Side:アインス


百鬼夜行との連戦に、戦力が磨り潰される前にウタカタの放棄を決めた九葉だが、私も相馬も、そしてウタカタのモノノフ達も、誰
一人としてウタカタを捨てる気などなかったな!
状況を冷静に考えれば、私達のしようとして居る事は『馬鹿共の無謀な刎ねっかえり』なのかも知れないが、ウタカタを捨てて霊
山に籠っても、絶対に後悔するだけだ――ならば、悔いが無いようにウタカタで戦い、そして守るだけだ。



「あの、アインスさん?如何されたんですか?」

「木綿か。――いや、ちょっとこれから出撃しようかと思ってな。」

「ええ!?しゅ、出撃する!?」



あぁ、そうだ。
九葉の命令には違反するかもしれないが、生憎と九葉の命令はウタカタの隊長として受け入れかねる――大和のお頭としての
命令も、隊長権限を持って無視させて貰う。桜花達も、隊長命令で残った事にしてしまえばいい。
九葉が霊山に行きたければ行けばいい。ウタカタは私達の手で守る!



「…………アインスさん。
 信じてます。アインスさんなら、必ず帰って来るって!汝に、英雄の導きがあらん事を!」



大丈夫、必ず帰って来るさ。
元々反則級の頑丈さと強さを持ってる私が、オヤッさんが丹精込めて作ってくれた刀を使い、数多のミタマをその身に宿し、何よ
りも頼れる仲間達が居るのだから負ける事など有り得んよ!













討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務67
『ウタカタを守れ~更に戦う者達~』











Side:九葉


…………退いた所で勝てる保証はない……ならば……如何する……?
いや……アインスの存在を考えれば、この局面も何とかなった筈だのだが……一体どうやって……?



「……貴方は変わりませんね、九葉さん。」

「……またお前か?研究員如きが何の用だ?」

「また同じ過ちを繰り返す心算ですか?オオマガドキの戦を。」



……過ちだと?



「八年前、北の地を見捨てた過ちです。」

「ハッハッハ……クワッハッハッハッハ!」

……そう言えば言っていたな。『北』の地から脱出して来たとか――お前は『北』の生き残りか?



「……そんな所です。」

「アレは、私にしては珍しく完璧な策だった。――お陰で中つ国は永らえたぞ、秋水。『北』の尊い犠牲によってな。」

「……色々と言い返したい所ですが……
 一先ず今は、過去よりも未来の話をしましょう――本当にウタカタを捨てる心算ですか?」



……其れしか手はあるまい。



「あと数日だけでも持ち堪え、シラヌイの部隊の到着に賭けるべきです。」

「…………」

「今この里に有る全戦力を投入すれば、其れも可能な筈――貴方は犠牲を払う事に慣れ過ぎて、判断力が鈍っている。
 簡単に理想を捨ててはならない。そうではありませんか?」

「……残念だが、私の判断は正確だ。里の現有戦力を考えれば、今が……」

……いや……現有戦力だと……?――秋水……お前、先程何と言った?



「?……全戦力を投じれば、と言う話ですか?」

「ハッハッハッハ……クワッハッハッハッハ!」

「……一体、何ですか?」



そうか……正にその通りだ秋水。
歳は取りたくないモノだ。私の判断力は確かに鈍っていた――そう……確かに現有戦力では不可能。
だが、全戦力ならば如何だ?



「一体どういうことですか……?全く話が見えませんが……」



ふふ……直に分かる。
まさか、こんな方法があったとはな……其れでも、普通ならばこの方法を選ぼうとは思わなかっただろう……矢張り、アインスの
存在は大きいと言う事か……








――――――








Side:アインス


さてと、ウタカタを守る為に出撃した訳なんだが、思った以上に里の近くまで『鬼』が進撃してきてたな?――まぁ、最も近づいて
たのはガキやオニビやオンモラキと言った雑魚中の雑魚だったのでマッタク持って問題なかった。――少し進んだら、ヌエやマフ
ウとかも出て来たが、そんな物は近くにいたオニビを使ってオニビファイヤーで燃やしてやったけどね。

とは言え、雑魚ばかりではなく、大型の『鬼』も出て来るだろうと言う事で部隊を3つに分けたんだが……どうして私達3人を纏め
たんだ相馬?
ウタカタの隊長である私と、ウタカタのエースの桜花、百鬼隊の隊長であるお前は分散させるべきだと思うが……



「決まっているだろう。俺とお前と桜花が特別強いからだ。
 敵も、左右からよりも中央に強力な戦力を投入して来るだろうから、此方も下手に分散させるよりも纏めた方が良いと思っただ
 けだ。
 俺とお前が強いのは当然だが、桜花の強さもウタカタの中では群を抜いているからな?――此れは誇張でも世辞でもないが、
 お前の太刀の腕前は、現役時代のお頭を上回っているぞ桜花。」

