Side:アインス


ホロウが私を探していると言う事だったが、そのホロウは何処に居るんだ?
瞬間移動を使えばすぐにでも会えるのだが、態々里の中で使うのも馬鹿らしいから、こうして探しているのだが……漸く見つけた
よ……本部前に居たとは、正に『灯台下暗し』だな。

何か用かホロウ?



「ぐっどもーにんぐ、アインス。」

「……うん、色々とインパクトのある挨拶だなホロウ。」

「西国渡来の朝の挨拶だそうです。那木に教えてもらいました。
 色々な言葉があるようですね?皆さんから絶賛吸収中です――それにしても……過日の戦いで実感しましたが、皆さん、揺ぎ
 ない信念の為に戦っているのですね……私に、其処までの物は無いと認めます。」



ホロウ?
いや、そうでもないんじゃないか?――少なくともお前はウタカタのモノノフとしてよくやってくれてると思うよ?腕は確かだしね。



「そう言って貰えると助かります――ですが私は一体、何の為に存在しているのでしょうか?
 『鬼』を討つのが最優先指令…しかし、一体何の為に?――自己の存在理由が揺らいでいるのを感じます……記憶が戻れば、
 或いはそれも分かるのでしょうか?」

「それは、何とも言えないな。」

だが、お前は今此処にいるだろうホロウ?
ならばお前の存在理由は此処に有る――ほかの誰が否定しても、私は其れを肯定する。だから、余り悩むなよホロウ。












討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務71
『失われた記憶を求めて』











「そうですね……考えても仕方のない事でした。
 では、アインス、一昨日来やがれです!」



って、色々待てホロウ!お前いったいどこからそんな言葉を仕入れて来たんだ!?
と言うか其れは、明らかに喧嘩を売っていると取られても仕方ない言葉だぞ!?そもそも、其れは今使う言葉じゃないだろう!!



「さようなら、と言う意味の言葉だそうです。良い響きです。」

「ある意味では間違いではないが、使い方が大間違いだ馬鹿者が!!」

まったく、一体誰が吹き込んだのやらだが……吹き込まれた情報を額面通りに受け取ってしまうホロウが問題だ……此れもまた
記憶喪失の弊害なのかも知れないな。
取り敢えず、新たな任務が出るまで里を散策するか。





――里を散策中だ、少し待っていてくれ。





そんな訳で里の散策は終了。
樒にミタマの力を解放して貰ったり、オヤッさんに武器を鍛えて貰ったりしたから、有意義な時間ではあったがね――取り敢えず
ただいまだな。

って、な~んか見えるぞ?



「こんにちは、アインス。少し時間を頂けますか?」

「ホロウ?……何か用か?」

「貴女に頼みがあって来ました。」

「頼み?」

なんだ一体?余程無茶な頼みでなければ聞くぞ?
自分で言うのも何だが、私ならば大概の事は出来てしまうからな?……流石に、世界中の美味しい物を食べさせろとか言うのは
無理だが。



「……私の記憶の回復に、助力をお願いできませんか――自己の存在理由が、揺らいでいるのを認めます。
 私は一体、何の為に戦うのか。其れが分からず、苦慮しています――此のまま時が過ぎるに任せれば、大切な何かを失ってし
 まう……其れは、とても不安で恐ろしい……
 アインス、私を助けてくれますか?」

「そう言う事ならば任せておけ。」

己の存在理由があやふやになっている、何の為に戦うのか分からないと言うのは苦悩するモノだ。
守護騎士の皆も、何の為に闇の書を完成させるのか、其れを忘れ、蒐集する事だけに捕らわれ苦悩していた事も有ったからね。
記憶のないお前を、放っておく事は出来んよ。



「流石は私の友です、アインス。任務ついでに、見覚えのある場所が無いか、異界を探訪しようと思っています。
 行きましょう、アインス。記憶の欠片を求めて。」

「あぁ、行こう。」

裏口を使えば本部まで一直線だが、此処は敢えて瞬間移動を使って……

「やぁ、木綿。今日は受付窓口から登場してみたぞ?」

「うわぁ!アインスさん!?び、ビックリさせないで下さい!!」



ははは、少しインパクトのある方法で登場しようと思ってね?
壁を蹴破るのはお約束だし、この前は床をぶち抜いて登場したから、今度は何を壊して登場するんだと思わせておいて、何も壊さ
ずに受付窓口に現れてみた。
……次はどんな登場の仕方をしようか?



「さ、賽銭箱の中からとか如何でしょう?」

「ふむ、良いな?其れで行こう。
 時に、新たな御役目は出ているか?マダマダ北の『鬼』の残党は居るだろう?」

「あ、はい。
 『武』の領域でのクエヤマ討伐、『戦』の領域でのタケイクサ討伐、『乱』の領域でのミズチメ討伐の任務が出ています。」



ふむ……其れじゃあ、『武』の領域から当たってみるか?ホロウも其れで良いか?



