Side:梓
「如何か、無事でいてください……梓さん……暦さん……」
「……そ、そう心配して頂けると、少しくすぐったい。」
心配して貰えるのは有り難いが、暦の言うように、其処まで心配されると、かえって恐縮してしまう――ただいま、戻って来たよ。
大層心配をかけてしまったね?
「皆さん……!」
「戻ったぞ橘花――全員無事でな。」
「良かった……!暦さん、梓さん。」
「神垣ノ巫女に出迎えて貰えるとは、死線も越えてみるものだな?」
「……馬鹿者どもめ。良く生きて戻った。」
馬鹿者か……弁解のしようもないよ大和――心配をかけたね……だが、こうして無事に戻って来たんだ。それ以上の事は無い
だろう?……心配をかけた身である以上、余り偉そうな事は言えないけれどね。
討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務58
『祝福の風、ウタカタに帰還する』
「本当に……何時も心配してばかりです……!」
「橘花の言う通りだな……其れとは別に、君の地図が役に立ったぞ秋水。」
「そうそう!秋水の地図のおかげで、あそこまで行けたのよ!」
秋水の地図か……其れには心から感謝だな。――もしも、其れが無かったら、桜花達が来る事はなく、私と暦は極寒の地で野
垂れ死んでいたかもしれないからね……感謝してもし切れないな此れは。
「……其れは良かったです。作った甲斐が有りました……貴女を失う訳にはいきませんからね、梓さん。」
「ふふ、私が居なくなってしまったら、ウタカタの戦力はガタ落ちだからな?――で、何を見ている九葉。言いたい事があればハッ
キリと言った方が良いぞ?」
「…………」
「どうだ。2人は生きてただろ、九葉さんよ。」
「ハッハッハッハ……クワッハッハッハ!」
な、何だ行き成り?大丈夫か九葉?……まさか、私達の帰還があまりにも予想外過ぎて、気でも違ってしまったのか?――斜め
45度でチョップしたらなおら……ないな、うん。寧ろトドメになるか。
「いや、大したものだ。私が戦力評価を誤っていた。
正しく評価し直す必要がありそうだ。――梓だけでなく、お前達全員が規格外のモノノフであるらしい。」
「お前にそう言われると妙な感じだが……まぁ、そう言う評価は悪くないな。」
但し、私の場合は規格外どころか、存在が犯罪とでも言うべき無限チートの末にステータスがバグってる反則キャラな訳だがね。
「特に梓、お前の因果を引き寄せる力……数多くのミタマを宿す力は並ではないな。」
「因果を寄せる……?」
「……此方の話だ。
戦力が回復したのは僥倖だが、過ぎた時は戻らない。作戦の遅れを取り戻すには、馬車馬のように働いて貰う必要がある。
今後の働きに期待しているぞ、モノノフ達よ。」
全く、サラッと言ってくれる……此方は死地から生還したばかりだと言うのにな?そうは思わないか、富嶽?
「同感だ……ったく、トンデモねぇオッサンだな……」
「キツネかタヌキね、全く!」
「フ……妖呼ばわりも、この際一興――とは言え、此処で無理をさせて戦力を減らしては本末転倒だからな……梓、暦の両名は
身体を休めろ。但し、明日までにな。
……梓、お前には聞きたい事も有ったのだが、其れはまた明日にしておこう。」
妖呼ばわりも一興とは、中々根性も座ってるみたいだな……流石は霊山の軍師と言った所か?……だが、お前の口から『休め』
と言う言葉が聞けるとは思わなかったぞ九葉?
