Side:梓


百鬼隊が到着した直後の『鬼』の襲撃……まるで狙ったかのようなタイミングだな。
尤も相馬が、部隊を編成してくれたおかげで部隊編成の面倒は無くなったのだが、百鬼隊が合流して直ぐに大型『鬼』が襲撃して
来るとは思いもしなかった。

其れでもって、此処も、大分異界に浸食されているな――前に来た時は、それ程でもなかったのだけど、此れまでの僅かな時間
で異界化を進めている。
前回のカゼヌイの時の様に、此処も浸食が深い異界『侵域』と言う訳か。



「此処は……通常よりも瘴気が濃いと言う感じではないが、領域とは異なる感じを受ける。
 内部に居る『鬼』も強力な筈――相馬殿の実力は、ウタカタに到着する前に知る事が出来たが………」

「私と梓の実力は未知数だから、君としては少々不安が有るのだな、暦?」

「失礼ながら。加えて、桜花殿の得物は太刀と見受けるが、梓殿の得物は見た事がない――太刀よりも短いが、双刀よりも長い
 刀身の剣……其れは一体?」



まぁ、私達の事等風の噂程度でしか聞いた事がないだろうから、不安もあるだろうが、私と桜花は、ウタカタの里のトップ2――筆
頭の2人と言えば分かり易いかな?私と桜花の剣の錆となった『鬼』の数は数えるのも面倒なくらいだ。
それと、私の武器だが、此れは『打ち刀』と言ってね。間合いと攻撃力では太刀に劣るが、反面片手でも使える上に、より素早い
攻撃が可能になる使い勝手の良い武器だ。
『鬼』との戦いでは、広い間合いと攻撃力で勝る太刀に押されて廃れてしまったらしいのだがな。



「敢えてその武器を使うと言う事は、お前は相当な手練れと見たぞ梓。
 だが、何故6本も持って来ている?無属性と五大属性の刀と見るが、どんな相手が来ても有効な属性で攻撃出来るようにする
 為か?」

「其れもあるが、私はこの6本を同時に使うんだよ。六爪流と言う、かの伊達政宗が編み出した究極の剣技だ。」

「なんと、其れは凄そうだ。」



お披露目は戦場でな。
新手の鬼は、放っておけば異界を拡大して里を飲み込もうとする――そうなる前に討つ!一気に行くぞ!!












討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務46
『古の侵域の刺客~オラビ~』











赤い結界の鳥居を潜ると、周囲が断崖に囲まれた歪な円形の高台か……この高さから落ちたら一溜りもない。まるで、場外に危
険な仕掛けが施されたデスマッチのリングのようだな。
まぁ、デスマッチと言うのは大抵の場合ヒールが負けると相場が決まってる訳だが、私達の相手は、オラビと言ったか?物見の報
告では、鳥のような『鬼』だと聞かされたが……



――ゴゴゴゴゴゴゴ……


『キョエェェェェェェェエェェェェェェ!!!』




来たか!!
此れがオラビ……何とも神経を逆撫でする甲高い声で鳴く『鬼』だな?或は、この声もまた超音波攻撃として使うのかも知れん。
極彩色の身体と4枚の翼が異様だが、ヒノマガトリと比べれば、此方の方が鳥の形をしているか……このデカさならば、唐揚げに
したら100人前は作れそうだ。



「……食べるのか?」

「食べないよ?酒と醤油とニンニクと生姜のタレに浸け込んでも臭いはきつそうだし、肉が柔らかくなるとも思えないからな。」

「確かにコイツは不味そうだからな。
 だが、ノコノコとご苦労。速攻で叩き潰すぞ!!」



ふ、言われるまでもないさ相馬。さて、覚悟して貰うぞオラビよ?細切れになる覚悟は出来ているな?



――ジャキン!!



「6本の打ち刀を、左右で3本ずつ、指で挟んで!此れが六爪流と言う物か!!」



その通り。そして、この六爪流は、見た目が派手なだけの見せかけの剣術ではない!!
先制攻撃として、オラビが竜巻を飛ばして来たが、その程度の竜巻ならば避けるまでもない――避けずとも、斬り裂けばいいだけ
の事だからな!!



――バシュゥゥゥ!!



