Side:梓


さてと、オラビを討ち、禊でサッパリしたとは言え、今日はまだ終わって居ないのだから、警戒を解く訳には行かない!――と言っ
ても、新たな襲撃があった訳ではないので里は平和そのものだ……適当にぶらついてみるか。思わぬ情報を得られるかも知れ
ないからね。

で、本部前で何を考えているんだ相馬?



「お前か。さっきは世話になった。――中々やるな?噂も偶には信じてみるモノだ。」

「噂は誇張されているから、その辺を考えてくれ――と言うか、私達の噂と言う物は多いモノなのか相馬?」

「知らんのか?
 お前達の事は霊山でも噂になっている――さっきは妙な奴に邪魔されたが、お前に聞きたい事があってな。」



私に聞きたい事だと?――何が知りたい?



「話が早いな。
 なら早速本題に入るとしよう……三月前、お前達がオオマガドキを防いだ顛末について聞きたい――お前達は、どうやって鬼門
 を封じた?」


と、まさかこう来るとは思ってなかったが、私の知っている事で構わないなのなら、語らせて頂くよ相馬。












討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務47
『百鬼隊との共同戦線開始』











――説明終了


大体こんな所だ。何か質問はあるか?



「ミタマの光が、鬼門を……?
 不思議な声が頭に響き、気が付けば光に包まれていた、か………雲をつかむような話だな。――だが、光の正体は其れか。」



光、だと?



「霊山からも、天に走る光が見えてな。上層部は大騒ぎになっていた
 ――お前は、数多のミタマを宿すのか?だとしたら、類い稀な才能だ――だが、そうだとしても解せん。一体どういう理屈が?」

「その仕組みついては、良く分からないな?」

「……8年前のオオマガドキを覚えているか?」



私自身は覚えていないが、梓の記憶から、生々しい惨状が出て来るからね……覚えていると言うよりも、知っているって言った方
が正しいかも知れないな。



「あの時も、北の地に鬼門が開いた。鬼門を開く力を持った『鬼』の出現によってな――そいつを討ったことで、鬼門も閉じたと言わ
 れている。
 だが、ここに来て北の『鬼』の侵攻だ――本当に鬼門は閉じたのか、疑っておくべきだったと俺は思っている――もしも閉じてい
 ないのなら、北に攻め入って封じる必要がある……その時に、方法がないのでは話にならん。
 お前なら、或いはその術を知っているかと思ったが……」

「……スマン、期待には応えられそうにないな此れは。」

「矢張りか……まぁいい。今のうちにミタマを叩き起こして、鬼門を封じる方法を聞いておけ。
 何なら一発ドツいても構わん、俺が許す!!」



……お前はミタマよりも偉いのか相馬!――普通に考えればトンでもない事なのだが。相馬が相手だと納得してしまうよ。



「……話が長くなった。疲れてるところ悪かったな梓――明日から『百鬼隊』との共同戦線だ。隊長同士、宜しく頼む。」

「其れは私もだよ相馬。
 精鋭部隊の百鬼隊がウタカタに居てくれるのはとても頼もしいモノだ――ならば力を合わせて行こう。北の『鬼』を一匹残らずに
 駆除してやろうじゃないか。」

「はは、その意気だ!」



ふふ、期待していてくれ。自分で言うのもなんだが、多分ミフチ程度の大型『鬼』ならば、纏めて5匹位相手にしても全然余裕で勝
てると思うからね。

さて、思いのほか話し込んでしまったな?
陽も沈み始めたし、一度家に戻って早めの夕食にしておくか。陽が完全に落ちてからの出撃がないとも限らないし、寧ろ時間帯で
言うのなら、夜の方が『鬼』の動きは活発になるだろうからね。

――って、家の格子窓から何やら湯気が?
はて?私は夕食の準備をしていただろうか?……其れとも、誰かが勝手に上がり込んで料理をしているとか?少なくとも、ウタカタ
の里の住民で空き巣に入るような奴は居ないと思うが――

取り敢えずそ~~~っと……何やら中から物音がするな?



「ふむ、特に怪しいものはないか。いや、もう少し調べてみた方が……」



ん?誰かいるのか?――アレは……



「む、何やら物音が……!」

「暦?」

「ゴホン……お帰り、梓殿。夕餉の支度は出来ているぞ。」



夕餉の支度って、まぁそろそろ飯にしようと思っていたから、準備しておいてくれたのならば作る手間も省けたが、何をしてるんだ
お前は一体?



