Side:アインス


此の土壇場でシラヌイの援軍が到着するとは、よくやってくれたな暦!お前こそ真の英雄だ!!――本当によくやってくれたな。
お陰でウタカタを捨てる事にならなくて済みそうだ。



「先輩……貴女の方こそ、良く待っていてくれた。」

「ふ……暦が必ず戻って来ると信じていたからな。」

其れよりも凛音、聞くまでもないだろうが、今すぐ出陣するのだろう?……私の体力は完全回復しているからマッタク持って問題
は無いからな。



「準備は良いかしら?私と暦、貴女とホロウで組むわ。
 目標は敵中央……真正面からぶち当たって、敵の喉元を切り裂くわよ――左翼は『百鬼隊』、右翼はシラヌイ……此処に有る
 全戦力を投じた総力戦よ。
 噂に名高いウタカタの隊長の力、どれ程のモノか見せて貰うわ。――我等『鬼』を討つ鬼となりて、人の世を守らん。
 さぁ、行くわよ!」

「ふ……頼もしいな凛音!」

お前ほどのモノノフが助太刀として来てくれたのは素直に有り難いし、お前がお頭を務めているシラヌイのモノノフの力は、ウタカ
タの精鋭に負けず劣らずだからね?
ならば、此のまま反撃の勢いに乗って一気に『鬼』を叩きのめすだけだ!

誰が相手かは知らんが、精々地獄で後悔しろ!ウタカタの守護の破壊神である、この私に喧嘩を売ってしまった己の愚行をな!













討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務69
『滅びの運命に反逆せよ!!』











それで、毎度お馴染み瞬間移動で『安』の侵域にやって来た訳だが……此れは、同じ『安』の侵域でもカゼヌイと戦った時とは様
子が違うな?
侵域って言うのは、そいつを発生させたモノの力によって変わると言うものなのだろうか?……考えても答えは出ないけどね。



「暦から聞いてはいたけれど、凄いわね瞬間移動って?
 こんな事が出来るだけでも、貴女が並のモノノフじゃないって言うのは良く分かるけど、今度は戦闘力を見せて貰うわよ?」

「ならば頑張らねばならないね?……不甲斐ない所を見せて、ウタカタに見切りをつけられたら大変だからな?」

「……先輩の不甲斐ない姿など、想像出来ないのだが……」

「まぁ、基本誰が来ても負けないだろうからね。」

「流石はアインスです。これが世に言う『チート無限のバグキャラ』と言うやつなのですね?」



……否定はしないが、お前は一体何処でそんな言葉を覚えたんだホロウ?私の存在がチートなのを否定する気は更々ないが。

しかし、紅い鳥居の向こうから感じる『鬼』の力は相当だな?
恐らくは指揮官級の『鬼』……ゴウエンマと同等か、それ以上の『鬼』が存在している筈だ。――ゴウエンマ以上となると、最低で
もヤトノヌシクラスの『鬼』だと思うのだが……



――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


『ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!』



……如何やらヤトノヌシをも凌駕した『鬼』だったみたいだな?
ゴウエンマにも引けを取らない見事な体躯だが、その頭は牛で、右手には巨大な棍棒……地獄の『牛頭鬼』その物だな?
物見の連中が『ゴズコンゴウ』と命名したのも頷けるな此れは。
加えて、口から洩れてる炎を見る限りは火属性であるのは間違い無い……火属性の『鬼』は攻撃力が高いから、其処も注意が
必要になるな。



「あら、大物ね?大当たりだわ。
 聞け、若きモノノフ達よ!我々は今、滅びの縁に立っている!霊山も、シラヌイも、ウタカタも関係ない……この一戦に敗北すれ
 ば、人は等しく滅びる!
 選べ、死ぬか!生きるか!
 死にたくないのならば吼えろ!生きんとするならば猛れ!今、この瞬間に己の全てを賭けろ!!」

「……此れが北の女狼ですか?成程、渾名に相応しい風格です。」

「体に響き渡る……何処までも力強い、お頭の声が……!
 私はシラヌイの里の暦!ウタカタを救うために、全てを賭ける。」

「ふ……出て来て早々退場願おうか?
 ウタカタの破壊神と、北の女狼、そして頼れる仲間が居れば、貴様など恐れるに足らん……狩り倒してやる。」

だが、其れ程の『鬼』を前にしても、怯むどころか大当たりと来たか凛音は。
しかも、其処から仲間を鼓舞する言葉で士気を挙げるんだから見事だ。……あのホロウの士気まで確りと上がっているからな。
まぁ、かく言う私もだけれどな!!

