Side:梓


「く……あと少しと言う所でタマハミだと?
 此れだけの力を持った『鬼』がタマハミで凶暴化したら、幾ら何でも手が付けられんぞ……もう少しでオオマガドキを防ぐ事が出
 来ると言うのに……!!」

「其れだけじゃねぇ……あの野郎、タマハミで翼が巨大化しやがった――って事は、飛べるんじゃないのかアレ?」



うむ、間違いなく飛ぶ事は出来ると思うぞ息吹?
身体と翼の比率で言うのなら、普通は飛ぶのが難しいかもだが、マフウがあの翼で飛ぶ事が出来るのだから、トコヨノオウがタマ
ハミ時に生える翼で飛ぶ事は充分に可能だと思う。



「やっぱりか……だが、そうなると一気に不利じゃねぇのか?」

「富嶽の言う通りよ!こっちは飛べないのに、相手は飛べるなんて、そんなの空から攻撃し放題じゃない!幾ら何でも、分が悪過
 ぎるわよ!!
 って言うか、本当に飛んだわよあの巨体で!?」

「あの高さでは矢も届きません……ですが、此処で何とかいなければオオマガドキを防ぐ事は――」

「あと一歩と言う所で万事休すか……否、隊長は何か策を思いつかぬか?」



そうだな……確かに空で舞う相手を地上から撃ち落とすのは不可能と言って良いだろう。
だが、此方にも空中戦が出来る戦力が居れば話は別だ――忘れた訳じゃないだろう?私だって空を飛ぶ事は出来るんだぞ?
だから、任せてくれ――タマハミ状態になったトコヨノオウを、地面に引きずりおろしてやる!!












討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務40
『オオマガドキ~トコヨノオウ~』











「奴ほどの『鬼』を地上に引きずりおろすって……いや、君ならば出来そうな気はするんだが、任せて良いのか梓?」

「寧ろ任せろ――アイツは確かに強いのだろうが、終焉を齎す存在に屈する程、私は柔ではない――暫し任せて貰うぞ桜花?」

「了解した――皆も其れで良いな?」

「「「「「了解!!」」」」」



そんな訳で、仲間からのお墨付きをもらっていざ上空のトコヨノオウと一騎打ちだ!!地獄に舞い戻る覚悟は出来ているのだろ
うなぁ終焉の『鬼』よ!
貴様を倒して門を封じ、オオマガドキを防ぐ――其れが、私達の任務だからな!



『!?』

「ふん、何を面白い顔をしているんだ?……若しかして、空を飛んでくる人間が居るとは思っていなかったか?――ならば、思考
 が短絡的と言わざるを得んぞ?」

私の様に空を飛ぶ事が出来る人間だって存在しているんだ――『鬼』が使える力が『鬼』だけの物だとは思わない事だな。
そして、教えてやろう。空は、貴様の領域ではなく、嘗ては夜天の中枢を担っていた、この私の領域だと!!
貴様等『鬼』は地の遥か底にある地獄で死者の魂を喰らって居ろ!現世に生きる人の魂まで喰らいに出て来るな!!

第2ラウンドの空中戦……そしてその先に待っている地上でのファイナルランド――貴様の命はあと2ラウンドだ!!








――――――








No Side


梓とトコヨノオウの空中戦は、梓がトコヨノオウの周囲を飛び回って攻撃……とはならず、何と真っ向からのぶつかり合いで始まっ
た。大型の鬼と、モノノフとは言え人が真っ向からぶつかる等、普通は考えられないだろう。

しかし、其処は規格外の強さを持ち、此れまでのモノノフの常識が一切通用しない梓だ。
左腕の刀を振り回しながら突進してきたトコヨノオウに対して、梓も真正面から立ち向かい、手にした六振りの刀で其れを迎え打
ち、火花を散らす。
元々梓――リインフォースは、攻守速の全てに於いてSSSランクを誇って居た存在だ。
此方の世界に来た際に人の身体になった事で、其の力が多少は落ちたとは言え、其れでも大型の『鬼』と力比べをして負けない
位には強い。(この時点で色々人間ではないのかも知れないが。)


『グゥゥゥゥ……!』


この事に驚いたのは、他の誰でもない、トコヨノオウだろう。
梓が空に舞い上がって来たと言う事だけでも驚きであるのに、今度は自分の攻撃を防いで見せいたのだ完璧に。否、タマハミ前
にも攻撃を止められはしたが、タマハミ状態の今の攻撃力は先程の比ではない。
その攻撃を真正面から受け止める存在が居るとは、信じられる事ではないのだ。

