Side:桜花


息吹と初穂、ウタカタの里の問題児二人と組んで、それでいて任務を達成するとは大したものだな梓――君の力は、矢張り普通ではないらしい。



「だろうな。
 自分で言うのもなんだが、私は相当に『人間離れ』している存在の様だからね……今更この身が、ドレだけ非常識な事態を引き起こしたとして
 も、今更驚かんよ。
 普通でない事など、とうの昔に自覚しているからな。」

「自覚していたのか…」

其れは其れで空恐ろしい物があるんだが……だからこそ、君に頼みたい――初穂の事を気にかけてやってくれ。
彼女はウタカタの里の最年少モノノフだが、それにも関わらず、里の誰よりも年上であるように振舞い、挙げ句の果てにはお頭すら呼び捨てにす
るからね……初穂には初穂の抱えた事情があると思うんだ。

「とは言え、君には大凡一般人の感覚など、理解出来そうにはないな?」

「ばび?(なに?)」



全く朝からよく食べるな君は。
まぁ、食は体の基本だから食欲があるのは構わないのだけれど、もう少しきれいに食べられないのか?……まるで今生け捕った猿だな此れは。



「ばぁ、すばない。づい、ばべるのびむぢゅうにばっべね。(あぁ、すまない。つい食べるのに夢中になってね。)」

「口に物を入れてしゃべるな。」


――ゴックン


「ちゃんと噛んでから飲んでくれ。」

「ちゃんと噛んだぞ?」



ならば問題ない…のか?今一自信がないのだが、君ならばきっと大丈夫だろう。
息吹と初穂はウタカタの問題児だが、実力的には問題ない――まぁ、精々君の任務に同行させてやって、こき使ってくれ。其れ位じゃないと、あ
の二人は、本気にならないだろうからね。












討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務4
『新米と半人前と~梓&初穂~』











Side:梓


ふぅ、食べた食べた。
闇の書の管制人格だった頃は、食事など必要ない身体だったが、この世界に来て『人間』となってからは、流石にそう言う訳にも行かないらしい
ので、食は大切だと思い知ったな。

炊いた米と味噌汁、そして焼き魚のシンプルな朝食だったが、とても美味しかったからな。……特に、囲炉裏の炭火で焼いた魚は絶品だった。
おかげで、体力は完全回復だ。

桜花は、別の御役目があるとかで、まだ別行動が続くらしいな……ちょっぴり残念だ。一緒に御役目を果たしたかったからね。

だが、桜花が居なくとも息吹と初穂と言う新た仲間が居るのだから、戦力的には申し分ない――息吹も初穂も、桜花に匹敵するだけの実力を有
しているのは間違いのだから。

さて、新たな任務がないか、モノノフの本部に行ってみるか……って、アレは――大和と初穂か?



「大和、私も大型の『鬼』と戦わせて!」

「ダメだ、お前にはまだ早い。」

「そんな事ない!私だって十分やれるわ。」

「ならば、任務で力を示す事だ。」

「……分かったわよ。もう良い。」



ふむ、何やら諍いがあったようだね?……さしずめ、己の分を弁えずに、初穂が大型鬼との戦いを大和に志願したという所か?
まぁ、初穂の実力ならば問題ないだろうが、だからと言って里を取り仕切るお頭としては、簡単に是とする事が出来ないと言った所なのだろうね。



「お前か。フ……見ての通りのお転婆でな。
 『鬼』の中には、雑魚とは比べ物にならない強力な奴等が居る――人の身の丈を優に超える大型の『鬼』。
 お前が如何に強くとも、今は未だ手には余る鬼だ――だから強くなれ。其れだけが、生き残る道だ。」



あぁ、言われなくとも分かっているよ大和。
ウタカタに到着する前にミフチを倒したとは言え、あれよりも強大な力を持った鬼が居ないとは言えん――寧ろいて然るべきだと思ってるからね。

さて、初穂は何処に行ったのか……居た。
そんな所で、何をしているんだ初穂?黄昏るには、まだ少し早いんじゃないか?



