Side:アインス


無事にホロウを助け出す事が出来て良かったよ……ともあれ、連戦に次ぐ連戦で、流石の私も少し疲れたから、今日はもう帰らせ
て貰う事にする。



「君が疲れるとは、意外だなアインス?」

「私はチート無限のバグキャラかも知れないが、其れでも疲れる時には疲れるんだよ桜花。――だから、今日はもう帰って寝る。」

「其処まで言い切られると変えて清々しいがな。」



下手に遠回しに言う事でもないしね。


と言う訳で自宅に戻って来たのだが……なはとが居ない?散歩にでも行ったのかな?――りひとは居るみたいだが……
まぁ、明日には戻って居るだろう――今日はもう寝よう……












討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務73
『新たな任務と元凶と謀略と』











そして夢の世界だが……またか。いい加減慣れたがな。



『おやおや……また僕の虜になってしまう者が一人……君かい?僕を『鬼』から助けてくれたのは?――ありがとう、心からお礼を
 言うよ。』




いや、礼には及ばん――此れもモノノフの務めだからな。
其れよりもお前は一体誰なんだ?



『僕は在原業平――敢えて言うなら愛の狩人かな。』

「……また、訳の分からんのが来たな。」



うん、その意見にはもろ手を挙げて賛成だオビト。
自分で自分の事を『愛の狩人』と称する奴が普通である筈がないからな――良くて自己陶酔者、悪くて自己愛過剰者、最悪で救
済不能のナルシストだからね。



『おや、君は噂のお子様だね?話は皆から聞いているよ。』

「……反応するのも面倒になって来た。もう、お子様でもなんでもよいわ――其れよりアインス、其方の世界で何かなかったか?
 私の居る常闇に、一筋の光が差し込んで来たのだ。
 お陰で今は少しだけ明るい。どういう訳か分からんが、何やら嬉しいぞ。」

『……其れは、君のご主人様の心が晴れたからじゃないか?』



オビトの主の心が?……どういう事だ?



『心が晴れると、光が差すモノさ。――君もミタマなのだろう?だったらご主人様が居るんじゃないのか?』

「私の主人?……私がミタマならば確かにそうかも知れんが、私がミタマであるのかは、未だ分からんぞ?」

『そうなのかい?まぁ、何でも良いさ。
 僕の魅力の前では、全てが平等だ――人だろうとミタマだろうと、等しく愛そう。』




……はい、ナルシスト確定。
見た目は悪くないが、こう言う事をずけずけと言われると、思った以上に気持ちの悪いモノだ……



『人は見た目じゃない、心だよ、アインス。
 ついに行く 道とはかねて聞きしかど 昨日今日とは 思わざりしを……此れが辞世の句だったけど、また歌を詠ませてもらおう
 かな――宜しく頼むよ、アインス。』


「行ってしまった………私を宿すモノノフか……もしそんなモノノフが居るとしたら、どんな人物なのだろうな?
 ――さておき、如何だアインス?常闇の『鬼』らしき奴は、現れたか?あの『鬼』の恐るべき能力が、モヤがかかったように思い出
 せぬ……クソ、一体何だったか。
 とにかく気をつけよ、アインス。あの『鬼』は、如何にお前でも、一人で勝てる相手ではない――仲間を信じ、共に戦うのだ!」



新たなミタマを手に入れた。
常闇の『鬼』についてはまだ分からんが、お前が其処まで言うのならば相当な『鬼』なのだろう――そいつと戦う時には、ちゃんと
仲間を頼らさせて貰うさ。

――さて、そろそろ夢が覚めるな……



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で、翌朝……なはとはまだ戻っていない……散歩に出て、何かあったのか?



――トントントン!



「おはようございますアインスさん!」

「木綿か。如何した?」

「朝早くからごめんなさい。本部からの招集のお願いです――九葉さんから、何かお話があるみたいで、全員本部に参集するよう
 にとの事です!
 一体なんでしょう?またお仕事の話でしょうか?」



かもな。
と言うか九葉の招集となれば、『鬼』の討伐に関する事以外は無いだろうからね……なはとが戻ってきていない事が気になるが、
今はモノノフの本分を果たすのが先決だな。

「という訳で、今回は何も壊さずに普通に本部に来てみたぞ?」

「うむ、何も壊してはいないが正面口やお前の家の裏口からではなく、任務の出撃及び帰還扉から来るとは思わなかったぞ?」

「意表を突いてみたと言う奴だ。」

さてと、私以外のメンバーは既に集まっているみたいだな?
如何してこうも集合が早いんだろうな?……若しかして、木綿が私に一番最後に伝えてるのか――私がウタカタに赴任したばかり
の頃のクセが抜けていないのだろうな。
あの頃は一番の下っ端だったから、情報が回って来るのも一番最後だったからね……



「ふむ、これで全員集まったな。」

「……暫く見かけないと思ったら、行き成り何の用かしら?此方も掃討作戦で忙しいのだけれど。」

「……漸く結論が出たのでな。
 北の『鬼』の掃討も時間の問題――そろそろ作戦を次の段階に移行させる。」



ふむ、作戦を次の段階にか。
確かに北の残党狩りは順調に進んでいるし、シラヌイの部隊が合流してくれてから、『鬼』との戦いは此方に流れがあるからね?
この流れに乗って、一気に攻勢をかけるのも悪くはないかもだが……さて、どんな作戦なんだ九葉?暫く見なかったのは、次の作
戦を考えていたからなのだろう?