「お頭以上だと?……まさか、其処までとは思わないが……」



成程、真に戦力バランスを考えてと言う事か。
確かに分散させてしまうよりも、纏めてしまった方が良いかも知れないな――富嶽と那木を分散させたのは、そうしないとチーム
を纏める奴が居なくなるからか……那木と富嶽は(主に精神面で)苦労しそうだな。
其れと桜花、相馬の言う通りお前は強いよ。伊達に、私に並び立てるように鍛錬を積んでた訳じゃない――今のお前なら、魔法
無しと言う前提が付くが、嘗ての私の仲間であった剣士と互角に戦えるさ。
寧ろ、純粋な剣の腕前ならばお前の方が上かもな?……身の丈以上の太刀を、軽々と振り回す訳だからね。

だから何を言いたいのかと言うと……其の力を如何なく発揮して、迫りくる『鬼』を容赦なく斬り殺せ!ぶっ殺せ!滅殺しろ!!



「……アインス、君はどんな状況であっても変わらないな。」

「まぁ、其れが頼もしくもあるがな?」

「危機的状況だからと言って慌てても仕方ないさ――寧ろ、慌てる暇があるのなら、逆にどっしりと構えて事に当たった方が良い
 結果が得られると言うものだからな。」

それに、現れたみたいだぞ?……如何やら私達を歓迎してくれるらしい。



『ギシャァァァァァァァァァァ!!!』

『ニャァァァァァァァァァァァァァ!!!』



ミフチとカゼヌイ……そして無数のササガニか。
ササガニは雑魚だから数の内じゃないとしても、マフチとカゼヌイの組み合わせは少々厄介だな?――ミフチもカゼヌイも、タマ
ハミ状態になってからが厄介な『鬼』だからね。



「蜘蛛じゃない……『鬼』だ。『鬼』なんだ!!」

「……まぁ、ミフチは存在その物が、桜花にとっては全力拒否したいらしいがな……」

蜘蛛嫌いは仕方ないとして、桜花は一体どうやってミフチを倒して、一人前のモノノフと認められるに至ったのか……其れを聞い
てみたいものだね。
其れは追々聞くとして、ミフチは私が相手をするから、カゼヌイの方はお前達に任せるぞ桜花、相馬!!



「橘花、私に力を貸してくれ……ウタカタを守る力を!」

「俺は、英雄相馬!願いを叶える為に、貴様等をぶっ潰す!」

「現世は『人』の住む世界だ……『鬼』は常世で大人しくして居ろ!」

先ずは、ミフチを分断する必要があるな?――ならば『防』のタマフリ『挑発』を使うか。防御力も上がるし、注意を引き付ける事
が出来るからね。
如何した、来ないのか蟲野郎?私が怖いのか?



『ガァァァァァァァァ!!』

「……この程度の安い挑発に乗るとは、見た目が蜘蛛なら、脳味噌も蜘蛛並みだなお前は!」

だが、そうやって向かってきてくれるのは有り難い。
これで完全に分断できるし、お前が相手ならば、オヤッさんの刀がその性能を十分に生かせる――お前に対しての有効攻撃属
性は『斬』だからな!
加えて、オヤッさんが丹精込めて鍛え上げたこの刀ならば、お前の爪とやり合っても刃毀れ一つ起こさんからね!



――カンカンカンカン!キンキンキンキン!!



が、如何やらこのミフチは中々に強い個体のようだな?私がこの世界に来た時に倒した奴の3倍は強いんじゃないか?
百鬼夜行で強化されたのか、それとも濃い瘴気を浴びて強化されたのか……まぁ、だからと言って私が苦戦するかと言うと、そ
んな事は全然ないんだけどな!



――バキィィィン!!



「と言う訳で、両方の鎌を同時に吹っ飛ばしてみました!」

「良いぞアインス!斬って斬って、斬りまくれ!!」

「言われるまでもない!
 食べられるかどうかは分からないが、蜘蛛の活け造りにしてやるさ!」

そう言う訳で、鎌の次は足!そして角を砕いてスタンさせ……後は只管切り刻む!時には膝蹴りや踵落としなんかの体術も組
み込んで斬りまくる!!
当然、ミフチは追い込まれる事になるから……


――ギュイィィィン!!


タマハミ状態になる訳だが……其れを待っていた!
カゼヌイかアマモが現れた時に、役に立つだろうと思って持って来た物だが、其れがこんな形で役に立たせる事が出来るとは思
わなかったがね――取り敢えず、喰らえ!!


――ボン!!


『うにゃぁん?……ニャァァァァァァァア!!!』

『ガァァァァァァァァァ!?』



「な、なんだ?行き成りカゼヌイがミフチを襲い始めただと?」

「此れは……おいアインス、一体ミフチに何を投げつけた?」

「猫まっしぐらのマタタビ爆弾。」

見た目が猫だから、マタタビは意外と効果あるんじゃないかと思って作って来たんだが、此れは予想以上の効果だな、うん。
大蜘蛛に襲い掛かる化け猫……何だ、此のシュールな光景は。
だが此れで、ミフチもカゼヌイも隙だらけだな?……なので、此処で纏めて叩きのめす!!
か~~、め~~、は~~、め~~……波ーーーーーーーーーー!!!