「梓……何か用?」

「あまりご機嫌がよろしくないみたいだが、大和と何かあったのか?」

「何って程でもないんだけど……大和がね、キミと一緒に行動しろって。『半人前は、二人揃って一人前だ』そうよ?
 失礼しちゃうわ、まったく。」

「あ、其れは確かに失礼かもしれないな。」

「こら、キミも馬鹿にされてるのよ?平然としてる場合じゃないわ梓!強くなって見返してやらなきゃ!!
 丁度片付けないといけない任務があるの。ちょっと付き合ってよ。――良い訓練になるでしょ?」

「其れは、そうだが……分かった、付き合おう。」

「そう来ないとね!其れじゃあ、早速行きましょ!」



やれやれ……其れは、お前を更に向上させるための、大和のちょっと荒っぽいハッパだと思うのだけれどね。
と言うか、私と一緒に行動しろと言われたという事は、裏を返せば私は初穂と行動しろと言われたのと同じなのだよな……しかもお頭命令でだ。
何となく、子守りを押し付けられた感がするんだが、此れもお役目か。

時に初穂、張り切るのは構わないが、受付所での記帳を忘れているぞ?……まぁ、代わりに書いておいたけれど。
張り切るのは結構だが、張り切り過ぎて足元を掬われない様にしてくれ。お前に何かあったら、私が大和に盛大に叱られてしまうだろうからね。



「うぅ、分かってるわよ!
 兎に角行きましょ!出発進行!!」



本当に分かっているのやら……まぁ、何にしても任務は任務だから、御役目を果たさねばな。



さて、今回の任務は『雅の領域』でのササガニ討伐だったな。
秋水にどんな鬼なのかを聞いた所、さほど強力ではない小型の鬼だが、毒を吐きかけて来るので注意した方が良いと言っていたね……この身
は、どんな毒も効果がないが、初穂はそうはいかないだろうから、それとなくフォローしておくか。


『『『『『『ギシャァァァァァァァァァァァァァァ!!!』』』』』』


ふ、早速現れたか。
ササガニと言う名前だが、見た目は育ち過ぎたタランチュラだな此れは?……力の程は兎も角として、見た目の不快感は可成りだな?もしも見
てくれが、台所に出て来る黒光りするGだったら、発狂していたかもしれないな。

取り敢えず、見た目に気持ち悪いから消えてなくなれ!!


――シュン!

――ズバァァァァァァァァァァァァァァァ!!




『『『『『ギヤァァァァァァァァァァァァァァ!!!』』』』』


「いっくわよー!それ、それ、それぇ!!!」


――ズバ!ズバ!!ズバァァァァァァ!!


『『『ガァァァァァァァァァァァァァ!!!』』』




私が居合で一気に5体倒し、初穂もまた鎖鎌での連撃で3体撃破か……此れで、此の鬼域は制圧した。――まるで、歯応えがなかったがね。



「やったぁ!君、中々やるわよね♪」

「お前も大したものだよ初穂。この間の任務の時にも思ったが、大した腕だ。
 此れだけの力があるのならば、大型の鬼とも戦う事が出来るんじゃないかと思うよ私は。なんなら、直筆サイン入りで一筆書いても良い位だ。」

「本当に?」



本当に。折り紙付きだ。
きっと大和は、お前の事が大切だから、危険な大型鬼の討伐には向かわせたくないんだよ。不器用な親心と言うやつなのだろうと思うんだ。
だが、其れでは納得できないだろう?
ならば、与えられた任務を完ぺきにこなして、大和に実力を認めさせてやろう、初穂。



「そうね、其の通りだわ!!」

「封じるべき鬼域はあと一つ……行くぞ!!」

ふむ、次の鬼域にもウジャウジャとササガニが居るが……色が白いのが居るな?
前に戦った餓鬼の時の様な『黄泉』と呼ばれる個体か、それとも秋水から教えてもらった、通常種以上黄泉種以下の『不浄』か……どちらにして
も斬り捨てるのみだ。

深き闇に……散れ!!


