Side:梓


九葉の命を受けて、北の『鬼』を倒しに来たのだが、どんな『鬼』が出て来るかと思ったらマフチでちょっとがっかりしたな……通常
の個体よりは少々強い様だが、ハッキリ言わせて貰うのならば私の敵ではないよ。

六爪流で角を圧し折ってスタンさせたところで富嶽が百裂拳で殴って殴って殴りまくって右半身の足を全破壊!……漢はパンチを
体現した良い攻撃だった。
そして残った左半分の足は、息吹が連昇で消し飛ばし、残るは本体のみだ――受けたダメージの大きさがあったせいか、タマハミ
状態になったようだが……甘い!!


――ガシィ!!


「タマハミ状態のマフチを片手で止めるとは……相変わらず、惚れ惚れする規格外っぷりだな隊長?」

「んで、止めたそいつはどうするんだ?」



其れはこうする!!行くぞ相馬!!



「任せておけ……どぉぉぉらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


――カッキーン!……キラーン☆


一撃必殺!これぞ、私と相馬の一撃必殺の合体攻撃、『超必殺ホームラン打法』だ。――アディオスマフチ、二度と会いたくはない
けれどね。

まぁ、マフチは結局瞬殺で、更には別の御役目で討伐対象になっていたカゼキリも即殺してしまった……まぁ、問題はないな♪












討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務48
『迫りくる北の『鬼』の脅威と侵食』











そんな訳で無事に里に帰還だ……北の『鬼』がどれ程かと思っていたが、強化された程度の既存の『鬼』では私の足元にも及ば
ないよ……楽勝だったからね。



「さすがにやるな、お前等。」

「あぁ?テメェに評価される筋合いはねぇな。」

「そう突っかかるなよ富嶽。相手はオオマガドキの英雄だ。」



え?そうなのか息吹?相馬が、オオマガドキの英雄とは……



「……なんだ、俺を知っているのか?」

「有名人だからなアンタは。うちのお頭と鬼門を封じたって話だろ?」

「……『鬼』をぶっ殺したら、偶々そうなっただけだ――噂ほど大した話でもない。寧ろ、おかげで死に掛けてな。危うく三途の川で
 寒中水泳だ。」



其れは、何とも災難だったな?……尤も、其れを生き延びたからこその英雄か――その時に、私も戦線が一緒ならまた違った事
になったのかも知れないね。
歴史にもしもは無いが、話を聞くとそう考えてしまうよ。



「あれ?皆さんおかえりなさい!」

「木綿か。うん、ただいま。
 リインフォース梓以下4名、無事に里に帰還したよ。――ウタカタの看板娘に出迎えて貰えるとは、何とも嬉しい事だな。」

「随分早いご帰還ですね?流石です、梓さん。」



まぁ、私はある意味で反則キャラだからね?
マフチやカゼキリ程度では準備運動にもならんよ……『鬼』共に、本気でウタカタを攻め落としたいのならば、最低でもトコヨノオウ
レベルの『鬼』を10体は用意して来いと言う話だ。
其れ位でなくては、私を倒す事など出来んよ。多分な。
ん?如何した相馬?



「貴女は……」

「…………?」

「木綿……殿か……?」

「なんだ相馬、木綿と知り合いか?」

「……?すみません、何処かでお会いしましたか?」



……此れは、木綿が小さい時に会っていて、木綿の方は覚えていないと言うパターンだな。うん、間違いなくそうだ。
大人の方は覚えていて、子供の方は覚えていないと言うのはよくあるケースだからな?



