Side:梓


突如洞窟の奥から現れた、謎の女性……一体何者なんだ?特に敵意は感じないが、だからと言って味方と言いう訳でもなさそう
だから、警戒を緩める事は出来ないが――



「人と会うのも久しぶりだ。少し話をして行かぬか?」



少なくとも、悪人ではないようだ……お前は?



「フフフ……謎の怪人だ――少しは笑わぬか、つまらんぞ。」

「いや、そう言われても、余りの事態に理解が追い付いていないんだ。
 こんな場所に来たと思ったら、鬼の襲撃に遭い、其れを退けたら今度はお前のような摩訶不思議な人間と遭遇したんだ……少
 しばかり、思考が飛んでも仕方ないだろう?」

「ククク……アッハハハハ!そう困った顔をするな――余りに退屈していてな、少しからからかってみた。
 私も道に迷った口だ。此処で難を凌いでいる――おんし、名は何と言う?」



退屈だからって、人をからかうのは良い趣味とは言えないな?
とは言え、名を聞かれたのならば、名乗らないのは礼儀に反する――私の名はリインフォース梓。梓と呼んでくれ、謎の怪人よ。











討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務54
『雪原の大乱闘~リインフォース無双~』











「梓……ふむ、知らぬ名だな。
 この辺りには最近来たのか?成程、なら私が知らぬのも無理はない。」



最近と言うか、ちょっと前にオラビに蹴落とされて、偶然ここに来ただけだけれどな?……で、お前の名前は何と言うんだ?
私は名を名乗ったんだ、お前も名を名乗るのが礼儀だと思うが如何だろう?



「ふむ、その通りよな。
 私は……私は、千だ。宜しく頼もう、梓。」

「千……まさかとは思うが、その名は仮初の物で、本名は『千尋』とかじゃないだろうな?」

「何故、その思考に至ったのかは分からぬが、其れは否と言っておこう――私は千であり、それ以上でもそれ以下でもない。
 にしても……おんし、些か妙な奴よな。
 私を見て逃げ出さぬ者も珍しい――恐ろしくはないのか、私が?」



その仮面は奇異な感じを受けるが、別に怖くはない。
普通の人間でない事は、見れば分かるが、だからと言って恐れる理由にはならんさ……何よりもお前は、根本からの邪悪と言う
訳ではないみたいだからね。



「ふむ……そう言う者もおるか。
 『鬼』の身体の影響でな。こうした身体になってしまった――まぁ、そんな事は如何でも良い。
 其れで、何をしていたのだ?何やら慌てた様子だったが……」



如何でも良い事でもないと思うが……何をしていたのかと問われれば、連れのモノノフが身体を壊してしまってね。熱を出して苦
しそうなんだ。
せめて熱を冷ます何かがないかと、探していたと言う訳さ。



「ほう……連れがな。熱は高いのか?」

「少なくとも、平熱を大きく上回ってるとは思う……額に触れたら、可也熱かったからね。」

「そうか……困ったな。
 普段なら、解熱剤くらい持ってるが……生憎切らしている。材料さえあれば、作れなくもないが……確か、此処に来る途中で、
 薬草を見たな?この洞窟の外に少し行ったところだ。
 其れを取って来れば、薬を煎じてやらんでもない――しかし、外は『鬼』の巣。如何する、モノノフよ?」



ふん、つまらぬことを聞くな千。
仲間を助ける事が出来るのならば、多少の危険は承知でその一手を打つのが最上の策と言う物だ……暦を助ける為ならば、私
は、大型の『鬼』を相手に、1000体組み手を行う事だって厭わないぞ!



「……フフフ、愚問であったか。
 では、薬草を取って来ると良い。私は、おんしの帰りを待って居よう――武運をな、梓。」



うん、行ってくる。



・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



で、出撃したんだが……またお前かヒノマガトリ!
火属性のくせに、雪深く吹雪が起きてる『乱』の領域にお前が出て来るのは明らかに場違いだろ!一面雪景色の銀世界に、火
属性の者は来るべきではないぞ?

そう言って、『鬼』が退くとは思えないけれどね。

まぁいい、私の前に立ちはだかると言うのならば、此の六爪流の錆とするまでの事……お前もまた、私と暦の緊急食糧になって
貰うとしようかな?
先刻狩ったヒノマガトリのもも肉は、直火で焼いたら結構美味しかったからね。



『『『『『『『『『『ガァァァァァァァァァ!!』』』』』』』』』』



と、ヒノマガトリだけでなく、マフウも現れたか?
黄泉個体は居ないようだが、其れでもマフウが10体加わると言うのは、少し難易度が上がったようだ……だからと言って、私を
止める事は出来ないだろうけれどね。


――ジャキン!!


