Side:梓


と、言う訳でやって来た『雅の領域』なんだが……前に来た時よりも瘴気が濃くなっているようだね?まぁ、大型の鬼が現れたとなったのならば、
領域内の瘴気レベルが上昇してもオカシクは無いけれどな。

だが、瘴気の濃度が上がっているのは厄介だ。
私は大した事がなくとも、息吹と初穂は、モノノフとは言え生身の人間だからな……高密度の瘴気が漂う場所での長時間行動は不可能な筈だ。
だから、さっさと終わらせるぞ初穂!息吹!!



「了解。君と一緒ならやれるわ!!」

「アンタと一緒なら負ける気がしないぜ相棒?
 そんな訳だから、軽~~く行きますか……頭からサクッとな!!」



ふ、頼もしいな?
ならば、里に仇なさんと湧いて来た鬼を掃滅しようじゃないか!――この3人ならば、其れは雑作もない事だろうからね。

討ち取らせて貰うぞ、ミフチよ!!












討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務5
『モノノフの証――ミフチを討て』











No Side


大型鬼の討伐の為に出撃した梓と息吹と初穂だが、雅の領域を事細かに調べて大型鬼の居場所を特定するのは骨が折れると言うものだろう。
そこで役に立つのが、モノノフの特殊能力の一つである『鬼の目』だ。此れを使えば、近くに居ない鬼の存在を知覚する事が出来るので、雅の
領域の何処にミフチが居るのかも分かると言う訳だ。


「場所は、あの大きな門がある所の様だな?そう遠くはないが……流石は異界、そう簡単には通してはくれないか。
 ガキにオニビにササガニと、随分と歓迎されているようだな私達は?まぁ、持て成してくれると言うのならば、其れに応えるだけだけれどな。」

「おぉっと、言うねぇアンタも?
 美人で、洒落も分かって、更には腕も立つ、三拍子揃ってるってのは正にアンタの事だな梓?――背中は任せるぜ、相棒!」

「もう、私も居る事を忘れないでよね!」


だがしかし、如何に居場所が分かっているとは言え、此処は鬼が闊歩する異界。
目的地に辿り着くまでにも、小型の鬼との戦闘を避ける事は出来ないのが現実であり、モノノフの中には徒党を組んで現れた小型鬼に苦しめら
れて、目的を果たす前に力尽きる者も決して少なくないのである。

尤も、この3人にその心配はないだろう。
初穂の鎖鎌が、分銅と鎌を使ったトリッキーな攻撃でガキを蹴散らし、息吹の槍が宙を漂うオニビを的確に貫き、そして梓の打ち刀による見事な
居合がササガニを両断する。
新人と問題児二人と言う、端から見たら不安要素しかないチームだが、しかし夫々が高い能力を有している事で不安要素などはどこ吹く風だ。

しかしながら、鬼とて馬鹿ではない。
此の3人の中で、一体誰が一番の脅威であり、そして真っ先に排除すべきであるのか位は本能で察する事が出来る……だからこそ、新たに現
れた合計12体のガキ・黄泉のうち半分の6体が、梓を滅さんと取り囲むように襲い掛かって来たのだ。


「梓!!」

「しまった!!」


残る6体に襲い掛かられた初穂と息吹は、それに対処しなければならない為に梓の援護には回れない。
如何に最下級の鬼であるガキとはいえ、最強種である黄泉に前後左右全方向から襲い掛かられたら堪った物ではないだろうが……時間にして
1000年近い時を生き、数多の戦場を駆け抜けて来た夜天の魔導書の管制人格であった梓にとって、この程度は有象無象に過ぎない。


「お前達如きに、私の首はやれんよ……」


そう呟いた次の瞬間、襲い来るガキを牽制するように抜刀し、その勢いのまま身体を反転させて先ずは後ろから襲い掛かって来た1体を斬り、続
けざまにその隣のガキを一閃。
更に、その隣のガキにはアイアンクローを喰らわせて持ち上げた上で刺し貫き、其れを別のガキにぶん投げると同時に踏み込み突きで穿ち、刀
を抜くと同時に、その動きの流れを利用した鋭いミドルキックで5体目を粉砕!
そして――


「あの世で閻魔の裁きを受けろ……鬼に、閻魔の裁きがあるかどうかは知らんがな。」


残る1体は目にも留まらぬ居合で一閃!
振り抜いた刀を一振りし、そして逆手に持ち替えて納刀し、鞘と鍔が良い音を立ててぶつかった瞬間に、ガキの身体は斬られた部分から斜めに
ずり落ち、そして崩れ落ちた。

其れは、一流の時代劇俳優であっても惚れ惚れする程の見事な殺陣だった。


「一瞬で6体の鬼を……本当に凄いわね梓!」

「しかも、納刀の仕草まで実に決まってると来たもんだ……此れは、本気で惚れちまいそうだね。」

「まぁ、此れ位はね。
 だが、おかげで良い準備運動になったよ……初穂と息吹も、身体が良い感じに温まって来ただろう?」

「当然よ!」

「ま、本番に向けての準備はバッチリだな。」


同時に、息吹と初穂も夫々3体ずつガキ・黄泉を撃破し、ミフチと戦う前の準備運動は完了!
加えて言うのならば、この12体のガキ・黄泉を撃破した所で目的地に到着したのである――本番は、寧ろここからなのだ。


「……来る!」



――ゴゴゴゴゴ……



『キシャァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!』


そして、一行を待っていたかのように、地中からミフチが出現!有無を言わせずに、襲い掛かって来た!


