Side:梓


カゼヌイと、オンジュボウの同時討伐と言う事で、暦と富嶽と那木を連れて、任務地にやって来たのだが……相変わらず、『乱』の
領域は極寒の地だな。
ネコも植物も、寒冷地は忌避する物だと思ってたのに、ネコ型のカゼヌイと、全身がコケに覆われて、タマハミ状態では謎の実を
両手に装備する植物型とも言えるオンジュボウが、雪深い『乱』の領域に現れるとは予想もしてなかった――『鬼』に自然界の摂
理は通じないという事なのだろうね。

「……モノノフの中にも、自然の摂理が当て嵌まらない奴が居る様だがな?」

「あん?そりゃ、俺の事か梓?」

「他に誰が居るんだ富嶽?」

私も那木も暦も、まぁ寒冷地にしては可成り薄着ではあるだろうが、お前の場合は薄着を通り越して上半身は殆ど裸じゃないか。
何か?お前ほどの分厚い筋肉を纏っていると、寒さを感じなくなるのか?防寒肉襦袢なのか、その筋肉は!!



「はっ!此れから『鬼』と戦うって時に、寒いだの暑いだの言ってられっかよ!そんなモンは、気合入れりゃあ何とかなんだろ。
 其れとだな、そもそも常識の一切が通用しねぇテメェに、自然の摂理に当てはまらねぇとか言われたかねぇぜ。」

「……富嶽様、其れは流石に……」

「いや、先輩が相手だと否定できないぞ、那木殿。」



うんまぁ、其れを言われたら何も言えないが……翌々考えたら、『乱』の領域は其処まで寒いとも思わないし、『武』の領域や『戦』
の領域のマグマが流れている場所も、其処まで暑くは感じなかったか。
此れも、ミタマがモノノフを護っていてくれるからかもしれないな?……英霊の力とは、真に凄い物だね。――さて、行くか。











討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務52
『毒と疾風~吹き荒ぶ凶風~』










と思った矢先に……



『キュキュ♪』

『(^^)』




なはとにりひと!……そう言えば、『乱』の領域に素材探しに出かけていたっけか。まさか、会うとは思わなかったが、如何した物
だろうね?
別行動をしようと言っても、絶対について来るだろうから、少し危険だが戦場まで連れて行くしかないか。――取り敢えず、なはと
もりひとも、私に宿ったミタマを『分霊』と言う形で分け与えているから、いざと言う時はタマフリで何とかできるだろうしな。

「と、言う訳で、なはととりひとも連れていく事にしたからその心算で。」

「舐めてんのかって言いたい所だが、テメェの天狐と……確かハネキツネだったか?そいつ等なら大丈夫だろ。
 間違いなく、飼い主に似て、普通の天狐やハネキツネとやらじゃねぇだろうからな。家畜は飼い主に似るってやつだぜ。」



まぁ、否定はしないよ?出来るかなと思ってやってみたら、本当に分霊出来たしな……木綿に聞いた話だと、天狐は知能が高く
て神聖な存在ではあるが、ミタマを宿したという話は聞いた事が無いと言っていたからね。
矢張り、私に似たのだろうね。

ともあれ、なはとには『癒』のミタマを、りひとには『魂』のミタマを分霊してあるから、タマフリ的にはサポートも可能だからついて来
ても邪魔にはならないさ。
何よりも、2匹とも頭が良いから、本当に危険だと感じたら、その時点で里に戻るだろうからね。

では、改めて行くぞ!!



「さぁ、暴れようぜ!!」

「参りましょう。」

「いざ、参ろう先輩!」



気合は充分!赤く輝く鳥居を通って――



『ギニャァァァァァァァァァァオ!!』

『グガァァァァァァァァァァァァァ!!』




ふ、御丁寧に2人揃ってのお出迎えか、カゼヌイにオンジュボウ。相馬流に言うのならば、『倒される為に態々ご苦労』と言った所
かな?
まぁ、私が出張った以上、お前達の『死』は絶対だがな。……カゼヌイに関しては、魔法で小型化してペットにしたい所だが、桜花
が絶対に許してくれないだろうからなぁ……カゼヌイをペットに出来ない悔しさは、ドヤ顔してるオンジュボウの顔をボッコボコにす
ることで解消するとしよう。



「はっ!ノコノコと現れやがったな?叩き潰してやるぜ!」

「お気を付けください。
 付近には翼を持った『鬼』の目撃情報もあります……あまり長居をすると、奇襲を受ける事になりかねません。」



確かにその危険性はあるだろうね。
オラビ単体ならば恐れる相手ではないが、カゼヌイとオンジュボウの相手をしている所に奇襲をかけられると面倒だ――オラビに
は、他の『鬼』を呼び寄せる力があるから余計にな。
だが、そう言う事ならば、オラビが来る前に倒すだけの事だ――と言う訳で、初っ端からパワー全開で行くぞ?
攻のタマフリ『渾身』!そして『軍神招来』!!
此れで、私達の攻撃力は極限まで底上げされたぞ!特に富嶽は、更に渾身と軍神招来の重ね掛けが出来るからな……圧倒的
な攻撃力で、一気に磨り潰してやる!

