Side:梓


瞬間移動で『武』の領域までやって来た訳だが……これが『北』からの新たな『鬼』であるオンジュボウか……ゴウエンマと比べる
と大分小さく、力では劣るのだろうがその分機動力は高そうだな。

見た目はバサバサの髪に、鋭い角と牙と言う典型的な『鬼』の姿から考えると、格闘能力も高そうだ。

コイツは、此れまで戦ったカゼヌイやオラビと比べると『鬼』としての格は上のようだ――とは言え、指揮官級の『鬼』には及ばない
だろうね。
その程度ならば私達が負ける事は有り得ないよ――さて、鬼退治と行こうか!!



「承知。我は貴殿に従う。」

「行くわよ!皆を守るために!」

「その力、頼りにさせて貰うぞ梓殿!!」



任せておけ暦。そして、今一度私の力をその目に焼き付けておくと良いさ。……とは言え、フルパワーで戦ったら地形が変わって
しまうかもしれないから、多少はセーブせねばならないか。

さて、オンジュボウよ、態々現れたばかりで恐縮だが……即退場して貰おうか!!!











討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務49
『毒喰みの夜叉~オンジュボウ~』










『グオォォォォォォォォ!!』



ほう?一足飛びで、5m近い距離を詰めるとは、予想通り機動力は中々にあるようだね……そして、ゴウエンマ程ではないが力も
ソコソコに強いか。
手を叩きつけた地面に、確りと手形が付いているからな。



「里の為、お頭の為、隊長の為……北の『鬼』は、自分が切り裂く。」

「この『鬼』は北の主力だな――敵は速いぞ、初穂殿。」

「初穂『先輩』でしょ!」

「い、今はそんな事を言っている場合では!!」



いや、其れ位の余裕がある方が良いさ。
緩み過ぎは勿論ダメだが、緊張し過ぎていても良い結果には繋がらないからね……戦場で大事なのは、余裕ある緊張感を持つ
事だよ暦。
それと、初穂理論だと、時と場合を選ばずに先輩は何時でも先輩だろうしな。



「そう!梓の言う通り!!」

「り、了解した初穂先輩!」

「其れで良し!ついて来なさい暦!」



さてと、喰らいはしなかったが、一足飛びからの叩き付けと言う派手な一撃の礼だオンジュボウ。喰らえ、空手式ミドルキック……
からのムエタイ式ハイキック!そしてテコンドー式踵落としネリチャギ!!



「あ、梓殿、刀は使わないのか?」

「使うさ勿論。
 だが、あの顔を見たら何だか無性に蹴りを入れたくなったのでね……と言うか、蹴りを入れるだけじゃなくて顔面崩壊レベルの
 フルボッコにしたい。」

何と言うかオンジュボウの顔は、素で『ドヤ顔』してるように見えるんだ……それが何だか、人を見下している様で腹が立つ。
腹が立つ顔してる分も上乗せして倒してやるから、さっさと来い。顔面に蹴りを入れられた程度、大したダメージではないだろう?



『ガァァァァァァァァァ!!』


――轟!!!



「なに!?」

「コマの様に回っての蹴りから、竜巻を飛ばして来たですって!?」

「竜巻自体の殺傷能力は低そうだが、此方の動きを制限されるのは少々面倒と思う……だが、そう言う事ならば!!」



そうだな速鳥。先ずは足から破壊する――


『ガァァァァァァァァァァ!!』

「え?」


――バキィィィィィ


うん、まさかあの体勢から即時立ち上がって前蹴りを放って来るとは思わなかったよ。
此れだけ巨大な足で蹴られると、流石にちょっと痛いな?……その蹴りを喰らっても、吹き飛ぶ所か、こうして普通に立っている
私も大概だとは思うが。



「梓殿!」

「あ~~……大丈夫よ暦。並のモノノフだったら大怪我モノだけど、梓なら大した事ないわ。
 精々あっても、鼻血が出るくらいじゃないのかしら?」

「隊長の頑丈さは、ウタカタ一……其れを考えると、隊長に瀕死の重傷を負わせたと言うツチカヅキは、相当な強さ……」



あの時は魔力切れを起こしていたし、咄嗟の事だったからガードも間に合わなかったからね。
しかし、この世界に来たばかりの頃は、間違いなく人間の身体だった筈なんだが、最近ドンドン其れから逸脱しているような気が
するな?……若しかして、複数のミタマを宿した副作用なのだろうか?

何にしても有難いと言えば有難いか――少なくとも、『鬼』との戦いで簡単に死ぬ事はないからな。



――ガス!!



……って、倒れなかったからってもう一発叩き込んでくれたな?其れも今度は顔面に!
女性の顔への攻撃はNGだと知っての暴挙か此れは!!……討伐前に、お仕置きをしてやる!!
お前の様に、足癖の悪い奴には、ドラゴンスクリューだ!!



