Side:アインス


ん……うぅん……もう、朝か?何やら夢の中で、オビトとしりとりをしていたせいで、余り眠った気はしないのだが、身体の疲労は
取れているので眠っていたのだろうな。
――其れは其れとして、相馬は何処だ?姿が見えないが……洞窟内を探してみるか。――一体何処に行ったのか。


一体何処にいる……って、何か見えるぞ?あれは……千か!!



「おや……おんしは……梓ではないか。無事生き延びていたか。安心したぞ。」

「お陰様でな――其れと、此れからは私の事はアインスと呼んでくれ。」

「アインス?……何の意味があるかは知らぬが、お前が望むのならばそうしよう。」



そうしてくれ。――其れよりも、千も無事でよかったよ。



「……私もな。また会えるとは思わなかった――連れは元気か?確か、暦と言ったか……」

「あぁ、お陰様で元気だよ……お前が調合してくれた薬がよく効いたみたいでな。」

「そうか、元気にしているか。其れは良かった。
 …………おかしなものだな……まだ私にも、人の無事を喜ぶ感情が残って居たか。
 それより……また此処に何の用だ?生きて戻れたのだろう?こんな場所に何度も来るものではないぞ?」


私もそう思うが、用が有ったのは私じゃなくて相馬だ。――私は道案内をしただけに過ぎん。其れに、瘴気の影響を受けない洞
窟内ならば、安全だからね。











討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務63
『相馬の目的と暦の疑念と陰陽方と』











「ほう……参番隊の相馬と一緒にな……私は、ちょっと人と会う用事があってな。
 ――もう用も済んだ、そろそろ行かねばならん。この洞窟の奥に、別の出口があってな。そちらから抜ける心算だ。
 折角会えたのに、残念だ。…名残惜しいが…お別れだ。」

「そうだな、もう少しゆっくり話をしたかったが……」

「…………アインス、おんしに一つ忠告がある――この地より去れ。間もなくこの地は、異界に沈む。
 北の『鬼』の事は知っているな?アレは、人の手には余る……いずれウタカタも呑み込まれよう。
 おんしはまだ、モノノフになって間もないのだろう?雑兵として最前線に送られ、命を落とすのを見たくはない――私の忠告、
 聞いてくれようか?」



忠告、痛み入るがそうは行かんよ。
確かに私はモノノフとなって日は浅いが、生憎とウタカタのモノノフの中では一番強いし、何よりも隊長を任されているのでね?
隊長が里を見捨てて逃げる訳にも行かんさ……例え、北の『鬼』が相手であろうとも私はウタカタを守る――其れが、私がウタ
カタにいる理由だしな。



「……そうか、おんしらしい答えよな……ではせめて、死なずに生き延びよ。戦場で私とまみえる、その日まで。」

「ほう?其れは共に『鬼』を討つと言う事か?……其れとも、お前が私に戦いを挑むと言う事かな?」

「アッハハハ!冗談だ、そんな顔をするな。折角の美しい顔が台無しだ。
 また会えるのを楽しみにしているぞ、ウタカタの勇敢なモノノフよ。……ではなアインス、おんしの武運長久を祈る。」

「あぁ、お前も気をつけて帰ってくれ。」

……行ってしまったか。相変わらず不思議な奴だな。
さて、其れよりも相馬だが……居た。――オイ、一体何処へ行っていたんだ相馬?起きたら姿が見えないので、心配したぞ?



「起きたか、アインス。心配をかけたのは悪かったが、外を見てきたところだ。
 だいぶ吹雪もおさまった。もうここに用もない、そろそろ発つぞ。」

「吹雪がおさまって来たか……なら、外に出て瞬間移動が使えるな?……昨日の吹雪では、瞬間移動をする前に凍えそうだっ
 たからな。
 ところで相馬、外で誰か見なかったか?」

「誰か見なかったかだと?……何を言っている、俺とお前しかいなかっただろう?
 さぁ、寝ぼけてないでさっさと帰るぞ。」



いや、寝ぼけている訳ではないんだが……相馬が見てないと言う事は、千は本当にマッタク違う出口から帰ったと言う事か?
だとしたらアイツはドレだけこの洞窟を把握してるのか……若しかして、秋水並みに詳しいのかも知れん――今度会う機会が有
ったら、それとなく聞いてみるか。

取り敢えず外に出て、ウタカタに瞬間移動!!