――瞬!……キィィィィィン……



「世界を無に帰す力、思い知れ。」



――ズバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!



将の剣技の真似事だが、中々どうして、抜刀術と言うのは私に合っているらしい。
同時に此れは、たたらが打ち直してくれた刀の性能も大きいだろうね……私の手にピッタリになるように打ち直したと言うだけあって、まるで身体
の一部であるかのように手に馴染むからね、この刀は。



「梓、危ない!!」

「分かっている!!」



――ドゴォ!!

――ズバァ!!!



『ギヤァァァァァァァァァァ!!!!』




で、私の後から襲い掛かって来たササガニの変異種の事には気付いていたよ初穂。
だが、私が襲われそうになったのを見て、咄嗟に鎖鎌の分銅を射出したのは良い判断だと思うぞ?――お前は、決して半人前などではないさ。
今の一撃で、全てのササガニを討ち、鬼域を制圧したのだからね。



「やったぁ!私達なら楽勝ね!
 なんか、私達って良い組み合わせなのかも。――あれ?なんか気配が?」

「感じるな、確かに。」

だが、気配はすれども姿は見えず。今は深追いは禁物かもな……ならば、里に戻るとしよう。
マッタク無傷で任務をこなしたとなれば、大和も少しはお前の力を認めるかも知れないからね。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



「よし、任務完了!此れでちょっとは大和を見返せたかな?」



さて其れは如何か分からないが、新米と半人前が無傷で戻って来たという結果は、如何に大和と言えども無視できる物ではないんじゃないか?
だが、お前は如何して其処まで『一人前』として認めて欲しいんだ初穂?



「う~~ん、上手く言えないんだけど……ここの、ウタカタの里の人達は、皆私の弟や妹だって気がするの。
 だから、お姉さんの私が守ってあげなきゃ――って、ゴメン、意味分かんないよね?その……色々事情があって……」

「複雑な事情か?其れならば気にするな。私も、大凡普通ではない『事情』を抱えているからね。
 いや、私とお前だけではない。人は誰しも人には言えない事情を抱えているモノだ……大小様々ではあるけれどね――だが、その事情が己に
 とって大事な物なのならば、決して忘れないようにした方が良い。」

「うん、そうするわ。」



それと、お前は少し素直になれない天邪鬼な部分があるが、里の人々や仲間の事を大事に思っているのだという事も良く分かったからね。
ふふ、初穂を見ていると、あの天邪鬼な紅の鉄騎を思い出してしまうよ。



「か、からかわないでよね、もう!!」

「はは、スマナイ。お前があまりにも可愛いので、ついな。悪気はないんだ、許して――」



――カンカン!カンカン!!



「「!!!」」



警鐘?しかも此れは、只鬼が現れた訳じゃない……まさかとは思うが此れは……



「此れは、非常招集の鐘……!!」

「矢張り只事ではなかったか!!」

任務を終えたばかりだが、如何やらそんな事は言っていられる場合ではない様だ。『非常招集』と言うからには、相当に切羽詰まった状況が発
生したと思って間違いないからね。


と、既に息吹と桜花も……って、桜花、別任務の方は良かったのか?