先ずは先制だ!!



――メキィ!



「……ねぇ暦、ウタカタの隊長さんの飛び蹴りがゴズコンゴウに炸裂して、あの巨体が揺らいだように見えたんだけど、私の見間
 違いよね?」

「いや、見間違いではなく現実だお頭……と言うか、先輩的にはあの位は序の口だ………」



うん、まだまだ序の口だぞ暦。
だがしかし、コイツは相当に頑丈だな?私が本気で飛び蹴りを喰らわせたら、ゴウエンマですらダウンすると言うのに、少しグラっ
と来ただけとはね。

まぁ良い……幾ら頑丈であろうとも、倒すだけだ!!



「そうね?倒してあげましょうか!!」



ふむ、見事な槍捌きだな凛音?
息吹の『突き』に重点を置いた槍捌きも見事だったが、凛音の回転運動を軸にした槍捌きも素晴らしい――特に、回転運動で得
た遠心力を上乗せした突きは強烈の一言に尽きる。
無論凛音だけでなく、暦とホロウもやってくれているな。



「ブチかまします。」

「お命、頂戴する!」



ホロウは銃の特性を生かして、ゴズコンゴウの攻撃射程外から的確な射撃をしてくれているし、暦は暦で小柄な体格を生かして
ゴズコンゴウの死角になる場所から攻撃しているからね。
尤も、此れだけの攻撃を受けながら、怯む事なく攻撃してくるゴズコンゴウの剛性に驚きだが……此れならどうだ!!



――ザクゥゥゥ!!!



『ギヤァァァァァァァァァァァァァァ!!!』


「如何に『鬼』と言えども、無防備な目は弱点だったみたいだな?」

如何なる生物であっても鍛える事の出来ない絶対的な弱点である目……其処を攻撃されたら、流石のゴズコンゴウも痛かった
みたいだな?……まぁ、目玉に火属性と水属性と地属性の攻撃を喰らったんだから、痛いなんてもんじゃないと思うが。



「目潰しとは……
 危ない先輩!!」

「え?」



――バッキィィィィィ!!

――ドォォォォォォォォン!!




痛みで暴れたゴズコンゴウの棍棒がクリーンヒットして、城の外壁の様な所まで吹き飛ばされてしまうとは……棍棒での一撃は
当然だが、壁に激突した衝撃と、其れで崩れた瓦礫が上から降って来ると言うのは、流石に痛いなうん。
だが、其れで私を倒せたと思うなよ牛が!!



「アレを喰らって無傷だなんて……貴女凄いわね色々と?」

「生憎と私は、少し常識はずれな存在なモノでね。」

だが、今のは痛かったら頭に来た。
耐えられるというのは我慢できるというだけで、痛みを感じない訳じゃないのでな……この痛みは3倍にして返す!そして、ステ
ーキにしてやる!
いや、ステーキも良いがしゃぶしゃぶも捨てがたいし、すき焼きも良いし久しぶりに牛丼と言うのも悪くないか?
何にしても先ずは、その棍棒を持った腕を貰うぞ?その棍棒がお前の力の一端を担っているのは間違い無いだろうからな!!
一刀流……疾走居合!!



――ズバァ!!



水属性の『落花流水』の居合ならば、火属性であるお前には効果抜群と言う訳だ!!
疾走居合を放つ前に、断祓を発動しておいたので、右腕は部位破壊と同時に浄化された……お前の左腕は、もう永遠に元に戻
る事は無い!



