Side:アインス
昨日は相馬との酒盛りで、結構飲んだが……マッタク持ってアルコールは身体に残ってないみたいだな?
この身体が色々とおかしいのか、それとも私と融合した梓が酒好きで酒に強かったのか、其れは分からないが、何にしてもアレ
だけ飲んで翌日に影響がないと言うのは有り難いモノだ。
取り敢えず、先ずはよろず屋を見てみるか。何か新しい商品が入荷しているかもしれないからな。
「らっしゃいー、らっしゃいー。」
「と思ったんだが、何をしてるんだ美柚?」
「あ……じー……」
「擬音付きで見つめられても困るんだが……何をしてるんだお前は?――若干、やる気のなさを感じるのだが。」
「うにゃ、失礼な。此れでもやる気満々なりー。」
そうだったのか?其れは失礼をしたな。
「……そだ。君、暦さんに夕飯を作って貰ってたよね?――押しかけ女房……?」
「暦が私の夕飯を作ってくれてたのは事実だが、何故そうなる?」
「にやり……今後とも、よろしくー。」
よろしくーって、なんかとっても嫌な予感しかしないぞ?……頼むから、憶測で余計な事を新聞に書いてくれるなよ?
ゴシップネタは読むだけなら多少過激な娯楽とすることが出来るが、自分が対象となったら堪ったモノではないからな……取り
敢えず、お前達が書いた新聞を貰う事にするよ。後は、絢爛天狐御膳を3つな。
果てさて、新聞姉妹がよろず屋でのアルバイトを始めてどうなる事やら、だな。
討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務64
『十六番目の願い~Wunsche~』
さてと、今日も元気にお務めだ。世の為、人の為に異界の『鬼』を討ちましょう。一匹残らず倒しましょう♪……って、相馬?
「何っ、見つけただと!?」
「はっ、間違いありません。遠目からですが、紋も確認しました。」
「でかしたぞ!」
「ですが、周囲に新手の『蝕鬼』が展開。異界化が進行し始めています。」
「なら急がんとな……この機会を逃せば、次はない。――いや……だが、問題は戦力か……」
如何した相馬?何か大きな事があったみたいだが……力が必要ならば貸すぞ?……とは言っても、今の私は参番隊に張り付
いいる状態だから、力を貸すもへったくれも無いがな。
私の力では不足か?
「……お前は大事な時に、何時も必要な場所に居るな、アインス。
アインス、お前は俺を信じるか?……俺を信じるなら、俺と一緒に来てくれ。
お前の力が必要だ。仲間との約束を果たす為に。」
「ふ、是非もないさ相馬。」
私とお前は共に戦った仲間だろう?その仲間を信じないで如何するって言うんだ?……何よりも、仲間との約束を果たす為と
聞いては、断る事など出来る筈もないだろう。
何処に行けばいいんだ?
「其れは――」
「何方に行かれる心算か、相馬殿。」
暦!……否、相馬に直接問い質すとは言っていたが、このタイミングで来るか普通?……ある意味では、絶好のタイミングだっ
たのかも知れないが……
「貴方が前々から、何の用もなく、里から姿を消すのを不審に思っていた。
何の故あって、里を留守にしていたのか……此度ばかりは事の真実、お聞かせ願いたい。
場合によっては、この場で捕縛する!」
「私達も聞きたい、君の行動の理由を。」
「……やれやれ、何かと思えば……其れで俺に張り付いていた訳か、アインス。」
「そう言う事になるな……尤も、私個人としては、先程も言ったがお前は信じるに値すると思っているんだが……」
「嬉しい事を言ってくれるが……まぁ聞け、お前達。
俺の参番隊が、オオマガドキで壊滅したのは知っているな?……その戦いの前、俺達は一つ約束をした。」
約束?……さっき言っていた仲間との約束と言うやつか?一体どんな約束をしたんだ……?
「生き残った奴が、死んだ奴の願いを叶える。そう言う約束だ。
結果、生き残ったのは俺だけだ……だから、俺がその願いを叶える――参番隊で死んだ、十六人の願いを。
その十六人の中に、左近と言う男がいてな?そいつの願いは『家族の元に帰してくれ』だった……だから、俺はその骸を探し
た――だが、ずっと見つからなかった。」
広い異界から、人一人の骸を見つけ出すなど、九牛の一毛と言うやつだからね?
おまけに異界は常に変化するからな……其れこそ『鬼』の力で、地形さえも変わるんだ……其れに巻き込まれてしまったら、余
計に見つからないだろうからね。
……お前は、其れを探す為に、里を留守にしていたんだな?
