Side:アインス
まさか、此の土壇場で駆けつけて来るとは、随分と美味しい所を持って行くじゃないか大和!橘花も、よくあの攻撃を防いでくれ
たモノだ!
此れならば行ける……私も桜花も相馬も体力がきつかったが、お前が共に戦ってくれるならば押し切る事が出来る筈だ!
タマハミ状態になったと言う事は、裏を返せばゴウエンマも大分追い詰められていると言う事だからな。
「……ヤレヤレ、命令違反も甚だしいな相馬?」
「九葉殿……!……此れは貴方の仕業か!」
「言っただろう、現有戦力では対処不能だと。
だが、神垣ノ巫女にお頭……この地の全戦力を投入すればどうか?――試してみる価値はありそうだ。」
……里を見捨てると言った奴が、どう言う風の吹き回しだ九葉?
大和は兎も角、橘花まで戦場に引っ張り出してくるとは正気の沙汰とは思えんよ……取り敢えず、無事に帰ったら桜花に一発殴
られる覚悟だけはしておけよ?
「安心しろ、神垣ノ巫女は私が里へ連れ帰る。
此れでも元モノノフの訓練兵だ――さぁ、戦えモノノフ達よ!戦略を越えた英雄の戦、私に見せてみよ!」
「皆さん、如何か御武運を……」
だが、お前の戦略を越えた戦を見せろと言うのならば見せてやる!
相馬と大和は八年前のオオマガドキの英雄、そして私と桜花はこの時代のオオマガドキを事前に防いだ英雄の一人――新旧
の英雄が集ったならば勝利は絶対だからね!
討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務68
『死地の果てに~辿り着いた援軍~』
とは言え、体力が可成りきついのは変わらないから、あまり時間を掛ける事も出来ないのでね……此処からはフルパワーで行
かせて貰う!
覇ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
――ドォォォォォォォォォォン!!!
「く……君の全力は相変わらず凄いなアインス……!
その銀髪紅眼の姿は何度見ても凄まじいが、いっその事神々しさすら感じてしまうな?……一気に行こう!!」
「そう言えば、その姿こそがお前の全力だったな?……なら、出し惜しみせずに最初から全力を出せ!」
いや、そう言うな相馬。
確かに力を解放した状態は可成り強いが、プログラム生命体であった嘗ての私ならば兎も角、人間の身体である今では、全力
状態を長時間続ける事は出来ないんだ。
余りにも強過ぎて、長時間の変身に身体が耐えられない……勿論、持続時間が延長できるように鍛えてはいるが、それでも10
分が限界だよ。
「ふ、其れだけの力で10分間戦う事が出来れば充分だアインス!
嘗て、数多の世界を滅ぼして来たという力、今こそウタカタを守る為に使え!」
「あぁ、言われるまでもないさ!」
私は破壊神……だが、只の破壊神じゃない。
今の私は、ウタカタの里を守る為に、人の世に仇なす『鬼』を討つ『守護の破壊神』だ!その真の力を、その身で味わえゴウエン
マ!泣け、叫べ!もがけ、苦しめ!!そして、死ねぇぇ!!
「六爪流とやらで斬りまくった上に、ゴウエンマを掴んで爆炎を浴びせるか……見事な攻撃だアインス。
俺も負けてはいられんが……桜花、アインス、俺の左側を援護してくれ。」
「……お任せ下さい。私達がお頭の『目』になります。」
「……また貴方に助けられたな、お頭。――八年前、そうだったように……如何やら、恩を返すのは大分先になりそうだ。
だが其れで良い!俺は、参番隊の相馬!此れよりウタカタのお頭に加勢する!」
「フ……八年ぶりだな、そのセリフを聞くのも。」
左の援護は任せておけ大和!
それにしても、大和の登場で桜花も相馬もノッているな?――私もそうだが、気分が高揚して疲れなど何処かへ吹っ飛んでしま
ったようだ。
ある意味で精神が肉体を凌駕した状態なのかも知れんが、脳が疲れてると感じていないのならば多少の無茶は効く!
此のまま一気に叩き伏せる!!
『攻』のタマフリ、『渾身』と『軍神招来』、『壊』のタマフリ『鎧割』、そして『迅』のタマフリ『韋駄天』と『科戸ノ風』を発動!今発動し
たタマフリは、ミタマの力で共に戦う仲間にもタマフリの効果を与える!
「そう来たか……ならばお頭である俺が何もしないと言う訳にはいくまい。はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「俺の力、お前達にも預けるぞ!」
「ウタカタを守る為ならば、この力を使うのは惜しくない!」
――轟!!
っと、此れは……桜花と相馬と大和もタマフリを発動したのか!
