Side:アインス


相馬に張り付いて数日が経つが、特に怪しい様子は無いな?今日の任務でも、私が投げ飛ばしたミフチを、金砕棒で見事にホ
ームランしてくれたからな?
……私が言っても説得力は皆無だろうが、投げ飛ばされた『鬼』を軽々打ち返すとは、相馬も中々に人間離れしているな。
取り敢えず戻って来たぞ木綿。ただいま。



「おかえりなさいアインスさん。
 聞きましたよ、最近、相馬さんと凄く仲が良いって。隊長同士、気が合うんじゃないかって、もっぱらの噂です。」

「そうなのか?――私は極秘任務を遂行中なだけだ。
 なので、特に仲が良いと言う訳ではないぞ?尤も、不仲と言う訳ではないがね。」

「またまた、そんな事を言ったら相馬さんが泣いちゃいますよ?」



これくらいでアイツが泣くとは思えんが……そう言えば、お前と相馬は如何言う関係なんだ木綿?差支えなければ教えてくれな
いだろうか?



「えっと、8年前、暫くウタカタの里で一緒だったんです。
 相馬さんは、オオマガドキの戦いで、お父さんと一緒に戦っていた方なんです――当時、ウタカタは前線の支援拠点で、各地
 からモノノフの皆さんが集まってました。
 その中に、相馬さん達、参番隊の方々が居たんです――私はしばらく皆さんの身の周りのお世話をしてました。
 まだ、10歳くらいでしたが、その時は子供も大人も関係なくて。――でも、あのオオマガドキの最後の夜……相馬さんが、大怪
 我をして運び込まれて来たんです。
 酷い怪我でした。私にはどうしようも出来なくて……でも、何とか一命を取り止めて、最後の夜を乗り越えたんです。
 それからしばらくして、生き残った方々と、霊山に戻って行かれました――私が知っているのは、そのくらいです。
 お父さんの方が、ずっと詳しいかも知れません。二人で凄く強い『鬼』を倒して、鬼門を封じたって聞きました。
 中つ国を救った英雄だって、皆そう言います――でも、相馬さんの居た参番隊は、その戦いで全滅してしまったそうです……
 お父さんも、その時、左目を……ご、ごめんなさい!ちょっと暗い話になっちゃいました!
 ――私は、元気じゃないとダメですよね。反省です。
 相馬さんと一緒に、任務頑張ってください!!」

「あぁ、頑張って来るよ。」

相馬は、オオマガドキの時にウタカタに居たのか……だから、大和とも顔見知りだったんだな。
だが、その戦いで参番隊は瓦解し、相馬だけが生き残ったと言う事か……如何やら、私が思っている以上に、相馬は重い物を
背負っているようだな。











討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務62
『結界石の洞窟へ~相馬の探し物~』











ともあれ、相馬の過去は兎も角としても、此れからの事を聞いておかねばならないから相馬を探しているのだが……居た。
総本部の入り口横の大きな結界石の所に居たのか――任務が終わったばかりだが、何をしてるんだお前は?



「アインスか。丁度良い所に来た。――一つ、頼みたい事がある。」

「頼みたい事だと?」

「お前と暦が過ごしたと言う、『結界石の洞窟』に案内してくれないか?――秋水に地図を寄越せと言ったら、門外不出だと断ら
 れてな――マッタク、あのケチめ……」



うん、其れには同感だが、秋水にも秋水の目的があるから、一概に非難できないがね――まぁ、あそこに案内する位なら大した
事じゃないから任せてくれていいぞ?
其れに、お前にとってあそこは、行かねばならない場所のようだからね。



「助かるぞ。お前くらいしか、話の分かる奴が居ないからな?……任務の序に連れて行け。」

「了解だ相馬。――が、目的は何なんだ?」

「……目的か?………………俺には『探し物』があってな。
 其れが結界石の洞窟とやらにないか調べておきたい――丁度『乱』の領域での討伐任務が出ている。
 『鬼』をぶっ倒すついでだ。構わんだろアインス?」

「ヤレヤレ、仕方ないな。」

「話が分かるな。――善は急げだ。早速出発するぞアインス。」



善は急げって……なんか使い方が違う気もするが、まぁ良いか。
『乱』の領域での任務、イテナミの討伐か――其れじゃあ、サクッと倒して結界石の洞窟へとご案内するか。……案外また、千と
会えるかもしれないしな。



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と言う訳で、今日は瞬間移動を使って空からこんにちわだ!!
相馬、イテナミの奴は、此方の事には全く気付いていないようだ。……自由落下の落下速度を加えた一撃を脳天に叩き込んで
やれ!!