「け、蹴り足を取って、其れを巻き込むようにして投げた!?」

「いやぁ、本番は此処からでしょ?」

「隊長の攻撃が此れで終わるとは思えない。」



終わる筈がないだろう?
顔面への攻撃の礼は顔面にだ!せぇの!!


――ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!ガガガガガガガガガガガガ!



「今回は、馬乗りになっての連続殴打攻撃であったか。」

「相変わらず、人間が『鬼』に対してやる様な攻撃じゃない事を、普通にやるわよね~~……」

「此れだけでも驚きだが、梓殿が殴る度に爆発音がして、小さな爆炎が見えるのだが……」



拳に魔力を込めて、殴る瞬間に其れを炸裂させているからね。
さてと、鬼の顔は腫れ上がらないが、取り敢えず十分殴ったし、序に角も圧し折ってやったから此れで気絶状態になった訳だ。と
言う訳で、追加攻撃を頼むぞ速鳥、初穂、暦。
其れ、ポイっとな。



「普通『鬼』を投げて寄越す?……まぁ良いわ!追撃行くわよ速鳥、暦!」

「承知した!」

「ウタカタのモノノフにとっては、此れが普通なのか!?……えぇい、細かい事を考えるのは止めだ!」



そうだな、止めた方が良いな暦。
ウタカタのモノノフは、揃いも揃って一癖も二癖もある連中ばかりだ、私を含めてな。そんな中でも、私は特に色々と……主に戦
闘力がぶっ飛んでいるから、私のやる事には突っ込む事が間違いだよ。

だが暦、お前も中々の手練れだね?
驚きながらも、初穂や速鳥と共に、放り投げたオンジュボウに見事な空中攻撃を喰らわせてくれたからな。
ならば私は、落ちて来る所に、久々の一刀流で疾走居合だ!!


――ズバァ!!!


ふ、この一撃で両足が消し飛んだか。
渾身と軍神招来と鎧割を発動してたとは言え、一撃で斬り飛ばす事が出来たのは、オヤッさんが何時も武器を鍛錬してくれるお
かげだな。



「お見事!技ありだ、梓殿。ならば私も……は!!」

「祓殿か、良い判断だ暦。」

鬼祓いの効果のある陣を展開する祓殿があれば、鬼祓いをせずとも部位の浄化が可能になるからね。
とは言え、結構なダメージを叩き込んだから、そろそろ来るんじゃないのか、タマハミが?


『ガァァァァァァァァァァ!!!』


――ギュイィィィィィン!!



……思った通り来たかタマハミ!
両手に何やら木の実の様な物が現れたが、アレを投げつけて来るのか、それとも全く別の何かなのか……いずれにせよ、タマハ
ミは、『鬼』の凶暴化であると同時に、追い詰められた証でもある。
このまま一気に押し切る……此処からは六爪流で相手をしてやる!



「本気ね梓!一気に行くわよ!!」

「叩き伏せる!先ずはその腕頂くぞ!!」


――ズバァ!


……!?
腕を切り裂いた心算が、拳に現れた実がはじけ飛んだ?……あの実は、腕を斬り落とされる時に身代わりになると言う事か!!
此れは少し厄介だな?腕を斬り落とすには、実を破壊してから改めて腕を斬らねばならないのだからね。



『ガァ!!』


っと、其れだけじゃなくて、残った実を振り回して何か飛ばして来たな?
飛ばして来た物が着弾した場所は……植物が枯れている!?……あの紫の球体は、毒の塊か!それも、一瞬で異界の植物す
ら枯らすほどの猛毒……!!
喰らったら、只では済まないだろうな……ならば、もう片方の実も破壊する!!


『バァァァァァァ!!』


――ブシュー!!




んな!毒玉を飛ばすだけじゃなくて、口から毒を吐くだと!?
口の悪いことを、毒を吐くとは言うが、リアルに毒を吐いて来るとは思わなかったぞオンジュボウ……お陰で真面に喰らってしまっ
たよ。



「ちょっと梓、流石に毒とか喰らって大丈夫なの?」

「多少痺れるが、問題ないな。
 此れもまたミタマの加護か、如何やら私には毒物もあまり効果は無いらしい。……が、毒には毒だ!!」

喰らえ、毒霧噴射!!


――ブシュー!!!


『ギャァァァァァァァァァァ!!!』




「い、今のは一体!?何を吹きかけたんだ、梓殿?」

「今のは毒霧。口に含んだ水分を、霧状に吐き出す技だ。
 其れで、今吹きかけたのは酒だ。其れもソビエト(明治年鑑では革命が起きてロシアじゃなくてソビエトになってる)原産の、ウォ
 ッカと言う特別強い酒だ。」

だから目に入ったら当然痛いし、酒には清めの効果もあるから『鬼』にとっては劇薬をぶっ掛けられたような物さ。だからもう、終
わりにするぞオンジュボウ!



