Side:梓


ダイマエンとクナトサエの討伐依頼が出ていたが、ハッキリ言って何方も今の私の敵ではなかったな?ダイマエンと初めて戦った
時には、空からの岩礫に困らされたが、一度見た技なら二度は喰らわないし、行動パターンも読めたからね。
クナトサエに至っては言うまでもない……如何に高い攻撃力と防御力を誇っていても、それ等を帳消しにする愚鈍さでは話になら
ないからな……私の六爪流と、暦の薙刀で一刀両断してやったよ。
此れにて御役目は果たしたんだが……何か用か息吹?



「よう、梓。最近お嬢ちゃんに付きまとわれてるって?」

「此れは……方々。任務の帰りだろうか?」

「はい、奇遇でございますね、暦様。」



息吹と那木と富嶽か……私達とは別の御役目を熟していたと言う所か?……まぁ、チームの戦力バランスも良いから、負ける事
だけは無いだろうがな。



「何だ、ちびっ子も一緒か?――噂通り、苦労してるみてぇだな梓。」

「別に、それほど苦労はしてないよ富嶽。――其れに、後輩を育てるのも先輩モノノフとして大切な事だろう?」

「仲良き事は美しき哉、でございますね。」



言い得て妙だね那木?――仲が良い事は確かに美しい事だが、暦の此れは、其れでは済まない感じがするんだ……暦自身が
何か重い物を背負ってるようにも思えるからね……一体彼女は何を背負っているのか、其れを知らねばだな。











討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務51
『ホオズキの悔恨とシラヌイの後悔』










「しかし、何だってうちの隊長に張り付いてるんだ、お嬢ちゃん?」

「……息吹殿、富嶽殿。私はお嬢ちゃんでも、ちびっ子でもない――此れでもれっきとしたシラヌイのモノノフ、子供扱いは止めて
 頂きたい。」



うん、此れは暦の言う事が正しいな。
モノノフとなったのならば、其処に老若男女は存在しない――鬼を討つ鬼としての使命を果たすだけだからね。その若さで、モノ
ノフの真髄を理解しているとは驚きだ。
だから、子供扱いは失礼だぞ?



「おっと、そいつはすまなかった――じゃあ、間を取っておチビちゃんで如何だ?」



……息吹、其れは本音か?其れとも突っ込み待ちのボケか?前者なら、スクリューパイルドライバーの刑で、後者ならファイナル
アトミックバスターの刑だが……さぁ、如何する!!



「いや、冗談だって……悪い悪い、そんな顔するなよ――馬鹿にしてる訳じゃない。ちょいと緊張を解そうと思ってな。
 悪く思うなよ、暦。」

「いや……此れは失礼した――少し気を張り過ぎて居た様だ。私は侮られる事が多い故……」



と思ったら、息吹なりの緊張の解し方だったのか――其の効果は覿面みたいだな。此れで、暦も正式にウタカタのモノノフの一人
となった訳だ。
時に暦、お前は何だって『百鬼隊』と一緒に居るんだ?――聞いた話だと、シラヌイの里は、今は鎖国中と聞いたが……



「其れは…………シラヌイと言えど『モノノフ』の一員。人の世の為に戦う事に異存はない。北の『鬼』と言う驚異を前にして、協力
 するのは当然の事だ。」

「其れは、確かに其の通りだな。」

困ってる時はお互いさまと言うからな。



「……随分と都合のいい話じゃねぇか?鎖国だか何だか知らねぇが、仲間を見殺しにした連中が良く言う。」

「富嶽……?」

なんだ?こんな事を言うなんて、らしくないんじゃないか?――若しかしなくても、富嶽とシラヌイの里には、私の知らない因縁が
あるのかも知れないな……?果たして、何が有ったのか……



「ホオズキが落ちた時、テメェ等は動こうとしなかったな――それが、どの面下げて、人の世の為ってやつを語る気だ?」

「富嶽殿……あなたは……ホオズキの御方か?」



ホオズキが落ちた時に動こうとしなかったシラヌイの里……鎖国中であるが故に、手を出さなかったのだろうが、若しもシラヌイか
らの援軍が有ったのなら、若しかしたらホオズキは……?
成程、其れなら富岳がシラヌイに良い感情を持ってないのは納得できなくはないが――



