Side:梓


「うん……?誰だ君は?」

「まぁそう思うのは無理もないと思うよ桜花……」

「こんな子、里に居たっけ?――キミの知り合い、梓?」

「こんにちは皆さん。私はホロウ、この人の友人です。探し物を求めて、はるばる里の外からやって来ました。」

「まぁ、そうでしたか。其れはようこそウタカタの里へ――私は那木。どうぞよろしくお願いします、ホロウ様。」

「ありがとう那木。貴女はとてもいい人ですね。」



オイオイ……幾ら何でも馴染み過ぎじゃないか?
私を受け入れてくれた事から、ウタカタの里の度量の大きさは分かっている心算だが、見ず知らずの存在を、こうも簡単に受け入
れるって言うのは、幾ら何でも有り得ないだろう!!
もしも彼女がウタカタに害をなす存在であったのならば大変だぞ!なにより――



「如何したの梓、顔が引き攣ってるわよ?」

「私の友人とか言ってたが、実は今し方会ったばかりだ。」

「えぇ!?ちょっとどういう事よ!!」

「5分程前に友人になりました。以後よろしくお願いします。」

「……説明して貰おうか、梓。」



説明も何もあった物ではないのだが、私の知って居る事を話す他ないだろうな……と言うか、ホロウは存在その物が厄介事を引
きよせるんじゃないかって思えて来たよ……
私はトコトン、面倒毎に巻き込まれる体質のようだな……ヤレヤレだ。












討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務44
『北からの刺客~カゼヌイ~』











「記憶喪失だと……?」

「肯定です。
 目が覚めたら谷底に居ました。如何やら落下したものと思われます――落下の衝撃の影響でしょうか、其れ以前の記憶があり
 ません。自分が何者か不明です。
 とにかく人里に出ようと歩いていた所、この『ウタカタの里』に辿り着きました。」



と言う訳なんだ大和……如何したものだろうな?



「……成程な。」

「この地には『モノノフ』と言う、統治機構があるそうですね――もしかして、あなたが『おかしら』ですか?」

「そうだ。何か聞きたいことでもあるか?」

「私が何者か、何かご存じありませんか?」



……オイオイ、幾らなんでもその質問は無茶振りを通り越していると思うぞホロウ?お前自身が分からない事が、初めて会った
人間に分かる筈がないだろう!
バカか?お前はおバカさんなのかホロウ!!
大和もすっかり考え込んでしまってるじゃないか!!



「……残念だが、分からんな。
 ……だが、其の銃に、『モノノフ』の紋。お前もまた、モノノフかもしれん。」

「私も……モノノフ……?」



長大な銃に、金眼四ツ目の鬼の紋……確かにホロウがモノノフである可能性は極めて高いだろうが、問題は一体何処の里に属
していたモノノフなのかと言う事だな。
或いは霊山直属の部隊の1人だったのか――何にしても記憶喪失なのならば、ウタカタでゆっくりしていけばいいさ。
お前がモノノフであるのならば、戦力が増えたと取る事も出来るからね。



「不思議な髪の色をされていますね……ひょっとして、異国の方でしょうか?」

「いや、其れは如何だろうな橘花?
 ホロウと言う名は、日本語の名だし、何よりも世界の何処を探しても、地毛が青い人種は存在しない――目の色は虹彩異常だ
 としても、髪に関しては染めて居るんじゃないか?地毛だとしたら驚く他ないがね。」

「異国の者の可能性は低いか。
 ならば隊長……状況からして『百鬼隊』と何か関係があるのでは?」

「確かにな。こっちに向かってるんだろ?」



確かにその線は考えられなくはないよ速鳥、息吹――だが、百鬼隊のような精鋭部隊とされる部隊の人間が1人で行動するだ
ろうか?
隊である以上、『鬼』と遭遇した場合でも単独行動は制限されるだろう?――なのに、1人だけ谷底に落ちたと言うのは解せん。
加えて、私が言えた義理ではないが、落下の衝撃で記憶を失ったのなら相当に強く頭を打ってる筈なのに、ホロウにはタンコブ
どころか外傷一つ見当たらない……幾ら何でも頑丈過ぎるだろうに。
ホロウがモノノフである事以外、彼女を何者か断定する材料は少なすぎる。



「……ま、そんな事よりだ。
 お嬢さん、俺と一緒に、食事でも如何ですか?」

「其れは名案ですね。ちょうど腹ペコだったところです。」

「なら善は急げだ。早速2人で俺の部屋に行こう。――君の胸にぽっかりと空いた穴、俺が埋めてやるぜ……」



おい、行き成り何を言ってる息吹。そして乗っかるなホロウ。
息吹のお誘いは只の食事の誘いじゃないんだぞ!言ってしまえばナンパだナンパ!記憶が無いと、そんな事すら分からなくなっ
てしまうのか!?

