Side:アインス


皆が皆、『蝕鬼』の大本を探しに出てしまい、里に残るのは私のみ……いや、相馬が百鬼隊の隊員を残してくれたから、厳密に言え
ば一人では無いのだが、ぶっちゃけて言うなら暇だ。
途轍もなく暇だ――それこそ、気晴らしにSLBをぶっ放して辺りを更地にしてしまいたくなるほどに暇だ……だから、何か任務はない
か九葉?



「任務とは暇潰しに行う物ではないと思うが……丁度いい所に来たなアインス。
 先ほど報告があった……お前の天狐が見つかったとな。」

「なはとが!?其れは本当か九葉!!」

「『百鬼隊』の隊士が、侵域で目撃したそうだ――生憎他の者は出払っているが、その程度ならお前一人で足りるだろう?……行っ
 て、連れて帰って来るがいい。」



あぁ、言われずともその心算だよ。
マッタク、少しばかり頑張り過ぎだなはと……まぁ、私の為に素材集めに出てくれてるのだから、あまり強く言う事は出来ないがな。



「……私の読みでは五分五分……生きるか死ぬかは、お前次第だ。」

「ふ、誰に物を言っている九葉?私が何者かを忘れたか――私は数多の世界を喰らって来た破壊者だ……早々簡単に死にはしな
 いさ……寧ろ『鬼』を喰らう存在だからな。」

「そうだったな。
 ……ならば行け、モノノフよ――お前の未来は、お前自身の手で切り開け。」



言われるまでもなくその心算さ――未来とは運命ではなく、己の手で切り開くものだからな。
だが、其れよりもまずはなはとの確保だな?……マッタク、あまり飼い主に心配をさせるもんじゃないぞなはとよ……












討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務76
『楔からの救出~イミハヤヒ~』











と言う訳でやって来たのは『武』の侵域……領域とは違って瘴気が濃いだけじゃなく、景色も『武』の領域とは可成りかけ離れている
からな……と言うか、此の場所って九葉の言っていた蝕鬼の『核』とも言える物が有る場所に酷似してないか?
黒い雲に轟く雷鳴……条件はバッチリあってるが――

だが、ぞれよりも先ずはなはとだ!!

スタート地点に居ないと言う事は鳥居の向こうに居ると言う事になるから、大型の『鬼』に襲われていたら大変だからな――まぁ、幸
い鳥居を潜ってすぐに見つかったがな。
まぁ、其れだけならばめでたしめでたしだが……



「……おんしは……」

「まさか、こんな所で会うとは予想していなかったよ、千。」

なはとがじゃれていたのは、あの結界石の洞窟で出会った謎の少女――千。……お前、如何して此処に居る?
其れと、その天狐は私のだ……保護してくれたのならば感謝するが、ずっと行方不明だったのでね……返してもらえるか?――尤
も、返してくれはしないのだろうがな。
――こう言っては何だが、今のお前からは『鬼』に負けるとも劣らない『邪悪』な気を感じるからね。



「そうか……今世のムスヒの君は、おんしだったか――皮肉なものだ……折角友達が出来たと思ったのに。
 ……だが、もう後には引けぬ。」

「……何を企んでいる、千?」

「此の子箱には、『蝕鬼』の核が封じられている……此れを天狐に与えたら、どうなると思う?」

「!!!」

天狐を、なはとを『蝕鬼』の依り代にしようと言うのか!?そんな事はさせんぞ!!



「おっと……動かぬ事だ。
 動けば、此れを天狐に与える前に、天狐を殺してしまうぞ?」

「貴様……!!」

「ふふふ……」

『?』――ゴクリ……クタン……



『蝕鬼』の核をなはとに喰わせたか……呑み込んだ瞬間になはとはぐったりし、そしてそのなはとを放り投げたなお前!?
クソ……何時もならば、千に一発かましてなはとに駆け寄る所だが、私のモノノフとしての勘が告げている――今のなはとに近付く
べきではないと……



――ギュン!!