「便利なものだな瞬間移動と言うのは?良いだろう。この一撃を受けてみろ!!」


――ドゴォォォォォォォォォォォォン!!

――バキィィィィィィ!!!


『グギャァァァァァァァァァ!?』




お見事。見事に脳天をぶっ叩いて、更に一撃で弱点である角を圧し折ったな?
相馬の体重+金砕棒の重量+落下速度+振り下ろしによる威力倍加の一撃は、大型の『鬼』であっても、一撃で部位破壊する
程のモノか。……今の一撃なら、闇の書の闇のシールドも壊せるかもだったからね。

そして次は私の番だ。
スタンして動きが止まった所で、喰らえ夜叉車!!


――ズババババババババババ!!!!



「ハハハ、身包み剥がしてやったぞ!此のまま叩き潰す!!」

「そうだな。今の一撃で、周囲の景色がタマハミ特有の不気味な色になって来たが、まだスタン状態から復帰してないから、この
 まま一気に倒してしまおう。」

成功すれば良いや程度のモノだったが、此処まで奇襲が効果があるとはな……否、相馬の金砕棒での先手があってこそか。
In jedem Fall Sie sterben hier!(何にせよ、貴様は此処でお終いだ!)
大和と共にオオマガドキを戦った英雄である相馬と、ウタカタ最強の今世のムスヒの君のコンビの前では、如何に北からやって
来た、新たな『鬼』であっても強敵ではない。

相馬!力一杯横っ面を打ん殴ってくれるか?



「良いだろう。
 だが、俺の力を使った以上は、精々派手にブチかませよアインス?」

「勿論、その心算だ。」

「任せたぞ?……此れでも喰らえ!!」



――バッキィィィ!!



……金砕棒のフルチャージ鬼千切りとは、イテナミに同情してしまうくらいに痛そうだな?……一般人が喰らったら即死、モノノフ
であっても粉砕骨折は免れない一撃だからな今のは。
だが、良い具合に上体が浮いてくれた――ので、すかさずそこを蹴り上げる!!更にアッパーカットで殴り飛ばす!!
そして上空でイテナミの両腕を極め、右足を首に、左足を胴体に絡ませて弓なりに反らし……完成、マッスルスパーク!!

此れだけでも超必殺技だが、更に此処からイテナミを逆さまにして、頭と右腕を足で固定して、左腕を右手でホールドして、左手
で胴体を持って、其のまま地面に突き刺す!!
これぞ、ビッグベンエッジ!!!


――ズドォォォォォォォン!!



「と、言う訳で終わってみれば犬神家。地面からイテナミが生えましたとさ。」

「生えたんじゃなくて、突き刺したんだろうが……思った以上に弩派手に決めてくれたなアインスよ。」

「派手なのは嫌いじゃないのでね。」

これでイテナミは……うん、完全に死んでいるな。
『鬼』が何を考えているか等と言う事は知る由もないが、まさか人間相手に何も出来ずに倒されるとは夢にも思って居なかったろ
うね……お前にとっては悪夢だったろうが、悪夢と共に地獄に帰るが良い。

さて、イテナミは倒したので任務は完了だが、結界石の洞窟に行くんだろう?
丁度いい場所だったよ此処は――私と暦は此処の崖から落ちて結界石の洞窟に辿り着いたんだ。此処から降りて行けば、すぐ
に着く筈だ。魔法を使えば、一緒に降りる事も簡単だからね。



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「此処が結界石の洞窟か……可成り奥に広がって居そうだな。
 俺達だけで探索するのは無理があるか――いや……それ以上に……マッタク異界の影響を受けていない。
 よもや此処までとはな……」



そう言う場所なんだよこの洞窟は。
異界の影響をマッタク受けていなかったからこそ、私と暦は生き延びる事が出来たんだ――もし、僅かでも異界の影響を受けて
いたら、私は兎も角、暦は骸となってただろうさ。
で、此処に『探し物』とやらはありそうか、相馬?