――バシュン!!



「……うむ、何度見ても瞬間移動と言うのには驚くが、戻ったかアインス。
 相馬と共に任務に行ったそうだな?ご苦労だった。」

「あぁ、ただいま、大和。――流石は相馬、英雄を自称するだけあって頼りになる奴だよ。」

「奴の実力は、俺が保証しよう。……時に最近、相馬に張り付いていると聞いたが、何か気になる事でもあったか?」



気になる事……32歳にしては若いなってって事と、結構私の無茶なノリに合わせてくれる辺り普通じゃないなって事と、あの強
さは緑川ボイスの面目躍如だって事か?後は、あの頭の角な。



「フ……何か知らんが、ほどほどにな。――九葉から、また幾つか討伐任務が出ている。
 誰の命だろうと、御役目は御役目。生き残る為に、お前に出来る事をしろ。」

「あぁ、心得ているよ大和。」

大和は本当に良いお頭だな?
私がしている事についても、余りに危険な事だったり、里に害をなす事でないのならば止めないけれど、必要な事は確りと伝え
て道を示す……上に立つ者はこうでなくてはな。

さてと、一応暦とも話をしておくか。――暦。



「先輩……!
 さきほど耳にした。相馬殿と二人、異界に行っていたと――あの結界石の洞窟へ。
 ……如何だったろうか?その時の相馬殿の様子は……」

「私の主観だが、アイツが間者だとは到底思えんな――そもそも相馬が間者であるのなら、参番隊全員を間者と疑わねばなら
 なくなってしまうぞ?」

「……私も、相馬殿は間者ではないと、そうあって欲しいと思う。
 だが……一体何の目的であの洞窟へ…………一度、直接問い質すべきなのかも知れない――里から姿を消して、何をして
 いるのか。
 答えられなければ、その場で捕縛する覚悟で。……桜花殿たちにも相談してみよう。
 ……準備が整うまで、相馬殿の監視をお願いできるだろうか、先輩。」



其れは構わんが、如何する心算だお前は?



「……此のまま時が過ぎれば、手遅れになるかも知れない――だから、力尽くでも、真実を暴き出す。」

「確かに、時は有限だからな……其れもまた仕方ないか。」

だが、相馬は間者ではない筈だ……まぁ、暦も相馬から直接聞けば納得するだろう。
……そう言えば、敵は『陰陽方』の間者だと言ってたな?……ならば、秋水にも話を聞いておいた方が良いかも知れん。何か
知っているかもしれないからな。



「秋水、少し良いか?」

「おや、アインスさん、何か御用ですか?
 何やら最近、相馬さんに張り付いている様ですが……何か気になる事でも?」



その事でお前に聞きたい事があるんだ秋水。
どうにもウタカタに巣食う、『陰陽方』の間者が要るらしく、其れを見つけなければならないらしいんだ。
其れが誰かは分からないが、怪しむべきは最近里に来た者……そう考えると、相馬が怪しいと言う訳さ。
お前は、何か知らないか秋水?



「……『陰陽方』の間者……?
 ……困りましたね、一体何処でそんな情報を手に入れたのか。」

「其れは企業秘密だ。――其れよりも、『陰陽方』について教えてくれないか?」

「……ご存知ですか、アインスさん。
 この世界には『鬼』と共に、様々な『この世ならざるモノ』が現れます。
 その多くは、過去の遺物……書物や、建物や、ミタマです。――ですが、時にまったく異なるモノが発見される事があります。」



全く異なるモノ?……それは、私のような存在も含めてか?



「えぇ、貴女もそうであると言えますねアインスさん。
 其れは、この世界の歴史上、一度も存在した事のないモノ――遠い未来からか、或いは異世界から来たモノ。
 『陰陽方』とは、そうしたモノを研究する機関でした。
 この世界の深奥に辿り着く為、時の流れの行く果てを見定める組織……折角の機会ですので、貴女には知っておいて頂きま
 しょう。
 『陰陽方』について、何を話しましょうか?」

「連中の目的は何だ?」

「『陰陽方』の研究目的は、あらゆる時間に移動する事です。
 『陰陽方』の創始者たちは、『鬼』の研究を続ける内に気付きました――この世界には、あらゆる時間から、この世ならざるモノ
 が流されてくることに……ならば、逆に此方からあらゆる時間に移動できるのではないか。
 そう考えたのが、全ての始まりです。」



その為に、オオマガドキを引き起こそうとするとはとんでもない連中だな?……一体どんな奴等で構成されてる組織なんだ?