「そんなところだ。
だが、今は其れが手の届くところにある。俺達は八年かけて、漸く辿り着いた――今こそ約束を果たす時だ。
あいつの骸を、家族の元に帰す!」
「……十六人の……願い……」
「……因みに、そりゃ何人目の願いだ?」
「十六人目だ!」
と言う事は此れが最後の願い……ならば尚の事、果たさねばだな相馬?
私の力で良ければ、存分に使え。現世から常世へと旅立ってしまった者の願いを叶えてやるのは、現世を生きる者の使命だ
からな。
「あぁ、頼りにしているぞアインス。」
「……待てよ相馬。俺も行く、アンタと一緒に。
死者の願いを聞く……それはアンタだけに課せられた任務じゃない――俺達全員の任務だ。」
「……自分も行こう。貴殿の志に、胸打たれた。」
息吹!其れに速鳥も!!
ハハ、此れは戦力としても申し分ないな?ウタカタ最強の破壊神と、オオマガドキの英雄に、経験豊富なウタカタ一の伊達男と
最高の仕事人のチームだからな。
行こう、相馬!!
「あぁ、行くぞ!!」
「なら私達は、里で帰りを待とう。……行って、仲間を連れ帰れ、相馬。」
「……感謝する、モノノフ達よ。」
「感謝など、水臭い事を言うな……仲間として当然の事さ。――其れで、『彼』が見つかったのは何処だ?」
「『戦』の領域だ!」
了解した!ならば行くぞ、『戦』の領域へ!!
――バシュン!!
はい、一瞬で到着!瞬間移動は素晴らしい!!
……其れは良いが、此れはまた随分と異界化が進行しているな?……最早領域ではなく『侵域』と化しているようだな?
紅い鳥居の向こうからは、凄まじい力を感じるから、相当に強力な『鬼』が居るのだろうね……心して行かねばだね――ってあ
れは?
『キュイー♪』
『♪』
「はなととりひと?……そう言えば、『戦』の領域に物拾いに行って貰ってたんだったな?
まさか会うとは思わなかったが、会ったのならば力を貸してくれるか?此れから強力な大型の『鬼』と戦う故に、お前達に宿し
た『癒』のミタマの力は必要になるのでね。」
『キュ!』
『♪!』
「矢張り、いつ見ても愛らしい……相変わらず、モフモフしているな……」
……そして、其処の忍者は時と場合を考えようね?
お前は、天狐及び、それに準ずる小動物を見ると本当にポンコツになるんだな速鳥よ……まぁ、頑張って活躍して、なはととり
ひとに良い所を見せてやると良いさ。
「了解した、隊長。」
「……異界化が進む前に『蝕鬼』を討つ。そして、左近の骸を取り戻す!俺に力を貸せ、アインス!!」
「あぁ、行こう!!」
さて、どんな『鬼』が待っているのか……出来れば戦った事の相手であると助かるが、鳥居の向こうから感じる気配は、此れま
でには感じた事のないモノだ……間違いなく新手の『蝕鬼』か。
上等だ、地獄に送り返してやる!
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ドォォォン!!
『ゴアァァァァァァァァァァ!!』
鳥居の先の侵域に現れたのは、岩石の様な体躯の『鬼』……動きは鈍重だろうが、頑丈さとパワーは凄まじそうだな?
秋水が調べた情報によると、オノゴロと言ったか?…頑丈さとパワーだけならば、ゴウエンマをも上回るかも知れん。
「邪魔だ退けぇ!俺の邪魔をするな!」
「一気に行くぜ!今日ばかりは、アンタの為に戦ってやる!!」
「助力しよう。其れが十六人の願いを叶える為ならば。」
「相馬の仲間十六人の願い、其の最後となる願い、今此処で叶える!!邪魔をするな、筋肉達磨が!!!」
だが、負けん!!先ずは先制攻撃!
速鳥が疾駆けからの跳躍攻撃から飛燕に繋ぎ、飛燕がヒットすると同時に相馬の叩き付け攻撃が炸裂し、更に息吹の烈塵突
が炸裂し、オノゴロの出鼻を挫いたな?
尤も、その程度で怯む『鬼』ではなく、すぐさま剛腕を振り回して反撃して来たが……拳には拳で応えてやる!!喰らえぇ!!
――バッキィィィ!!