そして、更に此処で梓すら予測して居なかった事態が起こる。


『風が勇気を運んできます。』

『秘剣、燕返し!』

『目に物見よ!』


――ヴォン



梓の風の刀、落花流水、秘剣・燕返しが光を放ったかと思った次の瞬間、梓の分身が現れ、トコヨノオウを攻撃し始めたのだ。
此れは何年か後に、とある里の天才学者が開発する物と同じ物なのだが、ミタマの力を宿した刀が其の力を発揮したのである。


「私の分身?……稲姫と、源義経と、佐々木小次郎――刀に込められた『迅』のミタマの力か!!
 ならば、他の刀も力を秘めている筈……力を貸してくれ、伊達政宗!須佐之男命!!オリヴィエ!!」


『竜は天を翔ける!』

『聞き入れた!』

『この力、貴女に託します。』


それを理解した梓は、残る三振りの刀にも力を貸してくれるように呼びかけ、刀に宿ったミタマの力が其れに応える。
須佐之男命と伊達政宗の『攻』のタマフリの効果で刀の鋭さが増し、オリヴィエの『繰』のタマフリの効果で繰鬼が召喚され、梓と
共に攻撃を開始する。

梓の分身が現れて攻撃した瞬間に、力比べの拮抗は消え、梓が攻め立てる展開となっているが、相手は終焉の鬼だけに簡単に
倒せる相手ではない。


『グガァァァァァァァ!!!』


身体を一捻りして、炎を起こし、更に落雷攻撃を連続で行い、梓の分身と繰鬼を消滅させる。
更に、其れだけではなく右手から巨大なエネルギー弾を梓に向かって射出!そして、其れと同時に左腕を振り回しながら突撃!
この波状攻撃は、並のモノノフならば必殺になるだろう。

しかし、梓は規格外のモノノフだ。


「小賢しい!!」


放たれたエネルギー弾を右手の刀3本で撃ち弾くと、突進してくるトコヨノオウに向かって行き、振り下ろされた左腕を躱し、そして
其れを踏み台にしてトコヨノオウの蟀谷に、シャイニングウィザード一閃!!
後にも先にも、『鬼』にシャイニングウィザードを叩き込んだのは梓だけだろう。


「深き闇に沈め!!おぉぉぉぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁ!!」


其れだけでは済まさず、梓は六爪流の奥義とも言える『バーサーカーバレッジX』でトコヨノオウを斬って斬って斬りまくり、最後に
X字状に切り裂いて大ダメージを与える。
此れを喰らったのが、ミフチやクエヤマだったら、この時点で終わりだっただろう。

だが、其処は流石に終焉の鬼たるトコヨノオウだ。


『ガァァァァァァ!!』

「なに?」


バーサーカーバレッジX後の僅かな隙を逃さずに、梓に左腕での一撃を叩き込み、更に落雷攻撃で追撃し地上に叩き落す!!
如何に梓が頑丈であっても、この攻撃のダメージは無効に出来ず、地上に向かって叩き落される……無論態勢は立て直したが
落下を止める事は出来そうにない。



「させるか!!」

「飛べよ、隊長!!」



だが、此処で地上に居た桜花が太刀の腹で、息吹が槍の柄で梓を受け止め、そして其れを振り抜き、その勢いで梓を再び空へ
押し上げる!
加えて其れだけでなく、桜花は『天岩戸』を発動して梓を無敵状態にし、息吹は『連昇』で上空のトコヨノオウを攻撃するおまけ付
きだ。

そしてその効果は抜群だ。

息吹の連昇を受けたトコヨノオウは一瞬動きを止めてしまったのだ。
時間にすれは1秒程度だろうが、梓にとっては其の1秒が好機に他ならないのである。

桜花と息吹に打ち上げられた梓は、一瞬だけ動きが止まったトコヨノオウに対して、以前になのはに対して行ったチェーン型のバ
インドを放つと、其れで身体の自由を奪い、空から叩き落す為の一撃を放つ。


「空は人の、現世を生きる者の物だ!
 地獄の『鬼』が其れを穢すな!!穿てブルーティガードルヒ!!


トコヨノオウの周囲に配置された無数のブラッディダガーが放たれ、トコヨノオウの身体――とりわけタマハミ時に現れた翼に集中
的に突き刺さり、突き刺さった瞬間に爆発し、トコヨノオウの翼は木っ端微塵となり、トコヨノオウは地上に強制送還だ。


そして、此れを待っていたのが地上で待つ桜花達だ。


「流石だな梓……花と散れ!橘花繚乱!!」

「そらよ!逝っちまいな!!」

「此れで決めるわ!!」

「ハッ!隙だらけだぜ!!」

「御覚悟!」

「自分は自分の任を果たす!」


トコヨノオウが地面に叩きつけられると同時に、鬼千切りでの連続攻撃!
此れでトコヨノオウの破壊可能部位は全て破壊され、攻撃能力は大幅にダウンしたのは間違いない。――しかし、トコヨノオウと
て、そう簡単にやられる相手ではない。


『グオォォォォォォォォォォォォ!!!』


巨大なエネルギー球を作り出し、其れを放たんとするが……



「破れかぶれか……だが、そんな暴挙を私が許すと思っているのか?」


その前に梓が降り立ち、ハイキックでトコヨノオウが作り出したエネルギー球をどこか遠くへと蹴り飛ばす。
そして――


――ギュオォォォン!!


