Side:アインス


よもや私の正体を暴露する事になるとは思わなかったが、ウタカタの皆は私の事を受け入れてくれたか……自分で言うのもなん
だが、人非ざる存在である私を受け入れてくれるとは、ウタカタの器の深さと広さは計り知れんな?
其れは相馬にも言える事だが……まぁ、其れ程の広さと深さが無ければホロウを受け入れる事もしなかっただろうがな。

禊を終えた後で改めて里を見て回ってるんだが、思いのほか自分が大事にされていたことに驚いたよ。
桜花は私と暦の捜索を打ち切ると言った九葉に、面と向かって斬ると言いきったらしいし、他の皆も私と暦の事を案じてくれてらし
い……相馬などは、百鬼隊を捜索に出そうとしたらしいからな。

此れだけ思われているのならば、簡単に死ぬ事も出来ないな。
取り敢えず大和から休みを貰ったので、今日はゆっくりする心算だが……何をしてるんだ息吹?



「あぁ、アンタか。
 マッタク持ってとんでもないよなアンタは……まさか人間じゃなかったとは驚きだが、かえってその強さに納得したぜ。
 だが、其れだけにアンタと暦が遭難したって聞いた時には驚いたぜ……アンタの話を聞いた後なら大丈夫だって思えるが、アノ
 時は、マジで終わったかと思ったからな?」

「其れは、心配をかけてしまったね……」

「何、アンタがそう簡単にくたばる筈はないって信じてたからな?
 アンタが死ぬときは、この世の終わりかもな?……何となくそんな気がするぜ。
 さて、軽口は兎も角として、本当に気をつけろよ梓……もといアインス。――みんなアンタを信頼してる。かく言う俺もな。
 だから、簡単に死ぬな――頼んだぜアインス。」



分かった、任されたよ息吹……其れよりも『オビト』と言う名の英雄を聞いた事は無いか?――もしも知って居るのなら、どんな些
細な事でも良いから教えてくれると助かるんだけれどね……











討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務60
『陰陽方が放った間者とは……?』











「……『オビト』?聞いた事が無いな――ヤマトって英雄なら知ってるんだが……。
 残念、俺は生憎歴史に疎くてな――ま、女の子とお茶ついでに聞いて回るぜ。其れで良いだろ?」

「……期待しないで待ってるよ。」

息吹は知識は兎も角、顔は広いから若しかしてと思ったが、此れは多分ダメなパターンだな間違いなく……となると、那木に頼む
のが上策だな。

「那木。」

「此れは此れは梓様……いえ、アインス様でございますね……
 貴女の正体には些か驚きましたが、其れでもアインス様が私達の仲間である事に変わりはございません――所で、私に何か
 用が有ったのではありませんか?」



あぁ、そうだった。
ウタカタ一の博識であるお前に聞きたいんだが、『オビト』と言う名の英雄に聞き覚えは無いか?



「『オビト』と言う英雄の名、でございますか?
 オビト……モノノフの英雄で、その様な方が居たか如何か……残念ながら、私には心当たりがございません。
 ですが、些か興味深いお名前でございます――少し文献を調べてみます。思わぬ発見があるかも知れません。
 楽しくなってまいりました♪」

「そうか……頼りにしているよ那木。」

これで、オビトに関する何かが分かれば良いんだがな……っと、其れは其れとして、暦の密命とやらについても話をしなくてはな
らないな。
陰陽方がどうのこうの言っていたが、ウタカタにとって脅威となる事ならば協力しなくてはだからね。
……暦は何処に居る――って、石段の上に居たのか。



「……先輩、身体に大事は無いだろうか?
 私も貴女と同様、お頭から休みを頂いた……こうして里で過ごせるのも、全て貴女のお陰だ。感謝する、先輩。」

「礼はもう良いさ。其れに、お前が生きているのは千と言う名の女性が薬をくれた事が大きいからね。」

「千と名乗る方が、薬をくれた……?あんな異界の底に、人がいたと言うのか……?
 寝込んでいて全く気付かなかった。一体何の目的で……?
 いや……私を助けてくれたのだ。命の恩人に対して失礼だった――その方にもお礼を言わなければ。
 もし会えたら、お伝え願いたい。」



