Side:アインス


……新たなミタマを宿した事で予想はしていたが矢張りか……取り敢えず元気そうだなオビト?



「卿は……アインスではないか!良かった、無事だったのだな!『鬼』の群れに打ち勝ったか。流石は私の友だ。」

「まぁ、ギリギリだったけどな」

『……見事な戦働き、見せて貰った。いやはや……若え衆も中々にやる。』



そしてお前が新たミタマか。随分と貫禄があるようだが……



『火付盗賊改方、長谷川平蔵である――江戸で盗みを働く盗人どもを、ひっ捕らえるのがワシの役目よ。……盗人どもの間では
 鬼の平蔵と呼ばれておったらしい。
 だが、若え頃はワシもごろつきでな?本所の銕と渾名されていた――何方でも好きに呼べばいい。
 今日はおめえさんに、一言、礼を言いたくてな……ありがとうよ、『鬼』から解放してくれて。』

「大した事じゃない。ミタマを鬼から解放するも、我等モノノフの使命だからね。」

『満身せずに驕らぬその態度……大したものだ。
 ワシの手が必要になったら何時でも言え。役目抜きで、助太刀仕ろうぞ――ではな。また会おう、アインス。』



あぁ、またな。
しかし長谷川平蔵と言えば、時代劇でお馴染みの『鬼平犯科帳』のモデルになった人じゃないか?……其れ程の英霊と邂逅出
来たというのは、間違いなく貴重な体験だろうな。












討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務70
『此処から反撃だ!反逆だ!!』











「なんとも好人物なミタマだったが……卿が無事という事は、相手は常闇の『鬼』ではなかったのか……?」

「分からない。
 というか、常闇の『鬼』とは、一体どんな『鬼』なんだ?」

「一つ目で、手が何本もある奴だ。
 ……気をつけるのだ、アインス――『鬼』の群れは、常闇の『鬼』の先触れに過ぎない――奴は、必ずこの地に現れる。
 ……あの時の事を、ハッキリと思い出せぬ――だが、仲間達が次々に死んでいった痛み、この胸に、ハッキリと刻まれている。
 仲間を集い、戦いに備えるのだ!
 もっと強くなって、数多のミタマを宿せ――私が何者か調べるのは後回しでよい!人の世の存亡がかかっておるのだ!
 頼んだぞ、アインス!!」



ふ、任せておけオビト。
私が居る限り、『鬼』が人の世を蹂躙する事は無い……如何に強い力を持っていようとも、『鬼』では『破壊神』を越える事は出来
ないのが道理だからな。
お前の言う常闇の『鬼』とやらも蹂躙してやるさ!!
しかし、一つ目で手が何本もあるとは、まるでケルベロスザクウォリアーみたいな奴だな?……負ける事は無いだろうが、オビト
が警戒するだけの『鬼』だ、油断は禁物だな。

さて、そろそろ目が覚める頃だな。

「……そして本当に覚めるしな。」

オビトやミタマと夢の中で会話し、日中は日中で普通に動いていると、余り寝た気はしないのだが、身体の疲労は取れているの
だから睡眠はとっているのだろうな。
さてと今日は……どっせい!!



――バッキィィィ!!!



「床下に瞬間移動して、床ぶち抜いて登場してみたが如何だろう?」

「如何登場しても構わんが、ちゃんと床は直しておけよアインス。」

「問題ない、謎の修正力によってもう直った。そして不思議な事に、私がぶち抜いた事で散らばった木片もなくなったとさ。」

「……貴女の異常な強さは、常識が通じない所なのかしら?
 おはよ、アインス。よく眠れたかしら?――今日から敵の残党狩りに掛かるわ。また増殖されない内にね。」



おはよう凛音。よく眠れたよ。
今日から残党狩りか?まぁ、敵の攻勢を押し返す事は出来たが、また増えてしまっては元の木阿弥だからね――流れが此方に
傾いている内に、一気に殲滅するのが良いだろうな。



「北の『鬼』を殲滅するまで、シラヌイに戻る気はないわ。暫くの間、宜しくねアインス。」

「其れは助かる。此方こそ宜しくな、凛音。」

「貴女の腕に期待してるわ。『鬼』を一匹残さず蹴散らすわよ。
 勿論、『百鬼隊』にも参加してもらうわよ、相馬。」

「当然だ。だが、お前の風下に立つのは気に入らん――互いに不干渉でやるぞ、北の女狼。」

「あらあら。ま、その方が私もやり易いわ。」



まぁ、そっちの方が良いかも知れないな。
ウタカタのモノノフが何方と行動しても問題はないだろうが、百鬼隊とシラヌイでは戦い方も考え方も違うだろうから、付け焼刃の
連携を行うよりも、夫々の部隊で戦った方が良いだろう。
……時に九葉の姿が見えないが、何か知ってるか大和?



