Side:梓
あふ……ふあぁぁ~~~、良く寝た。
睡眠は体力の回復に最も大きな役割を持つと言う話を聞いた事があるが、其れはあながち間違いではないのかも知れないね?実際に、タップ
リ寝たお蔭で、私は元気溌剌なのだから。
さてと、今日も一日頑張るか!…って、ん?
「あは…ふふふ♪」
『♪』
不思議な小動物と戯れているあの子は誰だ?少なくとも、昨日までには見た事のない顔だが……しかし、内には相当な力を秘めている様だな。
彼女は一体何者なんだ?……って、うわ!!
『キュイ~~~♪』
「お前……元気がいいのは結構だが、行き成り飛びつかないでくれ。
大抵の事では驚かないとは言え、幾ら私でも行き成り飛びつかれたらビックリするのだからな?分かったか?」
『キュイ?』
「……分かってないなお前。」
「ふふふ、気に入られたようですね?」
ヤレヤレだが、如何やらその様だ。
まぁ、あの小屋に一人暮らしと言うのも寂しい物があったから、この様な可愛い同居者が増えるのは吝かではない……寧ろ、大歓迎だからね。
「そうですか……なら安心しました。
其の子、如何やら迷子の様で……その子の事、お願いしても良いですか?」
「ふ……任せておけ。」
「……!!じゃあね。」
おい!……行ってしまったか――何と言うか不思議な雰囲気の少女だったな。
モノノフではないのだろうが……まぁ、彼女に関しては後で大和に聞けばわかるだろう。里のお頭であるのならば、彼女を知ってる筈だしな。
とは言え、如何やら、愛らしい相棒が出来てしまったようだね。
討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務6
『更なる仲間――富嶽と那木』
さてと、期せずして同居者が増えた訳だが……此れが天狐と言う生き物なのだろうか?
桜花から聞いた見た目の特徴と一致するから、まず間違いないだろうが……なんにしても、先ずはお前に名前を付けてやらねばな――自己を
示す名と言うモノは大事だ。
私も、主から『リインフォース』の名を賜った事で、闇の書の呪いから解放された訳だからね。
さて、どんな名前にしたモノか……余り奇抜な名前は良くないのだろうが――そうだな、『なはと』と言うのは如何だろう?
嘗て私を侵食していた後付けの防衛プログラム『ナハトヴァール』からヒントを得た名前だが、平仮名で『なはと』と書けば、何となく可愛い感じが
するから、アリだろう?ダメならまた別に考えるが――
『キュイ~~♪』
「如何やら気に入ってくれたようだな。」
ではなはと、此れから宜しく頼むぞ。此れから、私とお前は家族なのだからね。――まぁ、互いに巧くやっていくとしようじゃないか。
『キュ♪』
「良い子だ。」
其れでは早速だが、私は此れよりモノノフとしての仕事を始めるので、私の不在時の此の家の留守番を頼むぞなはと。
ウタカタの里の人々は、皆良い人達だが、其れに紛れてどんな賊が入り込んでいないとも限らん――なので、怪しい奴が入って来たら問答無用
で、叩きのめしてしまえ。私が許可する。
『キュイ~~♪』
ふふ、二股の尻尾を振って『いってらっしゃい』か。
以外にも小動物が好きだった将が見たら、間違いなく一撃ノックアウトされて天狐にメロメロになってしまうだろうな……天狐は侮れない存在だ。
まぁ、天狐は神聖な生き物らしいから、其れが我が家に居るだけでも贅沢ってモノだから、あまり色々言うと罰が当たってしまうね。
さてと、そんな訳で本部だ――おはよう桜花、息吹、初穂。
「あ、おはよう梓!」
「おはよう梓。今日も宜しくな?」
「よう、おはようさん。今日も宜しく頼むぜ、相棒。」
あぁ、宜しくな。
さて行き成りで悪いんだが、天狐とは一体何を食べるのだろうか?それと、絶対に与えてはならない食べ物とか有るのか?あったら教えてくれ。
と言うのも、今し方天狐を家で預かる事になってしまったモノでね。
「其れは、何とも急な同居人だな?