そしてその勘は大当たりだったみたいだな。
目を見開いたなはとの目は真っ赤に輝き、その身体を瘴気が包み込み、ドンドン身体が大きくなっていく……其れこそ、ヨミトサエよ
りも大きいぞ此れは!



「あっははははははは!あっはははははははははは!!!
 さぁ、全てを喰らい尽くせ、イミハヤヒ!!」

『ワオーーーーーーーーン!!!』



瘴気が晴れて現れたのは、大凡天狐とは似ても似つかない化け物。
2本の巨大な角に、鋭い爪を持った四肢、棘のような体毛を纏った2本の尾を持つ巨大な『鬼』……イミハヤヒ――!!
此れまでの『北』の『鬼』とはまるで違う……神聖な生き物とされる天狐を依り代にしているからかもしれないが、何れにしても簡単
な相手ではないだろうな。
すまない、なはと……!!



「ふふ、そう悲しそうな顔をするな……おんし次第では、まだ天狐を救う事が出来るぞ?
 天狐は神代の生き物。『蝕鬼』に完全に侵食される事はない――イミハヤヒを倒せば元に戻せる……さぁ、如何する?」



コイツ……良い性格をしてるな本当に!
倒せばなはとは元に戻るとは言え、いくら『鬼』と化したとは言え、なはとに攻撃すると言うのは流石に躊躇するぞ!?



『ガァァァァァァァァオォォォ!!』

「く……目を覚ませなはと!!」

『オォォォォォォォン!!!』



くそ、言葉は通じないか……戦うしかないのか矢張り。
言葉が通じない以上は、やるしかないか……やらなければやられるからな……許せなはと、少しだけ痛いのを我慢してくれよ!!



――ジャキン!!



行くぞなはと!!覇ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!


――ガキィィィン!!!


く……堅いな?
天狐の頃はふわふわだった毛が、今ではまるでレアメタルのミスリルのように堅い……部位破壊をして、深層生命力を剥き出しに
しない限りは、決定打を与える事は出来なさそうだな此れは。
だが、部位破壊をしてしまったら元に戻った時にどうなるんだ?あくまで破壊されたのは『鬼』の部位だから天狐は無事なのか?
分からん!!
分からないので取り敢えず……剣圧を飛ばす!続いて飛び蹴りをブチかましてから、六爪流三連斬!!
当然反撃をしてくるので、その反撃には鼻っ柱に天属性の『独眼竜』で発生させた雷をかます事で怯ませ、再び同様の連続技で表
層生命力を削っていく……相手に反撃を許さない、いわばハメ技と言う奴だな。
魔法の大技で表層生命力を吹き飛ばす事も出来るんだが、其れはなはとにどんな影響があるか分からないからな……此処はコツ
コツと地道にな!!



「と言いつつも、結構容赦ない攻撃よなおんし?」

「不良と化した我が子を真っ当な道に戻してやるのは親の役目!此れはその為の愛の鞭だ!!」

「面白いなおんしは。
 ……おんしと友達になりたかったのは本当だ……だが最早どうする事も出来ぬ――私には、もう時間が無いのだ。」



時間が無いだと?其れは一体――



「何やらお取込み中の様ですね?私の支援が必要ですか、アインス?」

「なに?」



この声は、ホロウか!?お前、何故ここに居る!?
九葉の命を受けて『蝕鬼』の核を探しに行ったはずだろう!?



