Side:アインス


……ふぅ、もう朝か。
昨日の夜は、黒田官兵衛と夢の中で話したが……策士と伝わってるだけあって、思慮深さを感じたな?……初対面のオビトに
向かって『偉そうなチビ』と言うのは如何なものかと思うがな。

一応オビトに、息吹と那木に聞いてみたと伝えたのだが……息吹を馬鹿呼ばわりってのは如何なんだろうか?アイツは軽薄な
伊達男を演じてるが馬鹿ではない!……と、思いたいのだがな。

其れよりも気になるのは、オビトが言っていた1000年前の節分の日の出来事だ。

天より現れた強大な『鬼』……触れたモノを『鬼』に変えると言うのは、今私達が戦っている『蝕鬼』と同じ特徴だからね。
更に、地平線を埋め尽くす『鬼』の群れが現れ、世界が次々と異界に沈んで行ったという……其れが本当ならば、『鬼』による
浸食は1000年前から始まってる事になるのだが、8年前のオオマガドキまで『鬼』はモノノフ以外に認知されてはいなかった。
異界化のスピードを考えると、完全に歴史の裏に隠しておく事は不可能な筈だが……オオマガドキまでは、其れ程『鬼』は活発
に活動していなかったと言う事なのか?
そして、その『鬼』との戦いの中でオビトと共に戦ったというモノノフ……霊山には何かしらの資料が残っているような気がする
が、九葉に聞いたところで教えてはくれないのだろうなぁ……

やれやれ、オビトに関しては前途多難だが、取り敢えず今日もモノノフとしての御役目を果たさねばな。

と思って外に出たら、美柚が気配を殺して取材していた……相馬と只ならぬ関係かと聞いてきたが、断じてそんな事は無いか
らな?
……だが、アレは絶対に信じていないだろうなぁ?……本気で生地の捏造だけは、止めてくれよ……色々面倒な事になりそう
だからね。











討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務65
『百鬼夜行~Die absolute Krise~』











と、言う訳で、今日は瞬間移動で背後から出現してみたぞ大和?



「うむ、此れは一本取られたな?
 今日も扉を蹴破って来ると思ったのだが、瞬間移動で背後から現れるとは……だが、お前は偶には普通に本部に来る事が
 出来ないのかアインス?」

「やろうと思えばできるが、やらないだけだ。
 ……今度は屋根を突き破って、空から登場してみるか?」

「……やるのは構わんが、やった場合には、ちゃんと屋根を修理しておけよ?屋根が抜けたままでは、雨が降った時に本部が
 水浸しになってしまうからな。」

「……一体、どんな会話なのか此れは……」



気にするな九葉。私と大和的には、普段の会話だからな。
其れよりも、今日はどんな御役目が出ているかな?昨日戦ったオノゴロと、他の『鬼』の同時討伐任務とか出てると面白いんだ
がな?
転がり攻撃をして来たオノゴロをキャッチして、もう1体の大型『鬼』に投げつけたら面白い事になりそうだからね。



「……先輩は、結構恐ろしい事を考えるのだな?」

「ん?暦か、おはよう。」

「おはよう、アインス殿――相馬殿の件、私の見当違いで申し訳ない……また、振出しに戻ってしまった。
 一体誰が、『獅子身中の虫』なのか……」



うん、まぁ誰にでも間違いはあるからあまり気にしない方が良いと思うぞ暦よ?……特に、スパイ――『間者』を暴く時に、焦り
は禁物だ。
焦りは動きを雑にし隙を生む……その隙を突いて間者に逃げられては元も子もないからね。



「あぁ、分かって居る。……此度の一件、私なりに思う所があった。
 相馬殿や、ウタカタの皆さんが、命を懸けて戦う姿…………私には少し、眩しい。――私は所詮『外様』……命令が無ければ
 何者でもない身。
 自分の信念を持たぬ者には、結局何も出来ないのかも知れない……ホオズキの里を、救えなかったように……」

「暦……」

そう自分を卑下するな。
『外様』と言うのならば、私だって『外様』だろう?――だが、私は私だ、其れは変わらないし、お前はお前だろう暦?
其れに、自分に信念が無いと言うが、本当に信念が無かったら、お前はモノノフにはなって居ないんじゃないか?……信念なく
して『鬼』との戦いを続ける事は出来ないと思うからね。



――カンカン!カンカン!!



「「!!」」


此れは、警鐘!!……しかもこの気配は……数えきれないほどの『鬼』が里に迫ってきていると言うのか!!
兎に角、本部から里の外を!!……此れは――!!!