「だから、夕餉の支度だ。後輩が先輩のお世話をするのは当然だ。
 今後も何かとお手伝いできれば嬉しい……夕餉を作っておいたのは正解だった。

「其れは構わないが、せめて一言言ってくれ。
 如何にウタカタがのどかな里であっても、家に帰ったら誰かが居たと言うのは流石に驚くからね――って、聞いてるか暦?」

「あ、いや失礼。ちょっと考え事をしていた――其れでは、梓殿。私はこの辺りで失礼する。
 風邪など召されぬよう、暖かくして床に就いてほしい。」



……風のように去って行ったな?
なはととりひとが攻撃しなかったと言う事は、暦もまた動物に好かれる体質なのか、それともモノノフとして纏っている空気をなはと
とりひとが感じ取って攻撃しなかったのか、あるいは両方か……

何にしても、百鬼隊と霊山の軍師の到着に、新たな『鬼』の襲撃と今日は色々有って大変な一日だった……暦の夕食を食べて休
むとするか。――明日からは『百鬼隊』との共同戦線が始まるからな。



因みに、暦の料理は素材の味しかしなかった。アイツ、塩や醤油を使うのを忘れたなマッタク……



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……新たなミタマを宿したので、予想はしていたが矢張りか。
こう言っては何だが、歴史上の偉人や神話の登場人物と、夢の中でとは言え、此れだけ言葉を交わしてる人間て言うのは私位な
モノじゃないか?……私を純然たる人間と定義して良いかどうかは別としてもだ。



『……八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣作る その八重垣を
 ……ヌシ様でございますか?私を『鬼』から解放してくださったのは。』




あぁ、そうだな。オラビを倒したら、お前が飛び出して来て私に宿ったのだから、解放したのは私なのだろうな……トドメの一撃を起
爆させたのは相馬のホームラン打法だがね。



『私はクシナダヒメ。
 魂を櫛となし、スサノオ様と共に、ヤマタノオロチに立ち向かった娘にございます。
 かの『鬼』から解放してくださったこと、お礼の申しようもありません。』

「礼には及ばないよ。『鬼』に喰われたミタマを解放するのも、我等モノノフの大切な仕事だからね。
 しかし、クシナダヒメと言えば私でも知っている有名な人物だ。其れも神話の――其れが何故『鬼』に喰われてしまったんだ?」

『私とスサノオ様は、オロチを討ってのち、出雲の地で幸せに暮らしていたのです。
 ですがある日、天より『鬼』が現れ、私の魂である櫛を一呑みに……スサノオ様は、如何程悲しまれた事か……』




そう言えば、クシナダヒメは魂を櫛となしてスサノオと共にあったのだったな……動く事の出来ない櫛の姿では、襲われても逃げる
事も叶わなかったか。
如何にスサノオと言えど、不意を突かれては対処できなかっただろうからな。



『ですが、漸く私は人の世に戻りました――今度は私が、ヌシ様をお助けする番だと心得ております。魂を櫛となし、スサノオ様を
 お守りしたように。精一杯お仕えします、ヌシ様……』



……拝啓、我が主様。リインフォースは、この世界で遂に神話の存在をその身に宿すに至ったようです。このまま行くと、何時の日
か神格の存在をこの身に宿すのではないかと思ってしまいます。



「……おや、梓ではないか?何やら人の声が聞こえたので来てみれば……」



あぁ、新たなミタマを宿したんだ。



「何、また新たなミタマを宿したのか?でかしたぞ、梓!
 卿は、余程英雄に好かれるのだな。一体誰だ、私の知る英雄か?」

「クシナダヒメだよ。」

「おお、クシナダヒメか!その人物なら私も知っているぞ!
 そうか、あのクシナダヒメか……今回は、私も知る時代の英雄のようだ。早速話を聞いてみるとしよう、少しは話が通じそうだ。
 しかし、こう次々にミタマが出て来るようでは……外の世界では『鬼』と激しい戦いになっているのか?」



心配ないと言えば格好いいのだろうが、そんな見栄に意味はないな。
未だ激化はしてないが、北の『鬼』との戦いが始まったよ。それも、ウタカタに百鬼隊が到着したのを見計らったかのようにね。まぁ
私なら負けはしないが、見た事もない『鬼』が相手と言うのは厄介なモノだよ。



「北の『鬼』……?鬼門の方角から敵は来ているのか。
 ……『鬼』は時の概念を越えた存在。過去より数限りなく来る厄災――その『鬼』との戦は、援軍なき籠城戦。だから気をつけよ
 梓。決して死んでは駄目だ。
 1人欠ければ、誰もその綻びを繕う事は出来ない。卿が死んでも、変わりは居ない。
 ……何より、私が此処から出られなくなってしまう――だから、私はせめて祈ろう、梓。武運と勝利を。そして……汝に英雄の導
 きがあらん事を。」