「なに?拳打一撃で『鬼』の腕を破壊しただと?……相変わらず見事なモノだが、一体どんな拳打を使ったら、素手で『鬼』の腕
を吹き飛ばせるんだ、アインス?」
「此れは、二重の極みと言ってな。
2つの打撃を刹那の瞬間に重ねる事で、打撃の破壊力をダイレクトに相手に伝える破壊の奥義だ――が、私は其れを改良し
て、打ち込む瞬間に拳打に使われる関節8カ所を全て固定して全体重を拳に乗せている。」
つまりオノゴロの拳は、超高速で55kgの鉄球を喰らったのと同じなんだ。しかも、防御力を貫通した状態でね。
如何に大型の『鬼』と言えども、此れだけのモノを喰らったら只では済まん……腕が吹っ飛ぶだけで済んだのは御の字だろう?
さて、此処からは刀も使おうか?オヤッさんが私の為に鍛えてくれた刀は、矢張り戦いで使ってこそだからね――
――ミシッ
……と思った矢先に、オノゴロの拳が上から降って来たよ。うん、流石にちょっと痛い。
平然と立ってるし、ダメージモーションにもなってないから分かり辛いと思うが、ちょっとだけ痛いんだうん。コイツの拳を喰らって
『ちょっと』と言うのはおかしいのかも知れんがな?
だが、痛いのには少しイラつくな……調子に乗るなよ筋肉達磨が!!
「おぉっと!その巨体を投げ飛ばすとは、相変わらず惚れ惚れするなアンタの戦い方は?見事なもんだぜ。」
「まだまだ、こんな物ではないぞ息吹!」
投げ飛ばした先に瞬間移動して、六爪流で斬りまくり、更に周囲からブラッディダガーの乱れ撃ちだ!!お前に、反撃の機会な
ど与えんぞ!!
「『鬼』如きが、俺を止められると思うなよ?
俺は、英雄相馬……人の願いを背負って立つ、最強のモノノフだ。」
「勝機は我等に有り……此のまま攻める。」
私の連撃だけでなく、相馬も速鳥も息吹も、夫々的確に攻撃してくれているな?
特に息吹の槍攻撃と、『魂』のタマフリの二刀流とも言うべき攻撃は見事だ……己の武器とタマフリの同時使用など、早々出来
るモノでは無いからな。
そして、此れだけの波状攻撃を仕掛けられると、鈍重なオノゴロは手も足も出ないようだな?……まぁ、攻撃しやすくて助かる
がね、私達としては。
「願いの数だけ、俺は強くなる。十六人分の願いが、俺を英雄に変える。
治郎吉、お前の猫は俺が世話している。長生き過ぎて、猫又になりそうだ。
玄角、お前の惚れた女は嫁に行った。すっかり幸せそうにしているからすっぱり諦めろ。
かぐや、お前の妹は無事に送り届けた。生意気すぎて、誰かにそっくりだったぞ。
左近、残るはお前だけだ……其処で待ってろ、今連れて帰る!!」
そして、此れで全部位破壊だ!!
――ゴゴゴゴゴゴ……ギュイィィィン!!
其れがトリガーとなってタマハミか……しかも、破壊した四肢が再生するとは、矢張りゴウエンマに匹敵する力を持って居るよう
だなコイツは?
……尤も、そんな事如きで怯む私達ではないがな!!
「ハハハハ、今更俺にそんな物が通じるか!」
「そう言う事だ!さぁ、攻めるぜ!!」
「此処は警戒すべきか?……否、今は攻めに徹する!」
今は攻撃あるのみだ!
『ウガァァァァァァァァ!!』
「っと、全身を丸めて転がり攻撃か?」
あの巨体の転がり攻撃を受けたら、只では済まんだろうな――私以外の者ならば。
私を誰だと思っているんだ?ウタカタ最強のモノノフだぞ私は……故に、そんな攻撃など通用しない!!
「転がってきた所を蹴り飛ばした!!」
「まだまだ!!」
「更に跳ね返ってきた所を、今度は拳で殴り飛ばすとは……見事。」
「で、そうなると再度跳ね返って来たのには何をする心算だアインス?」
其れはだな、こうして錐揉み回転のジャンプから、遠心力たっぷりのキックで蹴り飛ばすのさ!
これぞ必殺ジェクトシュート!!……お前の方に蹴り飛ばしたから、好きに処理してくれ相馬。出来ればスカッと一発決めてくれ
ると嬉しいぞ?
「良いだろう。……消し飛べ!!」
――カッキーン!!
うん、見事な一本足打法だ。そして、素晴らしいホームランだ。
同時に此れで終いだオノゴロ!転がり攻撃をカウンターされただけでなく、相馬の一本足打法で虚空に打ち上げられたお前に
は、もう成す術はない!!
――キュゴォォォォォォ……!
『!?』
「現れた場所が悪かったな?……精々地獄で悔むが良い。」
此れが私達の絆の力だ……そして、この一撃で閻魔の元に舞い戻るが良い!!