しかも、ただ発動しただけじゃなく、大和の発動した『渾身』と『吸生』、相馬の発動した『鎧割』、桜花の発動した『堅甲』は仲間に
も効果が及んでいるからね……此れならば、天地がひっくり返っても負けは無いな!!
と言うか、『渾身』と『軍神招来』が重ね掛けされてる今の私の攻撃力は、どこぞの青い目の3本首の白龍の3倍はある!!
「そんな訳だから、喰らえ!狂獣裂破」
「魂を込める……花と散れ!橘花繚乱!!」
「『鬼』の命運、今こそ立つ!!」
「ハハハ、入れ食いだ!」
私の攻撃と同時に、鬼千切りを発動して、タマハミゴウエンマの全部位破壊だな!
とは言え、相手は指揮官級の『鬼』……此のままやられるとは思えんが――
『ぐがぁぁぁ……ガオアァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!』
「矢張り放って来たか、最大級の火炎放射を!」
如何に堅甲で防御力が上がっているとは言え、アレを真面に喰らったらモノノフとは言え只では済まんだろうね?
だが、其れを予測していないと思ったか!頼むぞ桜花!
「あぁ、私に任せろ!」
此処で温存しておいた、防の最強タマフリ『天岩戸』発動だ!
効果時間中はあらゆる攻撃を完全に無効にできるバリアに守られていれば、その火炎放射とて恐れるモノではない――否、こ
れならば逆に炎の中を突っ切る事も出来るからな?
強引に突っ込んで、頭を掴んで……かっ飛ばせ相馬!!
「良いだろう!」
「俺もやらせて貰うぞ?」
おっと、大和まで参加か?
だが、そのお陰で威力は上がったな?相馬の金砕棒による力任せの横薙ぎ攻撃と、大和の見事な逆袈裟切りは可成りのダメ
ージを与えたし……
「失せろ!」
吹き飛んだところで、桜花が斬心開放を使って追撃してくれたからね?
ならば最後はキッチリと締めなければならないな……冥底へと消え去れゴウエンマ!穿て、ナイトメアハウル!!
――ドッガァァァァァァァァァァァン!!
……力を解放した状態での全力ナイトメアは、欠片すら残さず『鬼』を滅するか――我ながら恐ろしい力だな此れは。
長時間維持できないのは当然か……ふぅ。
――シュゥゥゥン……
「元に戻ったか……しかし、相変わらず呆れた強さだなお前は?」
「褒め言葉として受け取っておくよ相馬……だが、流石の私も今回は疲れたよ。」
「勝った……のか?」
「敵の戦力を削ぐ事には成功した、一旦里に戻るぞ。…………三人とも、良く戦ってくれた。」
まぁ、里を守る為だ、此れ位はしなくてはだろう?
何にしても里に戻ろう……瞬間移動でな!
――バシュン!!
と言う訳で帰還!……ただいま木綿、約束通り戻って来たぞ?……助っ人に来てくれた大和と一緒にな。
「お父さん!アインスさん!皆さん!!」
「心配をかけてすまなかったな……」
真っ先に大和に抱き付くか……まぁ、娘として父の身を一番に案ずるのは当然だからね――となれば、私達は少々邪魔虫か?
席を外すとするか相馬、桜花。
「そうだな………」
「……行くぞ。」
尤も、木綿はお前に言いたい事があるみたいだぞ相馬?
「相馬さん!……ありがとう。」
「……恩を返しただけです。貴方に命を救われた。」
……お前は時々気障だな相馬。だが、其れがお前らしいとも言えるか。
さてと、私も退散……って、本部の外では桜花と橘花が?……あぁ、何となく察した。
「此れで一先ず時間は稼げたが……橘花……もうあんな無茶は止めてほしい……」
「姉さま……」
「生きた心地がしなかった。……君もそう思うだろう、アインス?」
「……其処で普通に私に振って来るお前に驚きだよ桜花。」
まぁ、確かに橘花の登場には驚いたし、其れが九葉の手引きだった事には『オッサン何考えてるんだ?』とも思ったが、結果的に
橘花のおかげで私達は助かったんだ……ありがとう。
「アインスさん……私こそ、ありがとうございます。」
「アインス、君までそんな事を……!」
「聞いて、姉さま。
私、嬉しいんです。皆さんと同じ戦場に立つ事が出来て。皆さんを、この手で守る事が出来て――だから、お願い。
私の我儘を、許して。私は大丈夫。自分の命を粗末にしたりしない――ちゃんと生きなきゃダメだって、そう教えて貰ったから。
姉さまに、アインスさんに。だから、お願い。」
「………………」
ふふふ、お前の負けだよ桜花。
我等の里の神垣ノ巫女は、守られているだけのお姫様じゃなかったって事さ――妹の思いが分からないお前じゃないだろ?
