Side:梓


家に戻る前に里の様子を見ておこうと思ったんだが……何やらよろず屋さんの前に人だかりが出来ているようだな?よろず屋さ
んに珍しい商品でも入ったのか?



「さぁ、お立会いお立会い!」



と思ったら、見慣れない少女達が、何やら威勢の良い声を上げているな?一体何事だ?



「……いー」

「花の都の霊山の、一等一番の事情通。新しい事を聞き報ず、その名も『霊山新聞社』』!」

「……しゃー」

「本日ただいま、『ウタカタ支部』の初お披露目にございます!
 お題は結構、こけこっこー!さあさあ、お手に取ってご覧くだせぇ!!」



霊山新聞社のウタカタ支部だと?そんな物は聞いた事が無いが、新聞と言うのは情報源として可成り優秀だからな?折角だから
一部貰おうか?



「へい、ありがとうござい!……おや?
 おたくさんは、討伐隊のたいちょうさんすね?ふむふむ……流石の貫禄っす!」



そう言って貰えると嬉しいが、君達は一体誰なんだ?少なくとも、ウタカタの住人ではないだろう?――ウタカタは来るもの拒まず
だが、せめて名前くらいは教えてくれ。
其れすら分からないのでは、如何にウタカタと言えど、受け入れるのは難しいからね。











討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務50
『外様と暦とモノノフと』










「……っと、コイツは失礼。
 あっしは『霊山新聞社ウタカタ支部』の主任記者・美麻と申す者っす。此れからしばらくの間、ウタカタの里で取材をさせて貰う事
 になったっす。
 あれやこれや、お話を聞かせて頂く事も有ると思うっすが……ひとつ、お見知りおきをお願いするっす!」

「じー……」



美麻か……悪い子じゃなさそうだな。
猪突猛進タイプかも知れないが、信じた道を真っすぐに進む信念は持って居そうだ――が、そっちの赤服の子は、何だって私をガ
ン見してるのか。
其れ以前に、擬音を口にするな――え~と、取り敢えず、初めまして?



「うにゃ。僕は妹の美柚。同じく記者。よろしく。」



美麻と美柚か……此れからよろしく頼むよ。『霊山新聞ウタカタ新報』、後でじっくり読ませて貰うとするさ。――にしても、2人共ウ
タカタのモノノフや、百鬼隊にも負けず劣らずの個性的な子達だな。
九葉よ、如何やらウタカタには、また『珍獣』の類が増えてしまったらしいぞ。

ふぅ、家に戻るか。



「ふぅむ、アレがオオマガドキを防いだ英雄っすか、俄然やる気出て来たっす!!」

「取材対象、発見ーー」



……何となく、嫌な予感がするな此れは。
さてと家に戻って来た訳だが……何やら音がするな?暦が夕飯の準備をしているのかな?



「矢張り、何も怪しいモノは無い……私は見当違いをしているのだろうか?しかし、他に怪しい人物もいないし……」

「……暦?」

「!!!?
 こここれは先輩、かかか帰って来るのが早かったな……いけない落ち着け……ゴホン。お帰り梓殿、丁度夕餉の支度が済んだところ
 だ――腹が空いているのではないか?すぐに膳立てしよう。」



やっぱりお前だったのか暦。
だが、お前の言うように大型『鬼』との連戦のせいで腹の虫がさっきから鳴りっぱなしだよ――今すぐ飯を腹にかっ込みたい気分
だな。



「分かった。……時に不躾だが、私も御同伴に預かっても良いだろうか?」

「構わないぞ?何よりも、食事は1人で食べるよりも、誰かと一緒に食べた方がより美味しいからね?歓迎するよ暦。」

「あ、ありがとう。そう歓迎されると、少し照れる。」



そう照れる事でもないだろう?
それにしてもいい匂いだな……今日の献立は、白飯に味噌汁、炭火で焼いた魚と、漬物か。うん、健康的な和食のメニューだ。
揚げ物が食べたいと思っていたが、既に出来ている所にリクエストするのは悪いから、其れは次の機会にしておこう。


「「いただきます。」」


うん、今回はちゃんと味付けがされていて中々旨いな。……序に言うと、白飯に合う料理だから、日本酒にもよく合いそうだな?
折角だから、少し飲むか。

そんなこんなで、暦と夕食を楽しみ……



「御馳走様。随分遅くなってしまい、申し訳ない。色々話せて勉強になった。
 しかし…………矢張り、本音でぶつかってみなければ、分からぬ事も有るか。あ、いや失礼。ちょっと考え事をしていた。」

「考え事?其れは若しかして、少しと言いつつ、お銚子を5本も空けて未だに素面である、私の酒耐性の高さについて考えていた
 と言うのか?
 私だって驚いてるんだ。自分がこんなにイケル口だとは思わなかったからね。」

