Side:梓
暗い闇……何時ものミタマとの邂逅となる夢か?……私も大分慣れたものだが、今回は如何も勝手が違うようだな?――此れ
までに宿したミタマの気配が感じないからな?
さて、何が起きたのか……
『誰か…』
「ん?」
「誰かいないのか……此処は暗くて何も見えない。おまけに寒いぞ。む、其処な人は誰だ?
私の気が聞こえているのか?此れは良い所に来たな。私はオビト。卿は何者だ?」
私か?私の名は梓――このウタカタの地を守るモノノフだ。
「モノノフ……?そうか、卿はモノノフであったか!
すると、まだ『モノノフ』は健在なのだな?安心した――鬼との戦は続いているのか?」
「あぁ、続いている……取り敢えず、オオマガドキを防ぐ事が出来たから、勝っていると言えるかも知れないな。」
「そうか、其れは良かった!私は『モノノフ』に属するオビト――卿と同じモノノフだ。
気付いたら、此の常闇に閉じ込められていた……何が起こったのか、如何にも思い出せぬ。――私は死んだのだろうか?だと
すれば皆は……
卿は外の世界に出られるか?もしそうなら、時より私に教えてくれないか?
その都の世界で何が起こっているかを。此処から出る方法を探したいのだ。」
確約は出来んが、分かったと言っておこう。――この空間で私と会うと言う事は、お前もまた英霊の1人なのだろうからね?口に
は出さないがな。
「そうか!感謝するぞ!
……なんだ、もう帰ってしまうのか?」
「そろそろ、目を覚ます時間のようだからね。」
「そうか……また来てくれるな?待っているぞ。――わが、同胞よ……」
また来るさ。機会が有れば、な。
討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務43
『新たな始まり~討鬼伝・極~』
――トントン。トントン!
ん……もう、朝か?
今空けるから、そんなに扉を叩かないでくれ――寝起きの頭には、此の程度の音でも結構響く物なんだ。特に、今日はオビトと
の会話のせいで、あんまり寝た気がしないのでね。だからちょっとムカついたので……
「ふん!!」
――バッキィィィィィ!!
扉を殴り壊してみました!!
「うわぁ!?」
「なんだ、お前だったのか木綿……おはよう。」
「お、おはようございます。まさか、扉を殴り壊してくるとは思いませんでした……確認するまでもなく、起きてますよね梓さん。」
あぁ、バッチリお目覚めだ……まだ少し眠いがな――流石に、マガツイクサ、クナトサエ2体、そしてゴウエンマの連続討伐任務
は身体に堪えたよ……あの御役目を出した霊山の連中を殺してやりたい程だ。
加えて、夢の中でも話をしていたからね……正直寝た気があまりしないんだ。
「あはは……そ、其れは大変でしたね。まぁ、かなり厳しい任務でしたからね?
其処に追い打ちをかけるようで申し訳ないんですけれど、本部より連絡です――お頭がお呼びですよ?
なんだか、至急の用事があるみたいです――確か、誰かが里を訪ねて来るとかで……外から人が来るなんて珍しいですね。
何かあったんでしょうか?
やっとオオマガドキを防いだのに、また大きな戦になったら嫌ですね……」
「……お前の言う通りだが、そうなった時には任せておけ……私が健在ならば、絶対に大丈夫だ。」
「そうですよね!また、皆で頑張りましょう!!――後で、私にもお話聞かせて下さいね!!それでは、また本部で!!」
あぁ、またな。
さてと、如何言う訳かウタカタの隊長である筈の私には、こう言う類の連絡は一番最後に来る……となると、私以外のモノノフは
全員本部に集合してると言う事になりそうだ。
……隊長が余り遅れると言うのも良くないし、さっさと本部に行くとするか。――謎の空間連結が成されている扉からな。
と言うか、今殴り壊したはずの扉の欠片が全く無くなってて、扉が直ってるってどういう事だ?……ウタカタは不思議が一杯だ。
其れは兎も角本部到着。(所要時間1秒)矢張り、皆到着しているようだな。
「おはようございます梓様。新しい一日の始まりでございます。」
「おはよう那木。さわやかな朝だな。」
「えぇとても。ですが、突然の招集、なにやら事件の匂いでございます。
過日の戦から早三月……私達の知らない所で、何かが起きているのかも知れません――ですが、如何かご安心を。
皆様のお命、この那木がお守りいたします。」
頼りにしているよ那木。『癒』のミタマは、戦場では非常にありがたい物だからね。
それにしても事件の匂いか……確かに、この世界の里は、他の里とあまり関係を持っていないから、私達の知らない所で何か
大きな事件が起きていても、其れが情報として入って来ない事もあるからね?