――バチバチバチバチバチ……



遥か遠くで、瘴気が集まって火花放電を起こしているのか?……凄まじい力を感じるが……アレは一体何なんだ?
いや、考えるまでもない……アレは――



『『『『『『『『『『ギャギャギャギャギャギャギャ!』』』』』』』』』』



「……あれ……全部『鬼』……?」

「ふっ……如何やら『蝕鬼』が増殖したようだな?……良くも此処まで増えたモノだ。
 正に百鬼夜行……人の世を滅ぼす、『魔』の行進だ……」



百鬼夜行か……確かに其の通りだが、あの軍勢が『百鬼』で足りるか?ドレだけ少なく見積もっても、300は下らないんじゃな
いのか?
アレだけの軍勢に一気に攻め込まれたら、ウタカタは一溜りもないぞ?



「おいおい、洒落になってねぇぞ……!」

「あれ、何体いるのかな……?」

「百や二百ではきかなそうでしたね。」

「取り逃がした『蝕鬼』が増殖した……?否、其れだけであの数は……」

「少し落ち着け。敵が此方に到達するまで、まだ時間がある。
 退くか、戦うか、守るか……今は、其れを考える時だ。」



其れは、確かにお前の言う通りだな九葉?……で、そう言うからには、何かいい策があるのか?



「いや……ないな。」

「おいおい……」

「最も恐ろしいのは物量戦……其れだけは避ける必要があった――現有戦力では確実に敗北する。
 取れる方策は、一つだけだ。」



一つだけ、ね?
その唯一の策は、ウタカタを捨てる事だとは言わないよな九葉よ?



「ほう?勘が良いなアインスよ?
 その通りだ……ウタカタを捨て、戦力を霊山に結集して、敵を迎え撃つ。」

「貴様……何を言っている……!」

「ウタカタを放棄すると言うのですか……!」

「見て分からぬか?アレはオオマガドキに匹敵する脅威。
 ウタカタ一つで如何にかなるモノではない……どんな英雄も、物量の前には塵に等しい――中つ国の戦力を結集して対処せ
 ねば、人の未来など一瞬にして消し飛ぶぞ。」

「ですが……ですが、里には多くの人が残されています。」

「然り……避難させるにしても、時間が足りない。」



矢張りウタカタを放棄する心算だったか九葉!
だが、橘花や速鳥の言うように、付近の住民を避難させるには圧倒的に時間が足りんぞ?……如何する心算だお前は?



「……見捨てるしか無かろう、八年前、北の地を見捨てたように。」

「アンタ、本気で言っているのか!!」

「あぁ本気だ。何かふざけているようにでも聞こえたか?
 どんな犠牲を払ってでも中つ国を守る……其れが唯一、人の世を永らえさせる方法だ。」



……お前の言っている事はある意味では正しいよ九葉。
100を救うために1を斬り捨てるのは、マッタクの間違いではないだろうさ……プラマイで考えれば99を救えた事になるのだか
らね。
だが、人間を数字で考えるようになったら終わりだぞ九葉!
其れに、仮にウタカタを放棄するにしても、里の民は全員救わねばだろうが!!
其れ以前に、私がウタカタに居ると言う事を忘れるなよ?……百鬼夜行だろうが、億鬼夜行だろうが、私の前に物量など、マッ
タク意味はないんだ!!



――バッ!!



「アインス、何をする心算だ?」

「ウタカタを滅ぼさせないために、最強の一手を打つのさ桜花。……奴等を吹き飛ばす!!」

小さき勇者よ、お前の技を使わせて貰うぞ!



――キュゴォォォォォ……



咎人達に滅びの光を。星よ集え、全てを撃ち抜く光となれ。貫け閃光!スターライトブレイカァァァァァァァァァァ!



――ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!



「のわっ!爆風の余波がこっちまでたぁ、相当だが……ちったぁ加減しろアインス!
 余波で里が吹き飛んだら洒落にならねぇだろうが!!」

「でも、今の一撃ならアレだけ数の『鬼』だって吹き飛ばせたかも!凄いわ、アインス!!」

「まぁ、誰よりも長く生きてきた私だが、その私でもアレ以上の破壊力を持つ技と言うのは見た事がない……そして、此の技を
 編み出したのが9歳の少女と言うのがとっても恐ろしい。
 ……が、如何やら駄目だったみたいだな。」

「ダメだと?……な、そんな馬鹿な!!」




『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』




さっきの集団は吹き飛ばしたが、間髪入れずに新たな奴等が現れた様だからな?……マッタク持って、呆れた物量だよ。
スターライトブレイカーは、周囲の力を集めて放つ技だから、私の力がギリギリまで枯渇するまで放つ事も出来るが、其れは流
石に現実的じゃないな……私の力が枯渇してしまった所に大群で攻め込まれたら一溜りも無いからね。
さて、如何した物か……流石に里の住民を見捨てて、ウタカタを放棄する訳にも行かん――せめて、もう少し戦力があれば、何
とかなるかも知れないが……



「……私が行こう。」

「……なに?」

「暦?」

「私が行って、シラヌイの援軍を連れて来る!」

「…………!」



その手があったか!現有戦力で足りないと言うのならば、外から戦力を持って来れば良い……単純だが、この局面では中々
の一手だじゃないか!……富嶽は誰よりも驚いてるみたいだがな。