馬車馬云々の話で、休む間もなく任務に駆り出されると思っていたからな……私に聞きたい事と言うのが少々気になるが、今日
は、お言葉に甘えて休ませて貰うよ。
「暦様、梓様、本当によくご無事でいてくださいました……私、これ以上嬉しい事はありません。」
「もう、那木は泣き虫ね。」
「……皆、気持ちは分かるが、2人を休ませてやれ。
見た目以上に消耗している筈だ。先ずは休養を優先させる――其れで良いな、暦、梓。」
「異論はないよ大和。
と言うか、霊山の軍師と、ウタカタのお頭の両方が休めと言うのならば、其れに異を反する気はないさ……其れに、流石の私も
今回ばかりは、些か疲れたからね。」
「……先輩は、私の為に薬草を探したり、洞窟の周りの鬼を退治したりと忙しかったからな……」
「ふ……如何やら、新たな縁も結ばれたようだな。
全員一時解散。招集あるまで、待機しろ。……皆、本当にご苦労だった。」
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本部の外に出ると、本当にウタカタに戻って来たのだと実感出来る……そう言えば、初穂の軽口など、大分聞いて無かった気が
するな?……其れだけ、あの場所に長くいたと言う事か。
皆にも大分心配をかけてしまっただろうな――後で、オヤッさんと樒には無事を報告しておかないとだ。
しかしまぁ、無事に戻って来る事が出来て良かったな暦?
「……皆、凄い勢いだったな。貴女は本当に慕われている――良かったな、先輩。2人で、生きて帰って来られて。
……一緒に居てくれたのが、貴女で良かった。」
「そう思ってくれたのならば光栄だな。」
「……先輩、改めて貴女にお話ししたい事がある。」
改まって如何した?礼ならば、要らないぞ……帰って来られたのは、皆が助けに来てくれたからだからね。
「いや、そうではない。……私は、以前貴女に言った――本当の任務の為に、貴女を騙していたと。
今こそ明かそう、その本当の任務を。」
「……其れは、重要機密事項なんじゃないか?」
「先輩は、私を信じてくれた……だから、私も先輩を信じる。願わくば、先輩に協力してほしい。」
協力するかどうかは、内容にもよるが……一体どんな密命を受けて来たんだお前は?
「私の本当の任務は、『モノノフ』に巣食う、敵の間者を見つけ出す事――其れが、シラヌイのお頭、凛音殿から与えられた密命。
敵は『モノノフ』の影……『陰陽方』だ。」
「!!」
陰陽方だと?……となると秋水だが……少なくとも、アイツは敵ではないな。
最初はスパイとしてウタカタにゆさぶりをかけていたようだが、今はウタカタの一員として職務に務めているからね?……まぁ、多
少怪しい所は否めないがな。
だが、そうなると秋水以外の陰陽方のスパイが入り込んでいると言う事になるが、私の知って居る限りウタカタの里に、そんな奴
は見当たらない――となると、消去法で外部から里にやって来た者である、ホロウと九葉と百鬼隊と言う事にあるが……まぁ、ホ
ロウだけは絶対に違うだろうな。
だが、スパイが入り込んでいると言うのは、確かに由々しき事態だからね?そいつを炙り出すと言うのならば、喜んで協力させて
貰うよ暦。
「ありがとう、先輩!……では早速――と行きたい所だが、其れは明日にしよう。
私も貴女も、相当に消耗してしまっているから、こんな状態で何かをやっても巧く行くはずがないからな……今日は、お互い身
体を休める事に専念しよう。」
「あぁ、賛成だ。」
だが、休み前に禊だな。
如何に洞窟のおかげで瘴気から守られていたとは言え、『鬼』との連戦もあったから、可成りの穢れをこの身に受けてしまった筈
だから、禊で浄化しなくてはな。
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で、暦と別れた後、オヤッさんと樒に帰還の挨拶をして、禊をし自宅にだ……樒には大層心配されて、オヤッさんには『爺に心配
掛けんじゃねぇ』って怒られてしまったな――其れだけ、私の事を大切に思ってくれていると言う事なのだろうがね。
そして、自宅に戻って来た途端に、寝床にバタンキューだったのだが………
「おや……其処に居るのは梓か?洞窟から里に戻れたのか?其れは良かった!」
お前かオビト……まぁ、イテナミから新たなミタマを手に入れたから予想はしていたが、本当に予想通りになるとはな。
何と言うか、此れは若しかしなくても、身体は休んでいても脳が休んでいない状態なんじゃないか?……何時の日か、私は狂経
脈を会得してしまうんじゃないだろうか?割と本気で。
まぁ、会得出来たら出来たで、更に強くなってしまうだけなのだが、其方の進展は如何だオビト?何か分かったか?