「さぁな?そんなこたぁ如何でも良い。
 シラヌイが、テメェのケツ守ってる間に、次々死んでいった奴等が居る……其れをよく覚えておきな。」

「…………」

「……その辺にしておけ、富嶽。らしくないぞ……」

気持ちは分かるが、其れを暦に言うのはお門違いだ――坊主憎けりゃ袈裟まで憎いと言うのは間違いだよ。



「梓……ちっ……確かにな…………邪魔したな。俺は先に帰らせて貰うぜ。」

「富嶽……」

はぁ……此れは、暦の事もフォローしておかねばならないし、富嶽は富嶽でちゃんと話を聞いておかねばならないだろうな……折
角の援軍と、ウタカタのモノノフの間に軋轢があっては、巧く行く物も行かなくなってしまうからね。

先ずは富嶽だが……本部の石段の下に居たか。

「少し良いか、富嶽?」

「テメェか……さっきは、悪かったな……ガキに喧嘩売るなんざ、俺らしくもねぇ。」



其の事は気にしなくていいが、其れよりもさっきの話を詳しく聞かせては貰えないだろうか?……無論、お前にとっては忌まわし
い記憶だろうから、無理にとは言わないが……



「…………ホオズキが壊滅した時の話でな。『鬼』の群れに攻められたホオズキは、周りの里に援軍を頼んだのさ――シラヌイは
 そん中の一つだった。
 だが……何日持ち堪えても、援軍はやってこなかった――どこもテメェの里を守るのに必死で、援軍なんざ出してる余裕はなか
 ったってな。
 結局、どっからも助けは来ねぇまま、ホオズキはこの世から消えた……つっても、ホオズキが落ちたのは誰のせいでもねぇ、俺
 自身の弱さのせいだ。
 其れを誰かのせいにするなんざ、筋違いもいいとこだったぜ……」

「其れは、仕方のない事じゃないか?
 私も含め、人間と言うのは、どうしても『たら』『れば』の事を考えてしまう物だ……特に後悔している過去の出来事については。
 『もしもあの時こうだったら。』だの『あの時こうしていれば』だの……私も随分と考えた事があるさ。」

「テメェもか?……テメェ程の強さがあれば、出来ねぇ事なんざなさそうだがな。
 まぁ、兎に角さっきの話はそう言う事だ……悪いが、あのちびっ子に侘びといてくれるか――因縁つけて悪かったってな。」



そう言う事は自分で言え。……と言う所だが、富嶽はそれが出来ない性分だからな――息吹の様な相手となら、喧嘩しても互い
に謝る事が出来るんだが、今回は相手が女性な上に年下だからな……自分から頭を下げる事は出来ないか。
ふぅ、こう言う事をするのも隊長の務めか。

暦は、確かまだ本部に居た筈だから行ってみるか。……暦の言い分も聞いておきたいしね。



さてと暦は……居た居た。おーい、暦。



「梓殿……何か御用だろうか?」

「いや、富嶽から伝言を預かっていてな……『因縁つけて悪かった』だそうだ。」

「富嶽殿が……?
 ……謝る必要はない。私達は、ホオズキを救えなかった。」



ん?救えなかった?……救わなかったではなく、救えなかっただと?……其れは、シラヌイとしては援軍を出したかったが、出せ
なかった事情があると言う事か?
……詳しく聞かせてくれるか、暦。



「今でもよく覚えている。ホオズキの使者が来た日の事を。
 ボロボロになった体を引き摺って、仲間を助けてくれと必死に喘ぐ姿を……
 その使者が息を引き取った時、私達は戦う事を決めた。ホオズキを救うために、部隊を送ると……しかし、結局部隊が発つ事は
 なかった……霊山を発した征伐部隊が、シラヌイの背後に迫っていたからだ。」

「霊山からの征伐部隊……だと?」

「霊山に従わぬシラヌイを制圧するため、秘密裏に送り込まれた征伐部隊……その部隊を迎え撃つには、ホオズキに送るはずの
 兵力が必要だった。
 ホオズキが必死に『鬼』と戦っている間、私達は人間同士で殺し合っていたんだ。」



なんだと?霊山に従わぬからと言って、『鬼』と戦うモノノフの居る里を征伐しようなど、何故霊山はそこまで……!