杞憂は良くないが、一応気を引き締めておくか。
「おはよう梓!今日も元気に頑張るわよ!って、なんか眠そうね……夜更かしのし過ぎなんじゃない?
ちゃんと早寝早起きしないと。
私なんか、ご飯食べたらすぐ寝ちゃうわよ――ま、まだまだ成長しないといけないし。」
「いや、別に何も言ってないが……と言うか、夜更かしじゃなくても寝た気がしないんだよ――この身に宿したミタマやらなにやら
が夢の中で語りかけてくれるからね――身体は休んでも、脳味噌はあまり休んでいない感じだな此れは。」
「そ、其れは大変ね?
と、所で、行き成り招集って、何かあったのかな?」
さてな?大和が来れば分かるだろう。其れまで私達は待機するだけだ。
とは言え、気になるかならないかで言えば、気になるがな――お前は如何思う息吹?
「お、やっと来たか。――さては、アンタも木綿ちゃんに起こされたな?
……嵐みたいに現れたと思ったら、無理矢理布団を剥ぎ取られてな……寝起きに、あの笑顔は眩しすぎるぜ……
っと、そんな事より今回の招集だ……何もないって事はないだろうが、そういや、肝心のお頭が見当たらないな?
まさか、まだ寝てるって事は……まぁ、なんだ。寝かせといてやろう、な?」
「いや、お前じゃあるまいし其れはないだろう……と言うか、寝腐れていたら、其れこそ木綿が叩き起こすはずだ。」
「はは、言えてるぜ!」
「まぁ、世の中には、器用な事をしてる奴もいるがな?」
「天狐が一匹、天狐が二匹……」
速鳥は、立ったまま夢の中だ。きっととっても幸せな夢を見てるんだろうな……立ったまま寝ると言うのも、或いは忍の修業の成
果なのかも知れないな。
「見習いたいもんでもねぇけどな――っかし、朝っぱらから一体何の用だ?」
「富嶽。大分眠そうだな?」
「昨日は、半だの丁だの盛り上がっちまってな?寝不足でしょうがねぇ。」
オイオイ、博打は御法度じゃなかったか?ばれたら大変だぞ。――と言うか、隊長である私に、堂々とそう言う事を言うってのは
如何なんだ?
「賭けは御法度?金は賭けてねぇから大丈夫だろ――賭けんのは装備品だ。負けたら素っ裸だぜ?」
「其れは其れで問題がある気がするが、金銭を賭けてないのならば問題はない……か。」
とは言え程々にな?博打で摩って装備品が無いので鬼と戦えませんなんて言うのは冗談にもならないからね――そう言えば、
皆服が此れまでとは少し違うな?
秋口に入って、衣替えと言う所か――前の白と金のも良かったが、その桜色の上着も良く似合っているじゃないか桜花。
「ありがとう。……時に、こんな朝早くから招集とはな?何か事変でもあったか……」
「さてな?
何もないに越した事はないが、朝早くの緊急招集と言うのは、何かが起きたとしか思えんよ――まぁ、強力な『鬼』が現れたと
言うのならば、速攻で倒しに行くだけだけれどね。」
「まったく、君は頼りになるよ。
……オオマガドキを防いでから、『鬼』の活動は、時折思い出したように大型の『鬼』が出て来る事はあるが、3カ月前と比べれ
ば小康状態のままとも言える――此のまま引き下がれば良いが。」
「簡単にそうなったら、誰も苦労はしないだろうな。」
そうならなかったからこそ、この世界は『鬼』が跋扈する現世の地獄とも言うべき物になってしまったのだからね。……せめて引
き下がらずとも、少し攻勢が弱まると良いのだが、今の小康状態は『嵐の前の静けさ』なのだろうな。
「全員、揃っているな。」
っと、大和が来たか。
全く、早朝から何事だ?――早すぎて未だ眠気が抜けていない……それ以前に、朝飯すら済ませてないんだがな?