「ふふ、良い腕ねアインス?良かったらシラヌイに来ない?」

「彼女は私達の隊長です。勝手な勧誘は頂けません凛音。」

「あらあら、私は別に貴女でも良いのよホロウ?強い者は、誰であろうと歓迎よ!」

「確かに、強者であれば誰であろうと歓迎するだろうな……強くなければこの世界で生き残る事は出来ないのだからね!!」

そして其れは『鬼』も同じだ。
人の世を蹂躙すると言うのならば、私よりも圧倒的に強い『鬼』を連れて来なければ無理だぞ?確かにゴズコンゴウは、ゴウエン
マを遥かに上回る『鬼』かも知れないが、だからと言って脅威かと言われればそんな事は無いからな。
だからもう、遊びは終わりだ!泣け!叫べ!!そして……死ねぇぇぇぇぇぇ!!!



――ババババババババ!!ズガァァァァァァン!!



「此れは此れは、暦から聞いてた以上だわ。やるじゃないアインス!……だけど、本番は此処からみたいよ?」

「まだ生きてたか……殺り方が生温かったか。」



――ギュイィィィン!!


『グガァァァァァァァァァァァァ!!!』




此処でタマハミと来たからな。
……ゴウエンマよりも上位の『鬼』であっても、タマハミ時に四つん這いになって、破壊した部位が再生するのは変わらないか。
四肢が復活したと言う事は、本来の攻撃力を取り戻したと言う事だが……其れが如何した!!
タマハミ状態になって私を如何にか出来ると思ってるのならば、幾ら何でも人を、モノノフを舐め過ぎだぞ貴様等?
喰らえ……オベリスク・ゴッドハンド・クラッシャー!!



――バッキィ!!



うん、完璧だな。
タマハミで凶暴化したとは言え、その基本的な能力値が変わる訳じゃないと言う事は、此れまでの戦いで分かって居るからね。



「見事ですねアインス?……ブチかまします!!」

「如何した、其れでも鬼か!」

「一気に押し切る!!」




そして、ゴズコンゴウが怯んだ一瞬の隙を逃さずに鬼千切りか……此れだけでも大ダメージだっただろうが、これで終わりではな
い!終わりにはしない!!



「先輩!私達の力、貴女に預ける!」

「あぁ、確かに受け取ったぞ暦!!」


喰らえゴズコンゴウ!仲間との絆を紡いだモノノフの最強にして究極の奥義、鬼千切り・極を!!――吹き飛べぇぇぇぇ!!



――バガァァァァァァン!!



これで再生した部位も全て破壊したが、未だだ!!
咎人達に滅びの光を。星よ集え、全てを消し去る光となれ。貫け閃光……スターライトォォ……ブレイカァァァァァ!!



――キュゴォォォォォォ……バガァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!



『ガァァァァァァァァァァァァ!!!』



いかにゴウエンマ以上の『鬼』であっても、最強無敵の集束砲を耐える事は出来なかったか。……この戦い、私達の勝ちだ!!


――キィィィン……バシュン!


『本所の銕が力を貸してやろう。』


――ミタマ『長谷川平蔵』を手に入れた。


そして新たなミタマもゲットできたな。



「此れで中央は片付いたわね……右翼と左翼の戦況はどうなってるかしら?」

「問題ありません。皆さんならきっと勝っている筈です。」

「そうだな、皆ならきっと、勝っていると思う。」

「間違いなく勝っている筈さ。」

ウタカタのモノノフ達は、そう簡単にやられる程柔ではないし、揃いも揃って強者だからな?……取り敢えず、目的は果たしたか
ら里へ戻るか。



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と言う訳で戻って来たぞ大和!私達は帰って来た!!



「……その様子だと聞くまでもないかも知れんが、勝って来たか?」

「あら、大和殿。如何やら先を越されたみたいね?――決まってるでしょ。蹴散らして来たわ。」

「此方も片付いたぞ。」



如何やら、右翼と左翼の方も問題なく片付いたようだな?
まぁ大和と相馬が出張ってる時点で、負ける事は無いと思っていたが、先を越されてしまったのは予想外だったな。



「遅いわよ、『百鬼隊』の坊や。」

「ぬかせ。確か俺の方が歳上だ。」

「ってことは……」

「如何やら勝ったな。」



九葉か。
あぁ勝った。其れこそ文句のつけようがない位の完勝だ!!――勝鬨を上げろ!この戦は、私達の勝利だ!!