「何をする気だお前は!!」

「お前は黙っていろ!!」



――メキィ!!

――ガスゥ!!




……私のウェスタンラリアットで上体が起きた所で、見事に桜花のエルボーが突き刺さったな――息吹の鳩尾に。
鍛えても鍛えようのない喉笛に私の腕が叩き込まれ、どうやっても筋肉でガード出来ない鳩尾に桜花の肘……期せずして、ダブ
ルクリティカルヒットだな?
やっておいてなんだが、生きてるか息吹?



「の、喉と……鳩尾を……狙う奴があるか……」

「悪いが此処にいる。」

「……コホン。こいつには近づくな、ホロウ。」



桜花の言う通りだホロウ。
そして息吹、伊達男とスケコマシは違うから良く覚えておけ。本物の伊達男と言うのは、態々誘ったりしなくても女性の方から近
付いて来てくれるモノだからな。

にしても、さて如何したものか……



――カンカン!カンカン!!



「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」


この鐘の音は……襲撃か!!
こうなっては、話は後だな――全員出撃準備だ!構わないな、大和!!



「是非もない!全員出撃に備えろ。」


「……待ってください。私も行きます。」

「ホロウ?」

如何言う心算だ?
お前はモノノフのようだが、しかし記憶が無い――戦力が増えるのは嬉しい事だが、鬼との戦いに支障はないのか?



「私が真にモノノフであるか、其れを確かめる必要を認めます――戦場に立てば、其れが分かるかも知れません。
 一緒に行かせてください。」

「……さて、如何する大和?」

「…………良いだろう。ホロウを連れて行け、梓。」

「ちょ、ちょっと本気、大和!!」

「……感じるのさ。こやつの内から吹き出る、モノノフの力を。」



そう言われては何も言えないな。
モノノフの感覚は常人の其れを遥かに凌駕するし、まして大和のような経験豊富なモノノフであるのなら尚の事だ――ならば、そ
のモノノフの力は本物だろうな。
これは、少し面白くなって来たかも知れないな!!



「待て隊長……俺は未だ、喉と鳩尾が……」

「息吹は留守番だ。出るぞ、梓!!」



あぁ、そうだな!
と言う訳で任務前のお約束の受付だが……新たな御役目が上がっているな木綿?



「梓さん、物見隊からの報告です!敵は未知の『鬼』、此れまで見た事もない新手です!
 急速に異界化を進めながら、里の北東から接近中との事です!
 討伐対象を『カゼヌイ』と呼称します――此れより討伐任務に当たって下さい!――梓さん、如何かお気をつけて……!!」



カゼヌイ……見た事もない『鬼』か――オオマガドキで開きかけた門から、此方の世界に現れた新手なのかも知れんな。
何れにしても、異界化を進めながら此方に向かってきてると言うのならば討つだけのこと――北東の方角となると『安』の領域で
迎え撃つ事になりそうだな。
行くぞ、桜花!富嶽!!――そしてホロウ!!



「あぁ、行こう!!」

「やってやるぜ!!」

「では、行きましょう!!」



そう言う訳で――




――バシュン!!




瞬間移動で『安』の領域まで来たんだが……何だ此処は?何時もの『安』の領域とは違う――瘴気の濃さは変わらないが、より
異界化が進んでいる?



「成程、此れが『異界』と言う物ですか。」

「気ぃ、付けろよ?また崖から落ちたら洒落にならねぇからな!!」



……其れは大丈夫じゃないか富嶽?少なくとも、1カ所を除いて『安』の領域には落ちるような崖は無かった筈だからな。
其れよりも問題は、この赤い鳥居の向こうにいるであろう新型の『鬼』――此処からでも感じる力は、並の大型『鬼』とは比べ物
にならない。
気を引き締めて行った方が良さそうだな!!