会えるかな?機会があればウタカタに遊びに来いとは言ったが……あの見た目では、中々人前に姿を見せるのは難しいだろう
から、来る可能性は低いか。
時に暦、前に言っていたお前の密命とやらについてだが……



「その話か……考えて頂けただろうか?
 この地に潜む敵の間者を見つけ出す為、ウタカタの皆さんの協力をお願いしたい。」

「皆に?」

「……今は彼方方しか信頼できない故。
 詳しい事は私から説明する。貴女の家に集まって貰ってよいだろうか?――くれぐれも、『百鬼隊』とホロウ殿に、話が漏れない
 よう、注意願いたい。
 特に相馬殿と、九葉殿には黙っていてほしい。」

「分かった。もとより協力する心算だったからな……皆に声をかけてみるよ。
 皆、ウタカタを大事に思っているから、敵の間者が紛れ込んでると聞けば、快く協力してくれる筈だ。」

「申し訳ない、先輩。私は先にご自宅に行っている。
 用事がすんだら来てほしい……宜しくお願いする。」



あぁ、直ぐに皆を集めて行くから待って居てくれ。
……それにしても『百鬼隊』とホロウには知られるなとは、徹底的に外部の人間には情報を漏らさないと言う事か――ドレだけ考
えても、ホロウがスパイだと言う事は無いと思うのだがね。
相馬もその線は可成り薄いだろうが……暦的には疑わしい訳か――まぁ、九葉に関しては怪しいと思うなと言うのが無理だが。

取り敢えず、皆を集めて家に戻るか。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



と、言う訳で皆を集めて私の家に。
初穂と那木と息吹と速鳥は玄関から、桜花と富嶽は本部を通って裏口からな……直通になってる事にもう少し驚くと思ったんだ
が、『便利で良いな』で済ますとは、こっちが驚きだよ。
さて、此れで全員揃ったぞ。



「如何したんだ、暦。私達に話とは……」

「……態々呼び出しといて、楽しくお食事会ってわけでもねぇだろ?」

「……その通りだ、富嶽殿。
 実は、ウタカタの方々に、折り入ってお願いしたい事がある。
 この里に潜む敵……『陰陽方』の間者を見つけ出す為、ご協力をお願いしたい。」

「「「「「「!!!」」」」」」



賽は投げられたが、果たしてどんな目が出るのか……取り敢えず10面ダイス2つで99が出ない事を祈っておこう。








――――――








Side:秋水


人目を盗んで里を抜け出すと言うのも、中々に難しいモノです……尤も、ウタカタの皆さんの事ですから、気付いていても見逃し
て貰ってる可能性は否定できませんがね。
ですが、多少の危険を冒してでも、彼女には伝えねばならない事があります……長老達だけでなく僕個人としても、彼女の行動
は看過できない物が有りますので。



「待ったか、秋水?」

「……いえ、今来た所ですよ……虚海さん。」

「こんな所に来ても良いのか?ウタカタのモノノフに見つかったら、そっ首刎ねられてしまうぞ?」

「……如何でしょうね?あの方々は、存外お人好しですから。」

「お人好しか……。
 そう言えば、奇妙なモノノフに会ったが、アレは相当なお人好しだった……まぁ、其れは良い。おんしが私を呼び出すとは珍しい
 事も有るな?」



……長老達からの伝達ですよ虚海さん。――速やかに行動を中止せよ、との事です。
貴女が何やら勝手に動いている事に、長老達はご立腹の様です。



「おやおや、互いの邪魔はせぬ盟約ではなかったか?
 表の世界では生きられず、さりとてモノノフにもなれない、世界の逸れ者――其れが私達『陰陽方』。
 今更、人の様に『組織ごっこ』をしても仕方あるまい。」