「此処に居る全てのモノノフに通達する!
 此れより、北の『鬼』の元凶を探す!」

「「「「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」」」」



北の『鬼』の元凶、だと……?……一体如何言う事だ、九葉?



「オオマガドキから八年……今になって北から『鬼』が現れたのには、それなりの理由があると思わぬか?」



む……言われてみれば確かにそうだな?
少なくとも、トコヨノオウを退けてオオマガドキを防いだ際に現れた『鬼』は、秋水に聞いた限りでは八年前に現れた『鬼』と同種だ
ったが、ここに来て新たな『鬼』と言うのは確かに何か理由がありそうだ。

そしてその『鬼』は『蝕鬼』……他の何かに取り付いて、宿主を『鬼』へと変える存在……まさか、『蝕鬼』の元となった『何か』が北
の地に存在している?



「ほう、流石に鋭いなアインス――伊達に1000年と言う時を生きてはいないと言う事か。
 お前の言う通りだ。物質か、現象か、『鬼』か……連鎖的に『鬼』が増殖する原因になった『何か』……北の『鬼』の出現以来、霊
 山は、ずっとその原因を探って来た。
 そして漸く、その調査の結果を知らせて来た――北の方角に、全ての元凶となった『何か』がある。
 最高の神垣ノ巫女たる、霊山君が千里眼で導いた答えだ、信じるに値する。」

「神垣ノ巫女の力……」

「……以前、橘花殿が使った力か。」

「……全ての巫女を束ねる御方の力です、私とは比べ物になりません。」



橘花と比べ物に成らないとは、一体どれだけの力を持ってるのか霊山君とやらは。
だが、其れ程の力を持つ神垣ノ巫女の千里眼が得た情報なら、確かに信憑性は高いな?……その元凶とやらは何処にいる?



「……その『何か』の正体、居場所――皆目見当がつかんが……一つだけ手掛かりがある。
 霊山君が、千里眼で見た、雷鳴の轟く荒野の風景だ。此処にその風景の写し絵がある――この風景を、探し出せ。
 其処に『何か』がある。」

「「「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」」」

「如何した?怖気付いたかモノノフ達よ?
 この元凶、取り除かねば、必ず災いを成すぞ。」



いや、怖気付いた訳では無いが、『蝕鬼』の元である『何か』を、此の写し絵だけを頼りに探し出せと言うのは可成りの無茶振りだ
と思っただけだ……お前の無茶振りは今に始まった事ではないがな。



「……ったく、またドサ回りの始まりか。」

「……如何にもやるしかなさそうだ。また『鬼』の群れと戦うのは御免だからな。」

「……参番隊に異存はない。元から北の脅威を取り除くために来た身だ。」

「ふむ……如何するアインス?」



少々胡散臭い感じはするが、やるぞ桜花。
『蝕鬼』の元となる『何か』を見つける事が出来れば、其れだけでも可成りの収穫になるし、その『何か』を全て取り除く事が出来れ
ば、少なくとも北からの『鬼』の侵攻を止める事が出来るかも知れないからな。



「……其れで良い、アインス。」

「…………作戦に参加しよう、九葉――凛音、お前達は如何する?」

「………………仕方ない。此処まで来た以上、協力するわ。」

「……話は決まったな?
 全ての領域で、広域に探索を掛ける!北の『鬼』の掃討をしつつ、雷鳴の風景を探し出せ!
 行け、モノノフ達よ!北の『鬼』の元凶を見つけ出せ!」



ふ、了解だ。
っと、其れとは別に少し気になる事があるんだが良いか?……私が飼っているなはと――天狐が昨日から帰ってきていないのだ
が、何か知らないか?



「……天狐が居ない……?
 …………残念だが知らぬな――だが、見かけたら報告する様に言っておこう。お前は安心して任務に励め。……良いな。」



あぁ、分かっている。
分かっているがどうにも気になる……此処は秋水にでも相談してみるか。――アイツは怪しいが、モノノフでは対処出来ない事態
が起きた時には頼りになるからな。

「秋水、少し良いか?」

「こんにちは、アインスさん。どうかされましたか?」



いや、実はなはと……私の天狐が行方不明になってな。
天狐は神聖な生き物だから、異界の瘴気で如何にかなる事は無いが、今までは出掛けても朝には帰って来てたんだ――其れが
朝になっても戻らないと言うのは流石に気になってね。



「天狐が行方不明……ですか?
 ……其れは、些か気になりますね――少し調べてみましょう、続報をお待ちください。僕も偶には役に立たないと、立つ瀬があり
 ませんからね。
 其れと、序と言っては何ですが……貴女に話しておきたい事があります。」

「私に話しておきたい事だと?」

「……此れから重要な話をします。心して聞いてください。」



む、秋水の表情が何時もの飄々としたモノから引き締まったモノに変わったな?――秋水がこの顔をするときは、本気で重要な話
がある時だ。
一体何があった?