「いや、確かに先輩の蟒蛇ぶりには驚かされたがそうではない。
 ではなくて……梓殿、一つお尋ねしたい事がある。……貴女は、疑問を感じた事は無いか?この『モノノフ』の世界について。」



モノノフの世界に付いてだと?
……疑問も何も、私と言う存在はこの世界に於いては、イレギュラーである上に、この身と融合した梓はモノノフの家に生まれた
存在だから、この世界はある意味で当たり前だから疑問など持って居なかったようだが……



「私は『モノノフ』の外の世界で生まれ育った『外様』。
 『外様』である私に取って、此処は物語の世界の様なモノだ――『鬼』と言う異形の存在、其れを討つ戦士モノノフ。
 深山に里を作り、結界を貼って千年の間隠れ住んできた人々……そして、英雄の魂ミタマ……何もかもが現実感が無くて、物
 語の世界に迷い込んだように思えた。
 友人も家族も居なくなって、毎日一人で過ごした……『モノノフ』など存在しなければ、私のいた日常は壊れなかったのかも知れ
 ない。
 そんな『モノノフ』など間違っていると、時にそう思ってしまう事がある。――貴女は、そう感じた事は無いか?」

「有るか無いかで言ったら、無いな。」

「そうか……貴女は強いな。」



が、お前の気持ちが分からないでもない。
私ですら、『鬼』と言う異形の存在には、初めて会った時には驚いたモノだ……私には、元々『魔法』と言う人外の力が有った故、
『普通でない事』を受け入れられたに過ぎんよ。――私自身が、普通の人間ではないのだからね。



「……詮無い事を、聞いてしまったかもしれない。……矢張り、貴女ではないのだろうか?
 長居して申し訳ない。今日はもう帰る――また明日、元気なお顔を拝見したい。では、良い夢を、先輩。」



良い夢を、か。お前もな、暦。
それにしても、『外様』か……梓は元々モノノフの世界に居た『近衛』だったか?……この2つのモノノフでは、色々考え方も違う
のだろうな。
異世界からやってきて、梓と融合した私は、果たして外様なのか近衛なのか……恐らくは、何方でもあり、何方でもないな。

今日はもう休むか。……絶対に、山名宗全が夢に出て来るだろうがな。



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『……そこで、ワシが一発かましてやったのよ!』

「おお、やるではないか!流石、西軍総大将だな!」

『グワッハッハッハッハ!あの程度、朝飯前よ!』



……果たして、予想通りの事になったと言うのを喜べばいいのか、それとも嘆けばいいのか、判断に迷う所だな此れは?と言う
か、お前も割とこの空間を満喫しているなオビト?
数多のミタマが居る故に、退屈はしなさそうではあるが……



「……うん?
 何だ、其処に居たのか梓。先に邪魔しているぞ!また卿のミタマに、歴史を教えて貰っていた所だ。」

『ほほう……?貴様がワシを『鬼』から解放した者か。
 悪くない面構えだが……貴様にワシが御しきれるのか?』

「心配するな、梓は良いモノノフだぞ。」

「良いかどうかは分からないが、規格外の力を持って居る事だけは間違いないだろうな。」

序に言うと、この身は既に、神話の存在を身に宿していてな?……悪いが、如何に荒くれ者であろうとも、新たなミタマの制御位
ならば造作もない。
と言うか、其れが出来なかった、とっくに私は数多のミタマに振り回されて自滅しているよ。



『ふん……まぁよいわ。ワシは山名宗全。赤入道などと囃す者もおる。
 世に応仁の乱と呼ばれし戦、その西軍総大将こそ、このワシよ!陣中にあの『鬼』さえ現れなければ、東軍など蹴散らしてやっ
 ったものを……恨み骨髄に徹すとはこのこと……』




応仁の乱……南北朝の戦いだな。
南朝と北朝の争いであるのに、西軍と東軍とは此れ如何に?……で、その恨み、晴らす心算なのだろう宗全殿?



『無論よ!忌々しい『鬼』どもめ、今度はワシが貴様等を喰らってくれる!』

「何でも戦の最中に『鬼』に喰われたらしい。
 話によれば、この赤入道が生きた時代は、私の生きた時代から500年近く後のようだ……『モノノフ』の事を全然知らなくてな、
 話が通じなくて難儀したぞ。
 もっとも、其れも仕方ないが……」



だろうな。
『モノノフ』は、表世界から身を隠し、歴史の影としてい戦う事を定められた組織――その歴史をずっと守って来たのだからね。
何よりも、『モノノフ』は、異能の力を持つ者達を集めた集団だ――死者と語れる者が居れば、不思議な結界を張れる者もいるし、
私の様に、異常に高い戦闘能力を持った者もいるからな。



「うむ、その通りだ。
 中には動物と語れる者もいたのだぞ!千歳と言ってな、愉快な奴であった……だが、それ故に、人の世から隠れて暮らさなけ
 ればならなかった。」

「人は異能を恐れるからね……己を守るためには、隠れる他なかったのだろう。」

「あの者達は、今頃はどうなっただろうか?……何百年も経ったのでは……もう……さておき、卿と赤入道は、此れより友だ。
 仲良くな!」



オビトはオビトで、色々有りそうだが……如何した、宗全殿?