「はい、貴女に任せますアインス。」

「ではまず、『武』の領域からだな!」



――バシュン!



と言う訳で瞬間移動で『武』の領域に到着だ。
ふむ……此処は『侵域』にはなっていないようだな?僅かばかり瘴気が薄い気もするし……北の『鬼』の残党狩りが順調に進ん
でいる証なのかも知れないな。
さてと、其れではサクッとクエヤマを退治するとするか。



「情報によれば、此処には壇ノ浦の遺構が数多く出現しているとか。
 平氏と源氏が、存亡をかけて戦った戦地ですね――どことなく見覚えがあります。私は嘗てここで戦っていたような……?」

「戦っていたんだろうさ、モノノフとしてな。」

先ずはクエヤマを討つぞ!



――と言う訳でクエヤマ討伐だったんだが、マッタク持って相手にならなかったな。
前にウロカバネと戦った時と同様に、表層生命力を奪ってタマハミ状態にして、腹の大口にホロウがありったけの榴弾を放り込ん
で、其れをナイトメアで炸裂させたら、瞬殺だったからな。

だが、ホロウの記憶は戻らなかったか……朧げな記憶に触れる事は出来たみたいだがな。
まぁ、失われた記憶がそう簡単に戻れば誰も苦労はしないからね?……次は『戦』の領域に行ってみようか?




――『戦』の領域


此処も『侵域』ではなくなっていたか……ふむ、間違いなく此方からの攻勢は、『鬼』の勢いを削いでいるようだな。
討伐対象のタケイクサだが……コイツも、今となっては大した敵ではないな?
通常状態は4本腕の攻撃が厄介だが、攻撃其の物は大振りだから避けやすいし、夫々の腕は弱点属性の武器で攻撃してやれ
ば、簡単に破壊できるからな?

此れも、五大属性武器を全て装備している私だからかもしれないがね。

で、タマハミ後は気持ち悪いので、殴って蹴り飛ばして、空中で六爪流で切り刻んだ後に、ホロウが鬼千切りをかまして、トドメに
ナイトメアで一撃爆散だ。

「ふっ……汚ねぇ花火だ。」

「ふむ、其れはとてもいいセリフですねアインス。今度私も使ってみます。」



いや、あまり使わない方が良いと思うぞホロウ?あまり綺麗な言葉ではないからな。
それで、何か思い出せそうか?



「此処は、関ヶ原の遺構が出現している地だと資料で読みました。
 東軍と西軍がぶつかった、天下分け目の決戦の地……此の一面の彼岸花は見た事があります……一体、何処で?」

「今回も思い出せたのは朧げな記憶だけか……」

記憶喪失と言うのは程度の違いがあるとは言うが、ホロウの場合は可成り重い部類に入るのだろうね?……いっその事、頭に
強い刺激を加えてみるか?
若しかしたらショックで思い出すかもしれないが……否、止めておくか。
思い出す事が出来れば御の字だが、思い出すどころかさらに悪化する可能性もあるからな?……正直な話、ホロウがこれ以上
エキセントリックになったら手が付けられん。
其れじゃあ次は『乱』の領域に行ってみようか。




――『乱』の領域


討伐対象は、カタツムリの化け物であるミズチメ。
見た目はカタツムリの化け物なのに、塩を掛けても溶けないんだから面倒だ……エスカルゴにしても不味そうだから、食べる気も
起きないからな。

と言う訳で……

「とっておきだ!!」

『!!?』



肩に飛びついてからの……


――ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!



拳に火属性を宿しての連続顔面パンチ!
殴る殴れば殴る時、殴って殴って殴り倒す!誰が何と言おうと男はパンチ!私は女だけどな!!ドラドラドラドラ、もう一丁!!



――バッガァァァァァァァァァァァン!!!



「凄まじい爆発音、拳打で出る音ではないと認めます。」

「火属性を宿した拳で、トドメの一撃で炎を炸裂させたんだ……まぁ、威力が大きすぎてミズチメの頭が吹っ飛んでしまったが。」

如何に『鬼』と言えども、頭が吹き飛ばされては生きてる事は出来ない……まぁ、私の前に現れた事を呪うんだな。
私は、ウタカタを守護する夜天の破壊神――人に仇なす『鬼』には一切の容赦はしないからね。……で、何か思い出したか?



「此処は蝦夷共和国と新政府が激突した場所。
 私はこの風景を知っているような……?」

「まだ、記憶は戻らずか……」

だが、各領域の風景はホロウの見覚えのあるモノだった事を考えると、ホロウは間違い無くモノノフとして戦っていたのだろうが、
何だ、この強烈に感じる違和感は?