「た、竜巻を切り裂いた!?」

「ほう?中々やるな梓。噂も、あながち間違いではないらしい。」

「いや、こんな物は序の口だぞ相馬、暦。梓の本気はこんな物ではない。
 梓、相馬と暦に見せてやろう。ウタカタのモノノフの実力と言う物を。君と私の連携ならば、未知の『鬼』が相手であっても負ける
 事は無い筈だ。」

「負ける事はない?馬鹿を言うな。
 私とお前が組んだのならば勝利は必然であり、ウタカタのモノノフ全員が力を合わせれば『鬼』の王すら退ける事が出来るのは
 既に実証済みだ――未知の『鬼』如き、恐れるに足らんさ。」

なので、渾身、軍神招来、鎧割、秘針を発動し、ミタマ武器の力開放!!
攻撃力を極限まで上げ、オラビの防御力を低下させた上で、攻撃属性を強化して、分身呼び出して、防御力を攻撃力に換算した
私は、可成り強いぞ?
取り敢えず、余り長引かせると面倒なので……斬り飛ばすぞ桜花!



「了解だ!華と散れ!!

滅殺!!



――ズバァ!!!



「一撃で部位破壊とは、良い腕だな梓、桜花。」

「大型『鬼』の部位を一撃で切り裂くとは……此れがウタカタのモノノフの力――実に見事なモノだな。」



まぁ、此れ位出来なくてはな。
そもそもにして、魔法を取り戻した私にとっては、大型の『鬼』でも大した脅威にはなり得ないんだ――流石に、この身体は生身で
有るが故に、不死身ではないが、可成り頑丈に出来ているから滅多な事では壊れないし、今し方見て貰った様に、『鬼』の部位を
破壊する等、容易い事だからな。
序に言うと、攻撃の瞬間に『断祓』を発動して、即座に部位浄化もするおまけ付きだ。



『キョエェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!』



――キィィィィィン!!




「「「「!!!」」」」


この、此れは超音波攻撃か――あの甲高い声から予想はしていたが、矢張り使って来たか。
如何にモノノフと言えども、三半規管を狂わされては、平衡感覚を失ってしまい真面に立つ事は出来ない――そうして、相手の動
きを制限した所で仕留めるのがお前の戦い方か。

卑怯と言う心算は無いが……今回ばかりは相手が悪かったな?


――バキィィィ!!



『!?』


「後方宙返りをしながら蹴りを放つとは……それ以前に、アレを喰らった直後に普通に動けるとは……」



これぞ究極のアクロバットキック『サマーソルトキック』だ。
それと、コイツの超音波攻撃だが、全く効いていない訳ではない。だが、私に限っては、コイツの超音波攻撃など、言うなれば1秒
だけ、ガラスを引っ掻く音を聞いた程度の不快感でしかないんだよ。

そして、お前達だってもう動けるはずだぞ?お前達の眩暈は、既に魔法で治しておいたからな。
治癒魔法は得意ではないが、三半規管の一時的な麻痺を治すのならば難しい事ではないからね――だから、此処からは全員
攻撃と行こうじゃないか!!



「ふ、是非もない。此の俺を跪かせた事は褒めてやるが、だが其れまでだ。お前は此処で、俺達に討たれる運命のようだな!」

「相馬殿、貴方は調子に乗りすぎるきらいがある。少し自覚した方が良いぞ……」

「ハッハッハ!見ろ、この技の冴えを!!」



調子に乗り過ぎるか……確かにその様だが、相馬のような実力者ならば、戦場では寧ろ調子に乗っているくらいが調度いい。
並みならぬ実力者が乗りに乗っていると言うのは此方にとっても最高の追い風となるからね――何よりも、強者が乗りに乗ってい
ると言うのは、味方を鼓舞する事になるからな!



「お命、頂戴する!!」

「此の程度か?もっと俺を楽しませろ!」




其れを示すように、暦が翼を斬り飛ばし、相馬が胸の羽根を散らしたからな。……羽根が散らされた部分は女性特有の二つの膨
らみが……お前は雌だったのかオラビよ。
と言うか、『鬼』の雌雄が分かれてる理由は何かあるのだろうか?……此ればっかりは、秋水に聞いても分からなそうだな。



「秋水でも分からない事はあるんじゃないか?
 其れよりも、未知の『鬼』が相手でも、私達の方が押しているぞ梓――このまま一気に押し切ってしまおう!」

「異論はないが……桜花、相馬が言っていた、私の噂ってどういう物だったっけか?」

「え?確か……確か『素手で鬼の部位を引き千切り、顎で角を噛み砕いた』だと思ったが、其れが如何かしたか?」



ん?折角だから、噂を現実にしようと思ってね。



「え?」

「見て居れば分かる。……ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」


――バシュゥゥゥゥ!!


オラビを六爪流で切り裂いたのちに押し倒して……


――ザシュ!ザシュ!ザシュザシュ!!ザシュゥゥゥゥゥゥ!!


左右の刀で2回ずつ切り裂いた後で、両手の刀で一気に切り裂く!そして……



ハァ……


――クルリ……ギン!!


「「「!!!」」」


――ビクゥ!!


一度、桜花達の方に顔を向けてから猟奇的な笑みを浮かべてから再びターゲットに向き合い――


――ドン!ドン!!


