Side:桜花


何を言い出すかと思えば、梓が何者かだと?……お前は一体何を言っているんだ九葉?
霊山がウタカタに寄越した梓と、この梓では容姿が違うなどと言うのは如何言う心算だ!――彼女は、私達の大切な仲間だ!!
其れを否定するような事は、断じて許せんぞ!!



「……いや、九葉の言っている事は間違いではないよ桜花……」

「梓?」

間違って居ないって、其れは一体どういうことだ?



「其れは今から説明するよ。――私が何者であるのかと言う事も含めてね……マッタク、霊山の軍師が来るとは思って居なかっ
 たから、少し警戒が甘くなっていたようだな。
 お前の問いに応えよう九葉……そして知れ、私と言う存在の異常さと言うモノをな。」

「梓……」

君は君以外の何物でもないと思うのだが、そうではないのか?……だとしたら、一体君は何者なんだ?
大型の『鬼』ですら、赤子の手を捻るように撃滅してしまう、其の力は只者ではないと思うのだが……存在の異常さとは、穏やか
ではないからね……











討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務59
『リインフォースと梓の真実』











Side:梓


迂闊だったとしか言いようがないな此れは……九葉は霊山の軍師だから、彼女の事を、梓の事を詳細に知っていて然りだった。
その軍師がウタカタに来たのならば、派遣した者と異なる梓がいたと言う事は驚くべき事だろうからね。
詭弁やら何やらを駆使して、切り抜ける事も出来るが……良い機会だから、お前達には全てを話しておこう。

確かに、私は九葉の言うように、霊山から派遣されたモノノフではない――いや、それ以前に、私はこの世界の人間ではないし、
そもそも人間ですらない。何の因果か、今は人の肉体を得ているけどね。



「人間じゃねぇってのは、如何言うこった?」

「言葉のままだよ富嶽。」


――ポン


「何それ?本?」



あぁ、見たまんま本だが、此の本こそが、私であり、私はこの本の――夜天の魔導書と呼ばれる魔導書の管制人格だったんだ。



「その本がお前だと?」

「此れは、私の魔法で作り出した模造品だがね。
 私はこの本の機能の全てを管理していた管制人格という人工的に作り出された存在であり、4体の守護騎士と、書の主と友に
 様々な世界を見て回り、知識や技術を集積していく物だったんだ。
 書の主の命が尽きても、書に備わった無限転生の力を使って新たな主を決めながらね。」

「俄かには信じがたいが……」

「まぁ、そうだろうね。」

行き成りこんな事を言われて信じろと言う方が無理がある……が、事実なんだ。
私は、ある程度の知識や技術が蓄積されて初めて主の前に姿を現す存在だったのだが、何代目かの主が、書の力を自分だけ
の物にしようとして、書に改変を加え、ナハトヴァールと言う防衛プログラムを後付けしたんだが……悪意ある改変によって書は
暴走して、私は壊れ、夜天の魔導書は、死と破壊を巻き散らす、呪われた『闇の書』へと姿を変えてしまったんだ。



「ちょっと、何よ其れ!幾ら何でも酷過ぎない!?」

「己の欲望の為に、隊長を呪われた存在に……許せぬ。」

「速鳥の言う通りだが……其れでアンタはどうなっちまったんだ?」

「闇の書へと変貌した私の一番の変化は、主に対する性質だ。
 起動した書は、魔力を蒐集して項を埋める事で完成するのだが、一定期間蒐集が無いと、主の命を喰らって己を完成させ、完
 成後にはナハトヴァールが暴走して喰らった主の命を消費するまで破壊活動を続ける。」

逆に蒐集したら蒐集したで、矢張り完成後に主と融合する形で私が現れ、書に蓄えられた魔力と、融合した主の命が尽きるまで
破壊活動を続ける……そして、全てが終わった後で書は眠りにつき、新たな主を求めて彷徨うんだ……闇の書の主になった瞬
間に、その人物の終わりが始まる訳だ。
この世界に来るまでに、この手で滅ぼした世界は如何程か……奪った命はドレ位か……数える事も出来ない位だ。



「だから、君は己の事を破壊神と称していたのか……」

「だ、だが先輩、その話だと闇の書とやらは永遠に破壊を続ける為に存在している事になり、先輩が此処にいる事は出来ないの
 ではないか?」



普通ならそうだな暦――だが、最後の闇の書の主と、その友人達によって私は救われたんだ。
最後の闇の書の主に選ばれたのは、何と9歳の少女だった……書の浸食を受けて足が動かなかったが、懸命に生きている子で
ね――守護騎士達を戦わせることはせずに、家族として扱っていた。
尤も、主の足が闇の書のせいだと知った騎士達は、主に秘密で書の完成を目指してしまうのだが……その中で出会った2人の
少女の存在が、闇の書の主の運命を大きく変えたんだ。
主と彼女達は友人となった……が、守護騎士達はそうではなく、主の目の届かない所で戦闘が始まり……その最中に、闇の書
が少女の1人――なのはと言う子の攻撃の魔力を吸収して完成し、守護騎士達をも吸収してしまった。
あろう事か、主の目の前で騎士達を縛り上げて貫くと言う形でな。