「やった!やったぁ!!」

「本当に、よくやったぞ、皆!」

「あの状況から引っくり返せるたぁな!」

「何だよ、ちょっと感動しちまうぜ。」

「こんなに嬉しいのは、生まれて初めてだ……!」

「集う筈のない者が集って勝った。これが嬉しくなくてどうする。」



ふふ、お前の言う通りだな相馬。本当に……見事な大勝利ってやつだ。
数奇な運命でこの里のモノノフになったが、私はこの里のモノノフで良かった……心からそう思うよ。



「良かった……またこうして笑うことが出来て。」

「……笑顔とは良い物ですね、アインス。」

「笑う門には福来る言うだろ?笑顔で居る事は大事なんだぞ?」

「ふ……マッタク騒々しい奴等だ。――だが、まだ安心はできない。全ての敵を駆逐するまではな。」



そうだな――ならば、残敵の掃討に取り掛かるとしようか大和?――シラヌイの軍勢が加勢してくれた事、そしてゴズコンゴウを
撃破した事で、流れは私達の方に傾いた……この機を逃す手はないだろう?



「あぁ、そうだな。
 だが……今しばらくは、勝利の余韻に浸るとしよう。勝利の美酒と言うものは、思いのほか次の戦への活力になるからな。」

「成程、そう来たか。」

だが、苦しい戦を越えての勝利だからな……ならば勝利の美酒の味も格別だからね。――次の戦までは、其れに酔うとするか。



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其れとは別に、今回の一件で勲一等の暦は何処に行ったのか……って、本部の外にいたのか。何をしてるんだ暦?



「……先輩――も、申し訳ない、少し感慨に浸っていた。皆の笑顔を見ていたら、涙が溢れてきて……
 私は……私は、間に合ってよかった……!――も、申し訳ない、泣いたりして……」

「申し訳なくないさ……泣きたいときには泣けばいい――嬉し涙なら尚更だ。」

「先輩……ずっと不安だった。――もし、間に合わなかったらどうしようと……また大切な人達を喪ってしまうと……よく待っていて
 くれた、先輩。
 私は、少しお役に立てただろうか?」



少し所か大助かりだった――お前のおかげでウタカタは滅びずに済んだよ。



「なら、なら嬉しい……!――私は、この世界に来て、初めて何かをやれた気がする。自分の足で、歩けた気がする。
 自分を無意味だと思い込んでいたのは、間違いだったと教えて貰った気がする。
 この世界に、自分の居場所があるのか、其れはまだよく分からない……けれど、其れを探してみようと思う。
 自分の足で歩いて……私は好きだ、この世界が。シラヌイの里が、ウタカタの里が!そして、先輩が!」

「ふふ、私も好きだよ。」

「そそそそんな事を言われると照れる……」



……何故照れる?一体お前は何を想像したんだか……



「……自分の生きる道は、自分で見つける。そうですね、父上、母上……先輩。」

「あぁ、その通りだ暦。己の生きる道は、自分で見つけるモノさ。」

「ありがとう……!」


――キィィィィン!!バシュン!!


『滅びゆく歴史、お前と見届ける。』


――ミタマ『松平容保』を手に入れた。



っと、此れは分霊か?
如何やら私とお前は、ミタマを分かち合うことが出来るくらいには信頼をしてたらしいな暦……お前の魂の半身、確かに受け取っ
たぞ!!



「な、何やら気恥ずかしいが……心通じたのならば嬉しい。どうか、私の半身を宜しくお願いする。」

「あぁ、任せておけ!!」

形勢は完全に逆転したぞ『鬼』共!!
貴様等に人の世を好きにはさせん……絶対にな!!








――――――








Side:虚海


フフフ……あの群れを退けるとは……大したものだ。
矢張り、おんしを倒さねば道は開けんか……今世のムスヒの君よ……














 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場