「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」


――ドッガァァァァァァァァァァァァン!!


両手を2回叩き付け、3回目を叩きつけると同時に爆破炎上!!
此の連続攻撃で、オラビの部位を素手で引き千切って、更に奴の角をこの口で噛み砕いてやったぞ?……流石に角は堅かった
が、噛み砕こうとして出来ないレベルではなかったな。



「まさか、噂が本当だったとはな……だが、其れならば頼りになる奴だ!!」

「マッタク、相変わらず君は無茶苦茶だな梓……尤も、そんな君だからこそ、背中を任せる事が出来る――このまま一気に行くと
 しようか!!」

「何と言う実力……だが、来るぞ!梓殿、桜花殿!!」



――キィィィィィン……バシュゥゥゥゥゥゥゥ!!



『キョアァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!』



タマハミか。
『鬼』の凶暴性と残虐性が解放されたタマハミは、本来ならばモノノフにとって脅威なのだろうな。実際に私も、タマハミ状態のツチ
カヅキの攻撃を(断末魔の悪足掻きだったが)喰らって、生死の境をさまよったから、タマハミの危険性は理解して居るさ。

だが、アレは魔力切れを起こしたからの事であって、十全の私の前では、タマハミなど脅威たり得ん!!



『キョォォォォォォォォォォ……キョアァァァァァァァァァァァァァ!!!』


――ドドドドドドドドドドド!!




と、回転しながら自身の羽根を機関銃のように飛ばして来たか。
普通ならば、厄介な攻撃なのだろうが、ウタカタのモノノフを舐めるな!桜花!!



「応!!」

「此の程度で、倒せると思うな!!!」

「オラビの羽根攻撃を、六爪流と太刀の攻撃で全て撃ち落とすとは……梓殿と桜花殿は、ドレだけの使い手なのだ……!?」

「ハハハ!どうでもいいだろうそんな事は。此れだけの実力があるのならば文句はない。強い奴は大歓迎だからな!
 だが、お前達だけで良い所を持って行くな。俺にも見せ場を寄越せ!」



此れがウタカタの筆頭2人の実力さ。
それと、勿論見せ場は残しているぞ相馬?この『鬼』にトドメを指すのはお前に任せる――だから、空振りなどしないで、確実に場
外ホームランをかましてくれ。
ひょいっとな。



「大型『鬼』を片手で持ち上げたぁ!?」

「此処まで来ると、突っ込むのも馬鹿らしいな。」



うん、私に突っ込んだら負けだぞ相馬。自分で言うのもなんだが、私は規格外を通り越した、存在が犯罪の超絶チートなモノノフ
だからな。
其れじゃあ行くぞ?……そぉれぇ!!



「普通投げるか、大型の『鬼』を。其れも片手で。
 だが、投げられたのならば打たねばならんだろう!!フゥゥゥゥゥゥン!!!」


――カキィィィィン!!

――ドガァァァァァァァァァァァァン!!




で、ぶん投げたオラビを、相馬が見事な一本足打法で打った瞬間に爆発四散!――結構いい攻撃になるんじゃないかと思って、
オラビの全身に不可視の魔力爆弾をひそかに巻き付けておいたのだが、まさかこれ程の威力とは驚きだ……里周辺で使ったら
里にも影響が出そうだから、此れは以降封印しておこう。
矢張り、適当に編み出した技は危険が多いな。

とは言え、此れで目的は達成したな。


――バシュン!

『湯津爪櫛となってお供します。』

――ミタマ『クシナダヒメ』を手に入れた。



更に、新たなミタマもか。頼もしい事だよ。



「急ごしらえの隊で良く戦えた……とは言わない。梓が居る時点で、負けは無いからな。」

「其れを抜きにしても上出来だ。
 此れで1勝――いや、俺達が合流する前も合わせれば2勝か?……何にしても、この隊なら早々負ける事はあるまい。
 漸く戦力が揃って来たな。」



確かに、この面子なら早々負ける事はないだろうね。
私と桜花はウタカタのトップ2だし、相馬はオウマガドキの英雄で、暦もまた年若いにも関わらず可成りの実力を秘めている……ウ
タカタの里にとっても、お前達が来てくれた事は有り難いよ。

これで、戦力は可成り強化されたからね。
其れでは、ウタカタに戻るか――瞬間移動!!



――バシュン!!