「何つー悪趣味な事をしやがる……そんなモン見せられたら只じゃ済まねぇだろそのガキも?」

「タダでは済まなかったよ実際。
 絶望に呑まれた主は心を閉ざし、其れを取り込む形で融合して私が現れた。」

流石にこうなってしまってはもうダメだと思い、せめてこの優しい主の心だけでも幸せな思いで終われるようにと、取り込んだ主に
幸せな夢を見せながら、私は破壊活動を開始した。
が、主と友人となった2人の少女達は諦めずに私に挑んで来た。
片割れのフェイトと言う名の少女は、私に攻撃して来た隙を突いて吸収し、なのはに対しても圧倒的な力の差を持って戦いを行っ
ていたのだが、なのはの全力のゼロ距離砲撃を受けた事で、事態は変わった。
戦っていた私は無傷だったが、主を閉じ込めていた精神世界に亀裂が入り、主が自我を取り戻しかけてね?――更に、取り込ん
だフェイトが、私の見せる幻想に囚われず、帰還の為に己が居た空間を切り裂いた事で主の自我が覚醒した。

そして覚醒した主は、外で戦っていたなのはと、脱出したフェイトに呼びかけ、私に絡みつくナハトヴァールを吹き飛ばすよう頼む
と、今度は私に名を下さったんだ。もう闇の書などとは呼ばせぬと言ってな。
それが『リインフォース』と言う名前だったんだ。



「其れで、どうなったのでございますか?」

「書と防衛プログラムが切り離された事で、書は正常な機能を取り戻したが、ナハトヴァールの暴走は止まらなかった。
 だから、主となのはとフェイト、守護騎士にクロノ執務官にユーノにアルフ……その場に集結した全ての戦力を持って暴走した
 ナハトヴァールを、闇の書の闇を討った。」

これで事は終わり、私も生き残ったのだが……永くナハトヴァールに浸食されていた私は、ナハトヴァールが切り離される際に己
の再生機能を失い、少しずつだが確実に消滅へと向かって行った。残されていた時間は、僅かに半年さ。

だからその半年の間に、私は主に私が教えられるだけの事を教え、私が融合騎としての機能を果たせない事を告げて後継機を
作ることを提案したりしたよ……まぁ、その半年の間に、闇の書関係の彼是もあったが、其れは直接的には関係ないので割愛さ
せて貰うがな。

「そう言われると、気になるモノですね?」

「簡単に言うなら、闇の書の復活を目論む奴が居たので倒した、闇の書を利用しようとしたピンクが起こした事件を皆で解決した
 と言う所だな。以上。」

「簡潔すぎるな……其れで、今の話が如何してお前が此処にいる事に繋がる?」



半年が経った頃、私は予定通り消えたのだが……身体は消えても意識はまだ残っていてね?その残った意識に話しかけて来る
存在があったんだ。
今にして思えば、あれはミタマの声だったのだろうが、それと同時にゴウエンマと戦う私によく似たモノノフの映像を見て、気が付
けば見知らぬ場所にいた。
一体此処は何処なのかと思い、探索しようとした所で大きな力を感じてね?その場所に行ってみたら、瀕死の女性と、その女性
に襲い掛かろうとしているミフチに出会ったんだ。

幸いなことに、魔法こそ使えなかったが肉体的な強さと身体能力は全盛期の頃に戻っていたので、女性が持っていた刀を使って
ミフチを撃退した。
が、その女性は致命傷を負っていて、助からないのは火を見るより明らかでね……死を看取るのも縁と思い、何か言い残す事は
あるかと聞いたら、『私の代わりにウタカタへ行ってモノノフとなり『鬼』を倒してくれ』と言って、息を引き取ったよ。



「何だと?……と言う事はまさか!!」

「あぁ、そのまさかだ桜花。
 ミフチに襲われて息絶えた女性……モノノフこそが、本来霊山から派遣されてウタカタに着任する筈だった梓だったんだ。
 だが、彼女は死んでも只では死なず、肉体は滅びたが魂は私と融合した。
 だから、私はリインフォースと言う存在でありながら、梓と言うモノノフの記憶と知識も持っているんだ。」