――ドッガァァァァァァァァン!!!……シュゥゥゥン!!



「『鬼』が跡形もなく吹き飛んだだと?相変わらずお前は凄まじいなアインス……」

「頑丈な身体に、六爪流と言う独特の剣技に魔法と色々と凄いからな君は。――で、今の技は一体……」

「宇宙最強の戦闘民族の必殺技だ。
 単純な直射砲撃だが、その威力はお墨付きだから安心して良いぞ。」

尤も、此れで終わりではないだろうがな……と言うか、此れで終わったら百鬼夜行とは言えん――より強い『鬼』が現れても、何
らオカシクは無いからね。



――ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!



そして、現れたみたいだな。



『グガァァァァァァァァァァァァ!!』

「くそ、まだ現れるか!……コイツは、ゴウエンマ!?」

「なんだ知り合いか?そいつはご挨拶だな。」

「甘く見るな相馬!コイツは指揮官級……一筋縄ではいかないぞ!」

「望むところだ!俺の金砕棒の威力、たっぷり味わえ!」



よもやゴウエンマが現れるとはな……『鬼』の方も本気と言う訳か。
此れは、少々きついかも知れんな?魔力はまだまだ大丈夫だが、連戦に次ぐ連戦で、流石の私も少し疲れて来ている……特に
今のかめはめ波で大分体力を使ったからね。

だが、負けんぞ!!


――ドゴォォォォォォォ!!!


ゴウエンマの殴り落としにカウンターする形で腕を吹き飛ばし、ついでにブラッディダガーとナイトメアハウルで足と尻尾も吹き飛
ばす!!勿論『断祓』と発動してるから、吹き飛ばした瞬間に鬼祓い完了だけれどね。

だが、此のゴウエンマも可成り強化されているらしく、四肢を吹き飛ばされた程度では如何と言う事は無いみたいだな?……弱
体化するどころか、却って強くなっている節もあるからね?

だとしたらあまり有り難くないな?……私が疲労を感じてると言う事は、純粋な人である桜花と相馬は、それ以上だろうからね。



「クソ……体力の限界か?……足が、動かん……」

「流石に連戦はキツイか……」



如何に、桜花と相馬が特別強くても、疲労には勝てんか……かく言う私も、可成り体力がきついからね……だから、そう言う訳
なので、死んどけゴウエンマ!
必殺!六爪流滅多切り!!


――バババババババババババ!!


『ガァァァァァァァァァァァ!!!』


――ギュイィィィン!




って、アレ?若しかして、私は地雷を踏んだか?――この気配は、間違いなくタマハミ――!!
コイツ、私達を脅威と見做してタマハミを発動させたって言うのか!!……クソ、体力を消耗した状態でタマハミ状態のゴウエン
マとやり合うのは幾ら私でもきついぞ!?


『ゴアァァァァァァァ!!!』

「「「!!!」」」


拙い!ゴウエンマの最大の攻撃である火炎放射が来る!――体力を消耗した状態でのシールドで耐える事が出来るか?
いや、やるしかない!この攻撃を防がねばウタカタは――!!




「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」




って、私がシールドを張る前に誰かが割入って、ゴウエンマの火炎放射を防いだ?……って、此れはお前がやったのか橘花!
其れ以前に如何して此処に!



「橘花、どうして!!」

「私は神垣ノ巫女……ウタカタの里を守るのも私の使命です!!――何より、姉様が戦っている時に、私が何もしないなんて言
 うのは、我慢できない!
 だから、私は私に出来る形で『鬼』と戦う!」



……大した覚悟だな橘花。
だが、神垣ノ巫女の結界でも、ゴウエンマの火炎放射は防ぎきれるモノじゃない……何れは貫通されてしまう!――私の体力
が充分だったら、魔力の重ね掛けの要領でシールドを張れたが……クソ、どうする!!



「ハァァァァァァァァァァ!!!」



――ズバァ!!



って、タマハミで再生したゴウエンマの腕が吹っ飛んだ!?……此れは、お前がやったのか大和!まさかの参戦に、驚きを隠す
事が出来んよ。



「ヤレヤレ……刎ねっ返り共には困ったものだが――よく持ち堪えたアインス!此処からは共に『鬼』を討つ!」

「馬鹿な……どうしてお頭が此処に!」

「戦えるのですかお頭!」

「舐めるなよ?
 俺を誰だと思っている?左目を失おうとも、お前等を束ねるお頭だぞ。」



ふふふ……ははははは……は~っはっはっはっは!!確かにそうだな大和!
左目を失った隻眼のモノノフとは言え、お前の実力は確かな物だ――其れだけの力を持った『お頭』が戦場に加わってくれるの
ならば、有り難い事この上ない。

此れは最高にして最強の援軍だ――私と桜花と相馬と大和……此れだけの戦力がそろえば負けは無いからな!!











 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場