『だ……誰が赤入道かぁ!!!』

「ひゃあ!?ご、ゴメンなさい!!」



……赤入道と言うあだ名は、地雷だったみたいだな。――まぁ良い、頼りになる仲間が増えたのは事実だからね。……しかし、こ
れまで宿したミタマの話を統合すると、『鬼』は神話の時代から現れていた事になるが、モノノフの歴史は1000年だから辻褄が
合わない。
『鬼』は時代を越えて現れるとの事だが、その為には何か特別な力が必要になる筈だが……其れに付いては、秋水であっても
知ってる可能性は低そうだな。



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ふあぁ~~~……良く寝た。今日も一日頑張るか。って、扉に何か挟まってる?
此れは新聞か?……『ウタカタ新報 初号』?……昨日の少女達の新聞か?――内容は……この間のオオマガドキを防いだ戦
いに付いてのようだが、真相はつかめていないと言った感じかな?
……今世の『ムスヒの君』には触れているから、独占取材を申し込まれる事も、覚悟しといた方が良いかも知れないな此れは…

取り敢えず本部に行くか。――たのもー!そしておはようございます!!



「……扉を蹴破るなと言っただろう梓。其れとお前は、何処かの道場破りなのか?」

「道場破りして来いと言うなら、やって来るが?」

「しなくて良い。」



そうか。――それで、暦も居る様だが如何した?



「あぁ、おはよう梓殿。昨日は遅くまですまなかった。機会があれば、また夕餉を共にしたい。」

「うん、其れは構わない。次の機会が有った時には、てんぷらや唐揚げを作ってくれるとありがたい。」

「了解した。
 其れは其れとして……実は折り入って、貴女にお願いしたい事がある――ちょうど今、お頭に相談していた所。」



相談?何を相談されたんだ、大和?



「…………」

「いや、其処で沈黙しないでくれるか?怖いから。」

「私は、暫く貴女と行動を共にしたい。
 私はまだ若輩者の身。先輩である貴女に付き従い、色々学びたい。どうか、任務に同道する事を許して貰えないだろうか?」

「……お前の戦ぶりに感銘を受けたそうだ。どうする?」



如何するも何もない。是非もないよ暦。
私からお前が学べるものがあるかは分からないが、お前がそうしたいと言うのを、私がダメだと言う権利もないし、拒否する道理
もないからね。

まぁ、好きにすればいいさ。



「よかった、なら嬉しい!」

「……お前がそう言うなら、其れで構わん。
 北の『鬼』の影響か、また周囲の『鬼』も増えつつある――今のうちに叩いておいた方が良いだろう。
 暦と共に、蹴散らして来い、梓。」

「ありがとう、お頭。見事討伐して御覧に入れる――梓殿、どうかよろしくお願いする。……貴女の真なる心を、私は知りたい。
 あ、いや、失礼した……また考え事を……では、早速任務に向かおう、先輩。」



そうだな。里周辺の『鬼』が増えていると言うのは捨て置く事は出来ない事態だから、先ずはそれ等を手当たり次第に、抹殺!滅
殺!!大爆殺!!!してやろうじゃないか!!

新たな御役目に上がっている討伐対象は、ダイマエンとクナトサエ……相手にとって不足は無い!纏めて狩りつくしてやるぞ!











 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場



任務の前に禊と思って禊場に来たのだが、例によって時間を間違えた様だが……お前が居るとは予想外だったよ九葉。



「私としても予想外だが……しかし、こうして異性の時間であっても堂々と禊場にやって来るとは、矢張りお前はアイツによく似て
 居るな。」

「……其れは、かつての部下の事か?」

「そうなるな。
 腕は立ったが、あまり恥じらいとかは気にしない奴でな……モノノフとは言え、女性として少し心配になったが……そうなる前に
 奴は居なくなってしまったからな。」



……そうか、其れは何とも言う事が出来ないよ。
だが、敢えて問おう……その部下と私ではどちらが上だった?主に、体形的に!!



「……あまり差は無いが、僅差でお前だな。」

「よし!軍師九葉の部下に勝った!!」

「お前は何を競っているのだ?」



気にするな九葉。女には、時として負けられない戦いが有るんだ……男には理解できない戦いがな。――しかし、私と僅差とは、
九葉の部下は一体どれだけだったのだろうか……少し気になるな。