だが、私の知って居る限りでは天狐はなんでも食べるし、特に食べてダメな物もないと思うぞ?肉に魚に野菜、果ては餅に団子に……神木の
身を食べていたと言う話も聞いた事があるからね。」
「ならば、餌に関しては頭を悩ませる必要はなさそうだ。」
「天狐に懐かれるなんて、君も大変ねぇ……そう言えば、大和が君に用があるみたいよ?」
大和が?……果たさて一体何の用なのか。
まぁ良い、挨拶がてら聞いてみるさ――と言うか、今思うと桜花達よりも先に、里の頭である大和に挨拶をすべきだったのかもしれないね。
おはよう大和。
「あぁ、おはよう梓。早速で悪いんだが、少しいいか?」
「初穂から、大和が私に用があるらしいという事は聞いているから問題ない。」
「そうか。――なに、此処での戦いも慣れて来ただろう。
なので、そろそろ別の者とも任務に行って貰おうかと思ってな――此れまで、他の任務で留守にしていた者だ。まだ、会った事はあるまい?」
ウタカタに着任して、そろそろ1ヶ月と言う所だが、今までの間で一緒に任務に行ったのは桜花と息吹と初穂の3人だけだから、それ以外のモノ
ノフとの面識はないよ。
他の任務をこなしていたと言うのならば尚更だ。
「なに、単なる確認だ。
そのモノノフは、名を那木と富嶽と言う。いずれもお前の先任だ――が、お前ほどのモノノフならば遅れは取るまい。
実を言うと、2人とも既に任務に出ていてな……そこで、先行している2人と合流し、速やかに『鬼』を殲滅しろ。
ここ数日、正体不明の『鬼』に襲撃される者が相次いでいる。まさかとは思うが……用心しろ。――お前の力の証、見せて貰うぞ。」
「ならばその期待には応えないとだな。」
早速向かうとするが……場所は何処なんだ?此れまで通り雅の領域なのか?
「那木と富嶽が向かったのは、『武』の領域だ。
雅の領域よりも手強い鬼が居る場所だが、お前ならばさして問題は無かろう。――とは言え、油断はしないようにな。」
油断大敵と言うからね。
まぁ、油断などしないさ……常に『余裕』を失わない様には心掛けていてもだ。何よりも『油断と慢心は、既に己の負けた証』と言う言葉もある位
だからね。
さて、行ってくるか。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
という訳でやって来ました『武』の領域。
雅の領域とは違って、此方は何やら物々しい雰囲気だが、生き物の気配はなく、代わりに鬼の気配と瘴気に満ちているのは同じだな……ここも
つの日か人の里として取り戻さなくてはだな。
さて、那木と富嶽と言うのは君達かな?
「新しい方ですね?
私は、那木と申します。今日は、宜しくお願いいたします。」
「……ハッ、足引っ張んじゃねぇぞ。」
女性の方が那木と言う事は、巨躯の男性の方が富嶽か。
ザフィーラも可也大柄な方だったが、富嶽は更に縦にも横にも大きい、文字通りの『大男』――あの体格から察するにトンデモない馬鹿力を秘め
ているのは間違いないだろうな。
「あ……富嶽様は、少々人見知りする方ですので……」
「いや、気にしていないさ。
口下手な人間と言うのは何処にでもいるモノだし、何よりも彼の様な人間には、口で色々言うよりも、この任務で私の力を見せた方が早い。」
「其れは……確かに其の通りでございますね。――では、参りましょう。」
「っしゃー、狩りの時間だぜ!!」
さて行くか!
――――――
No Side
新たな仲間である、那木と富嶽と共に挑んだ任務もまた、序盤から小型の鬼の大軍が襲い掛かって来た。
ガキとオンモラキの大軍、其れも黄泉個体が混じった一群だ。
『『『『『『ギャギャギャギャギャ!!』』』』』』
『『『『『『キシャァァァァァァァァ!!』』』』』』
「ふ、早速出て来たね?
ガキと、其れとオンモラキの群れ……黄泉の個体も交じって居る様だが所詮は有象無象、烏合の衆でしかない――大人しく、刀の錆となれ。」
「飛んで火にいる夏の虫、ってなぁ!行くぜぇ!!」
「虎穴に入らずんば虎子を得ず……参ります。」
数だけ見れば、3人のモノノフに対して10体以上の鬼と、戦力差は3倍以上なのだが、そんなものはまるで問題にならない。
元より、モノノフの戦いと言うモノは、常日頃から数の上では不利な状況なのであり、この程度の数の差でへこたれていてはモノノフは務まらな
いのである。
故に、この程度は脅威ではない。
梓の白刃がオンモラキを両断すれば、負けじと富嶽の拳がガキを粉砕し、那木の放つ強弓が梓と富嶽をサポートし、効率よく鬼を撃破していく。
「思った以上にやるじゃねぇか?