故に、私はリインフォース梓と名乗っているんだ……せめて、彼女の魂を受け継いだ者である事を忘れない為にな。――其れも、
只の自己満足であるのかも知れないがね。

さて九葉、此れが私の真実だ。
荒唐無稽で信じる事は出来ないかも知れないが、全て紛れもない事実だ……ウタカタの皆も、ずっと嘘を吐いててすまなかった。



「……ったく、何を言ってやがんだこの馬鹿野郎が。
 テメェが何者であるかなんざ如何だって良いこった。――テメェが何処から来たのかってのも関係ねぇだろ?
 テメェは、俺達と同じモノノフになってるんだぜ?
 寧ろ、今の話を聞いて、テメェの馬鹿強さに納得しちまったぜ。」

「同感だね。世界を滅ぼす程の力を持ってるって言うなら、大型の『鬼』が相手でも負けない訳だ。」

「私も君の強さに納得しちゃったわ。」

「道理で、素手で鬼の部位を引き千切る事が出来る訳だ。」



って、意外と受け入れられてる!?
其れはとても嬉しいが、私は数多の世界と命を壊して来た破壊者だぞ?……怖くないのか?



「その破壊の力を、君は今は『鬼』にだけ向け、人々を護る為に使って居るだろう梓?」

「恐れる事等、有る筈がございません。」

「何者であろうとも、隊長は隊長……其れは変わらぬ。」

「速鳥殿の言う通りだ。先輩は先輩だ。」

「マッタク、何処までも俺を驚かせてくれる奴だなお前は。」

「本当に、貴女には興味が尽きませんよ梓さん。」



桜花、那木、速鳥、暦、大和、秋水……私の真実を知っても受け入れてくれると言うのかウタカタは……ありがとう、ありがとう!



「成程……そう言う事だったか。
 霊山が派遣したモノノフは道中でミフチの襲撃に遭って命を落としたが、代わりにお前がその者の任を受け継いでウタカタに来
 たと言う事か。
 普通に考えればとんでもない事だが、死した梓の代理がこれ程の者であるのならば、損失どころか儲けものだったかも知れん
 な……世界を破壊する程の力があれば『鬼』との戦いも楽になるだろうからな?
 世界を壊し、人の命を奪った事を後悔しているのならば、その命に報いる為に戦え……恐らく、其れがお前がこの世界に来た
 理由の一つだろう。」

「かも知れないな……」

無論、此れまで奪ってきた命に報いる為にも、この世界の人々は守る心算だがね。
時に、梓と言うのは私の真の名ではないから、皆にそう呼んでもらうのは何となく悪い気がするんだが……だからと言ってリイン
フォースと呼んでもらうのもアレだ……リインフォースとは呼び辛いだろう桜花?



「リインホ……リイ……確かに言い辛いな?」

「矢張りな……ならば此れからは、私の事はアインスと呼んでくれ。」

先程の話の中で、主に後継機の製造を進言した時に、リインフォースの名を継がせてほしいと頼んだ所、『其れだとリインフォース
が2人で分かり辛い』と言われたので、私をアインス、後継機をツヴァイとしたらどうかと提案して、了承して貰ったのでね。
此れより私は、アインスと名乗る事にするよ。



「アインス……如何言う意味なの?」

「外国の言葉で『一番目』を意味する言葉だ。」

「一番目だぁ?テメェにゃピッタリじゃねぇか?このウタカタで強さを表にしたら、其の一番目に居るのはテメェだからなアインス。」

「確かに言えてるな……では、改めて宜しく頼むぞアインス?」



マッタク、飛び切りのお人好しの集まりだなウタカタの里は……ならば、それに甘えさせて貰うよ。
九葉の一言から、どうなるかと思ったが、如何やら私の心配は取り越し苦労だったようだ――ならば、これからも宜しく頼むぞ皆。



「「「「「「「「おーーーーー!!」」」」」」」」

「ふ、一件落着だな……此れも、お前の予想通りか九葉?」

「さてな?だが、士気は高まったようなので、良しとしておこう。」



災い転じて福となるではないが、私の秘密を暴露した事で、逆に結束が強くなったかもしれないな……此れならば、どんな『鬼』
が現れても負ける事は無いと自信を持って言えるよ。

奪ってしまった命に報いる為にも、モノノフとしてこの世界の人々を護らねばだな。










 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場



Side:アインス(旧梓表記。以降アインスと表記)



「しっかしまぁ、人間じゃなかったとは驚いたぜアインスよぉ?」

「うん、黙っていて悪かったねオヤッさん?」

今日の禊ではオヤッさんと一緒だった――皆に暴露した後で、オヤッさんと樒にも話したんだが、アッサリと受け入れて貰えて嬉
しかったな。



「だがまぁ、逆にお前さんの強さに納得だぜ俺はよ。
 お前さんが何者だろうと、『鬼』と戦うモノノフである事に変わりはねぇんだ……だから、用が有れば遠慮なく言えよ?何時でも
 お前さんの武器を鍛えてやるからよ。」

「うん、そうさせて貰うよオヤッさん。」

オヤッさんに鍛えて貰うたびに、私の刀は強さと鋭さを増すからね。――これからも宜しく頼むよオヤッさん♪