「フ……偶にはいい薬だ。
全員に伝えておく事がある。間もなく此処に『百鬼隊』がやって来る。」
「百鬼隊?――其れは何だ?知っているか息吹?」
「……アンタ……本当にモノノフか?」
規格外のモノノフだが、ウタカタの外の事は良く知らないんだ――梓の記憶を探ってみても、百鬼隊に関する事は何一つ分から
ないからね?
……梓は、座学はアレだったから、習っても覚えてない可能性があるんだが。
「では、説明いたしましょう。
『百鬼隊』とは、霊山直属のモノノフ部隊の事でございます――霊山を守護する百の『鬼』討つ鬼、即ち霊山百鬼。
一番隊から七番隊までの小隊で構成され、所属するモノノフは精鋭中の精鋭とか。
本来の役目は霊山守護の為、あまり前線には出ないと聞きます――ただ、オオマガドキ以降、一部の隊は各地を転戦してい
るそうです。」
「その『百鬼隊』の三番隊が、此方に向かっているとの知らせが入った。
目的は分からんが、物見遊山でない事は確かだ――念のため、此れより全員、里で待機。『百鬼隊』の到着を待て。」
了解だ。
精鋭が集うモノノフ部隊がウタカタにか……只事ではなさそうだな確かに――三番隊とやらが、各地を転戦している助っ人的な
存在ならば助かるのだが、此れは来てみるまで分からないか。
「……さて、それでは『百鬼隊』の説明の続きを……」
「「却下だ。」」
「そんな、御無体な……」
桜花と被ったが、却下一択だ。
何よりもお前の説明は長いんだよ那木!話し始めたら止まらずに、下手をしたら百鬼隊の説明が終わった頃にはお天道様が西
の空に傾いていたなんて可能性も否定できないのでね
とは言え、百鬼隊が到着するまでただ待つと言うのも暇だから、里を周ってみるか。里に皆に『百鬼隊』が来ると言う事を伝えて
おいた方が良いだろうしね。
さてと……ん?
「……へっくし、へくし…………何か用……?」
「用と言うか、風邪か樒?」
「お腹出して寝たから……失敗……
生者は風邪を引く……面倒だけど、其れが生者である事の証……ミタマは風邪を引かない…もう、この世の人ではないから…
貴女はどっちが好み……?私は、面倒な方かしら?」
「私も、何方かと言うと面倒な方かな?」
「じゃあ、恨まないで……多分……風邪うつる……」
その確認かオイ!
まぁ、この身体は途轍もなく頑丈に出来ているから、風邪のウィルスを取り込んだ所でどうなる物でもないのだがな。
其れよりも、この里に百鬼隊がやって来るらしい。
「百鬼隊……?良く分からないけれど、沢山のミタマを近くに感じる……とても暖かそうな色のミタマ……。
だけど、宿す人は孤独に震えてる……
凍えそうなミタマ……でも、宿す人は炎の様に燃えている……人それぞれの魂の結び付き……貴女は、どんな結びつきを得る
のかしら――また、賑やかになりそうね。」
あぁ、間違いなく賑やかになるだろうさ――少なくとも、この里に居る以上は退屈とは無縁の生活を送れそうだよ。
さてと次は……何をしてるんだ秋水。
「こんにちは、梓さん。どうかされましたか?」
「いや、この里に百鬼隊とやらが向かっているらしいので、其れを伝えておこうと思ってね――其れよりも、お前は一体何をして
たんだ秋水?」
「僕ですか?僕は少々実験中でして、異界の物質を元に戻す方法を色々と試しているんです?」
「異界の物質を元に?……そんな事が可能なのか?」
「今のところは難しいですね――とは言え、面白い結果も出ています。
例えばこうして、結界子のかけらと、異界の物質を一緒に水の中に沈めておきます。すると僅かですが、異界の物質の表面組
成が変化するんです。
結界子には『鬼』の力を弾く力があります。その力が影響しているのかも知れません。
――色々と、研究のし甲斐がありそうです。
其れより何か僕にご用だったのでは?」
そうだ。さっきも言ったが、百鬼隊がウタカタに向かってきている。
目的は分からんが、只事でないのは確かだからね。其れを伝えておこうと思ったんだ。
「『百鬼隊』が……?