「来たわね!此処から先には、絶対に行かせないんだから!」

「気を付けて行くぞ、此れまでの奴等とは訳が違う。慎重に相手の動きを見極めるんだ!」

「あぁ、分かってるさ息吹……里の皆の命が掛かってるんだ、やられる訳には行かないさ!」

「なら安心だ……コイツを里に進ませる事だけは絶対に避けなきゃだからな――俺達で倒すぞ!!」

「言われるまでもないわ!」


だが、3人は慌てずに、ミフチの動きを見極めて攻撃をして行く。
ミフチの巨体から繰り出される攻撃は非常に強力で、特に巨大な鎌による一撃を真面に喰らったら、熟練のモノノフであっても致命傷は避けられ
ないだろうが、この3人にとっては其れは脅威ではなかった。

迅のミタマを宿す初穂は、軽快な立ち回りでミフチの攻撃を回避しながら分銅を振り回してミフチを攻撃し、息吹は槍のリーチを生かして、ミフチの
攻撃の射程のギリギリ外から攻撃し、時には『魂』のタマフリによる遠距離攻撃でダメージを与えて行く。

そして梓は、居合をメインにした斬撃でミフチに斬り込み、ダメージを与える。
それだけに、ミフチの攻撃を受ける事にもなり、白い肌に赤い筋が刻まれるが、そんな事はお構いなしとばかりに疾走居合から逆手連続居合の
コンビネーションで、ミフチを斬る!斬って斬って斬りまくる!
しかもその斬撃は、只斬るのではなく、的確に関節部を両断しているのだから恐ろしい事この上ないだろう。

その結果として、ミフチの3対の足と、1対の鎌は斬りおとされ、内部生命力が剝き出しの状態になったのだ。
こうなれば、如何に大型の鬼であっても自らに発生するダメージを軽減する事は出来ない――内部生命力を攻撃されると言うのは、直接命を攻
撃されているのと同義なのだから。


「よし、良いぞ!このまま一気に押し切る!」

「畳み掛けるわよ梓!」


一気にイケイケムードが漂うが……そう簡単には行かないのが大型鬼だ。



――ギュイィィィィィン!!



『ギシャァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!』


突如ミフチの身体が赤黒く輝いたかと思うと、咆哮一発、突如として凶暴化したのだ。
大ダメージを受けて追い詰められた鬼が、闘争本能を全開にて一種の暴走状態に陥った姿……タマハミと呼ばれる状態にミフチはなったのだ。
そして、タマハミ状態になった瞬間に、ミフチは鎌と足を軸にして駒の様に高速回転しながら暴れ始めた。


「ちょ、こんなの如何しろってのよ!!」

「回転が速すぎる……しかも、アレに弾き飛ばされたら只じゃ済まないぞ!」


ミフチほどの巨体が高速回転していると言うのは脅威でしかない――ちょっと触れただけでも弾き飛ばされて致命傷になりかねないのだから。
だが――


「其れが如何した?」

『!?』


梓は、その高速回転を物ともせずにミフチに近寄り、その頭部を鷲掴みにして回転を強制停止させた。
其れだけでも充分驚きなのだが……


「調子に乗るのも此処までだ!!」


其処から、頭を掴んだままに、ミフチの巨体を片手で持ち上げて、そして地面に叩き付ける!叩き付けたらまた持ち上げて叩き付ける!兎に角
ガンガンと地面に叩き付ける!

情けや容赦などは何処にもない。
平和に暮らす人々の日常を脅かす存在でしかない鬼に対して、慈悲などがある筈もないのだ。


「息吹!初穂!!」

「了解!」

「まっかせなさい!!」


此れでもかと言う程に、ミフチを地面に叩き付けた梓は、其れを投げ捨てると同時に、息吹と初穂を呼ぶ――そして、呼ばれた2人も己のすべき
事は理解している。
其れ即ち――


「終わりだ…!」

「此れでも喰らいな!」

「いっけーーーー!!」



梓と初穂と息吹による、鬼千切りが発動!
モノノフの奥義である鬼千切りが、同時に3つも、其れも3方向から放たれたとなっては、如何に大型鬼のミフチであっても堪らないだろう。
その結果、