そして鳥居を潜ったら……何だ此処は!?
まるで絢爛豪華な遊郭の内部のような……此れが異界?『安』の領域だと?――冗談じゃない、瘴気の濃さこそ変わらないが、
この異界化は異常だ。
通常の異界化と違って、更に世界が作り替えられている――此れは領域ではなく『浸域』と呼んだ方が良いかも知れないな。
更に――


『フシャァァアァァ!ニャァァァゴォォォォォ……』


現れたのは、猫のような姿の『鬼』……『鬼』にしては愛らしい姿をしているが、『鬼』である以上は狩るしかないか――コガネム
ジナよりももっと可愛いから、飼いたい所だが、絶対に却下されるだろうからなぁ……



「これが『鬼』ですか……成程、強そうです。」

「急速に異界化が進んでいる……コイツの仕業か!!」

「見た事もない野郎だな……何処から湧きやがった?」



分からんが、兎に角コイツを倒すぞ!ウタカタを脅かすものは、何者であろうと斬る!!



――ジャキィィン!!



元より、我が六爪流に斬れぬモノなどないがな!!着いて来られるかホロウ?



「不思議ですね……体が如何動けは良いか理解しています。
 対象を敵性と判断、此れより排除行動に移ります。」



頼りにしているぞ?その馬鹿デカい銃は、連射性は低いだろうが、その分威力は充分だろうからね――口径は少なく見積もって
も50mm(実際の銃弾口径は25mm。銃の口径は弾丸サイズの倍で明記される。)はあるだろうからね。
其れだけの大口径ならば、鬼に対しても有効だろうからな。

さてと、猫のような姿であると言う事を考えると、カゼキリかそれ以上の素早さを有しているのだろうと思うが、だとしても、あの小
さき勇者の盟友である金色の雷神のスピードには及ばない筈だ。
大型の『鬼』がアレを上回るスピードを身に付けていたのならば、其れこそ『鬼に金棒』と言う所だろうが、そうでないのなら、私を
撹乱する事等出来ん!!



『フシャァァァァァァァァァァ!!!』

「猫は猫らしく、飛んでる蠅でも追いかけて居ろ!ウタカタの里に攻めて来るんじゃない!!」

飛びかかって来てくれたが、その勢いを利用してカウンターの逆一本背負い!――六爪流は、6本の刀を6本の指に見たてて攻
撃出来るから、意外と汎用性があるな。
だが、逆一本で済ませる気はないぞ?――桜花、富嶽……殺れ。



「花と散れ!橘花桜蘭!!」

「っしゃー、隙だらけだぜぇ!!」



桜花の逆袈裟斬りがカゼヌイの尾を切り、富嶽の渾身のアッパーカットがカゼヌイの右後ろ脚を殴り千切る!!見事だな!
ホロウ、切り落とされた部位を祓え!祓って、再生できなくすれば、コイツにダメージを与える事が出来るようになる!!



「成程、此れは外殻で、本隊は半透明の内部と言う訳ですか……『鬼』を討つ好機と認めます。
 破壊された部位を祓いつつ、射撃での援護を行います。」

「ふ、頼りになるなホロウ。本当に記憶を失っているのか疑ってしまう位だ。」

「まぁ、強いなら文句はねぇ!此のまま一気に攻め込むぜぇ!!」



良い判断だホロウ。
そして言われるまでもないぞ富嶽!
コイツは、カゼヌイは確かに手強い『鬼』であるのは間違いない――其れこそ、『鬼』の強さで言うのならばヤトノヌシにすら匹敵
するかも知れない。
もしもコイツが、オオマガドキの直前に現れていたら厳しかったかもしれないが、私達はあの時とは比べ物にならない程に強くな
っているんだ。
人にとっては驚異の存在なのだろうが……少しばかり現れるのが遅かったなお前は!!
だからもう……貴様の下らん遊びは終わりだ!!

「おぉぉぉぉぉ……泣け!叫べ!もがけ苦しめ、そして……消え失せろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!

『ニャゴォォォォォォォォォォォォ!!!!』



六爪流で8回斬り付けた後で、刀を突きさして胸元を引き裂く奥義、八稚女だ――此れで貴様の部位は全破壊したぞカゼヌイ!



「梓、貴女はとても強いのですね――そして、桜花と富嶽も非常に頼りになります。」

「君こそいい動きだホロウ――君は、本当にモノノフなのだな。」

「やるじゃねえか?
 テメェが来た時の事を思い出すな梓!!」


ホロウも頼りになるしな……だが、本番は此処からだな。


――ギュイィィィィィン!!


『ニャァァァァァァァァアァァァァァァァァァ!!!!』



「……此れは、何事ですか?」

「タマハミか!此れまでとは異なる攻撃が来るぞ!!」

「ちぃ、しゃらくせぇ!!」



タマハミ化――と共に姿を消した。否、周りの景色に溶け込んだと言うのが正しいか?良く出来た光学ステルス迷彩と言うやつな
のだろうな。
並の人間には、消えたように見えるのだろうが――私を舐めるなよ?