「……私にも分からない。
 梓殿は、八年前のオオマガドキで、見捨てられた『北』の地の事をご存知か?――シラヌイは、その『北』の地の民が集う里。」

「あぁ、知っている………成程、そう言う事か。」

「お頭の凛音殿も、元は『北』の出身だ。
 『北』を見捨てた霊山に対する恨みは深い……その憎悪が戦を呼ぶのだと、お頭は言った。――霊山に従うくらいなら、自分た
 ちの力だけを頼って生きる……それが、シラヌイの民の決意……
 其れを霊山が疎ましく思うのも、また道理…………何であれ、ホオズキを救う部隊が、シラヌイを発つ事はなかった。
 ……私達もまた、ホオズキを見捨てた……霊山が『北』を見捨てたように……」



まさか、そんな事が有ったとは……そして、事の発端はオオマガドキの時に、霊山が戦略的な理由から『北』を見捨てたと言う事
に起因すると言う訳か……元凶は、矢張り『鬼』……
尤も、霊山のやり方には、私も疑問を覚えるがね。



「……それでも私達は、前進しなくてはならない。失った命を無駄にしない為にも……」

「そうだな……同胞達の死を、無駄死にさせないためにもな。」

「……一つだけ、お願いをしても良いだろうか?……富嶽殿には、今の話、黙っていてほしい。」



其れは構わんが、如何してだ?事の真相を知れば、富嶽だってシラヌイに対する悪い感情だって、少しは薄らぐと思うんだが……



「シラヌイがホオズキを見捨てた事実は事実。言い訳をする心算はない。……せめてその憎しみを受け止める事が、シラヌイに出
 来る精一杯だと思う……」

「暦……」

ふぅ、中々どうして、人間関係と言うのは難しい物だな。
暦の気持ちも分かるが、シラヌイはホオズキを見捨てたんじゃない……霊山のせいで、援軍を出したくても出せない状況であった
に過ぎないんだ。

だが、そう言っても暦は納得しないだろうし、事の真相を知らなければ富嶽も……ヤレヤレだ。



「梓様……如何でしたか、お二人のご様子は……」

「那木か……中々に複雑だよ此れは。
 ホオズキはシラヌイに援軍を要請し、シラヌイも援軍を送る心算で居たが、其処に霊山からの征伐部隊がシラヌイに攻め入った
 せいで、シラヌイは援軍を送れなくなり、結果ホオズキは崩壊した……如何も、そう言う事らしい。」

「ホオズキの援軍要請……シラヌイと霊山の争いでございますか……?そのような事が……
 …………人とは、悲しいものでございますね、梓様。滅びに瀕しても、争う事を止められない……かねてより噂になる事がござ
 いました。霊山とシラヌイが、陰で衝突していると。
 ですが、シラヌイとて『モノノフ』……事態を公にすれば、中つ国は混乱に陥る。故に、ひた隠しにして来た……そして、その背後
 で、一つの里が滅んだ……ホオズキと言うかけがえのない里が。
 ……此れは推測ですが、霊山は大義を求めているのではないでしょうか?」



大義……だと?如何言う事だ、那木?



「公にシラヌイの里を討つ大義を。シラヌイが『モノノフ』の敵であると、喧伝する機会を。
 ――そのために、此度の戦に、シラヌイの協力を要請した……協力など出来ない事を承知で、拒否させる事を目的に……そし
 てシラヌイは、その大義を与えないために暦様を送った……虚しい駆け引きでございます、梓様。」



マッタク持ってその通りだな……下らないパワーゲームだ。



「……私もそう思います。今は、内輪もめをしている時ではありません。……ともあれ、今はお二人を見守りましょう。
 いずれ真実が、お二人をつないでくれます――きっと大丈夫ですよ、梓様。私達が信頼する、富嶽様でございますから。」

「そうだな……そうなると良いな。」

「ところで……こう言う時は、全く別の事を考えた方が、物事が上手く回るそうです。
 私、ちょうど一つ、気になっている事がございます……ホロウ様の記憶の事でございます――この機会に、皆様でホロウ様の記
 憶回復の手掛かりを探すのは如何ですか?」



……本当にマッタク別の事だな其れは。(汗)
だがしかしホロウの記憶か……本人は記憶がなくてもさして困っている訳ではないみたいだし、モノノフとしての腕も確かだから、
むりに記憶を回復させなくても……いや、回復させた方が良いのか?
あのエキセントリックで、会話が噛み合わない性格に記憶喪失が関係してるのだとしたら、記憶を回復するのは悪い事じゃない。
……いいね、そうしよう那木。



「ご賛同頂けて何よりでございます!
 そうと決まれば善は急げでございます。私、皆様を呼んで参ります!先に広場で待っておりますので、急いでいらしてください梓
 様!私、燃えて参りました!」

「あ、あぁ……」

富嶽と暦の事を何とかしようと思ったのに、なんか話が変な方向に行ってるな……と言うか、如何して那木はあんなに活き活きし
てるのか……
医者だけに、記憶喪失の患者を何とかしたいという思いが大きいのかもな。
……遅れて、機嫌を損ねるのも悪いし、私も行くとするか。――如何にも、直接的にも間接的にもホロウには振り回されている気
がしてならないよ。








で、掲示板前の広場にやって来たのだが、私以外は既に全員勢揃いか?……ウタカタの里の結束は強いが、『鬼』との戦いだけ
ではなく、こんな時でも全員一丸となってか……
何やら既に始まっているようだが……どうなってる、桜花?