「覚えておられぬか。――8年前、貴女に介抱して頂いた者です。」

「もしかして……相馬さん……?」

「その節は、お世話になった。改めてお礼申し上げる!」

「び、ビックリしました!8年間にお見送りして以来ですね。」

「お元気そうで何よりです……お美しくなられた。」

「え……?」



『お美しくなられた』か……美しいと言うよりも、木綿の場合は『可愛い』だと思うのだが、相馬は子供の頃の木綿を知っているのだ
から、その頃から考えるとこっちでも良いのか?
しかし、相馬も流石に受付嬢の木綿にまで尊大な態度は取らないか……まぁ、恩人のようだしね。



「木綿ちゃん、気をつけろ。このおっさん、野獣の目をしてるぜ。」

「ええ!?」

「オイこら息吹、余計な事を言うな。それと、自分基準でモノを言っちゃいけないぞ~~。」

「……誰が野獣だ。しばくぞ!」

「お前も軽口位、サラッと受け流せ相馬!息吹と一々本気でやり合っていたらキリがない。」

と言うか、ホントにお前のその軽口は如何にかならないのか息吹!?ウタカタ一の伊達男を気取るのは構わんが、軽薄なのと伊
達男は違うからな!?



「まぁ、待てよ。分かるぜ、アンタの気持ち。」

「なに……?」

「木綿ちゃんは、皆の人気者……誰かが独占して良いモノじゃない。
 アンタはタダ、此の子を見守りたいだけ――そうだろ?」

「ほう……少しは話が分かるな。」



……なら最初からそう言え息吹。お前の軽口は、時としてトンデモない火種と言うか爆薬になるんだから気をつけてくれ。と言うか
お前のせいで、何度私が初穂を落ち着かせる事になったか……



「まぁな。だから安心しろよ……俺がキッチリ、木綿ちゃんを幸せにしてやるぜ!」



おぉぉい!此処で更にぶっこむか普通!?
燃え上がる寸前で鎮火させたと思ったら、残り火に盛大にガソリンぶっかけたな!?お前は何か、人を煽らないと気が済まないの
か!?……ある意味命知らずな……



「ハハハハ……ふざけるな害虫が。
 木綿殿に近付いてみろ。素っ首刎ねて異界に転がしてやる!!」

「相馬、コイツには其れよりも、ナニを潰して男としての選手生命を断ってやる方が効果的だと思うぞ?」

「……成程、その手もあったな?中々良い事を言うな梓。」

「そ、其処まで言うか普通……てか、アンタもアンタで結構酷いな隊長……」



酷くない。お前みたいのは、一度女性関係で手痛いダメージを喰らわんと分からんだろうからね……尤も、手痛いダメージを喰らっ
ても改まらない可能性があるがな。



「お二人とも、喧嘩は駄目ですよ!」

「い、いや……失礼した。息吹、俺とおまえは親友だな?」

「……さっきまで殺そうとしてなかったか?」

「ったく、馬鹿かコイツ等は……」

「例によって確認不要だ富嶽。」

早い話がつまり馬鹿と言う事だ……全く、ウタカタの男性モノノフでは、お前が一番真面な気がして来たよ富嶽。……伊達男気取
りに天狐バカ、そして新たに加入した相馬は、少々調子が良い所が有るからね。
まぁ、夫々腕は立つから問題ないが。……取り敢えず一度家に戻るか。






「ふむ、此れは何でしょうか?置物……にしてはモフモフしているような。」



で、家に戻ったら何故かホロウが居た。……お前、此処で何してるんだ?



「こんにちは、梓。此処に何か用ですか?」

「何か用って、此処は私の家なんだが?」

「成程、此処は貴女の家でしたか。お邪魔しています。」

「家主の居ない間に上がり込むってどうなんだ?其れとあいさつが事後報告みたいになってるし……」

「この地について理解を深める為、各所を探検中です。」



見知らぬ土地の事を知るために、自分の足で歩いて知ろうと言うその姿勢は評価できるが、無断で人の家に上がり込むと言う行
為は感心できないぞホロウ?
幾らウタカタが開けた里で、家の扉に鍵がかかって無かったとしてもだ。



「そうですか。以後気をつけます。――ところで、この置物は何ですか?」

「お前、絶対に分かってないだろう?」

それと、此れは置物じゃなくて天狐とハネキツネと言う生き物だ。尻尾が二つあるのが天狐で、短い角と羽根が有るのがハネキツ
ネだよ。



「天狐とハネキツネ……?成程、生物でしたか。」

『キュイー!』

『ーー!』


「そう怒らないで下さい。非礼は詫びます。――名前は何と言うのですか?」



天狐がなはと、ハネキツネがりひとだが……お前、此の子達が何を言ってるのか分かるのか?――私も多少の要求位なら察する
事が出来るが、何を言ってるかまでは分からないぞ?
木綿も、何となく分かると言っていたが、お前は更に良く分かっているようだなホロウ?