「俺の『探し物』は、異界に消えた代物だ――其れを考えると、此処は望み薄かもしれん。
 ……すまんな、態々案内して貰ったのに。」

「気にするな。
 その『探し物』とやらは、とても大切な物なのだろう?……ならば、僅かでも可能性のある所は探してみるべきだ。
 それにその……まぁ、なんだ、元気を出せ相馬。」

「元気を出せ?なんだ、そんなにヘコんで見えたか――大丈夫だ、一々ヘコんでいたら埒が明かん。
 さて、そろそろ帰るぞアインス。……と思ったが……如何も吹雪いて来たな?今日は此処で一晩明かすか……」



おやおや……吹雪いて来てしまったね?
瞬間移動――とも思ったが、どうやらこの結界石の洞窟は、異界の影響だけでなく、外的な影響を全て遮断してしまうらしく、ウ
タカタの皆の気配を探る事が出来ないから、無理だな。
オラビの呪いを受けずとも、瞬間移動で此処からウタカタに帰るのは無理だったと言う事か。

ならば仕方ない、一晩を明かす事になるが……寝てる間に変な事をするなよ相馬?



「誰がするか。お前に夜這いを掛けようものなら、命が幾つあっても足りんぞ――とにかく、明日の朝発つ。
 休んでおけアインス。」

「そう言われても、すぐに寝る事など出来ん……なんか話でもしてくれ。」

「あのな……俺は、語り部か何かか?
 …………仕方ない。なら、お前に縁のある話をしてやろう――こう見えて忙しい身でな。8年前から、各地を転戦している。
 異界を渡り歩き、生き残りを助ける。其れが俺達、参番隊の負った役目だ。
 お前の――正確には、お前と一体になった梓の故郷にも行ったぞアインス……遠い東の地に……」



梓の故郷に……だと?
詳しく知りたいな。



「7年前、オオマガドキから間もない頃、霊山の命令で、俺達は東の地に入った。
 目的は生存者の救助。異界に沈んだ土地で生き残りを探す事だ――幾多の異界を越えて、東へ東へと、俺達は進み続けた。
 だが、幾ら行けども、あるのは朽ちた家と屍のみ……中には、人間同士で殺し合った形跡すらあった。
 『鬼』に囲まれ、恐怖に怯える中、食料を巡って殺し合いになったらしい……地獄だな。」

「……あぁ、確かに地獄だな……極限状態に置かれた人は『鬼』以上の脅威となるか……やり切れん話だ。」

「マッタクだ。……結局、俺達は誰1人救えず、東の地を後にした――残ったのは、己の無力さと『鬼』への憎悪だけだ。
 其の後も、西へ南へと、俺達の『救助』は続いた……だが、何処も状況はおなじでな。
 誰1人、生き残っている者は居なかった……そして、『北』に至っては、濃い瘴気で近付く事さえできない。
 俺達は、半ば生存者の救助を諦めた。
 そんな頃だ、風の噂に、1人の若者の話が聞こえて来た――東の地の地獄を生き抜き、中つ国まで脱出した者がいると。
 アレは、お前の中にいる梓の事だったんだなアインス。」



そう、だな。
梓の記憶が教えてくれている……東の地の地獄を。そこから生き抜いて中つ国まで脱出し、そしてモノノフとなった経緯をな。



「俺達は奮い立った。まだ、救える命があるかも知れないと。
 俺達の助けを待って、1人孤独に耐えている者が居るかも知れんと――だから、俺達は未だ各地を渡り歩いている。
 異界で孤独に、助けを待つ者を求めてな――まぁ、そう言う訳で……一言礼でも言っておこう!
 お陰で部隊の士気も上がったぞ。」

「どういたしまして。」

感謝が些か適当な気もするが……其れは兎も角として、若しかして今日もその為だったのか?



「いや……今日は別件だ。
 ……さて、話は此れで終わりだ。黎明には発つ。いい加減寝ろ。」

「寝ろと言われても簡単に寝れるか。
 だが……そうだ、こんな時の為に此れがあった!!『乱』の領域は寒いので、気付けになるかと思って持って来たウィスキー
 のポケット瓶が!!」

よろず屋さんに置いてあったので買っておいたのだが、其れがこんな所で役に立つとはね。
ポケット瓶だから量はそれ程でもないが、此れだけの量でもウィスキーの様な強い酒ならば酔っぱらうだろう……と、言う訳で一
気飲みぃ!!


……うん、一気に酔いが回った。――此れなら寝れそうだ……おやすみなさい。








――――――








Side:相馬


眠れないからって俺に話しを頼んだ上で、其れでも眠れんと強い酒を一気に煽って強制睡眠とは……益々コイツは只者ではな
いな?……否、異世界からやってきた存在とモノノフの魂が融合している時点で普通ではないか。

兎に角、今は安心して眠れアインス――そして、アインスの中にいる梓よ。
東の地の悪夢は、もう終わった。

あとは……俺達の悪夢を終わらせんとな、左近!










 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場