「組織には何人かの長老がいて、それぞれが独立した部門を率いています。
 構成員は皆、この世界のはぐれ者……研究に取り憑かれた狂人、珍しいものが好きなだけの奇人……あるいは、過去から流
 されて来た者……そうしたはぐれ者達で『陰陽方』は成り立っています。」



と言う事は、下手をしたら初穂もまた『陰陽方』の構成員になっていたかも知れないと言う事か……この世界のはぐれ者を集め
て出来た組織とはな。
それで、この世ならざるモノってのは何なんだ?



「ほとんどが過去の時代からの漂流物ですが、中には時代の特定が困難なモノがあります――遥か西の地では『オーパーツ』
 と呼ぶそうです。」

「オーパーツ……Out of place Aartifacts(場違いな工芸品)か。」

「ご存知でしたか。
 その存在は、この世界が想像以上に複雑である事を示しています――単一の歴史では、語り得ない内実を秘めている事を。
 僕が知っているのはこの位ですが、少しは貴女のお役に立てたでしょうか?」



あぁ、充分だ秋水……『陰陽方』について、良く分かったよ――連中は、決して野放しにしてはいけないと言う事もね。



「……気をつけて下さいアインスさん。……僕にも、間者が誰かは分かりません。
 僕はいつも、貴女の無事を祈っていますよ。」

「其れは、どうも。」

まぁ、私は何があっても無事だろうがな?
あの小さき勇者の10倍以上の力を持つ奴でなければ、私を如何にか出来るとは思わんし、ウタカタの精鋭が一緒なら、トコヨノ
オウ以上の『鬼』が出てきても何とかできるだろうからね。

取り敢えず、九葉からの御役目を熟すか。



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と言う訳で、里周辺に現れたカゼキリを討伐に行った訳なんだが、極めて楽勝だったな此れは。
桜花と富嶽と速鳥と一緒に行ったんだが、出会い頭に私が一刀流の居合で斬り込んで、其処に桜花が太刀の連撃を喰らわせ、
富嶽が赤熱打撃で前足を弾き飛ばしたら、速鳥が不動金縛りで動きを封じて後は全員でフルボッコにして1ターンキルだから。
余りにも弱くて話にならないが……雑兵を送り込んで、此方を疲弊させるのが『鬼』の目的ならば油断は禁物だな。

まぁ、私は滅多な事では疲弊しないがな。
さて、家に戻ってゆっくりするか――って、なんでいる相馬?



「邪魔するぞ、アインス。今少し良いか?」

「上がり込んでいるんだから良いも悪いもないだろう。」

「ハハ、違いない。
 なに、最近お前には世話になってるからな。労をねぎらいに来た。――如何だ、一杯付き合えよ?」



労をねぎらいに来たって……本当の目的はそっちだろう?
だが、そう言う事なら大歓迎だ。私も酒は好きなのでね――待ってましたと言う所だよ。



「ハハハ!洞窟で強い酒を煽って寝ていたが、矢張りお前も飲兵衛だな?」

「まぁ、否定はしないさ。」

其れと丁度良いタイミングだ。
酒盛りをするには肴も必要だろうが……丁度仕込んで1週間だから、良い具合に仕上がってる筈だ。……うん、良い感じだな。
其れとこっちも、良い具合に出来上がってるみたいだ。



「アインス、其れは何だ?」

「頭と中骨を取ったカタクチイワシを、油と塩に漬け込んだアンチョビと、牛乳に塩を加えて発酵させて固めたチーズだ。
 何方も少々クセはあるが、酒の肴には最高だぞ?」

「ほう、其れは楽しみだな。」



そんな訳で、相馬と酒盛りをした。



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「ほう?其れでどうなった。――ハハハ、なるほど、速鳥がな。
 其れで、其の後は?『鬼』は見つけられたのか?」