「其処だ!封縛!!



――バキィィィィン!!!



『ニャァァ!?』


「如何に姿を消そうとも、その身から溢れ出る瘴気が駄々洩れでは意味がない――並のモノノフでは気付かないかも知れんが、
 ウタカタの精鋭には通じないと知れ!!
 そして、私の拘束術式はトコヨノオウですら拘束した故に、お前では砕く事は出来ん!!そして、此れで終わりだ!!!」


――ギュゴォォォォォォォォ!!


今此処に仲間達の力が集ったからな!冥途の土産に喰らっていけ――破邪顕正、鬼千切り・極!!!


――バガァァァァァァァァァァァァン!!!


『ミギャァァァァァァァァァァァ!!!』


「お前の素早さとステルス迷彩は少々厄介だったが、私の敵ではなかったか……精々深き闇で眠るが良い。」



――キィィン……バシュン!!

『全てを燃やせば、愛しい人に会えるの……?」

――ミタマ:八百屋お七を手に入れた




……何か、ヤバそうなミタマを手に入れたが、取り敢えず此れにて任務終了だな。



「相変わらずの馬鹿強さだな君は……だが、この『鬼』は一体……」

「此れがモノノフの戦ですか。
 お陰で大切な事を思い出しました――私はホロウ『鬼』を討つモノノフです。」



其れは分からないが、如何やらホロウが記憶の一端を取り戻すに至ったらしい――己がモノノフであると言う事を思い出したと言
うのならば、此れから先、頼れる仲間となるからね。

さて、帰るか。
例によって……瞬間移動!!



――バシュン!!



「と、言う訳でただいま大和。」

「今更驚かんが……全員無事だな。」



リインフォース梓以下4名、全員無事に帰還した――此れも頼もしい仲間が一緒だったからだ。そうだろう、ホロウ?



「肯定です梓。我々は中々強いモノノフであると認めます。
 そして、同時に梓は規格外の、有り得ない強さのモノノフであると認めます。」

「って言う事は、其の子もモノノフだったのね?……梓の規格外っぷりは今更だけど。」



うん、私が規格外である事は否定しないよ初穂……今回のカゼヌイは、巨体にあるまじき素早さを有していたが、私に言わせれ
ば遅いからね……間違いなく私はバグキャラさ。
そしてホロウだが、間違いなくモノノフだ――それも、桜花クラスの手練れだ。記憶がないにもかかわらず、身体が勝手に動いた
と言うのだから、『鬼』との戦いが日常化して居たのは間違いないからね。



「感謝します、皆さん。確かに私はモノノフであるようです。其れが分かっただけでも、大きな収穫です。」

「そいつは良かった。留守番した甲斐が有ったな。」



留守番したんじゃなくて、せざるを得なかったの間違いだろう息吹。
其れよりも、さっきの『鬼』は一体何者だ?此れまで見た事もなかった『鬼』だったぞ?
全く未知の相手……その上、あの異界の広がり方は異常と言う他はない――間違いなく、此れまでの敵とは在り方が異なるぞ。



「『百鬼隊』の来訪と、何か関係があるのでしょうか……?」

「……かもな。答えは直ぐに知れる。
 皆、御役目ご苦労だった。後の話は『百鬼隊』が到着してからだ――奴等に詳しい話を聞くとしよう。」



其れが上策だろうな――時にホロウ、お前はこの先どうする心算だ?



「……そうですね、如何しましょうか梓?」

「私としては、一緒に戦ってほしいが――其れは強要する事でもない。お前の好きにすればいいさ。」

「ならば、私は彼方達と一緒に戦いましょう梓。
 ……実は、もう1つ思い出した事があります――『鬼』を討て。私が受領した『最優先指令』です。
 暫くは、このウタカタの里で、この指令を遂行したいと思います――許可を願えますか?」



そう言う事ならば是非もない。
何よりもウタカタは万年人手不足なんだ、お前ほどの手練れなら大歓迎だよホロウ――何よりも楽しくなりそうだからな!!



「ありがとう。――それよりも……何か食べ物を頂けますか?腹ペコで死にそうです。」



――ドンガラガッシャーーン!!



お、お前……大人の握り拳大の明太おにぎりを2個完食してもまだ足りなかったのか!?……呆れた胃袋だなマッタク……
取り敢えず、新しい仲間が出来たと言う事を喜んでおくか。

しかし、此れまでとは異なる力を持った『鬼』とは、此れは、間違いなく何かが起きる前兆だろうな……さて、何が起きるのやら。













 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場