那木は、2体の間合いの外から援護を。暦と富嶽はカゼヌイの方を頼む――オンジュボウは、私がボッコボコのフルボッコにして
やろう。って言うかする。



「ハッ!テメェに狙われるたぁ、そっちの緑の奴には同情しちまうぜ!――そんじゃまぁ、此の化け猫をブッ飛ばすぞちびっ子!」

「だから、ちびっ子ではないと何度言えば……だが、カゼヌイを叩きのめすという提案に対しては同意だ富嶽殿!……ん?」



如何した暦、何か見つけたか?



「いや……あれは、城か?……何処か見覚えが……いや、今は戦に集中しなくては。」



城?……あぁ、確かに『乱』の領域のこの場所からは、城が見えたな?……見覚えがあると言う事は、シラヌイの里にも似た様な
城があるのか、それともモノノフとなる以前に住んでいた場所にあったのか……ふむ、少し気になるな。

「まぁ、だからと言って注意力散漫になって、戦闘中に致命的な隙を曝す心算は、毛頭ないがな!」


――バキィ!!


『ガァ!?』




取り敢えず襲って来たオンジュボウに対して、カウンター気味の右ストレートで先制攻撃!……顔を殴る心算だったんだが、相手
が大きすぎたせいで、反則パンチギリギリのボディブローになってしまったな。
此れからは、ジャンピングアッパーカットでカウンターする事にしよう。

「さぁ来い、オンジュボウ。今のは、試合開始の合図に過ぎんだろう?
 以前に戦った、お前のお仲間は、私に2発も蹴りを入れてくれた上に、毒霧まで喰らわせると言う奮闘を見せたが、お前は如何
 かな?」

『ウゴアァァァァァァァ!!!』



ふ、今度はフライングボディプレスか?……確かにその巨体に押し潰されたら、並の人間ならば即圧殺、モノノフであっても大打
撃となるだろうが、生憎と私に限っては、其れは必殺技になり得ない。

「ふん!」


――ガシィ!!


と、この様に受け止める事が出来るからな。
そして、受け止められてしまうと困るんじゃないか?身体は真横になった状態で宙に浮いている上に、この状態では私に攻撃す
る事だって儘ならないだろう?

そして、此れ状態は、私にとっては攻撃の好機……貫け、ナイトメア!!



『ウガァァァ!?』

「ゼロ距離からの腹への直射砲撃は、流石に『鬼』と言えども効いただろう?
 だが、流石の頑丈さだよ……腹に風穴を開けてやる心算だったのだが、吹き飛ばされるだけで済んだのだからね……尤も、鬼
 の目で見る限り、表層生命力は大きく削れたようだがな。」

と言うか、此のままだと刀を抜くまでもなく、素手で倒せそうだな?いや、だが其れは刀を鍛えてくれたオヤッさんに申し訳ないよ
うな……逆に考えると、此の程度の『鬼』を斬ってしまうのに使う方が申し訳ないのか……



『ゴアァァァァァ!!』

「梓様!!」

「ん?」


――めき

――ドスゥ!!




……うん、矢張り痛い。
那木が声をかけてくれたおかげで、今回はガードが間に合ったけれど、やっぱり痛いものは痛いな?……まぁ、私に蹴りを入れた
足を、那木に射貫かれたオンジュボウも相当に痛いだろうが。

……的確に膝の関節を射貫いてる辺りが、那木は医学に精通してるのだと思わせるな?脛や大腿部を射貫くよりも、膝を射抜い
た方が、足殺しの効果は更に大きいからね。
ふむ……更におまけをしておくか――封縛……吼えよ!!


――ボン!!



那木が射貫いてくれた膝を封縛で縛って、そして爆発させれば見事に部位破壊だ。
そして、足を破壊すれば転倒し、暫く身動きが取れなくなるが、お前に最早何一つなす術はない……此処からは六爪流のターン
だ!!


――ジャキン!!


抜刀と同時に、分身が3体現れ、同時に攻撃を開始!1度に24発の斬撃が降りそそいだら、如何に大型の『鬼』と言えども耐え
る事など出来る筈がない。
このオンジュボウは、攻撃力は前に戦った奴よりも高いみたいだが、防御力に関しては前に戦った奴よりも低い様だからな?

「散れ!!」


――バキィィィィン!!


だから、分身との怒涛の波状攻撃で、あっという間に全部位破壊完了!――那木が、起き上がろうとするオンジュボウに、鬼千
切りを喰らわせて怯ませてくれたのも大きいがな。

此方は、此のまま終わりそうだが、暦と富嶽は……



『ギニャァァァァァァオ!!』

「キレやがったな?面白れぇ、かかってこいや!」

「負けはしない!」




カゼヌイを、タマハミ発動まで追い込んで居たか。
ならば、ここらで一気にカタを付けるとしよう!……そう言う訳で、この瀕死のオンジュボウを……どりゃぁぁ!っとぶん投げて、そ
して投げたオンジュボウの上に着地!