「……此方は残念ながら進展なしだ。
この常闇から出る方法ばかりか、結局自分の状況さえ分からぬ。」
『……なら助言をやろうか、わらべ。』
この声は……イテナミから手に入れたミタマ『岩倉具視』だな?……今更だが、歴史上の偉人の生の声を消えるって言うのは凄
い事だな?歴史研究家が聞いたら、羨ましがりそうだ。
して岩倉具視殿、助言とはなんだ?
『此の岩吉、この世の裏を知るのが得意だぞ。』
「……またミタマか。いい加減しつこいぞ。」
『ふ……確かに此処は騒々しいな。
数多のミタマを宿す英雄の主よ、お初お目にかかる。俺は岩倉具視、時代に風を吹かせる男だ――が、新時代の幕開けを見
届ける前に、『鬼』に喰われてこの有り様。
果たせなかった維新の夢は、貴女に託すとしよう。宜しく頼む、主。』
何やら大層なモノを託されてしまったが、此方こそ宜しく頼む。
此れから先、戦いは更に激化していくだろうから、私が宿すミタマは多いほどいいからね。
「……何が風を吹かせるだ。気障な男は嫌いだぞ。」
「そう言うなオビト。気障な男と言うのは、意外と頼りになる事が有るんだぞ?」
『主は見る目が有るようだが、俺が嫌いかわらべ……まぁ、其れも良いさ。
俺もわらべも、もう死人……誰が嫌いだろうと、憚る事はない。』
……予想はしてたが、矢張りか……オビトは、この世の者ではないんだな?
『そう言う事だ……そんな顔をするなわらべ――薄々、分かって居たのだろう?』
「……そうか。やはり私は死人か。」
『……人は死ねば魂となり、やがてこの地から消える――だが、多くの因果を背負った英雄の魂は、そうはならない。
時間をゆたたううち、百万の願いを集めミタマとなる……『鬼』に喰われ、時の迷い子となりながら……』
その理屈で行くと、オビトは『鬼』に喰われたと、そう言う事なのだろうか?
『……さぁな、其れは分からない。わらべがいる場所は、『鬼』の中とはまた違う気もする。
――尤も、其れが何処かは分からないが。
まぁ、あまり考え過ぎるな――1つ良い助言をやろう。
外の世界の伝説や言伝えを当たってみろ。必ずわらべに関する情報が残っている筈……わらべが真に英雄であるならばな。』
その手があったか!確かに、オビトが英雄であったのなら、その記録は少なからず残っている筈だからね。
「成程、一理あるな?
梓、卿に頼みたい事がある――今度来る時までに、調べて欲しい事があるのだ。」
「みなまで言うな、お前の事を調べて来いと言うのだろう?」
「話が早くて助かる――『オビト』と言う名の英雄の伝承や口伝がないが調べて欲しいのだ。
私がミタマだと言うのなら、私は英雄として語り継がれている筈だ――その記録を探ってほしいのだ。」
任せておけ――ウタカタ一の博識である那木にでも聞いてみるさ。
「那木……ならば安心だ。卿の話では、可成り博識のようだし――とにかく頼んだぞ梓!」
「任された。」
と言っても、見つかるかどうかは分からないけどな。……さて、そろそろ夢から覚める時間だな……
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あふ……もう朝か。
体力は……うん、完全回復しているな。我ながら呆れた回復力だよ。魔力の方も完全に戻っているからね……此れならば、何時
でも『鬼』と戦う事が出来そうだ。
だが先ずは、起きたら食事だ!昨日寝る前にセットしておいた土鍋のコメと暖炉の焼き魚で朝食だ!……遅延魔法を使っての、
タイマー調理と言うのは意外と便利だね。
それにしても、久しぶりの真面な食事だ……此れだけも、元気が湧いてくる気がするよ。
さて、HPは全回復したし、腹も満たされたので本部に行くとしようか?……おはようございます!!