「果たして来てくれるかは……分からない。
 シラヌイは霊山と対立する里……ウタカタは……いわば敵地も同じ……お頭なら、斬り捨てるかも知れない。
 それでも……其れでも私はやってみる――任務の為ではなく、私自身がそうしたいと望むから……!
 私を信じて、待っていて頂けるか、先輩!」

「答えるまでもないだろう?……信じて待つさ。お前も、信じるに足りる仲間だからね。」

だが、出来るだけ早めに頼むぞ?……私がフルパワーを出しても、あの物量が相手では流石に何週間もは持たないからな。



「ありがとう、先輩……!可能な限り、急いでみる!」

「自存自衛を旨とするシラヌイが、ウタカタを救うために兵など寄こすか…………だが、悪くない策だ。」

「……ならば、其れまで時を稼ぐ。全員そのまま聞け!
 此れより全戦力を投じて『鬼』と戦う!目的はウタカタの死守!シラヌイの援軍が到着するまで持ち堪える!
 一匹でも多く『鬼』を討ち、敵の進軍を鈍らせろ!
 暦、お前は気をつけて行け。もしもの時は、一人でも生き延びろ。」

「お頭……必ず、必ず援軍を連れて戻ります!」



暦が戻るまでの防衛戦になるな此れは……だが、万が一の事も考えておいた方が良い。
桜花、念のために、住民を避難させる手筈を整えて貰って良いか?



「アインス、其れは……!」

「万が一と言っただろう?……其れに、後からでは遅い。一人でも救うために、今できる事をしないとだからな。」

「……分かった、任せておいてくれ。」



「橘花、いざという時は里を頼む。」

「はい、お頭……その為に、私は此処に居るのです!」

「……後は、お前に任せる、アインス――ウタカタの全て、その手で守り抜け!!」

「あぁ、言われるまでもない……ウタカタは絶対に落とさせん!」

「待っていてくれ、先輩!私は、必ず戻る!」

「行け、モノノフ達!そして、生きて戻れ!!」



あぁ、行くぞ!……ウタカタを目指して進行して来ている『鬼』を食い止める!連戦になるのは、間違いないが、其れでも戦い抜
いてウタカタを守る!
取り敢えず木綿、大量の握り飯を用意しておいてくれ……エネルギー補給をしなければ、戦い続けるのも難しいからね。



「はい、了解しました!!」

「頼んだぞ!」

さて、先ずは何処から行くか?………何処からでも良いか、取り敢えず大型の『鬼』が進出してきている領域を、片っ端から回
って『鬼』を討ちまくる!
守り通すぞ、ウタカタを!!



「「「「「「おーーーーー!」」」」」」



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・・・



ふぅ……『安』の侵域でワダツミとウロカバネを、『戦』の侵域でヒノマガトリとオラビを、『古』の侵域でイテナミを倒して来たんだ
が、流石に大型『鬼』との5連戦は堪える……木綿の握り飯でエネルギーを補給しなくてはな。

……うん、美味い。具も、王道の梅干しと塩鮭と昆布の佃煮に、人気の高い辛子明太子と来ているからな?此れなら、幾らでも
入りそうだ。



「そう言って貰えると嬉しいです。
 でもアインスさん、お食事中に申し訳ありませんが、更に新手の『鬼』が現れたとの報告です!
 敵を『ヤチギリ』と呼称。急速に里に接近中です!何としても排除しろと、お頭から指示が出ています!
 アインスさん……如何か、里を守って下さい!」



此処で新手の『鬼』だと?
……敵も馬鹿じゃないって言う事だな――この局面で新戦力を投入すると言うのは、此方にとっては凄まじいプレッシャーにな
るからね。
しかも『ヤチギリ』だと?……名前の系統からしてカゼキリやアマキリの上位種と言った所か?……良いだろう、来ると言うのな
らば相手になってやる!!
木綿の握り飯をたらふく喰らったお陰で、私のエネルギーは満タンだからな?……ウタカタの守護破壊神の力を、其の身を持っ
て味わうが良い!











 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場



だがしかし、任務の前の禊は大事だ、モノノフの礼儀だ!……と言う事で禊に来たんだが、如何やら時間を間違えてしまった様
だな大和よ?お前ではなくて私が。



「相も変わらず、堂々と俺の前に立つ。ふ……其れがお前らしいとも言えるか。」

「流石はお頭、全然動揺してないな。」

女として、其れは其れで思う所がなくはないが、興奮して襲い掛かって来るよりは万倍良いか……襲い掛かって来ても、パンチ
一発で返り討ちにするけどね。



「……程々にしておけよ?戦力に余裕がある訳ではないのだからな。」

「分かって居る。せいぜい頭に巨大なタンコブが出来る程度にしておくさ。」

この状況では、僅かな戦力の損失も許されないからな。
さてと、禊で身体もサッパリしたし、ヤチギリとやらを討って来るか――禊の効果で、力が底上げされているから苦戦は有り得な
いだろうからね。