「あぁ、何とか見つける事が出来た――と言うか、見つけて討伐できなかったらオオマガドキを防ぐ事は出来なかったよ。」

「なるほどな。」



楽しい時間ほど早く過ぎると言うが、本当に其の通りだな。
酒を飲み、肴をつつきながら語らっていたら、あっという間に夜も更けてしまった……月が真上にいると言う事は、もうすぐ日付が
変わるかな。



「いや、面白い話を聞く事が出来て良かったぞアインス。
 だがスマンな、だいぶ遅くなってしまった――お前達の事、色々聞けて面白かったぞ。
 夫々の隊に、夫々の物語があるモノだ。」

「そうだな。……良ければ、参番隊の話を聞かせてくれるか?」

「参番隊の……?
 そう言えばお前は……と言うか、お前の中にいる梓はあずまの地の出身だったな――ならば知らんのも無理はない。
 少し昔話をしてやろう。――オオマガドキの最後の夜の事だ。
 俺達は、無数の『鬼』に襲われて散り散りになって戦っていた……中でも俺とお頭は、化け物の様な『鬼』とやりあっていてな。
 そいつと戦うのに必死で、仲間を助けている余裕はなかった――一人、また一人と、仲間達の悲鳴が聞こえて来る……だが、
 俺にはどうする事も出来ない……心底、自分の弱さを呪ったよ。
 俺は残った力を振り絞って、目の前の『鬼』に一撃を叩き込んだ――そこで何も分からなくなった。そして、妙な夢を見た。
 暗闇の中で仲間を探し、そして現れた仲間達が次々と光の先へ歩いて行くと言う夢をな。
 俺もその光に向かって行きそうになったが、引き止める手があって、俺は行かなかったが……」

「!!!」

相馬、お前……其れは――!!



「……ふと目が覚めると、俺は床で横になっていた――すぐ横で、木綿殿が俺の手を握ったまま眠っていた。
 一晩中、そうしてくれていたらしい――その時に漸く、『鬼』と戦って死に掛けたのを思い出した……身体中包帯だらけでな。
 木綿殿が、一生懸命巻いてくれたそうだ……それからしばらくして、俺は参番隊の全滅を知らされた……あの光の先は、黄泉
 の国に続いていたのかも知れん
 俺を引き止める手が無ければ、そのままあの世行きだっただろう――木綿殿は、俺の命の恩人だ。
 何時か、あの子の恩を返す……其れまでは、生きていなければな。」

「だから、木綿を気にかけているんだなお前は……」

「そう言う事だ。……其の後で、俺は自分が何時の間にか『英雄』に祭り上げられていた事を知った――仲間一人救えなかった
 俺が、英雄とは笑わせる。
 だが、人が俺を英雄と呼ぶのなら、俺はその英雄となって全ての願いを背負う……その時、そう誓ったのさ。」



成程……だからお前は、己を英雄と称する訳か……ちゃんと理由があったと言う事か。
貴重な話を聞く事が出来て良かったよ相馬――……此れは、益々相馬が『陰陽方』の間者である可能性は低くなったな?確率
で言えば1%未満だな。



「……さてと、話が長くなった――昔話は此処までだ。俺はそろそろ戻る。
 じゃあな、アインス。また明日、任務で会おう。」

「あぁ、そうだな……お休み相馬、良い夢を。」

「ハハハ、お前との酒盛りの後だ、良い夢が見れるに決まっているだろう。」

「そう言って貰えると嬉しいよ。」

取り敢えず今日はもう休むか。――もう良い時間だし、これ以上は明日の任務に差し支えるからね……では、お休みなさい……








――――――








Side:相馬


アインスの奴め、思った以上に行ける口で驚いたぞ?……其れに、まさか自家製の肴まで用意してるとはな。
アンチョビもチーズもクセは強く、塩が強めだったが、其れが逆に酒によく合っていたからな……あんなに楽しい酒盛りは、一体
何時以来だろうな?

だが、おかげで俺の決意も固まった――全ての願いを叶えるまで、後もう少しだ。
待っていろ左近。お前の願い、俺が必ず叶える!叶えて見せる!!












 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場