「……何を考えているのですか、虚海さん。」

「……私は探しているのだ、この狂った世界の全てを元に戻す方法を――其れを見つけるまでは、立ち止まる訳にはいかぬ。」

「そのための『蝕鬼』だと?」

「アッハハハハハハ!おんしに隠し事は出来んな。
 とんだ食わせ者だ……矢張り別の間諜を放ってよかった。」

「別の間諜……?」

「おんしは腹の底が読めぬ。
 もう少し扱い易そうな者を送り込んでおいた。」



……誰かは、教えて頂けないのでしょうね――教えては、意味がありませんから。



「その通りだ秋水。
 邪魔はせぬことだ……おんしは、ただ見ておればいい――ではな秋水。互いに生きていればまた会おう。」



……僕以外の間者……如何も厄介な事になりそうです。
尤も、ウタカタを如何にかしようとした所で、アインスさんと言う、空前絶後の存在が居る以上は、何とかなるでしょうが……其れ
だけに、彼女が狙われるような事態だけは避けなければ……

どうにも、虚海さんの行動の果てには、アインスさんの危機が待って居るような気がしますからね……








――――――








Side:アインス


「『陰陽方』の間者だと……?」

「そうだ。敵の間者が潜伏している情報を掴んでいる。
 『陰陽方』について、皆さんは何処までご存じだろうか?」



敵の間者が潜り込んでいると言う話から、『陰陽方』が何者かと言う話になって来たが、余り御存知ではないな?……精々、連
中がオオマガドキを利用して、時の遡行を企てていると言う事位か?
正直言ってよく知らないな。



「コホン……では、私から……」

「……簡潔に頼むぞ那木。……出来れば10分以内で。」

「……努力いたします。
 『陰陽方』は『モノノフ』の影――かつて『モノノフ』の一部だった組織です。
 『鬼』の研究を行う専門機関で、天文、算術、医術に長けた者が集って居たそうです。
 その目的は、この世の深奥に辿り着く事――真理の追及が組織の命題であったようです……ですが、今より数十年の昔……
 人の道に外れた実験に手を染め、『モノノフ』を追放されたと聞きます。
 以来、『モノノフ』と『陰陽方』は、敵同士となったそうでございます。
 『陰陽方』が、何をしようとしていたのか、其れは公にはなっておりません……ただ、人の道を外れたとだけ……
 その『陰陽方』も、8年前のオオマガドキで壊滅したと聞きます。今となっては、過去の亡霊と、そう思っておりましたが……」



その亡霊は、実は生きていたと言う訳だな暦よ?



「……今より1カ月前の事だ。
 北の『鬼』が中つ国に侵入した頃、シラヌイの近辺で不審な男が拘束された――その男は深手を負っていて、間もなく息を引き
 取った。
 だが、今際の際に、言い残した事がある……自分は『陰陽方』の構成員で、北の『鬼』をけしかける計画に加担したと。」

「「「「「「「!!!」」」」」」」


何と言う事だ其れは……北の『鬼』の侵攻には、『陰陽方』が絡んでいると言う事か……!?



「……今はまだ分からない。
 男は『陰陽方』からの離反者で、逃亡している最中だったようだ……其処を『鬼』に襲われ、命を落とした……そして最後に、懺
 悔するように言い残した。
 『獅子身中の虫に気をつけろ。敵はウタカタに居る。』と。」

「…………!」

人は、己の死を悟ると嘘を吐く事が出来なくなるモノだから、今際の際にそう言ったのならば、信ずるに値するか……
それにしても、敵はウタカタに、とはね……
つまり、お前はそれを探る為にウタカタに来たんだな暦?



「……その通りだ。」

「…………」



ってオイ、おまえは何をしてるんだ速鳥!?なはとと戯れている場合じゃないだろう!!