次の瞬間、桜花達から発生した光の帯が、梓に集中する。
そして其れは、絆の力だと言わんかのように、梓に力を送り込んでくる――其れこそ、トコヨノオウですら一撃で葬る事が出来る
程の力がだ。


「此れは……」

「これが、私達の絆の証だよ桜花。
 だから此れで終わらせる!喰らえトコヨノオウ!此れが、私達の、ウタカタのモノノフの結束の力だ!!鬼千切り・極!!


紡がれた絆の証がその力を発揮し、梓が究極の鬼千切りである『鬼千切り・極』を発動し、トコヨノオウの本体に叩き込む!!
そして、この究極の一撃は、トコヨノオウに無視できないダメージを与えていた……其して、其れが決定打となってトコヨノオウは
沈黙!


――バシュン!

『第六天魔王が力を貸そう。』

――ミタマ『織田信長』を手に入れた。



それと同時に、新たなミタマが梓に宿り、最終決戦は終幕となったのだった。








――――――








Side:梓


究極の鬼千切り『鬼千切り・極』を叩き込んでやったんだ、幾ら相手が終焉の『鬼』であっても致命傷は与えられた筈だ……と言う
か、此れでダメだったら、其れこそ打つ手はないぞ?
そろそろ行動限界も近いからな……


――ゴゴゴゴゴ


……な、此れは――空に空いた穴が広がっている!?
トコヨノオウは沈黙したままだから打ち倒したのだろうが、まさか間に合わなかったのか?

く……此れは……何と言う圧力だ……此れが、オオマガドキの始まりを告げる力だとでも言うのか?だとしたら、オオマガドキの
本体はドレだけの力を……!!
皆の力を持ってしてトコヨノオウを打ち倒したのに、オオマガドキを防ぐ事は出来ないのか?


――コロン……


ん?胸元から何か……此れは、橘花から預かった結界子か!!


『貴女なら、きっとムスべる。』



橘花?
……そうだな、そうだったな!!私なら、私ならやれる!数多のミタマを結ぶ事が出来る!!だから、今一度力を貸してくれ皆!
オオマガドキを喰い止める為に!!


――ギュオォォォォォォン!!

――カッ!!




……此れは…星空?
さっきまでの瘴気をまるで感じない……巧く行ったのか?オオマガドキを、防ぐ事が、出来たのか?



「まったく君には驚かされるな梓。
 八百万のミタマを結び、『鬼』と言う『鬼』を祓えり……か。――君が、ムスヒの担い手だったのだな。」

「自覚はなかったが、如何やらそうだったみたいだ……マッタク、世の中何が有るか分からんな桜花?」

「君の言う通りだ梓――だからこそ人生は面白い、だろう?」



お前がそんな事を言うとは予想外だったが、確かに其の通りだな桜花。
何が有るか分からないから人生は楽しいんだ――私は、其れをウタカタの里で教えて貰ったよ。人生の楽しみ、其れを知らなか
ったら、この世界での生活も空虚な物になって居ただろうからね。



「さぁ、帰ろう。待っている者達の居る所へ。」

「そうだな。帰ろう、ウタカタの里へ!私達の居来るべき場所に!!」



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・・・



そんなこんなでウタカタに帰還だ。
里の入り口では、大和と橘花が待って居たか……里の頭と神垣ノ巫女の出迎えとは、何とも豪華だが、私達は誰一人欠ける事
なく戻って来たぞ大和!!


「良くぞ戻って来た!よくやったな梓。」


此れが有言実行と言う奴だ。オオマガドキは防いだぞ。
此れも皆の力があってこそだ――私達の絆の力がオオマガドキを防いだんだ。橘花の言葉も、結界子を通して伝わって来たから
な……あの一言は、本当に嬉しかったよ橘花。



「お役に立てたのならば何よりです……おかえりなさい。」

「……ただいま。」

『鬼』との戦いは此れで終わった訳ではないが、オオマガドキを防ぐ事が出来たのは大きいだろうな。
今は、オオマガドキを防ぐ事が出来た事を喜ぶべきだ――まだ『鬼』は存在しているが、私は守る事が出来たんだな、今の私が
生きる場所を。

この暖かい里を、守れてよかった。









 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場