と言う訳で、リインフォース梓、以下4名ウタカタに帰還したぞ。



「……行き成り現れるとは、如何行った手品か……まぁ良い。戦果は如何だ?」

「目標の『鬼』は撃破。『侵域』の拡大も止まった――取り敢えず、目的は果たしたよ九葉。」

「そうか……先ずは上々と言った所だな。」

「全員、よく無事で戻った。」

「お帰り、桜花、梓!!それと……暦も!」

「これは……かたじけない。」



うん、御役目を無事にこなして、里に戻って来ると言うのは矢張り良いものだな。戦果の報告は兎も角として、私達を心配してくれ
ていた仲間を安心させてやれるのだからね。
そして、初穂が気にかけたと言う事は、お前もウタカタの一員だよ暦。



「桜花、梓。2人とも良い腕だ。此れなら戦える。どんな化け物相手にもな。」

「……其方こそ、大した腕だ。」



うん、桜花の言うようにお前も大した手練れだよ相馬。
其れだけ巨大な金砕棒を軽々と扱うと言うのには正直驚かされた……オオマガドキの英雄の名は伊達ではないと、そう実感させ
られたよ。

だが、其れは其れとして九葉、先のカゼヌイと、此度のオラビの事を考えると、優先すべきは――



「お前の考える通りだ梓。
 此れより先、暫くは『蝕鬼』の討伐に集中して貰う――『百鬼隊』と、ウタカタのモノノフの協力が肝要だ。
 まぁ、仲良くやってくれモノノフ達よ。」

「要はこき使うってこったろ?物は言いようだな、ったく。」



ハハハ、そう噛みつくな富嶽。
激しい戦いなど、今更だ――寧ろ、『鬼』との戦いこそが、我等モノノフの本分だろう?
百鬼隊が合流したとて、私達のやる事は変わらない――人の世を蹂躙せんとする『鬼』を討って、人の世を取り戻す、其れだけだ
からな。



「ま、そう言う事だな。」

「そんな『鬼』なんて、ちょちょいとやっつけちゃうわ!そうでしょ、梓?」

「ふ、任せておけ。」

私にかかれば、大型の『鬼』でも瞬殺してやるさ。
其れよりも、今後の方針だが――



「皆さん集まって楽しそうですね。お祭りか何かですか?」



何だって此処で出て来るかなホロウ?と言うか、お前家にいたんじゃなかったのか!?……何で此処で出て来るかなぁ……



「待機しているよう言われましたが、正直退屈であると認めます。
 私もお祭りに参加したく思いますが、許可願えますか梓?」

「悪いがホロウ、此れは祭りじゃない。」

「なんと、そうでしたか。其れは残念です――ところで、このトンガリ頭は誰ですか?」

「……誰がトンガリだ。此れは『百鬼隊』の角だ!!そもそも誰だお前は!!」

「貴方こそ誰ですか?先ずは名乗るのが礼儀でしょう。」

「……どの口が言う……!」


「こやつもモノノフか?戦力になるなら、作戦に組み入れるが……」



取り敢えず、九葉たちもホロウの事は知らないらしいな――まぁ、コイツについては話すと長くなるので後でと言う事にしておこう。



「先ずはお前から名乗れ。俺は、最初からここにいたぞ。」

「私はこの里の古株。新顔から名乗るべきであると認めます。」



……里に来てから僅か数日であるにも関わらず、古株と称するお前に驚きだぞホロウ?お前の思考形態は、一体どうなってるの
か、本気で一度脳味噌開けたくなってきたよ……
もう良いや。各自適当に解散。今後の任務に励んでくれ。



「やれやれ、珍獣ばかりだな、この里は……」



珍獣、ね。否定できないのが悲しいよ九葉。
だが、一つだけ言っておくが、おかしいのはホロウだけで、元々のウタカタの里に居たモノノフは決して珍獣ではないからな!!
其れだけは履き違えてくれるなよ絶対に!!











 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場



さて、御役目の後の禊は基本だ。御役目で被った穢れは禊で祓っておかねば、体調に影響するからね。
で、お前も禊か暦よ。


「こ、これは梓殿……まさか来るとは思っていなかったぞ……否、モノノフならば禊は当然か?」

「当然だよ暦。禊で穢れを浄化せずに戦い続けるのは、如何にモノノフと言えども自殺行為に等しいから、任務前後の禊を欠かす
 事は出来んよ。
 それに、水は冷たいが御役目を熟した後の火照った身体には丁度いいじゃないか。」

「其れは確かに……しかし、梓殿は……その、凄いな?
 一体、何を如何やったら其処まで育つのかご教授願えるだろうか?」



凄いって……胸の事だよな?
特に特別な事をしている訳じゃないし、大きいから良いってモノでもないだろう?大きいと戦闘の邪魔になるしな。
何よりも、女性を胸で判断するのは良くない事ですよーーー!!



「貴女が其れを言いますか!?」

「うん。言っちゃう。」

「神は残酷だ……」



まぁ、頑張ってくれ。私の応援で如何にかなる物でもないがな♪