「此れは何事ですか?」

「おんしは……おんしは……ホロウ……?馬鹿な、本当に来ただと?……ホロウ!!」



ん?何だ、知り合いだったのかお前達は?
何となく、千からは『信じられない』と言った雰囲気を感じるが……正直、この局面での援軍は有り難いぞホロウ。



「貴女は私を知っているのですか?
 残念ですが、現在記憶喪失中につき、貴女の事を思い出せません。
 ついては、貴女方を敵と判断し……排除します。」

「排除するか……なら、派手に行こうかホロウ!!」

「お待たせしましたアインス。九葉の指示を受け、救援に来ました。」

「ククク……アッハハハハハハ!!
 あぁ、何と言う事だ!何と懐かしい……まさかおんしが来るとは、こんなに嬉しい事は無い。
 しかし記憶喪失とはな……イミハヤヒと戦えば、何か思い出すか?」



千?
コイツ、本当にホロウと知り合いなのか?……如何にも演技には見えんが……



「覚えているかホロウ!私達が千年前に戦った『鬼』だ!」

「先程から、一体何の話ですか?」



しかし、ホロウは本当に覚えていないようだな?……其れに千年前だと?……千とホロウが知り合いだとして、一体如何言う事な
のだろうか……?



「一人でべらべら喋ってると、足を掬われるぜ嬢ちゃん!!」

「またしても!?」

「『鬼』を討ち果たさん。」

「馬鹿な……おんし達は、分散させたはず……!!
 九葉は何をしている!?……まさか、あやつ裏切ったか!?」



っと、此処で更なる援軍か……中々良いタイミングで出てきてくれるじゃないか、富嶽、速鳥!!
そして、秋水が言っていた私を殺そうとしている陰陽方とはお前か千――そして、陰陽方の間者は九葉……いや、違うな。
九葉はお前に利用されたふりをしながら、お前を利用していたのだろうな……如何やら血塗られた鬼は、半鬼よりも上だった様だ。

さて、形勢逆転だが、如何する?



「く……此処で捕まっては全てが水の泡……ホロウ、後で必ず会いに行くぞ!!」



……逃げたか。
まぁ、遠くへ逃げる事など出来ないだろうがな。



「オイオイ、あの嬢ちゃん逃げちまったぜ?……良いのか?」

「構わんさ、今は其れよりも目の前の『鬼』だからな。」

「ったくよぉ、一体如何言うこった此れは?
 九葉のオッサンに言われたまま来てみりゃこの様だ。」

「アインス、この『鬼』は一体何ですか?」



この『鬼』はイミハヤヒ――天狐に『蝕鬼』の核を植え付ける事で誕生した、最悪の『鬼』だよ。そして、元は私のなはとだ。



「なはとが?此れがなはとなのですか?……其れは大変です。倒せば元に戻るのですか?」

「ならば必ず助ける、自分の命に代えて。自分が救わずとして、誰が天狐を救うのか!
 しかし、この『鬼』は元が天狐であったか……『鬼』と化しても、相変わらずモフモフしているな。」



――ズッデーン!!ガッシャーン!!!オベリスクゴッドハンドクラッシャー!!



は、速鳥……この状況でそんな事を言うとは、お前はレヴィ並みのアホの子か!?其れとも大物かお前!?
初めて会った時の、仕事人な速鳥は何処にだな本当に……まぁ、冷徹な仕事人よりも、此方の方が親しみやすいのは否定しない
がな。

しかし、此れだけの戦力が集まったなら負けは無い……だから、久しぶりに本気を出す!なはとを救うために!!!

「覇ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



――バリィ!!



「銀髪赤目……久しぶりに見たなオイ?
 だが、其れだけじゃなくその顔の紋様と、腕と足の帯は何だ?」



む?……此れは暴走時のバグの証である紋様とベルトが表れている?
此れが表れていると言う事は、私の力は制御しなければ危険な域に達していると言う事か?……如何やら、『鬼』との戦いを繰り返
す中で、私は力を取り戻して行ったらしい。

ならば、今の私に敵は無い!!
ホロウ、富嶽、速鳥、10秒間で良いから時間を稼いでくれ!10秒間だけ稼いでくれれば、イミハヤヒを倒せる。なはとを救う事が出
来るからね!