「(ねぇ、『陰陽方』って、秋水のアレでしょ……?)」

「(確かな。……敵の間者ってのは、秋水の事か……?)」

「(其れって拙いんじゃない?話して大丈夫かな?)」

「(如何思う、アインス?)」



話した方が良いんじゃないか?隠しておいても良い事は無いだろうからね。

「暦よ、非常に言い難いんだが……秋水の事を知っているか?」

「流石はアインス、サラッと聞くね。」

「いや……秋水殿に関しては、凛音のお頭から特に話があった――秋水殿は敵ではないから、相手にするなと。」

「敵ではないだと……?シラヌイと秋水は、繋がって居るのか?」

「……残念だが、お答えできない。」



……まぁ、そう簡単に答えられる事ではないからな。
取り敢えず、秋水が敵でないのは良いとして、そうなると誰が敵なのかって事になるんだが……一応の目星は付けているんだろ
う、暦も?



「……私達は、他に怪しい者が居ないか、ウタカタの住人の素性を調べ上げた。
 けれど誰1人、怪しい者は居なかった。唯一可能性があるとすれば、それは……最近里に現れた者か、此れから現れる者。
 私は最初、其れが先輩なのかと思っていたけれど、違っていた。
 『陰陽方』は、仲間の為に命を懸けたりはしない。」

「ってぇと、何か?残る可能性は……」

「『百鬼隊』かホロウ、その何方かと言う事になるな?」

「その通りだ先輩。
 その真実を探る為、如何か協力をお願いしたい。」

「……仲間を疑うってのは、あんまり気乗りする話じゃないな……だが、おチビちゃんの頼みだ。手伝っても良いんじゃないか?」

「息吹殿……ありがとう。」



相変わらずの軽いノリだがな……
だが、彼を知り己を知る……それが、今必要な事なのかも知れないな――暦、お前は誰が怪しいと思っているんだ?
九葉は如何にも悪役と言った感じだが……



「……九葉殿は違うと思う。九葉殿の作戦で、北の『鬼』の討伐は順調に進んでいる。
 其れより、相馬殿について気になる事がある。」



相馬が……?



「気付いているか?相馬殿が、度々里から姿を消している事に。」

「其れは、任務とかじゃないのか?」

最近の『鬼』の攻勢は、中々に激しい様だから、度々出撃と言うのは珍しい事ではないだろう?……そうでなくても、所用で里を
抜ける事だってあるだろうさ。



「先輩の言う事も一理あるが、特に用もなく、ふらりと異界に消える事がある。」

「……そりゃ、怪しさ満点だな。」

「……ならまず、相馬から調べるとしよう。」

「で、では……!」

「……仲間の頼みだ、無下には出来んだろう?」

「あ、ありがとう、桜花殿!」



最も可能性が低いと思っていた相馬が、一番怪しい行動をとっていたとはね?……確かに、特に用もないのに異界へと言うのは
解せん事だな。
だが、予想通りウタカタの皆は協力してくれるようだな。



「其れでだ、アインス。この任務、君に任せて良いか?……君なら上手くやれる。何故か、そんな気がするのさ。
 先ずは相馬に張り付くんだ。『百鬼隊』に入りたいとでも言ってな。」

「勘と言うやつか桜花?……だが、そう言われたら仕方ないな……上手く出来るかどうかは分からんが、やれるだけやってみる
 とするよ。」

「ありがとう、先輩。宜しくお願いする。」

「何、良いって事だ……可愛い後輩の頼みを断る事も出来ないしね。」

「それと……其処で天狐と戯れている馬鹿者も行くぞ!!」

「キュ……キュイ……」

「「「「「「「(汗)」」」」」」」



ダメだこりゃ……速鳥は、どんな時でもぶれない奴だよ本当に……お蔭で、シリアスがドッチラケだ……シリアススレイヤーはレ
ヴィだけで充分だよ本気で。

しかしまぁ、相馬を探る事になるとはね……アイツが間者とは考え辛いが、万が一を考えて危険な芽を潰しておく事に越した事は
ないか。

一体相馬は、何が目的で任務以外で異界に出かけているのだろうな……










 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場