新入りなんぞ期待できねぇと思ったが……面白れぇ、ついてこいや!!」
「そうさせて貰おうか?
私の先任という事で、それなりの手練れだとは思っていたが、富嶽も那木も私の予想以上だった……このまま一気に殲滅してしまおう!!」
「了解でございます!」
初めて組んだとは思えない、見事なコンビネーションでの鬼の撃破。
戦いに身を置く者同士だからこそ、言葉にせずとも自然に連携を取る事が出来たのだろうが、此れは戦いにおいては大きなアドバンテージに他
ならないだろう。
初めてで此れなのならば、此れから共に任務を重ねて行けば、その連携はより高いレベルの物となるのだから。
いや、既にこの連携は完成形に近いのかも知れない。
『『『ギシャァァァァァァァァァァァァ!!』』』
『『『ギャギャギャーーーー!!』』』
『『『キョアァァァァーーーー!!』』』
新たに現れた小型鬼。今度は、少々厄介な『ヌエ・黄泉』も交じっていたのだが、動き回るヌエ・黄泉を梓が素早い攻撃で撃滅し、地上型のガキ
は、富嶽がその剛腕で粉砕し、空を飛ぶオンモラキは那木が的確に弓で射貫いて行く。
「オラァ!コイツで終いだ!!」
「深き闇に沈め……!」
その連携は鬼に攻撃の機会を与えずに撃滅し、最後に残ったガキ・黄泉を富嶽が粉砕し、ヌエ・黄泉を梓が神速の居合で斬り捨てて鬼を撃滅!
此れで任務は終了――とは行かないのが世の常だ。
「ざっとこんなモンだな……って、ちょっと待て、何だありゃぁ?」
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
『ショアァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!』
小型鬼を撃滅したと思ったら、空間に穴が開き、其処から獅子に似た風貌の大型の鬼が姿を現したのだ。
此れこそが、大和が言って居た、正体不明の鬼――『カゼキリ』だ。
「コイツは……噂の奴か!!」
「此れが大和の言って居た、正体不明の鬼か……ならば、斬り捨てるのみだ!」
「此方の様子を窺っていたかのような出現の仕方……一筋縄でいく相手でないのは間違いありません……ご用心を!」
流石に、大和が危惧しただけあり、カゼキリの力はミフチの其れを上回っている。
素早い動きに加えて、尻尾を振って発生させる鎌鼬は厄介極まりないが……ウタカタのモノノフには、そんなものは何処吹く風の梓が居るのだと
言う事を忘れてはいけない。
富嶽共々、近接戦闘型ゆえに、鬼の攻撃を完全に回避することが出来ない故に、無傷ではないが、そんなものはまるで問題にはならない。
「散れ!!」
――ズバァァァァァァ!!!
『!!!!』
梓が、居合でカゼキリの前足2本を斬り捨てて、カゼキリが転倒してからは、梓と富嶽の独壇場だ。決して誇張ではなく、本気で独壇場なのだ。
「地獄で閻魔の裁きを受けろ。」
「っしゃー!隙だらけだぜぇ!!」
梓は逆手居合連斬でカゼキリを斬りまくり、富嶽は百裂拳でカゼキリを殴って殴って殴って殴って、殴りまくる!これ以上はない位に殴りまくる!
息つく暇がない位に繰り出された斬撃と拳打は、カゼキリに反撃の余地を与えずに、残った後ろ足2本と尻尾、そして角と次々に部位破壊!!
