早くして。」



了解だ!
と言う訳で……たのもー!ホロウは居るかぁぁ!!



「正面玄関所か、壁を蹴破って現れるとは思いませんでした。これが俗に言う道場破りと言う奴ですか?
 非常に心躍る展開ですが、残念ながら、其れを楽しむ時間は無いと認めます……」

「こんな状況でも、お前はぶれないなホロウ。」

「この様な事も初めてではありませんので。
 しかし驚きました。貴女は無事でしたか。……数多のミタマが、貴女の魂を繋ぎとめているようです。」



私は無事?……否、今の里の状態を言うならそうなるのか。
そして其れは、数多のミタマが私の魂を繋ぎとめているからとは……この状況、一体何がどうなって居るんだホロウ?



「里の皆さんの事ですね?
 記憶の消失、人格の混濁を認めます。残念ですが最悪の状況です――イズチカナタが、この地に実体化し始めたようです。
 『因果崩壊』が始まりました。
 この世界との『結び』を喰われ、皆さんの魂が徐々に消失しつつあります。
 更に事態が悪化すれば、皆さんの魂はあちら側に消えるでしょう。」

「あちら側……つまり『鬼』の世界にと言う事か……!」

だとしたら、やる事は只一つ……そうなる前に決着をつける。イズチカナタを討つ。
恐らくそれが唯一にして、絶対の方法なのであり、イズチカナタを討てば皆の魂は戻って来る……ならば、迷う事など何もないさ。
例え里で戦えるモノノフが、私とお前だけであってもだ。



「……アインス、覚えていますか?私の本当の使命を。
 人々の魂を喰らい、力に変えて『鬼』を討つ――たとえ、皆さんの命を奪ってでも!」



やめろ、其れだけは絶対に。
確かに其れがお前の使命であり、イズチカナタに対抗しゆる唯一の方法だったんだろうが……人の命をコストにして力を得て、そし
て使命を成しても虚しいだけだ。



「私もやりたくありません。ですが……皆さんの魂を、私は奪います。『鬼』に奪われる前に。
 例えそれが、皆さんを殺す事であっても。
 千年前、私は同じ状況に追い込まれました――記憶を失っていく仲間達。この世界から消えていく数多の魂。
 其れを前にしても、私は可能性に賭け、皆さんの魂を奪いませんでした。」

「その結果、イズチカナタに仲間の魂を喰われ、敵はパワーアップしてしまった……更に千歳も鬼門に落ちた……か。」

お前は、選択を誤ったと思っているのだなホロウ?
……確かに、お前が仲間の魂を奪って居ればそんな事にはならなかったかも知れないが、仲間の魂を奪わなかったからこそ『今』
があると言う事を忘れるな。
其れにだ、イズチカナタがドレだけ強力な『鬼』かは知らんが、私が勝てないレベルか?――本気を出し、銀髪紅眼となった私でも。



「其れは分かりません……ですが、不確定要素が多すぎます。
 ……『鬼』に奪われる前に、ウタカタの皆さんの魂を奪います――その魂を力に変え、イズチカナタを討ちます。
 千年の戦いを、此処で終わらせます!
 アインス。願わくば、私に協力を……」

「無論力は貸す……だが、魂を奪う必要はない。
 私が本気を出せばイズチカナタでも――」


――ザザ……



「……アインス?」



な、何だ?思考にノイズが……否、其れよりもここは一体何処だ?
私は……そうだ、主と共に居た筈……



「アインス。私が誰か、分かりますか?」



――ザザザザーーーー



「…………」

「アインス……しっかりしてください。」



しっかり?……否、其れよりもお前は誰なんだ?……それ以前に私は――誰だ?闇の書の意思?福福の風?……私は一体……








――――――








Side:ホロウ


アインス……そうですか、貴女も……
……残念です、アインス。私は皆さんが……好きでした――其れでも私はやらなければなりません。
私は魂を喰らう者、ホロウ。『鬼』を討つ事が、最優先指令!……魂喰機関、起動します!



――キィィィン



アインス、皆さん……








――――――







Side:オビト


おい!オイ、起きぬか!
ええい、不甲斐ないぞ、我が同胞よ!この常闇から、私を連れ出してくれるのではなかったか!思い出せ、お前が何者なのか。
お前の大切な友達の事を。



「…………」



ダメか……?声が遠くて届かぬのか……一体如何すれば……
ホロウ、やめるのだ……卿が殺めようとしてるのは……卿の……私の……大切な友達だ!



「…………如何したのですか、ホロウ。早く、魂を奪いなさい。
 此れは貴女の使命……千年の時を越えて、成さねばならない事……なのに……何故……何故……こんなに……涙が……溢れ
 るのですか?
 ……私にも、涙が流せるとは知りませんでした。
 アインス……私は行きます。イズチカナタを退けに――倒せはしなくても、時空の彼方に追い返す事は出来るでしょう。
 そうすれば、解けかけた因果も戻ります。
 次の時代でも、そのまた次の時代でも、イズチカナタと戦って退けます――永遠に戦い続けます。私の身体が千々に裂けるまで。
 誰も私を覚えていなくても。だから……その魂を大切に、生きて下さい。
 貴方には色々なお願いをしてきました。これが最後のお願いです、アインス……如何か、覚えていてください。
 私が、此処で生きた事を。貴女の側にいた事を――私はホロウ。『鬼』を討つ、モノノフです。
 そして……貴女の『友達』です。」



そうだ!アインスは、卿の友達だ――って、何だこれはぁ!?



――キィィン……バシュン!!