『ギシャァァァァァァ!!!』


断末魔の叫びと共にミフチは撃沈!
ウタカタの里に忍び寄って居た大型鬼の脅威は、この瞬間をもって取り除かれたのである。


「やった……私達やったよ梓!!」

「お疲れさん。良い動きだったぜ2人ともな。」

「あぁ、里を護ることが出来たな。」

「そう言うこった――さぁ、帰ろうぜ、俺達の住むべき場所のウタカタの里にな。」


一行は、見事ミフチを討伐し、ウタカタの里へ戻る為の帰路に就いたのだった。








――――――








Side:梓


という訳で任務完了だ大和。見事ミフチは討って来たぞ。



「よくやった。其れでこそ『鬼を討つ鬼』だ。」

「えへへ、やれば出来るんだから。」



あぁ、初穂もよく頑張ってくれたよ。
鎖鎌のトリッキーな攻撃は、攻撃範囲も広い上に、攻撃力も割かし高めだったから可成りの小型鬼を撃破したし、息吹の槍もまた受勲モノの働き
をしていたからね。



「ふ……
 初穂、梓、此れでお前達は、名実共に一人前のモノノフだ――働いてもらうぞ、此れまで以上にな。」

「任せて大和。私達は、きっともっと強くなるわ。そうでしょ梓。」



無論だ。
否、人の成長に限界などは無いから、やろうと思えば何処までだって強くなる事が出来るんだ――私とサシでやり合ったあの白き魔導師もまた
戦いの中で強くなっていたからね。



「ま、俺に比べればマダマダだけどな。」

「お子様は黙ってて。」

「誰がお子様だ!誰が!!」

「ふふ……マッタク、困った問題児達だ。」



だが、だからこそ頼りになるだろう桜花?
初穂も息吹も問題児であるかもしれないが、その腕は確かだからな……共に戦う仲間としては申し分ないさ――寧ろ、此れ位の方がやり易い。



「其れは言えてるかもしれないな。」



だろう?
さて、取り敢えず家に帰って一休み――



「あ、待って梓!」

「ん?如何した初穂。」

「君に言わないといけない事があって。
 その……色々助けてくれて……ありがとう――其れだけ!」



そんな事か……気にするな初穂。
私達は仲間なんだ――ならば、仲間の事を助けるのは当然の事であって、特別な事ではないだろう?私は、すべき事をしただけに過ぎないよ。



「そ、そう言う風に簡単に言いきれるって凄い事だと思うんだけど…ちょっとカッコ良かったし。えっと、また任務でね!!」

「あぁ、またな。」

時に小声で何か言って居た様だが、一体何と言っていたのだろうか?……まぁ、気にする事でもないか。



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・・・



その夜……此れは夢なのだろうが――


『漸くあなたと話せますね。』


君は一体……


『私は、安倍晴明。陰陽道の端に連なる者です。』



君が…ミフチを討った時に、新たなミタマがこの身に宿ったのを感じたが、其れが稀代の陰陽師であったとは、流石に驚きを隠す事は出来んよ。


『鬼から解放して頂いた事、感謝します。
 道満との勝負に勝ったと思った矢先、空から現れた『鬼』に喰われてしまいまして……勝利の高揚感の中で、些か油断していたようです。
 鬼に喰われなければ、道満の苦渋の表情を拝めたのですが……残念な事をしました。
 本来ならば、鬼神を使役するのが私の務めですが、あれはどうやら異なるモノの様です。
 歴史を食い散らかす異形と申しましょうか…『鬼』に英雄達が喰われ、歴史は少しずつ変わりつつあります。
 あるべきものが失われ、あるべきでない物が現れる――その矛盾に世界が耐えられなくなった時、何が起こるのか。
 大いなる滅びか、それとも天地創成か……この安倍晴明、貴女と共に其れを見届けるとしましょう。』



だが、其れだけに頼りになる。
ならば見て居ろ、稀代の陰陽師よ……私達が鬼を打ち倒し、人々に平穏を齎すその時をな――やり遂げて見せる、全ての鬼を討ち、人々が平
和に暮らせる世界を作り出すという事をな!!












 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場



時は少しだけ遡り……


Side:梓


任務を終えて一休みと思ったのだが、樒から『任務の後は鬼の穢れが身体に付着しているから、禊で清めた方が良い』と言われたので、禊場に
来たのだが……奇遇だな初穂。


「あ、うん…そうね。
 それにしても君って……色々と凄いのね?」

「何が?とは、敢えて聞かないが、あまりジロジロ見ないでくれ――同性であっても、凝視されるのは流石に恥ずかしい物があるのでね。」

「あ、ゴメン!!」


そんな訳で、初穂と一緒に禊をした。
何となく、スタミナの上限が上がった気がした――次の任務では、今まで以上に頑張る事が出来そうだ。