「少し考えたい事があるとかでな。俺達に指揮を任せるそうだ。」

「……軍師が指揮を任せるのは如何かと思うが、任されたのならば仕方ないか。」

「そう…………一つ言っておく。
 我等が此処に来たのは、霊山の為ではない――我等は独立不羈の北の民、シラヌイ。
 我等が戦うのは、我等自身の為……何者の命も受ける心算はない。我等の行動に掣肘加える事有らば、実力を持って其れを
 排除する。
 『百鬼隊』だろうと、ウタカタだろうとな。……其れを肝に銘じておけ。」

「……がなるな。分かっている。」

「……お前達に手出しはさせんさ。」

「……ならいい。此れから宜しく頼むわ。」



あくまでも戦うのは自分達の為、か。そう言いながらもウタカタに兵を出してくれたのだ、随分とお人好しだと思うがなお前は。
まぁ、お前の言い分を丸呑みにするなら、ウタカタが落ちれば次はシラヌイとなりかねないから力を貸した、という事になるのかも
しれないがな。
しかし、九葉の不在は気になるな?……一体何を考えてるんだ、九葉……








――――――








Side:九葉


……待たせたな。



「おやおや……漸く来たか九葉。」

「そう気軽に呼び出されても困るぞ。あまり目立つ行動もは出来ん。」

「分かっている。――だが、そろそろ働いて貰おうと思ってな。」



ほう……黙って見ていればいいのではなかったか?



「そうも行かなくなった。何せ相手が悪くてな……今世のムスヒの君を、討たねばならん。」

「…………」

「どんなモノノフかは知らぬが、噂に違わぬ力を持っているようだ。――やり方はおんしに任せる。委細は後で連絡して貰おう。」



今世のムスヒの君……アインスの事か。――8年前のあの日、私の目の前で龍の如き『鬼』を葬ったアイツが、自らをそう称して
いたからな。
しかし如何やらコイツは、今世のムスヒの君の存在を知って居ながらも、其れがアインスだとは知らないようだな?……ならば好
都合だ――



「逆らえば娘がどうなるか……分かっているな?」

「……あぁ、無論だ。」

「アッハハハ!安心しろ、危害を加える気はない――おんしが私に従う限りはな……」

「…………」

「ではな九葉、また会おう。」



……タヌキと狐の化かし合いも、此処まで来ると滑稽だな?
お前は私を良いように操っている心算だろうが、全ては私の計画通りに事が進んでいたと知ったら、果たしてお前はどんな顔を
するのか楽しみだな虚海。

尤もそれを成す為には非道にならねばならんが……所詮は血塗られた道……精々踊らせて貰うとしよう。








――――――








Side:アインス


『鬼』の残党狩りと言う事だが、先ずはどんな任務が出てるかを確認しないとな?……結構な任務が出てると思うが、ウタカタと
百鬼隊、そしてシラヌイの勢力が有れば、何とかなる筈だ。
おはよう木綿!



「おはようございますアインスさん。
 またこうして、朝の挨拶が出来て、私幸せです……里を守って下さって、ありがとうございました!
 此れからも、ウタカタを宜しくお願いします!」

「勿論、ウタカタの事は守っていくが、私一人の力で守った訳じゃない――ウタカタの皆と百鬼隊、そしてシラヌイの援軍があった
 からこそ守れたんだ。
 それと、お前がモノノフ達の為に創ってくれたおにぎりがあったのも大きいんだぞ?特に相馬と息吹は、お前の手作りだって言
 うだけで、疲れが吹っ飛んでいたからな。」

「そ、そうなんですか?お役に立てたのなら良かったです。」

「あぁ、お前の心遣いは、前線で戦うモノノフ達にとって有難いモノだったよ。」

尤も、戦いが終わった訳ではないから、今日も御役目を熟さねばだ――ふむ、結構色々な任務が出ているが……百鬼隊とシラ
ヌイの部隊が対処に当たっているか。
富嶽や初穂たちも夫々出撃してるみたいだし……なら、残ってる者同士で一緒に行こう、桜花、那木、凛音。



「そうだな、君と一緒なら安心だアインス。」

「ウタカタの実力上位二人と一緒というのも悪くないわ……期待してるわよ?」

「其れでは参りましょう、アインス様。」



行こうか。先ずは、『戦』の領域でオノゴロ退治だ!!