――ドッゴォォォン!!


そのままカゼヌイに特攻!
これぞ必殺、桃白白アタック!……全く狙った訳ではないが、今の特攻でオンジュボウは倒せたみたいだな?――最後に、その
身をロケットとして使うとは敵ながら天晴だ。

……ロケットにしたのは私だがな。



「鬼をぶん投げるだけじゃなく、其れに乗ってくるたぁ、相変わらず常識ってモンに喧嘩売ってんなテメェは?」

「常識外や規格外と言う言葉は、先輩の為にあるのではないだろうかと、最近真剣に思い始めている……後は、一騎当千も。」

「流石は梓様、大胆にして効果的な攻撃にございます♪」



敵同士を凶器としてぶつけ合うのは、ある意味で基本だからね。
そして、此れでお前も終わりだカゼヌイ。……お前のような愛らしい存在を倒すのは気が引けるのだが、『鬼』を討つのがモノノフ
の仕事なのでね!


――ギュルリ!!


『!?』


「此れは魔力で出来た鎖だ。強度は鋼鉄の鎖を越える故に、引き千切る事は出来ん……そして、その鎖を持っているのは私だ
 から力任せに振り解く事も不可能だ。」

此れで、カゼヌイは身動きできない……なので、殺れ富嶽、暦!



「っしゃー!ブチかますぜぇ!!」

「お命、頂戴する!!」




――バガァァァァァァァァァン!!



ふむ、見事な鬼千切りだな。
では、此れで止めだ!鎖でぐるぐる巻きにしたカゼヌイを振り回してから、空中に配置したハウリングスフィアに鎖を巻きつけて磔
状態にして……


――ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!



「な、なんだありゃぁ!?」

「巨大な……槍でございましょうか?」

「大型の『鬼』をも遥かに凌駕しているぞ、あの大きさは……!」



敵を戦艦諸共倒す事を目的に編み出された、古代ベルカ最強の決戦魔法『黒槍』を発動。
小さき勇者に放った時は、雷光の少女が夢の世界から帰還した事で、直撃する事はなかったが、今のお前に此れから逃げる術
はない……此れで、眠れ!!


――ギュイィィィィィィン……ズシャァァァァァァァァァァ!!!



『ニャァァァァァァァァァァァァァ!!!』




……流石に、大型の『鬼』とは言え、あの質量を喰らったら一溜りもなかったか……尤も、自分の魔力だけでスターライトブレイカ
ー級の魔法を使う訳だから、魔力の消費が大きく乱発は出来ないが、トドメの一撃としては良いかもな。
ともあれ、此れにて、御役目達成だ。



「皆様、お見事でした。大勝利でございます。」

「此の位朝飯前だってな。なぁ、梓?」



マッタク持ってその通りだな。
……にしても、少し吹雪いて来たか?……此れは、少し早めに帰還した方が良さそうだな。なはととりひとも、地味ではあるが那
木の鬼祓いを手伝ったりしてくれていたから、帰ってゆっくりしたいだろうからね。

って、如何した暦?



「あの城は矢張り見覚えが……あれは、まさか!!あれは……鶴ヶ城か…?……何故、こんな所に?」



鶴ヶ城?福島県の会津若松にある城だと記憶しているが、あの城がそうだと言うのか?
『乱』の領域は、幕末の動乱を再現した異界だから、戊辰戦争の舞台ともなった鶴ヶ城があっても不思議ではないが、暦にしてみ
ると、あれが此処にあるのは異常事態と言う訳か?



「暦様、後です!!」

「クソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

『キョアァァァァァァァァァァァァ!!』



オラビ!!
此処で出て来るとは……暦!!



「ぐは……」



クソ、防御は間に合わなかったか!……此のままでは谷底に真っ逆さまだが、そうはさせん!!間に合えぇぇぇぇ!!!



――ガシィ!!



「……先輩?」

「ふぅ……間に合ったか。」

「あ、ありがと……先輩、上だ!!!」

「なに!?」



『キシャァァァァァァァァァ!!!』



――ドガァァァァァァ!!!



がっ!?
く……まさか、無防備になっている後頭部に攻撃を喰らってしまうとは……不覚の極みだ。……しかも、この攻撃の衝撃で、私の
身体も暦と共に谷底へ真っ逆さまだ。
くそ……後頭部に真面に入ったせいで、意識が……せめて、雪のクッションがある所に落ちる事を願うしか……ない……か……








――――――








Side:那木


御役目を果たして、油断したとは言いませんが、まさかあそこでオラビが襲ってくるとは……!
暦様が攻撃を受け、梓様が谷底に転落しそうになった暦様を何とか腕を掴んだと言う所で、オラビが今度は梓様を攻撃して、2人
は谷底に……!

「暦様、そんな……梓様ーーーーーーーーーー!!!」

「クソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



まさか、こんな事になるなんて……!!如何か、無事でいてください梓様、暦様……!!











 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場