「あぁ、大丈夫だ。
 間が良かったというのか、丁度別任務を終えて戻ってきた所だったからね…尤も、戻って来た直後に非常招集が掛かるとは思わなかったが。」

「其れは私もだ……で、何があったんだ大和?」

「接近中の『鬼』を確認した。……大型の『鬼』だ。
 里に真っ直ぐ向かってきている。此れより、総員迎撃態勢を取ってもらう。」

「大型の鬼って…如何しよう、梓。
 きっと、さっき気配を感じたやつよ……私達を追って来たんだわ!!」



あの気配の主か……ならば、是非もない、私達で倒そう。
その鬼が、私達を追って来たというのならば、私達の手で討つのが当然の事だからね?――その大型鬼を、共に討とうじゃないか初穂。



「そうよね……うん、やらなくちゃ!」

「桜花、息吹。二人は出撃し『鬼』を撃破しろ。
 初穂、梓、お前達は残れ。里の守りを任せる。」

「待って、大和!――お願い、私達に行かせて!」

「行ったはずだ、まだ早いと。」

「『半人前は、二人揃って一人前』。だから、二人ならやれる……梓とならやれるわ!――お願い、里を守りたいの。
 私達なら、絶対倒せる!だから……行かせて!!」

「………梓、お前も同じ考えか?」



同じかどうかは分からないが、初穂の言い分は理解できるし、彼女の里を守りたいという思いは本物だ…其れは貴方にだって分かるだろ大和。
確かに危険な任務かも知れないが、私は初穂の覚悟と思いを尊重したい。

其れにだ…敢えて言う事でもないから黙って居たが、此処に来る道中で、私は単身でミフチを撃破している…大型の鬼とて恐れるに足らんよ。



「キミ……其れってマジ?」

「大マジだ。」

「アンタ、ホントにスゲェな?」

「ミフチを単身で撃破するとは……君は本当に、新米のモノノフなのか梓?」



間違いなく、モノノフとしては新米だよ桜花。――で、如何するんだ大和?



「……良いだろう。
 桜花、お前は部隊を率いて里の守りにつけ。」

「はっ、承知しました。」

「初穂、伊吹、梓。お前達は出撃し、速やかに『鬼』を排除しろ。……出来るな?」



言われるまでもない。
誰が相手であろうと、鬼は全て此の刃で断つ……それが、この世界に転生し、彼女の魂と融合した私の使命なのだからね?鬼は、討つだけだ。



「大和……!ありがとう!
 一緒に行こう!梓!」

「勿論だ。」

「あ~~……盛り上がってる所悪いんだが……俺も行くって、分かってるか?」



あぁ、分かってるよ息吹。と言うか、お前のような奴を忘れろと言うのが無理だと言うモノさ。
私と初穂と息吹……この面子なら負ける事はないだろうが、相手は大型の鬼だから、準備を整えておいた方が良い――各自準備が出来たら出
撃するとしよう。



「うん!君とならやれるわ!!」

「そんじゃまぁ、軽~~く、行きますか――!!」



鬼は無差別に人を襲う存在だと秋水から聞いたが、お前達が無差別に人を襲うのならば、襲われる人々を守り、鬼を討つのが我等モノノフだ。
着任して日は浅いが、ウタカタは私の住む場所なのでな……貴様等鬼の好きにはさせん!!

襲い来る鬼は、全て此の刀の錆にする――それだけだ!!












 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場


Side:梓


里に迫り来る大型鬼との戦いの前に、さっきの任務での穢れを落とそうと思ってやってきたのだが……



「オメェは……マッタク、時間は守らなきゃ駄目だろうがよ?」



間違えて男性の時間帯に来てしまったようだ。……オヤッさんが居るとは思わなかったけれどな。
だけど、此のまま帰ると言うのも時間の無駄だから、ご一緒して良いかなオヤッさん?如何してもダメだと言うのならば、改めて出直すが。



「はぁ…オメェさんは胆が据わってると言うか何と言うか…だが、俺以外の男の前では、もちっと恥じらいを持てよ?男ってのは、狼だからな?」

「其れなら大丈夫だ。……不埒な目的で近づいて来た男は、問答無用で『ゴールド・クラッシャー』するから。」

「……其れなら安心だが、くれぐれも『男の選手生命』を永遠に断ってやるなよ?」

「其れは相手次第だな。」

「やれやれだぜ。」



そんな訳で、オヤッさんと禊をした。――此れで、大型鬼との戦いもバッチリだな!!