――バッキィィィィ!!!
「……梓、言うだけ無駄なのだろうが、偶には普通に入って来れないのか?」
「其れは無理な相談だ大和……扉は蹴破るモノだろう?」
「……その認識がそもそも間違っているが……身体の方は如何だ?」
身体の方はマッタク持って問題ないよ?……一晩ぐっすり休んで、腹一杯飯を食って来たから、ご覧の通り元気一杯だ。
この状態なら、大型の『鬼』と10連戦しても負ける気がしないさ。
「大したものだな――お前達は、丸五日遭難していた……普通なら身動きできなくなっている。」
「かも知れないが、少し不思議な娘が手助けしてくれてね……私達が生き延びる事が出来たのは、彼女の存在も大きいよ。」
「奇妙な娘が、手助けしてくれただと……?
……何者かは知らんが、感謝しなければな――俺の大事な部下を救ってくれた事に。」
本当に彼女には感謝してもし切れんよ……千が居なかったら、暦はあそこで命を落としていたかもしれないからね。
時に、其れは其れとして、皆が集まっているようだが、此れは一体?……特別警鐘もなっていなかったから、緊急出撃と言う訳
でもないのだろうが。
「私が集めたのだ。」
「九葉?」
お前が?……一体何の為に?
「先日言った、お前に聞きたい事があると言った事に関係している事だ……此れは、里のモノノフは聞いておいた方が良い事な
のでな?」
「そう言えばそんな事を言っていたが、一体何を私に聞きたいんだ?」
「……率直に問おう、お前は一体何者だ梓よ?」
何者って、質問の意図を計りかねるな九葉?
私は、ウタカタのモノノフだ。少々常識外の強さを持っているかもしれないが、それ以上でもそれ以外でもない……私は私だ。
「妙な質問をするな九葉?梓は、霊山がウタカタに派遣したモノノフ……その筈だろう?」
「確かに、霊山は梓と言う名のモノノフをウタカタに派遣した――が、霊山が派遣した梓と、この梓では容姿が似ても似つかん。
髪と目の色は似通ってはいるが、其れ以外は全く異なる……何よりも、あの新米モノノフが、短期間の間に此れだけの力を身
に付ける事が出来るとも思わん。
――故に、改めて問う……お前は何者だ?」
……迂闊だったな。
九葉は霊山の軍師……となれば、本当の梓の事を知っていても不思議はないからね……さて、如何した物か?
詭弁を並べ立てて逃れる事も出来るが、ウタカタの皆が集まっているこの場で、嘘はつきたくはない……如何やら、年貢の納め
時と言うやつなのかも知れないな。
良いだろう、教えてやろう九葉……私が――リインフォース梓と言う、チート級のモノノフが、一体何者であるのかをね……!!
To Be Continued…
おまけ:本日の禊場
――時は少し遡り、梓達が帰還した直後
Side:梓
「あ~~~……久しぶりの禊だ――体も心もリフレッシュできるな。」
「気持ちは分からないでもないが、少々だらけ過ぎではないか梓?……禊は神聖な儀式なのだから、もう少し態度を良くすべき
だと思うが……」
「分かってはいるが、今回だけは大目に見てくれ桜花……流石の私も、今回ばかりは疲れたからな。」
「……そうだな。禊で穢れを落としてからゆっくり休むと良い……本当に、生きていてくれてよかったよ。」
「私はそう簡単には死なないがな。」
久しぶりの禊は桜花が一緒だったな。――此れは次の任務では、私の潜在能力が解放される予感がするな。
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