「やあ、梓。ホロウの記憶について話し合っていてな。」

「少しでも、何か手掛かりはないかと思い。
 外傷によるものだとすれば、回復は困難になるかもしれませんが……」

「皆さん、苦労をかけます。」



一時的なモノならば兎も角、脳への――海馬体へのダメージによる記憶の欠如だと、其れを取り戻すのは難しいだろうな。
尤も、ホロウに限っては、頭に45度の角度でチョップを叩き込めば直るかも知れないがな?……我が主が、よくそうやって映りの
悪いテレビを直してたしな。



「梓……如何したんだ、ぶつぶつと?」

「いや……一発思い切り殴ったら、その衝撃で記憶が戻るんじゃないかなぁと。」

「頭に強い衝撃を与える事での記憶の回復ですか?其れは確かに効果がありそうです。では、思い切りやって下さい梓。」



いや、冗談だから真に受けてくれるなホロウ。……大体、私が思い切りやったらモザイク必須な状態になってしまうだろうが。
記憶を取り戻すどころか、全部吹っ飛んでのデッドエンドだよ。
さて、冗談はさておき何か良い手は……



『キュイー!』



「なはと?何だ、お腹でも減ったのか?」

「おや、これはなはと。こんにちは。」

『キュイ~、キュキュ。キュキュキュー……』

「成程そうでしたか。其れは残念でしたね。」



……そう言えば、お前は天狐の言っている事が分かるのだったね?なはとは何と言ってるんだ?



「素材集めに失敗してしまったとか。怒らないであげてください、梓。」

「何だ、そんな事か。
 気にしなくて良いよ、なはと。どんな物でも好不調と言う物はあるのだからね?……また、今度頑張れば良いだけの事だよ。」

「ご主人様が許すと言っていますよ。キュイ、キュッキュ、キュイ!」

『キュイー!』

「キュイ、キュキュ!!」

『キュイー!』

「天狐と……話してるだと……!?」

「に、人間離れしてるとは思ってたけど……!如何やってるの其れ!」



うん、まぁ普通は驚くよな?
木綿も『何となくレベル』で天狐の言ってる事が分かるらしいんだが、ホロウの場合は『完全』に理解した上で、自分も天狐の鳴き
声で意思疎通を行うからなぁ。
そして、この後の展開が予想出来るぞ……



「……ホロウ殿。後学のため、その技、自分に伝授願いたい……あくまで後学のため。」

「貴方は勉強熱心ですね、速鳥。
 並大抵の努力では習得できません。其れでもやる覚悟はありますか?」

「……無論。」

「いいでしょう。私について来なさい、速鳥。」

「ありがたく、我が師よ。」



はい、予想通り。絶対速鳥がこうなるとは思ったんだよ。……序にホロウは、あんな性格だから師と仰がれれば調子に乗って教
えるだろうからなぁ……
朝の挨拶とやらを始めてしまったし、駄目だな此れは。帰るか。



「それが賢明だな隊長。こいつはもう手遅れだ……」



ホロウの記憶喪失か、其れとも速鳥の天狐好きか……どちらが手遅れなのかは、この際置いておくがな。――後でオヤッさんに
聞いた話だが、私達が去った後も、ホロウによる速鳥への『天狐語講座』はしばらく続いたらしい。


で、家に戻って来たんだが……新聞姉妹の姉がなぜか家に居て突撃取材を受ける羽目になってしまった……
まぁ、断る理由もないので、取材には付き合ってやったが、特に隠す事もないので北の『鬼』の彼是で知っている事を包み隠さず
に話してやったら、なんか好感を持たれたようだね。
この事が新聞になって里に出回れば、北の脅威をウタカタの隅々まで知らせる事が出来るだろう……編集の腕に期待だな。

さてと、此れから如何するか?
ダイマエンとクナトサエと連戦したが、殆ど楽勝だったから疲れも余りない……其れこそ、大型の『鬼』とあと3戦は出来そうだよ。
……本部に行ってみるか。

新たな御役目が出ているかもしれないし、何故か少し、胸騒ぎもするからな。
其れでは、毎度お馴染み異次元空間を通って本部に……って、大和と九葉と相馬は兎も角として、那木に富嶽に暦まで揃ってい
るとは、何かあったのか?