「此れで決めるわ!全力全開!!」

「お命頂戴する!!」

「此れにて決める!!」



初穂、歴、速鳥の連続鬼千切りで、大ダメージを与えたな?ならば、トドメの一撃は私が放つしかあるまい!
消え去るが良いオンジュボウ!遠き地にて、深き闇沈め……デアボリックエミッション!!



――ドォォォォォォォォォォォン!!!

――シュウゥゥゥン……




跡形もなく消し飛んだか。
自分の技ながら、マッタク恐ろしい威力だよ。……尤も、此れをも上回る集束砲を開発してくれたのだけれどね、あの勇敢な小さ
き勇者は。……本気であの子は末恐ろしいよ。
ともあれ、此れで任務終了だ。


――キィィィン!バシュン!

『『鬼』は、西軍総大将が平らげる!』

――ミタマ『山名宗全』を手に入れた。



新たなミタマも手にする事が出来たからね。



「鬼を討つ任、完遂した。」

「やったわね梓、暦!勝ったわよ!!」

「お見事だった、先輩方。」



お前も良くやってくれたよ暦。――さて、里に帰ろうか?お約束の瞬間移動でな♪



――バシュン!



と言う訳で、ただいま。オンジュボウを倒して来たぞ。



「お帰りなさいませ、梓様!」

「戻ったか。その様子では勝って来たな?」



勝って来たに決まっているだろう相馬?
もしも負けたらのならば、帰還せずに骸となって異界に転がっているだろうさ――何よりも、勝つのは当然であり必然だ。ウタカタ
のモノノフは最強だからな。
其れよりも、そっちの敵は片付いたのか?



「略な。今は残党狩りの最中だ。
 隊をおいて一足先に戻ったが、そう急く必要もなかったな――矢張りやるな梓。」

「ちょっと、私達を無視しないでよね、このトンガリ頭!」

「……角だ!何度も言わせるな!」



……何だろう、初穂と相馬は漫才コンビとして組ませたらとっても売れるんじゃないかと思ったぞ?鋭く切り込む初穂に対して、こ
れまた鋭い突っ込みを入れる相馬……うん、行けそうだ。
って、アホな事を考えるな!……此方に来てから、もっと正確に言うなら梓の魂と融合してから、しょうもない事を考える事が増え
たな?……梓は手練れだが、意外と思考は残念だったのかも知れないな。

其れは兎も角、この状況を軍師殿はどう見るか九葉?



「……作戦は、順調に推移している。このまま行けば、敵を狩りつくせるだろう。
 だが、まだ局地戦で一勝しただけの事――気を緩めるな、モノノフ達よ。」

「全員ご苦労だった。――まだ先は長い、体を休めておけ。」



だな、そうしておくよ。
流石に、ミフチ、カゼキリ、オンジュボウの三連戦は堪えたからね……この前作ったスモークサーモンを肴にして一杯やらせて貰
うとするよ。



「……では、私は此れで失礼する。少し用事がある故。
 そうだ梓殿、後程夕餉を作りに伺っても良いだろうか?」

「ん?別に構わないぞ。――だが、今度は調味料を忘れないでくれよ?」

「あ……以前は入れ忘れてしまったか。
 あい分かった。今度は大丈夫だ――では、また後で。」



あぁ、後でな。
そう言えば、暦は何を作ってくれるんだろうな?……何となく揚げ物が食べたい気分だからリクエストしてみるか。








――――――








Side:九葉


そう、確かに作戦は順調だ……順調すぎて恐ろしい程にな。
梓と言うモノノフの力を考えれば、此れもまたある事なのかも知れん……8年前のオオマガドキの際に、私の目の前で強大な力
を持つ『鬼』を打ち倒したあやつならば、北の『鬼』など取るに足らんだろうからな。

だが、そうだとしても順調すぎる――奴め、我々を試しているな?如何程の力を持っているのか。

小賢しい事だな……リインフォース梓と言う規格外のモノノフの前では、如何なる謀も無意味だと言うのに――まぁ良い、今はま
だ泳がせておこう。
私の部下を捕らえて勝った心算だろうが、果たして最後に笑うのは何方だろうな?――人でも『鬼』でもない存在、虚海よ。











 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場



任務が終わったら禊は欠かせないな。お前も、そう思うだろう相馬?



「否定はせんが、男の時間帯に堂々と入って来るとはな……その度胸は大した物だな梓。だが、時間帯は確認しておけ。」

「確認しているが、禊は大事だから直ぐにしたいんだよ。
 そもそも、薄手とは言え衣を纏っているのだから、男女の時間を分ける意味はあまりないと思わないか?」

「一理ある。……が、矢張り薄衣だけに、透けるからな……目のやり場に困るぞ。」

「安心しろ相馬。
 不自然な張り付き方で、大事な部分だけは絶対にオープンにならない様になっているから!!」

「身も蓋もないな……」



身も蓋もないからね。
そんな訳で相馬と禊をした。――次の任務は、壊のミタマの力が大幅に強化されそうだな。