Essen Sie gut!Damon in Streifen geschnitten Master!!(喰らえ!鬼千切り・極!!)
――ズバァァァァァァァァァァァァァ!!!
「終わりだ……深き闇に沈むが良い。」
これでオノゴロは片付けた!!
――バシュン!!
『友の遺志、私が継ぐ。』
――ミタマ『黒田官兵衛』を入手した。
新たなミタマも手に入ったみたいだしね。
「邪魔者は片付けた……其方は如何か、相馬殿?」
「……少しそっとしといてやりな、八年ぶりの再会だ。」
「待たせたな左近……帰るぞ、お前の家族の元に――そこでゆっくりと休め、戦友よ。」
どうやら、左近の骸は見つかったようだな?
八年も経っている故に、すっかり骨となっているようだが、これで漸く家族の元に帰れる訳か……オオマガドキを戦った英雄に
相応しい墓を作ってやらねばだな、左近の家族は。
さて、ウタカタに戻るぞ。
――バシュン!
「隊長、お帰りお待ちしていました。」
お前は、今の参番隊の副官だったね?……如何したんだ、何か慌てているようだが……?
「ご苦労。……如何した、そわそわして?」
「はっ、いえ……その……兄は……」
「連れ帰った。さっき他の者に託した所だ。――会いに行ってやれ、お前の家族に。」
「はっ……!ありがとうございます!」
家族だと?……若しかして左近はお前の……
「左近は、私の兄ですアインス殿……ご協力、感謝します……!」
「兄だったのか…!!」
そうか……良かったな、見つかって。――会いに行ってやれ、左近もきっと、妹に会いたいと思っていただろうからね……そし
て、お前がドレだけ心配していたのか、思い切り伝えてやると良い……
「……此れで終わったな、俺の八年の戦いも……」
「……まだ、終わって貰っては困るな。」
だが、そう簡単に戦いは終わらないモノだ……大和に木綿か、どうした?
「戦いはまだまだこれからだ――そうだな、相馬、アインス?」
「……人使いの荒い方だ――だが、その通りですお頭。『鬼』を一匹残らず蹴散らすまでは……」
「私達モノノフの戦いは終わらない――そう言う事だろう?」
「相馬さん……アインスさん……」
「ゆ、木綿殿、貴女が俺達の約束を繋いでくれた……ありがとう。」
「わ、私は何も……相馬さんが、自分でやり遂げたんです。」
「お前達もな。一応感謝しておく。」
私達は一応か相馬?……マッタク口の減らない奴だなお前は?――が、それとは別に、お前は相馬に言う事があるだろ暦?
「先輩……そうだな。
相馬殿、私は貴方に謝らねばならない――私は、また誤解してしまった……」
「何を誤解したのか知らんが、気にするな――尤も……アインス、お前は参番隊から除名だ。」
「……理由を聞いても良いか?」
「別に腹を立ててる訳じゃない――お前には、お前の仲間がいる……そうだな?」
……そう言う事か。
些か言い方が気障だが、分かったよ――確かに私は、参番隊の隊員よりも、ウタカタの隊長の方が合っている様だからね。
「其れで良い、大事にしろ。」
「やれやれ、何をしているかと思えば……気は済んだか相馬?」
「む……出たな九葉。」
何用だ?折角良い雰囲気になったのだから水を差さないでほしいのだがな?
「私に断りもなく出撃した上に、戦力を無駄に使うとは、懲罰ものだな――結果的に『蝕鬼』は倒したのだから、戦果は上々と言
え無くも無いが……今後は控えろ、良いな?」
「……承知した、九葉殿。」
……と思ったら、意外にあっさり許したな?――今の状況を鑑みて、相馬ほどの手練れを罰するのはデメリットの方が大きいと
判断した故かも知れないがね。
「士気を高める効果があるなら歓迎だ……それがどんなに無益な事でもな。」
「相変わらず、一言余計だなお前は……」
「褒め言葉と受け取っておこう。
しかし、此れで敵を七割近く削ったはず……殲滅まで、あと一歩だ。――期待しているぞ、お前達の今後の働きに。」
七割とは随分と削って居たんだな知らぬうちに?
だが、そう言う事ならば期待には応えようじゃないか九葉――元より我等の目的は只一つ……この世に蔓延る『鬼』を一匹残
らずに滅する事だからね。
精々、暴れさせて貰うとするさ……人の世を取り戻すためにね。
――――――
Side:暦
私は……また誤解してしまった…………私は、此のままで良いのだろうか?
ただ命令に従い、人を疑うだけで……私はどうするべきなのか?……如何すれば良いのだろうか先輩、お頭……
To Be Continued… 
おまけ:本日の禊場
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