ホロウがモノノフである事は間違い無いが、何か根本的に間違っている気がしてならない……だが、一体何を間違っていると言
うのか……分からない。
取り敢えず、本部に戻るか。



――バシュン!



と言う訳で本部に帰還だ。
ホロウ、記憶は如何だ?あまり役に立てなかったかも知れないが……



「アインス……貴女のお陰で、色々な手掛かりを発見できました。
 異界に広がる、様々な時代の風景……そのいくつかを、私は見知っている様です――ですが……不整合な情報です。
 私の年齢は、恐らく二十歳前後。数百年にまたがる記憶が存在するのは妙です。
 一体如何言う事でしょうか?謎は深まるばかりです。」

「!!」

そうだ、其れがおかしかったんだ!
ホロウの記憶は、モノノフとして異界を見たと言うよりも、その時代の実際の風景を見たかの様だった……二十歳そこそこのホロ
ウに数百年にまたがる記憶があるのがおかしかったんだ!!



「…………結局……記憶は戻らないのかも知れません。
 手がかりが足りないのか、其れとも決定的な何かが欠落しているのか――そもそも、私に記憶など有ったのか……
 ……戦う理由を、私は取り戻したい……此れまでありがとう、アインス。
 一度、情報を整理したいと思います。異界探訪は、ひとまず終わりにしましょう――ではアインス、地獄で会おうぜ。」

「……だからそれは、使い方が間違っている。」

「最近は富嶽の言葉遣いを集中的に学んでいます。
 なかなか良い語録でしょう。積極的に使用を推奨します。」



いや、富嶽の言葉遣いは一番学んじゃ駄目なやつだ。
富嶽はウタカタの数少ない常識人かも知れないが、言葉遣いは粗野で粗暴で、荒々しい上に、スラング的なモノのあるから子供
には聞かせられないモノばかりだからな?下手をしたらセリフの多くを『ピー音』で消さねばならないかも知れないからね。

はぁ……取り敢えず今日はもう休むか。
流石の私も、大型『鬼』との三連戦は、幾ら余裕であるとは言え疲れたからな……それにしても、戦う理由か――其れは人夫々
なのだろうが、改めて問われると難しい物が有るかも知れないね……



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「戦う理由?急にどうしたのだ、そんな事を聞いて?」



で、眠ったら眠ったでオビトとの会話イベントだ。
いや、少し思う所があってね?――私の仲間が其れで悩んでいるんだ。それで、お前が如何考えているのか聞きたくてね。



「其れで悩んでいる者が居るのか?
 むむむ、改めて考えると難しいな?そうだな……私は『友達』を守りたいから、戦っていたような気がする。
 卿も既に私の友達だ。いざ戦とあらば、私が守ってやるぞ!――と言っても、身体が無いのでは無理か……
 一体如何やったら、この常闇から出られるのか……あぁ、もう、儘ならぬぞ!」

「いや、そう言われても知らないよ。」

如何にか出来るならしてやりたいが、私だってどうしようもないんだ。
だが、何時かお前を解放すると約束するから、其れまで待っていてくれ。



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さてと、翌朝。
今日も一日頑張ろう!――と言う訳で、今日は何時も通りに……たのもーーー!!『鬼』は居るかぁ!!叩きのめしてやるぞ!

って、何やら集まっているみたいだが何かあったのか?



「アインス!大変よ、ホロウが……!」

「初穂、ホロウが如何かしたのか?」

「つい先ほど物見隊が北の『鬼』を発見した――だが、何故かホロウが1人で交戦中のとの事だ。」

「なんだって!?」

「1人で異界に出ていたらしい……其処を『鬼』に襲われた。」



1人で異界にだと?……ホロウ、一体如何して?――まさか、失われた記憶に引っ掛かる物が有ったとでも言うのか?
だとしても如何して1人で行ったんだ!声を掛けてくれれば手伝ったと言うのに!!



「……考えてる暇はない――師を救うのが、弟子の務め。」

「ま、そう言う事だ。」

「1人では長く持たない――急いで救出に向かうぞアインス!」

「そうだな。」

一刻も早くホロウの救援に向かわねばならないが、だからと言って全員で出撃しては里の守りが手薄になる――よし、速鳥と那
木は、私と一緒に来てくれ。
残りは私達がホロウを連れて帰るまで、全力でウタカタを守護しろ!



「了解した。……死ぬなよアインス。」

「ふ、誰に物を言っている桜花?……私はウタカタを守護する破壊神だ、そう簡単に死ぬ筈が無いだろう?」

だから里を護りながら待っていろ、私達がホロウを連れ帰るのをね。
そして待っていろホロウ――今、私達が助けに行くからな!!












 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場