――『戦』の領域


如何やらオノゴロは、領域内をうろついているらしくて、見つけるのに苦労したが……見つけてからはもう一方的な蹂躙だな。
相変わらずの頑丈さと、一撃の重さは有ったが、そんな物はマッタク問題にならん――寧ろ、攻撃動作が大きすぎて、カウンター
し放題だったからね。
桜花と凛音が足を集中攻撃してくれたおかげで、転ばす事も容易だったからな?……マッタク持って脅威には感じないな。



『ウガァァァァァァァァァァ!!!』

「タマハミか……」

「今更怖気づくか!!」



いい加減攻撃した所でタマハミになったが、凛音の言うように今更怖気づく事でもない……寧ろ転がり攻撃をして来たのをカウン
ターしてのジェクトシュートを決めてやったぞ!
そしてトドメは、私と桜花のダブル鬼千切りだ。六爪流と太刀での鬼千切りは威力充分だからね……此れでオノゴロも沈黙した。




とは言え、休んでる暇はないので次の任務!


――『古』の侵域


次は『古』の侵域でオラビの討伐だ!
相変わらず不快な甲高い声で鳴いてくれるが……お前の声は聞き飽きたんだよ、このメス鳥が!ローストチキンにしてやる!

「咎人達に滅びの光を。星よ集え、全てを撃ち抜く光となれ。貫け極光!スターライトブレイカー!!



――ドッガァァァァァァァァァァァァァァン!!



「……出てきた瞬間にやられてれば世話ないわよね……」

「アインスだからこそ出来る事だがな……」

「流石はアインス様でございます♪」

「まぁ、私は大分普通じゃないからな。」

取り敢えず里に戻るか。瞬間移動でな。



――バシュン!



はい帰還!――如何にシラヌイの部隊が加わったとは言え、少々順調に行き過ぎてる気がしなくもないが、まぁ『鬼』の軍勢を押
し返す事が出来ているのならば問題はないか。
お前の方も順調そうだな暦?



「此れは、先輩。任務順調だろうか?」

「あぁ、恐ろしい位に順調だよ。」

「そうか――ちょうど一つ、話しておきたい事がある。私は、御役目を解かれた。」

「……は?」

御役目を解かれたって……まさかお前、シラヌイをクビに……?



「ち、違う。そう言う事ではなく……『陰陽方』の間者を探す任務の件だ。今後は、凛音殿が直々に指揮を執るそうだ。
 ウタカタの皆さんには、沢山の迷惑をかけてしまった――此れからお詫びに向かおうと思っている。
 先輩には、先に伝えておきたかった――任務を中途半端に終える事……無念だ。
 凛音殿が言うには、充分役目を果たしたと言う事なのだが……ここ最近の出来事を報告したら、大笑いされた。
 ……何があんなにおかしいのだ、まったく。
 私は私なりに考えて行動した。人の努力を馬鹿にする者は嫌いだ。」

「ふふ、そう怒るな。其れが凛音の狙いだったのかも知れんぞ?」

「?……如何言う事だ?」



お前を送り込んだのは、騒動を起こして敵を炙り出す為だったのかも知れないと言う事さ。
ウタカタで騒動が起きれば、其れは当然『陰陽方』の間者にも伝わるが、騒動が大きければ大きい程、潜伏している間者は気が
気で無くなって来て、自ら名乗り出るような行動をするからな。



「なるほど……其れがお頭の目的……
 では、私は最初から騙されていたのだな?益々腹立たしい。」

「敵を欺くには、先ず味方を欺くだよ暦。」

「ぐ……其れを言われると何も言えない。
 だが、相馬殿が違うと言う事が判明した今、残るはホロウ殿か、九葉殿か――或は全く違う人物か……
 疑いたくはないが、敵は必ずいる。お気をつけ願いたい、先輩。――何事もなく北の『鬼』を討てる事を願う。」



そうだな……何事もなく北の『鬼』を討つ事が出来れば最高なんだが、恐らくそうはならないだろうな――どんな戦いでも、最後
の最後で何かが待ち受けているモノだからな。



「そう言えば、先程ホロウ殿が先輩を探していたぞ?
 なんでも新しい言葉を覚えたとか……珍妙な言葉遣いには悩まされるので、先輩からも一言言って貰えないだろうか?」

「……善処する。」

ホロウは色々とぶっ飛んでいて常識が通じないから、其れを今更如何にかしろと言うのは難しい事この上ない。
だが、ホロウが私を探していると言うのは無視できんな?――記憶を失ってはいるモノの、アイツの直感は凄まじい物があるか
ら、直感的に私に伝えておいた方が良い事があると思ったんだろうね。

果てさて、ホロウの話は一体何なのか……面倒な事にならなければ良いのだがな――













 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場