「10秒だぁ?余裕だぜこの野郎!!」

「ならばその10秒、稼ぎきって見せよう!」

「10秒後の弩派手な一発を期待しますアインス。」



あぁ、期待してくれ。
咎人達に滅びの光を。星よ集え、全てを貫く光となれ!全てを追い尽くす闇となれ!貫け極光!覆い尽くせ闇黒!!



――キュゴォォォォォォォ……



「オラオラオラ!!ピッタリ10秒だぜアインス!!」

「あぁ、よくやってくれた!!
 深き闇に沈め……100倍デアボリック・スターライトブレイカー!!!



――バガァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!



『ギヤァァァァァァァァァァァァァァ!!!!』




……私の最強技であるデアボリックエミッションと、あの小さき勇者の最強技であるスターライトブレイカーを合体させたら間違いなく
最強の技になると思って使ってみたが、まさかイミハヤヒ程の『鬼』がタマハミ状態になる間もなくKOとはな……
うん、強力だけど、強過ぎるからこの技は使用禁止だな。……下手したら次元震を起こしかねないしね。

だが、イミハヤヒを倒したと言う事は……



『キュキュ、キュイ~~~!!』

「なはと――元に戻ったか……」

『キュ!キュイ~~~~~♪』

「そうですか、身体に異常は無いのですね?其れは何よりです。
 あとは……先程の謎の人物ですね?急いで追いましょう、アインス。」



ホロウ、お前は本当に天狐の言葉が分かるんだな……まぁ、『蝕鬼』の影響がないなら問題ないが……確かに千を捨て置く事は出
来んからな……追撃する!!

お前の目的が何かは知らんが……此れだけは言っておく。
貴様の敗因は只一つ、シンプルな答えだ……ウタカタの守護神たる私に手を出した、其れだけだ――さぁ、覚悟するんだな!!








――――――








Side:虚海


ハァ…ハァ…ハァ……よもやあんな事になろうとは――まだ、此処は無事か……?



「……遅かったな、虚海。」

「!!九葉……!」

「そんなに急いで何処へ行く心算だ?少しゆっくりしていていけ。」



おんし……如何言う心算だ?私を裏切る気か!



「裏切る?
 ハッハッハッハ……クワッハッハッハッハッハ!
 阿呆、騙されていた事に気付かぬか?私は元よりお前の敵だ。」

「なに……!?」

「お前が『食鬼』を生み出しているのは初めから分かっていた――だが、その方法が分からなかった。
 だが其れも今回の事で分かった……あんな風に『蝕鬼』を生んでいたか……」



貴様……娘がどうなるか分かっているのか?



「クックックック……アレは私の娘ではない、私の部下だ。」

「なんだと……?」

「最後に残った私の切り札……死を覚悟で、お前達を罠に嵌めた。
 ――アレを失うのは私にとっても痛手だが、お陰で大物が掛かった……『蝕鬼』を使う陰陽方の長老、虚海がな!」



貴様……仲間を見捨てる心算か!



「私を誰だと思っている?北の地を見捨てた『鬼』だぞ!
 私が行くのは血塗られた外道の道だ……最早、人の道を行く事は叶わぬ――更なる血を流してでも、流した血に報いて見せる!
 其れが唯一、北の地の犠牲を無駄にしない方法だ!死んでいった者達に応える道だ!」

「戯言を……」

「……お前が警戒を解いてくれて助かったぞ。
 お陰で簡単に抑える事が出来た……こんな場所に隠しておくのは感心せんな……成程、これが『蝕鬼』の核か……」

「貴様……!!」

「『蝕鬼』の核は、全て押さえた。」

「まぁ、そう言う事だ……大人しく投降してくれ千……私とて、友の首を落としたくは無いからな……」



おんしはアインス!!……何時の間に!!
いや、アインスだけでなく、何時の間にかウタカタのモノノフ達が!?……ククク、何たる笑い話か……九葉を操る心算でいたが、そ
の実、操られていたのは私だったと言う事か……

だが、まだ私には最後の切り札がある……おんし達の思い通りにはならんぞ――!!











 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場