「此れは、単なる弱い者苛めでございます……」
那木がこう零したのは仕方ない――そう思う位に圧倒的なのだ。
否、那木と富嶽だけなら其れなりに苦戦したのかも知れないが、嘗て封印指定されたロストロギアの管制人格だった梓の前には如何なる存在
であっても、其れは塵芥でしかない。
「終わりだ……醒めぬ夢を見るが良い。」
「そんじゃあな!」
そして、梓の兜割と、富嶽の赤熱殴打がカゼキリを完璧にとらえて、その生命活動を停止させるに至った。――正に完全勝利だろう。
「っしゃー!一昨日来やがれってな!!」
「大勝利でございます♪
しかし襲撃の件……此れは、一度お頭に報告しておくべきかもしれません。」
とは言え、正体不明の鬼の襲撃を受けた以上、お頭である大和に報告するのは当然だろう――いくらそれを撃退したとは言えだ。
寧ろ、撃退したからこそ報告の必要があるのだろう。
鬼の骸を払い、一行はウタカタの里に帰還するのだった。
――――――
Side:梓
という訳で任務は無事に終了したぞ大和……件の鬼と一戦交える事にはなったけれどね。
「任務ご苦労。
しかし、例の『鬼』の襲撃を受けたか……よく無事で戻った。」
「何だったんだありゃ?急に出て来やがってよ。」
「…お前達だけではない。他にも襲われた隊がある。
戦い終わって疲弊した所を狙う……これまでの『鬼』とは異なる動きだ――対策を打つまでは一人で行動するな。
しばらくはこの三人で動け。」
「ったく、しゃーねーな。」
「鬼の行動の変化、興味深い事実ですね。」
確かに、あの鬼の行動は、此れまで戦って来た鬼とは一線を画すモノがあったのは確かだな。
大和の言うように、小型の鬼の群れを撃退して一息と思った所で現れた……まるで、此方が消耗するのを待っていたかのようだったからね?
尤も私達はまだまだ元気一杯だった訳だがな。
「ま、俺には関係ねぇから、先に帰らせて貰うぜ。
と、オイ新入り……悪くねぇ腕だ、精々頑張んな。」
「富嶽様が人をお褒めになるとは……青天の霹靂にございます。
其れと申し遅れました、私、学者の端くれをしております。
何かお困りの際は、お声がけください。お力になれるかも知れません。」
あぁ、心の止めておくよ那木。――富嶽も、頼れる仲間の様だからね。
「では、梓様、また次の任務でお会いしましょう。」
あぁ、また次の任務でな。
那木と富嶽……頼もしい仲間が増えたな。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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・・・・・・・・・・・・
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・・・・・・
・・・
で、その夜だが……又してもか。
新たなミタマを宿した感じがしたから、来るのではないかと思っていたがな――君は一体誰だ?
『私は平清盛……久しぶりの下界、悪くない。』
平清盛と言うと、平家の筆頭じゃないか。そんな大物が、私に宿るとはね。
『一先ず礼を言おう、モノノフよ。おかげで『鬼』の腹から出て来れた。
武士の世を作ろうと、ひたすら走り続けて来たが……正に世を平らげんと言う時に、『鬼』に喰われてしまうとはな。
しばらく見ぬうちに、世も様変わりした物だ。
……祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす。
奢れる者も久しからず、唯春の世の夢の如し。猛き者も遂には滅びぬ、偏に風の前の塵に同じ……実に見事な歌よな。
我が一門が潰えたように、この世に滅びぬ者はない――だが……何時滅びるか程度は、己で決める事も出来よう……お前に、まだ滅びる気
がないなら、我が力を貸そう。』
其れは願ってもない事だな。
『たとえ春の夜の夢と言えど、其れもまた面白きもの――絢爛たる夢、見届けさせて貰おう。』
――ミタマ『平清盛』を手に入れた。
ならば見届けろ。
必ず全ての鬼を打ち倒し、この世界を人々の手に取り戻して見せる!――其れが、この世界に降り立った私の使命なのだと思っているからね。
如何なる鬼でも打ち倒してみせるさ――この力でな!!
To Be Continued… 
おまけ
『腹が減った。』
と、謎の声がしたので、鳥居をくぐって来たのだが……此れは小さな社があるな――で、呼んだのはお前か、社の裏の大木よ?
『我の声が聞こえるのか?』
「あぁ、バッチリとな。」
『なれば話は早い。
我は腹ペコでな……お前の持つハクを分けてはくれまいか人の子よ?無論、無償でとは言わん、ちゃんと見返りは用意する故な。』
ハクを……別に構わんよ。当面、ハクを使う事も無いからね。
『うむ、感謝するぞ人の子よ。
申し遅れたが、我はこの神木の意思――以後よろしくな。』
……神木の意思、また妙な知り合いが増えた物だ……にぎやかで、良いかもしれないけれどな。
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