安心しろオビト、私は並のモノノフの10倍は頑丈だから、ゴウエンマの拳を真面に喰らった所で少し痛い程度でしかない。なので
首を落とされるとかしない限りは多分死なない。
心臓は一度大ダメージを受けてるせいで、恐らく同程度のダメージは今度は無効にしてしまうだろうからね……まさか、ナハトヴァ
ールの自動防衛と自己再生のシステムを受け継いでるとは思わなかったよ。






と言う訳で、朝だ。
起きたら、服を脱いで頭から井戸水を被ってサッパリした所で服を着て、そして朝ごはんを食べてエネルギーチャージ!うん、朝は
矢張り納豆と焼き魚と味噌汁だな。

そして、朝ごはんを食べたら本部にだ。――いい加減、この謎の次元直結を誰かに説明して欲しいモノだがね。
扉を蹴り破って、おはようございます!!



――バキィィィィィィ!!



「……梓、扉は蹴破るモノではないぞ?それと、後で直しておけよ?」

「大丈夫だ大和、多分もう自動修復されてるだろうからね。」

「なんだ其れは……」



知らん。あの家を建てた大工に聞いてくれ。



「……漸く来たか。」



で、ウタカタのお頭である大和に、霊山の軍師である九葉、そして百鬼隊の隊長である相馬が揃って如何した?九葉の言葉から
するに、私の事を待っていたようだが?



「……昨日の今日で済まんが、今後の任務について話しておこうと思ってな。」

「お前は今後、配下を率いて、相馬と共に北の『鬼』を討て。北の『鬼』は昨日の1匹だけではない――お前が討ったオラビも、他
 に複数の個体が確認されている。」



なんだその事か。
相馬率いる百鬼隊と協力する事は、もう合意できている。誠に勝手ながら、ウタカタの隊長と百鬼隊の隊長の間で合意させて貰っ
たから問題ない。

だが、オラビは他にも個体が存在しているのか……となると、アレは斥候役か?



「うむ、その通りだ。空を飛び回り、仲間を呼び寄せる。――捨て置くと敵に囲まれる。気をつける事だ。
 が、それ以上に問題なのは敵の増殖だ。どういう理屈か、詳細は不明だが……北の『鬼』が通った後には、更なる『鬼』が現れ
 る――ミフチやカゼキリと言った、大型の『鬼』が増え始めている。
 此れを排除しつつ、何としても北の『鬼』を見つけ、討つ――働いて貰うぞ梓、人の世の為にな。」



ふ、是非もないよ九葉。
嘗ては人にとって厄災でしかなかった私が、今度は人の為に戦えるなど、こんな嬉しい事はない――何よりも、ミフチやカゼキリ程
度の『鬼』ならば、何体来ようとも私の敵ではないからね。



「よろしく頼む、梓。」

「此方こそ宜しくだ、相馬。」

「隊士に北の『鬼』を探させる。
 その間、俺達で周囲の大型を片付けるぞ!!」

「……さぁ、行け。『鬼』を討つ鬼、モノノフよ。」



言われるまでもないぞ九葉――全ての『鬼』は私が討つ!!
人の世に仇なす『鬼』は滅殺一択だからな――新たな御役目として上がった討伐対象はミフチとカゼキリか……此の程度でウタカ
タを落とせると思ってるのならば、貴様等は人間を舐め過ぎだぞ『鬼』よ。

その傲慢を、私が砕いてやる――精々、首を洗って待っているが良い。その首、私が掻っ切ってやるからな……!!











 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場



さて、出撃前に禊は基本だ、任務の前後の禊は大事だと言う事で、禊に来たんだが……取り敢えず、背中を流そうかオヤッさん?



「風呂じゃねぇんだ、必要ねぇよ。
 しっかし、相変わらず節操のねぇやつだな、お前さんは?ワシは兎も角、他の男の前ではもうちっと慎みを持てよ?」

「言葉を返すようで悪いが、私に慎みなどと言う言葉が似合うと思うかオヤッさん?」

「……お世辞にも似合うとは言えねぇが、それでもだ。男ってのは、トンでもねぇ狼だから、気をつけろって事だ――特に、息吹の
 の奴は油断ならねぇからな。」



あぁ、確かに息吹は油断ならないな?だけど大丈夫だオヤッさん……最悪の場合は握り潰すから。



「何をとは聞かねぇが、恐ろしい事考えてんなお前さんも……」

「因みに桜花は『斬り落とす』って言っていたぞ?」

「お前さんと桜花に手を出した奴には御愁傷様だぜ……」



ウタカタのトップ2に対してナンパを働いたズベ公には、もれなく私と桜花の愛と友情のツープラトンである『鬼千切り・絶』を叩き込
んで、KOするだけだけれどな。



「手加減は?」

「ない。」

だから、私や桜花の禊を覗き見るなら、命の覚悟をして来いよ?