「訓練の賜物です。それにしても、なはととりひとですか。とても愛らしい名前です。
 梓、貴女には名付けの才能が有ると認めます――では、梓。私はそろそろ探検に戻ります。」



……行っちゃったよ。相変わらずマイペースな奴だなホロウは……
しかし、天狐やハネキツネの言葉が本当に分かるのだとしたら、速鳥は間違いなくホロウに弟子入りするだろうなぁ……だが、そう
なったらそうなったで、ホロウに『授業料』として、速鳥が食べ物をたかられる気がするんだが……まぁ、大丈夫だろう。

さてと、まだ日は高いから、もう一頑張りしないとな。
少し刃毀れしてしまったから、オヤッさんに刀を鍛錬して貰うか。それと、樒にミタマの力を解放して貰わないとね。



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うん、相変わらずオヤッさんの仕事ぶりは素晴らしいね。心の底から惚れ惚れするよ。
僅かに刃毀れした刀も、オヤッさんの手にかかればあっと言う間に元通り――どころか、鍛錬する前よりもより頑丈になっただけじ
ゃなく、刃の鋭さも増しているからね。
更に、私の手に合わせて細部を微調整までしてくれるんだから、本当にオヤッさんには感謝してもし切れないな。

其れと、樒の力も大したものだ。
ハクと引き換えにミタマの力を解放して貰ったが、力が解放されたおかげでミタマの能力が大幅に上がったからね?……それに比
例して、背後のハクの山が大きくなったけれどな。

だが、オヤッさんが鍛え直してくれた刀と、樒によって力が解放されたミタマがあれば、何が来ても負ける事はないな絶対に。

そういう訳で本部に来たんだが……なんだ、全員集合しているな?



「ちょうど良い所に来た、梓。呼ぶ手間が省けたな。」

「ちょうど良い所に来た、とは如何言う事だ九葉?……如何やら、私を呼ぶ心算だったようだが……」

「『百鬼隊』が北の『鬼』を見つけた。――此れより討伐隊を送り敵を討つ。」

「!!」

北の『鬼』――カゼヌイやオラビに続く新たな『鬼』が現れたのか、或いは其の2体の別個体が現れたのか……何れにしても放置
出来るモノではない……敵を討つ事に異論はないぞ九葉。
だが、現れたのは北の『鬼』だけではないだろう?



「ふむ、良い洞察力だ。
 お前の予想通り、周囲には複数の大型『鬼』も確認した。其方は、相馬達『参番隊』が抑える。」

「邪魔者は、俺達に任せておけ。一匹も通しはせん。」



相馬……お前なら、安心して任せられるな。
ならば私は、相馬達が他の大型『鬼』を抑えている間に、北の『鬼』を叩きのめせば良いと、つまりそう言う事で良いんだな九葉?



「そうだ。
 参番隊が他の大型『鬼』を抑えている間に、お前は一体を率いて北の『鬼』を討て――目標は、ただ北の『鬼』のみ。
 雑魚には目もくれるな。」



目的の敵のみを討つか……さて、誰と出撃したものか……



「自分も同行する。貴殿と友に飛べるなら、何処へでも行こう。」

「速鳥……分かった、一緒に来てくれ。」

「初穂お姉さんもね!『鬼』なんて、けちょんけちょんにしてやるわ!!」



はは……お前のその明るさはとても頼もしいよ初穂。戦場では士気の高揚にも繋がるからね?――ムードメーカーの力に期待す
るよ初穂。



「私も貴女に付き従う……宜しくお願いする、先輩。」

「暦……良いだろう。
 先のオラビとの戦いでお前の強さは良く分かった……が、此れからウタカタで過ごすのならば、私以外のモノノフの事も知ってお
 いた方が良いからな――その為にも一緒に来てくれ暦。」