「……なら私は、何時もお前の側に居よう。其れで良いか、橘花?」
「ありがとう、姉さま……!」
仲良き事は美しきかなだな?矢張り姉妹はこうでなくてはね。
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取り敢えず禊で穢れを落として、木綿特製のおにぎりをたらふく食べて体力が回復したが……相馬は一体何処に行ったのか?
本部にも居なかったし……って、こんな所に居たのか?神木の祠など、私以外には来ないと思ってたんだがな……
「なんだ、お前か。休まなくていいのか?流石に堪えただろ?」
「心配には及ばん。禊で穢れを落として、木綿特製のおにぎりを腹一杯食べたら、すっかり体力回復だ。」
「……今更だが、其れで回復するとは、お前の身体はどうなっている?」
さてな?
この身体は人間の身体だが、元々私が色々とチートなのと、梓の魂が融合したのと、数多のミタマを宿している事で、人間に最も
近い人間ではない何かになってる可能性は否定出来んよ。
「其れに、此れ位の回復力があれば多少の無茶が効くからね。」
「マッタク持って頼もしい限りだ。
……これで少しは時間が稼げたはずだ。後は、シラヌイの援軍が来るかどうか……」
「其処が戦況の分かれ目となるか――時にお前は如何して此処に?」
「俺か?俺は仲間達に報告に来た……多分、全ての願いを叶えたとな。
十六人の願いは叶えたが、一つだけ残っていた願いがあってな――俺自身の願いだ。
俺の願いは……あの子に飛び切りの笑顔を返す事――アインス、あの子に貰った万分の一でも、俺は返す事が出来たか?」
出来たんじゃないか?
少なくとも私はそう思って居るよ。
「そうか……ならよかった。
……如何だアインス?お前、参番隊に来ないか?お前ならいつでも歓迎だ。」
「……考えておくよ。」
「ハハハ!『百鬼隊』も形無しだな。
アインス、お前のおかげで、俺は仲間との約束を果たせた……感謝する、心から。」
――キィィィン!バシュン!!
『四鬼の主、ここに参上せり。』
――ミタマ『藤原千方』を手に入れた。
「「!!」」
此れは……分霊!?
「おい、何だこれは?
分霊だと?ミタマを分かち合えると言うやつか……?与太話だと思っていたが、本当にこんな事があるとはな……
大事にしろよ?其れは俺の相棒だ。確かにお前に預けたぞアインス。」
「あぁ、大切に使わせて貰うよ相馬――」
――カンカン!カンカン!!
っと、此れは警鐘?
一体何事だ?……敵が来るにはまだ早い筈だが……本部に急ごう相馬!
「あぁ、緊急事態となれば放っておく事は出来んからな!」
「ならば私の家から行くぞ!裏口は本部に直結しているからね。」
「お前の家は一体どうなっている!?」
「知らん、設計者に聞いてくれ!」
と言う訳で本部に到着!桜花達も集まっているか。
……雰囲気的には、新たな敵が現れたという感じではないが……まさか!!
「ハァ、ハァ、ハァ……すまない、随分と遅くなってしまった――きっと待ってくれていると、信じていた!」
「暦!」
シラヌイから戻って来たのか!……と言う事は!!
――ザッザッザッザッザ!
「青装束に銀甲冑……シラヌイの部隊か。
北の女狼め、美味しい所を持って行ってくれる……!」
来てくれたんだなシラヌイからの援軍が!
此の土壇場での援軍の到着は、正に劇的だ――相馬の言う通り、美味しい所を持って行ってくれるなシラヌイのお頭とやらは。
そして、最後に現れたの彼女が、シラヌイのお頭である凛音か……
「大和殿かしら?私はシラヌイの凛音。」
「ウタカタの大和だ。よく来てくれた。」
「フフ……暦が兵を出せとうるさいので……」
だが、其れに根負けしたと言う事だろう?――待った甲斐があったよ。暦は間違いなくMVPだな。
一息吐くことが出来たら、美味い酒と肴でもてなしてやるとするか。……シラヌイの援軍があれば、ウタカタを放棄しなくて済むだ
ろうからね。
「貴女が隊長?暦から話は聞いているわ。」
「ウタカタの隊長を務めているアインスだ。来てくれた事に感謝する。」
「ふ……良い目をしてるわ。そして、貴方ほどの若さで其れだけの目が出来ると言う事は相当な修羅場を潜り抜けているわね?
暦が、貴女を推す理由が分かったわ――我等シラヌイの百鬼、此れより貴様に加勢する!」
ふふ、頼もしいな凛音?
だが、此の土壇場での援軍は有り難いのは間違いない――此処から反撃の狼煙を上げるとするか!ウタカタを、否、人の世を
『鬼』の好き勝手にはさせられないからな!
To Be Continued…
おまけ:本日の禊場
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