来い、纏めて葬ってやる!!
私に盾突いた、己の愚行を地獄の底で後悔するが良い――そして、恐怖と共に己が魂に焼き付けておけ!リインフォース梓と言
う名を、最強のモノノフの名をな!








――――――








No Side


モノノフ1人に対して、ヒノマガトリ1体と、マフウが10体と言う構図は、普通に考えるのならば、モノノフにとっての死亡フラグでし
かないだろう。
更には、戦闘を開始してから、地面からドリュウまで現れたとなったら堪ったモノではない。
『防』のミタマを宿している桜花ならば、切り抜けられるかもしれないが、そうでなければ生き残るのは難しい状況である。

であるにも拘らず――


「如何した、此の程度か鴉天狗擬きよ!!」


『乱』の領域では、梓が文句のつけようがない位に無双していた。
マフウは小型の鬼の中でも最強と言われており、複数で出現した際にはモノノフであっても苦戦する相手なのだが、梓はそんな
事は何のそのと言う感じで、次から次へとマフウを六爪流で叩き伏せて行く。
地面から顔を出したドリュウに関しては、頭を出した所を思い切り蹴り上げて地中から強制的に引きずり出しながら、マフウへ蹴り
飛ばしてぶつける。

其れだけでなく、炎を纏って突進して来たヒノマガトリに対して、マフウとドリュウを投げつける攻撃までしてのける。
大型の『鬼』であるヒノマガトリは無傷なモノの、投擲されたマフウとドリュウは、哀れ鳥の丸焼きと芋虫の丸焼きに早変わり……
其れを見た梓が『食糧確保……』と呟いたのは、きっと気のせいだろう。


「なんだ、『鬼』が大勢集まって此の程度か?
 魔法が使えぬ状態で、もう少し苦戦するかとも思ったが、案外そうでもなかったね?……其れとも、魔法が使えない事で剣術、
 体術の能力がリミッター解除されているのか……
 まぁ、良い。残るはお前だけだな、ヒノマガトリよ。」

『キィィィィィィィィィ……!』


何にしても、梓が大立ち回りを演じた結果、マフウとドリュウは全滅し、残るはヒノマガトリのみ。
ヒノマガトリには、小型の『鬼』を呼び寄せる力がある物の、小型ではハッキリ言って戦力にならない事は分かり切っているのだか
ら援軍を呼ぶ可能性は低いだろう。
つまり此処からは、一対一のサシの勝負と言う訳だ。

とは言え、大立ち回りをしていた梓の方が体力的に不利な部分はあるだろう。が、しかし、ヒノマガトリの方とて此れだけの『鬼』を
相手にして、全然無傷で立ち回り、己以外を全滅させたと言うのを見て、若干士気が下がっている……精神的ダメージを受けて
いるので、相対的に見れば五分五分と言った形と言えるかもしれない。

それでも、魔法が使えない状態の梓は、空を飛ぶ事が出来ないので、ヒノマガトリが空からの攻撃を仕掛けて来たら厄介である
筈なのだが……


「誰が飛ばせるか、馬鹿者!」

『ピギャ!?』


上空へ飛び上がろうとしたヒノマガトリの足を掴むと、其のまま強引に地面に引きずり下ろして叩き付ける!
飛び上がろうとした所で足に捕まって、自分も一緒に空中にと言うのなら未だ分かるが、持ち上げられる事なく地面に引きずり下
ろす等と言う力技は、梓だからこそ出来る事だろう。

勿論それだけで終わる筈もなく、地に伏したヒノマガトリの背中に飛び乗ると、両手で両上翼を、足で両下翼を足で極めて絞め上
げる!分かり易く言うのなら、パロスペシャルで絞め上げる!


「大人しく往生しろ!!」


――メキィ!!!


そしてそのまま部位破壊!
相馬から聞いた噂を、以前に実現させて開き直ったのか分からないが、又しても素手で鬼の部位を引き千切って見せたのだ。…
…奇しくも、梓に素手での部位破壊をされたのはオラビとヒノマガトリと言う鳥型の『鬼』であった。

兎にも角にも、此れでヒノマガトリの最大の武器は封じられた。
部位破壊されても、内部生命力が存在しているので飛行行為そのものは可能ではある物の、外部生命力という鎧を失った翼で
は、飛行速度や最大高度が大きく落ちる故に、空中戦を行うことが困難になるのだ。
更に、同時に4枚全ての翼を破壊されたと言うのは、ヒノマガトリ自身が受けたダメージも絶大であり、一気にタマハミ状態になっ
てもオカシクはない。


――ギュイィィィン!