「了解した、先輩!」


「……任せたぞ、梓。必ず生きて戻れ。」



あぁ、分かっているよ大和。
私は簡単には死なないが、私の前でもう誰も死なせはしない……此れまで多くの『死』を私は見てきたから、誰かの『死』を見るの
は、もう沢山だ。此れからは、誰かの『生』をこの手で守ってやるさ。



「さぁ、行け。人の世の未来、その手で作って見せろ。」

「ふ、言われるまでもないさ九葉――何時だって、未来を作るのは己の手だ。
 一見すると傲慢な考えに思えるだろうが、未来を作るのも世界を救うのも、其れは何時だって己の手なんだ……寧ろ、其れ位の
 気概がなくては何かを成す事など出来んよ。」

「ふ、そう来なくてはな?」



付け加えるならば、今の私は人の世を守りながらも『鬼』を撃滅する『守護の破壊神』だからね。
さてと、出撃前には受付で記帳をせねばならないのだが……何か聞いているか木綿よ?



「梓さん……敵は北の『鬼』、オンジュボウ。『武』の領域の近くに出現しています!
 『百鬼隊』が周囲の『鬼』を抑える間に、迅速に対象を討伐してください!!――梓さん、如何かお気をつけて……」

「オンジュボウ……矢張り新型の『鬼』だったか。」

ふ、安心しろ木綿。如何に北の新型『鬼』だろうとも、其れがトコヨノオウを遥かに上回る『鬼』でない限り、私が負ける事は絶対に
ない。
何よりも、私が力を解放すれば、大概の『鬼』は塵芥と化すだろうからね。
だから何の心配もない――何よりも、私達に何かあったらお前が悲しむだろう木綿?私は、お前のその顔を曇らせたくないから大
丈夫だ、必ず生きて帰って来るよ。



「は、はい!頑張って下さい!!」



……如何した、顔が赤いぞ木綿?



「……梓のアレって無意識なのよね?……何、天然ジゴロ?」

「隊長、恐るべし……」

「同性すら虜にするとは……凄いな先輩は。」

「?」

なんか良く分からないが、取り敢えず敵を討つぞ!!――そんな訳で、『武』の領域に瞬間移動だ!!





――バシュン!





「……前にも思ったが、瞬間移動と言うのはかくも便利な物だな先輩?……一瞬で領域に到達できるとは、此れならば体力の消
 耗を最小限に抑えられるし、瘴気に触れる時間も短縮できる。――此れは、空のタマフリの縮地をもっと磨き上げる必要がある
 のかも知れないな。」

「縮地の練度を上げれば出来るだろうね。」

だが、私の瞬間移動の最大の特徴は、気配を察知した『鬼』のすぐそばに行けると言う事だ。此れがあれば、広い領域を探す手間
が省けるからね。
そしてその証拠に、目の前には、緑色の見た事もない鬼――討伐対象である北の『鬼』のオンジュボウが居るからね。

ふむ、その身から発せられる瘴気を考えると、カゼヌイやオラビよりは強そうだ……大型の『鬼』としては細身だが、その分スピード
は速そうだ――並のモノノフでは苦戦必須だろうね。

だが……


――ジャキン!!



「ウタカタのモノノフが相手ではその限りではないと知れ!――お前は此処で討たれる。倒されるためにご苦労だったな?
 さぁ、ハイクを詠む準備は出来ているか!?」

「いくわよー!全力全開!!」

「『鬼』は討つのみ………!」

「行こう、先輩!!」



私達に負けは無い!
態々苦労して出てきた所、誠に恐縮だが、お前には地獄に戻って貰う――其れこそ地獄の最下層にまで叩き落してやるから覚悟
しておけオンジュボウ!!

貴様に待っている結末は『死』の一文字のみだ……其れを変える事は出来ん。私がモノノフである限りは絶対にな!











 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場