「特殊な香を炊いて、此の書庫の安全を確保してあります。
 この中でならいくら話しても構いませんが、外では一切他言無用でお願いします。
 ――貴女の命の為です。約束して頂けますね?」

「認識阻害魔法のような物か……了解した、此処で聞いた事は口外にしないと誓おう。私の命が掛かっているなら尚更だ。」

「……気をつけて下さい、アインスさん。貴女は狙われています。
 『陰陽方』の長老、虚海に。」



私が、『陰陽方』の長老に命を狙われている、だと?



「虚海さんは、『陰陽方』の長老の一人。『鬼』の研究を束ねる頭です。
 その虚海さんの一派が三月前、突如『陰陽方』から姿を消しました――重大な研究成果を手にしたまま……」

「其れは、何とも穏やかじゃないな?」

「えぇ、マッタクです。
 彼等は恐らく『蝕鬼』を生み出す外法を、発見したものと思われます。」



『蝕鬼』を生み出す方法だと!?
だが、其れを発見した者達が姿を消したと言う事は……虚海とやらが、『蝕鬼』を生み出す為に消したのか?――俄かには信じら
れんが、無いとも言い切れんか……



「その可能性は高いでしょう。
 正直言って、虚海さんの目的が何なのか、其れは僕にも分かりません。――ですが、『蝕鬼』を使って居るのは明らか。
 北の『鬼』の侵攻に、何らかの形で関与しています。
 であれば、最大の障害はこのウタカタ――そしてその要たる貴女です。
 間違いなく虚海さんは、貴女を排除しようと動きます。
 何よりも警戒しなければならないのは、虚海さんの持つ異能の力です――虚海さんは、獣と語らい、使役する異能の力の保有者
 です。
 恐らく虚海さんは、獣を使って、この里を監視しています――鳥や鼠……里に容易に入れる小動物を使い、人の動きを調べてい
 る……尤も、その能力にも限界はあります。
 全てを把握する事は困難な筈ですが……」

「ある程度は知られていると言う事か……」

「えぇ、その通りです。
 ……このウタカタに居ると言う『陰陽方』の間者――其れを使って、何かを仕掛けて来る筈です。
 ……残念ですが、僕には対抗手段がありません――只、覚えておいて頂きたいのです。僕は、貴女の敵ではないと。
 敵の動きを阻止するため、あらゆる手を尽くしましょう。
 だからお願いです、アインスさん……必ず生き延びて下さい。」



必ず生き延びろか……言われるまでもないな。
其れに、その虚海とやらがどんな策を弄してるかは知らんが、生半可な策など、私には通じん――寧ろその策ごと敵を食い破って
やるさ。
大体にして、私を誰だと思ってるんだ?――1000年の時を生き、その中で100以上の世界を滅ぼして来た破壊神だぞ?
その破壊神が、今更『陰陽方』の策に潰される筈がないだろう。寧ろ返り討ちにしてやるさ。



「確かにそうですね。
 ……話は以上です。お手間をおかけしました。――では、アインスさん、またいつでもいらしてください。」



あぁ、お前の『知』が必要になったら遠慮なく頼らせて貰うよ秋水。
しかしまぁ、『陰陽方』の長老の一人である虚海とやらが私の命を狙ってると来たか……フフフ、上等じゃないか。
私の首を取れるなら取ってみるが良い――そして、後悔しろ、己が誰の命を狙っていたのかをな!!

来たければ来るが良い――纏めて返り討ちにしてやる!!
『祝福の風』が導いた『ウタカタの守護破壊神』の力、精々その身で味わうが良い――貴様等の愚行を、骨の髄まで教え込んでや
るからな!!












 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場



と言う訳で出撃前には禊だ。任務達成後も禊だ。
禊はモノノフの基本だから疎かには出来ないんだが……成程、今日はこう来たか。



「来たか、待っていたぞアインス。」

「ゆっくりして行きましょ?」

「待っていたぞ、先輩。」



誰かと時間が被る事は有ったが、複数人と言うのは初めてだ……しかも面子が桜花と、初穂と暦か……まぁ、この面子なら其れ程
気を使わなくて済むがな。


……初穂の視線が、私と桜花に向けられていたが、其れは気にしたら負けなのだろうね。
何にしても、禊でパワーは貰ったので、任務をサクサクと進めるとしようかな!!