「これは……一体……?」



これは一体?此れは……あの常闇から出られたぞ!――しかし、一体何故……?
そうか、分霊か!でかしたぞ、ホロウ!



「この声は……オビト……?」

「後は私に任せろホロウ!こやつの魂、私が取り返してくるぞ!」








――――――








Side:アインス


「おい。おい、聞こえるかアインス……私の声が聞こえるなら、思い出せ!」



何だこの声は?……聞こえているが、何を思い出すと言うんだ?
私は此処に居る……主が居て、将が居て、守護騎士の皆が居て、私を救ってくれた小さき勇者達が居る……私は、其れだけで満
足なのだがな……



「思い出せ、卿の仲間の事を!私が卿に見せてやる!――大切な、記憶の一つ一つを!」

「仲間……?」

何を言っている?私の仲間は此処に……


『新入りと言うのは、お前だな。長旅、ご苦労だった。
 俺は大和。この里の『モノノフ』を指揮している。』



え?……誰だこれは?……否、私は彼を知っている?――彼は大和、ウタカタの里のお頭?



『ようこそ、ウタカタの里へ。』

『ちょっと君、私の方が先輩だからね!』

『宜しくな、相棒。』

『ちったぁ、やるじゃねぇか!』

『申し遅れました。私、学者の端くれをしております。』

『自分は自分の任を果たす。貴殿も己の任を果たせ。』

『私も此処で働いているんです。立場は違いますが、一緒に頑張りましょう。』

『初めまして、梓さん。私、木綿と言います。』

『何か分からない事があれば、何なりとご相談ください。』

『おめえの装備は、ワシが鍛えてやる。必要なモンがあったら、遠慮なく来い。』

『ミタマの事なら、私が専門……何か聞きたい……?』

『……お初にお目にかかる。私はシラヌイの里の暦。』

『ハハハ!噂はさておき、腕の立つ者は歓迎だ。』

『……霊山軍師の九葉だ。今回の作戦指揮を務めている。』

『貴女、良い腕をしているわね。私の里に来ないかしら?』

『私は、千だ。宜しく頼もう、梓。』

『緑豊かな里ですね。此処は何処なのでしょうか?序に、私は誰ですか?』




……其れを私に聞くか?――って、アレ?



「如何だ、思い出したか?此れが、卿の勝ち取って来た記憶だ――思い出したなら、戻って来い。」

「……あぁ、そうだな。いつまでもこんな所にいる訳にはいかんからな。」

まったく間抜けな話だ……嘗て、雷光の勇者を閉じ込めたのと同じ事を、自分がされるとはな――だが、オビトのおかげで目が覚め
たよ。
私が生きるべき世界は此処だ……あの世界じゃない。――だが、夢の中とは言え、また会えて嬉しかったですよ我が主。
私は行きます、今の私が生きるべき世界に!!



『せやな……しっかりな、リインフォース。』

「はい、我が主!!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



……戻って来たか。思考にノイズが混じった時と変わらず立ったまま――里の皆にも言える事だが、立ったまま自我を失うって言う
のは、可成り器用な事じゃないかなと思うぞ。



「アインス……?
 アインス。……私が誰か、知っていますか?」

「知っているに決まってるだろう?」

「分かるのですか?」



あぁ、バッチリとな。
お前の名はホロウ。『鬼』と戦う使命を持った『モノノフ』であり銃の名手、今のウタカタ一の腹ペコの食いしん坊で美味しい物に目が
無く、少し常識に欠けた、私の大事な友達だろう?



「覚えているのですか……?一体……どうやって……
 貴女とオビトを結ぶ力が……イズチカナタの力を上回った……?二人の力が合わさって、初めてそれが可能に……
 ……だとすれば……私の戦いは……この時の為に……?」

「かもな……何にせよ、お前が千年戦って来たのは、間違いではなかったと言う事だ。」

死んでいった仲間達も、消えていった数多の歴史も……全ては私とオビトを出会わせるためだったのだろうさ――お前の戦いは、
無意味なんかじゃなかったんだよホロウ。



「私の戦いは……無意味じゃなかった!!
 ならば行きましょうアインス。仲間達の魂を取り戻しに。」

「無論だ!……と言いたい所だが、具体的には如何すれば良いんだ?」

「今、皆さんの魂は、此方と彼方の狭間に消失しつつあります。
 ですが、貴女とオビトの力を合わせれば、其れを再び、この世界に結び直せる筈です。
 イズチカナタの『因果崩壊』を、無効化出来る筈です――此方と彼方の狭間に出向き、其処に現れた『鬼』を討つ……そうすれば
 皆さんの魂を奪還できます。」

「成程……至極分かり易い!!」

ならば行こうホロウ、ウタカタの皆の魂を取り戻しに!

私の魂を奪いかけた事に関しては褒めてやるが……私が今世のムスヒの君だった事が誤算だったな?
ホロウからオビトが分霊されたおかげで戻って来る事が出来た――私の魂を奪おうとした事に対する礼をたっぷりとさせて貰う!
そして返して貰うぞ、里の皆の魂をな!!



「クワッハッハッハ!!ハッハッハッハッハッハッハッハ!!」

「……時にホロウ、あの九葉の高笑いは止められないのか?」

「九葉の魂を奪還しない限りは、止めるのは不可能だと認めます。」



なら、尚の事急がないとな。
高笑いする九葉に、今日こそ人参を食べると意気込んでる大和、橘花を探す桜花、己の立場に嘆く橘花、必死の秋水に、臨戦態勢
な凛音、大和の人参嫌いを何とかしようとしてる木綿と、本部は可成りカオスだからね。

待っていろ皆……必ず、魂を取り戻してやるからな!!










 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場