霊山直属の精鋭部隊が、こんな最前線に何の用か……いささか気になりますね……」
「お前もそう思うか?私もだ。
ウタカタの里がオオマガドキを事前に防いだ事は霊山の知る所でも張る筈だ……であるにも拘らず、此処に精鋭部隊が来ると
言うのは解せん――私が居る限り、ウタカタが落ちる事は絶対にないからな。」
「確かに其の通りですね――貴女ほどのモノノフが居れば、どんな『鬼』が現れても、ウタカタが落ちる事は無いでしょう。
…………ともあれ、お知らせありがとうございます。
暫く大人しくする事にします――怪しい行動が過ぎると、捕縛されてしまいそうですから。
ウタカタの人達と違って、霊山の方々は容赦が有りませんからね。捕まって拷問にかけられるのはごめんです。」
安心しろ秋水、そうなったらその時は私が助け出してやる。
お前は怪しいが、しかし大事なウタカタの仲間である事にかわりはないからね――仲間に手出しをする輩は、私が全力で排除し
てやるさ。
「嬉しいお言葉です梓さん。
――さて、僕は只の研究員。『鬼』と異界の研究に戻ります。」
其れが良いだろうな。
素性は兎も角、お前の研究の成果は、ウタカタにとっては嬉しい結果を齎してくれる事もあるからな――陰陽方とやらの思惑とは
袂を分かった秋水ならば、信頼するに値するからね。
次はオヤッさんだが……ん?
鍛冶屋の前に見慣れない女性が……綺麗な水晶のような蒼い髪に白い衣、そして背負った長大な銃――ウタカタに流れて来
た、どこぞの里のモノノフか?
興味深そうにオヤッさんの仕事を眺めているが…
「誰ですか?」
「其れはこっちのセリフだ。お前こそ誰なんだ?」
「緑豊かな里ですね。此処は何処なのでしょうか?」
人の話を聞け!此処はウタカタの里、『鬼』との戦いの最善の里の一つだ。
「そうですか……序に私は誰ですか?」
「いや、知らないよ。」
「わかりませんか、困りました。
重大な記憶の欠落を認めます。現在回復手段の模索中です。貴女は、此処に居住している人ですか?
突然で恐縮ですが、現在記憶喪失中につき、情報提供を必要としています。
お手数ですが、この辺りの地理、歴史、文化をご教示願えませんか?序に食事も頂ければ助かります。腹ペコです。」
……此れはまた、妙な奴が里に来たようだな?
まぁ、其れ位ならば吝かではない――其れに、空きっ腹の人を放っておけるほど、私は薄情じゃない。明太子の握り飯で良けれ
ば分けてやる。
形は歪だが、味は保証するぞ。よろず屋さんが本場の博多から仕入れた明太子だからな。
「ありがとう。貴女はいい人ですね。
此処がどんな場所か教えて貰ってもよろしいですか?」
「其れはさっき言っただろう?
此処はウタカタの里――モノノフの最前線の一つだとな。」
「ウタカタの里……もののふ……?この地の統治機構ですか。其れは良いですね。
情報を得るにはうってつけです。今すぐ組織の代表に会いに行きましょう。案内願えますか?ええと……」
梓だ。リインフォース梓、其れが私の名だ。
「梓……良い響きですね。
では梓、案内願えますか、代表の元に。」
「其れは構わないが、先ずはお前の名を教えてくれないか?名が分からぬのでは、呼びようもないのでね。」
「私の名ですか……?
名前……名前は……そう……確か……ホロウ……。私はホロウです。宜しくお願いします、梓。」
ホロウ……漢字で書くと『虚』……虚ろの名を冠する女性か……如何考えても只者ではないだろう――少なくとも、ウタカタに害
を成す存在ではなさそうだけれどな。
百鬼隊到着以前に、面倒な事案が転がり込んできたと言うのは間違いなさそうだ――如何やら、ウタカタの平穏には終わりの時
が来たようだ。
謎の女性に百鬼隊――何かが起きない筈はないからね。
To Be Continued…
おまけ:本日の禊場
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