「梓様、よいところへ!
 先程、物見隊から知らせがあり、複数の北の『鬼』が発見されたそうです!」

「何だって!?」

「取り敢えず、里に残ってる連中で討伐に行けっつう話だ。」

「別件で桜花達が出たばかりでな……里の守りは手薄、近付かせる訳にはいかん。」



まるで狙ったようなタイミングだな?……いや、実際に狙っていたのか?
何れにしても、里の残存勢力で対処するしかない訳か……となると、必然的に私と富嶽と那木、そして暦で組む事になるんだが、
本日3戦目だ、行けるか暦?



「……宜しくお願いしたい、先輩。」

「いい返事だ暦。……それで、敵がどんな『鬼』か分かって居るのか?」

「敵は北の『鬼』。オンジュボウとカゼヌイ。二体が共に行動しているらしい。
 恐らく同時に相手する事になるだろう。」

「一戦交えた事のある相手ですが、油断大敵でございます。」



あぁ、確かに油断大敵だな。
夫々単体を相手にするのならば兎も角、素早いカゼヌイと身軽なオンジュボウの二体を同時に相手にするとなると、幾ら私でも少
しキツイかも知れないな?
何よりも、オンジュボウの毒を、カゼヌイが巻き起こす風で拡散させられたら厄介極まりないからね?……私に毒は効かないが、
富嶽達はそうではないからな……まぁ、だからと言って負ける気は毛頭ないがな!



「今回俺は留守役だ。――獲物は惜しいが、お前に譲るとしよう。思う存分暴れて来い。」

「言われずともその心算だ相馬。手土産に、オンジュボウとカゼヌイの首でも持って来てやろうか?」

「ハハハ、頼もしいな!……だが気をつけろ。空を飛ぶ『鬼』も目撃されている――オラビだとすれば厄介だ。
 あまり時間を掛けずに敵を討て。……だが、余り気負うなよ?何かあれば、俺が助けに行く。」



確かにオラビは厄介だな。
空からの攻撃に加え、あの超音波は不快でならないからね……まぁ、お前が出張る事態にはならないようにするよ相馬。



「……足手まといになんじゃねぇぞ、ちびっ子。」

「……言われるまでもない。」


「お二人とも、仲良くでございますよ。」



……チームワークに若干の不安が残るが、富嶽も暦も『鬼』を討つという気持ちは同じだろうから、いざ戦場に出れば巧く連携を
取ってくれる筈さ。
薙刀の繚乱と、手甲の百裂拳のコンボ攻撃はとても有効だからね。

任務の地は『乱』の領域……毒も風も、凍てつく凍土の中で朽ち果てて、フリーズドライのミイラとなるが良い。それが、貴様等に
用意された結末だ!

多少の苦戦はあるだろうが、負ける事はない御役目だが、それがまさかあんな事になるとは、この時は、私を含めて誰も予想し
ていなかっただろうな……










 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場



さて、『乱』の領域と言う寒いところに行くので、冷水の禊で寒さへの耐性を上げてみる事にしたんだが、如何だろうか樒?



「悪くないと思う……だけど、無理をして風邪を引かないで……貴女は、この世界にとって大切な人だから……」

「安心しろ樒、風邪を引く程柔な身体ではないし、風邪如きは、気合で何とかなる。」

「それで……如何にかなるの?」

「ある姉妹のお姉ちゃんは言いました。『気合と根性があれば何とかなる』と。……思いっきり精神論の根性論だが、大間違いとも
 言えないと思わないか?」

「……確かに……一理ある。
 だけど、それだけでは如何にもならない事も有る……今度の御役目も、きっと何かある気がするから、気をつけて……」



何かあるか……確かにそうかも知れないね。――私自身、今度の任務がオンジュボウとカゼヌイを討伐して終わりとは、思ってな
いからな。
だがまぁ、私達ならば大丈夫だから、信じていてくれ樒。――無事に戻ってきたら、一杯付き合え。飲めるだろう?



「その時は……喜んで。」



飲み会成立♪
樒との禊の恩赦と、備えたミタマの絆により、次の任務でのハクの入手量が増えて、更に攻撃力が大幅に上がったようだ……こ
れならば、絶対に負ける事はないな!