実際に、ヒノマガトリの身体が怪しく光り、瘴気をまき散らし始めたのだから。
だが、タマハミを許す梓ではない。


「地面に這いつくばって居ろ、焼き鳥が!」


タマハミ状態になろうとしていたヒノマガトリを全体重を乗せて押し潰し、再び地面に縫い付ける――と同時に、刀を投擲して、4枚
の翼(内部生命力)と足を貫いて地面に固定する。
そして――


「消え失せろぉ!!」


ありったけの気合を込めた拳を、ヒノマガトリの背中に叩き付ける!
何の事はない、気合を込めただけの渾身のパンチだが、梓位の力の持ち主が行った其れは、間違いなく一撃必殺の威力を持つ
必殺技となり得る物だ。


『ギャァァァァァァァァァァァァァァ!!!』


その拳を喰らったヒノマガトリの身体は、丁度腹の部分から真っ二つに砕き分けられ、同時にヒノマガトリは絶命!梓は、薬草を
探すのに邪魔となる『鬼』達を、物の見事に撃退したのだった。








――――――








Side:梓


ふぅ……此れで終わったか。倒した『鬼』達は、緊急食糧として持って帰るとして、先ずは千が言っていた薬草とやらを探さねば。
洞窟から少し言った所にあったと言っていたが――此れかな?

「瘴気の影響を受けていない……間違いないな。
 前に那木と、橘花の為に薬草を取りに行った時も、薬草は生きていたからね?――若しかしたら、薬草は異界の瘴気の影響を
 あまり受けないのかも知れないな。」

だが、此れで薬草ゲットだ。持ち帰って、千に薬を煎じて貰うとしよう。



・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



という訳でただいま千。外にいた『鬼』達は蹴散らして来たぞ。



「……戻ったか。……アレだけの数を1人で蹴散らしてしまうとは、おんしとんでもない奴よな。
 それで、薬草は取って来たか?」

「勿論だ。此れで良いんだろう?」

「ほう……確かにな。……仲間思いの奴よな、おんしは。
 見捨てて逃げようとは考えぬのか?2人とも死ぬより、1人でも生き延びた方が得と言うもの……今からでも遅くはあるまい。
 さて、如何する……?」



確かに、こんな状況ではその選択もアリだろう。
だが、私は仲間を見捨てる事はしたくない。それに、2人とも助かる可能性が0と言う訳じゃないんだから、可能な限り足掻いてや
る心算だ。
だから、私は仲間を見捨てない。暦を助ける!



「……そうか。其れも良かろう。
 では、薬を煎じてやろう。暫し待っておれ。」

「出来るだけ早く頼む。」

「善処しよう。」



果てさて、一体何の心算であんな質問をして来たのか……私を試す心算だったのか――まぁ、薬を作ってくれるのならば何でも
良いさ。此処で、暦を失う訳には行かないからね。



「よし……こんな物かな。」

「出来たのか、千?」

「それ。この薬を飲ませてやると良い。
 其れで熱も下がろう。暫くゆっくり休ませてやると良い。」



ありがとう!早速飲ませてみるよ。







さて、暦は……横になっているようだが、まだ辛そうだな?
暦、確りしろ暦……薬を持って来たぞ!此れを飲めば熱が下がって楽になるぞ。……暦?



「皆……ダメだ、そっちに行っては……そっちには……『鬼』が……父上……母上……」

「暦?」

夢にうなされているのか?……暦、おい暦、目を覚ませ!!



「先輩……?どこへ……行っていたのだ……?」

「薬を調達に行っていた。」

「薬……?そんなもの……何処で……」



千と言う女性と出会ってね、薬草を取って来て煎じて貰ったんだ。
何でも、熱によく効くらしく、飲んで少し休めば熱が下がるそうだ……こんな状況で熱が長引いては、体力を消耗し『死』に直結す
るからね……さ、飲んでくれ。


「かたじけない……時に、私は……何か口走っていただろうか……?」

「何か、うなされていたようだったぞ?」

「お見苦しい所を……お見せした……ハァ……ハァ……申し訳ない……動く事も……ままならないとは……
 私は……とんだ役立たずだ……私の事は……見捨ててくれて構わない……くれぐれも……無理をしないでほしい。」



見捨てるなど、何を馬鹿な事言ってるんだ?
安心しろ、無理はしないし、お前を見捨てる気など毛頭ないさ……2人でウタカタに戻らねばだからね。



「そうか……安心した……」



暦?……如何やら眠ってしまったようだな。
千の言う通りならば、此れで暦の熱も下がるだろうが、だからと言ってこの遭難状態が好転したとは言い難いな……あの吹雪で
は、暦が回復したとて領域を突っ切って里に戻るのは難しいからな。
今は待つしかないか、里からの救援が来るのを……其れまでは、何とか持ち堪えねばならないね……私も暦も、此処で死ぬ訳
には行かないからな……









 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場