Side:桜花


鬼襲撃の報を受けて、梓と共に其れを撃滅せんと打って出たのだが…果たして私は必要だったのだろうかと思ってしまうな、眼前のこの光景は。



「深き闇に沈め……」


――キン

――ズバシャァァァァァァァァァァァアァァァァ!!!




超高速の居合を一閃したと思ったら、次の瞬間には10体以上の餓鬼が斬り殺されていたのだからね?
私にはそんな事は出来ないから、やったのは消去法で梓という事になるんだが……マッタク、君は本当に霊山が寄越した『新米』なのか梓?
少なくとも君からは、新米とは思えない程の雰囲気を纏っている……君は一体何者なんだ?



「如何した桜花、何か考え事か?この程度の雑魚ならば、少しばかり考え事をしていた所でやられる事はないだろうが、油断は大敵だろう?」

「あぁ、スマナイ。君が新米とは思えない程に強いので、少し驚いてしまってね。
 あの時も凄いと思ったが、今日はあの時以上なんじゃないか?
 ――否、此方の方が君の本来の力か。前の時は、着任直後で長旅の疲労が残った中での任務だったからな。」

「あぁ、そう言えばそうだったな。
 一晩ぐっすり寝て疲労も抜けたのでね……今日の私は、昨日よりも可成り強いぞ?」



ふ、其れは頼もしいな。
では、残りもさっさと片付けてしまおう梓。異界に長居は無用だからね。












討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務3
『新たな仲間は問題児二人組?』











Side:梓(リインフォース。以後『梓』と表記)


さてと、鬼の襲撃があったとの事で、桜花と共に出撃したが、あの程度ではまるで相手にならん上に、経験値の足しにもならん……里の人々を
守るためとはいえ、あそこまで歯応えのない戦いをしたのは初めてだったかもしれないな。



「私的には、君の活躍は目を見張るものがあったがな。
 と言うかだ、後にも先にも、小型の鬼とは言え、鬼に踵落としを炸裂させたモノノフは君だけだろうな梓――マッタク大した奴だよ君はね。」

「咄嗟にやったら倒せてしまっただけだ。
 と言うか、鬼を倒すには専用の武器が必要だった筈なのだが、何で普通の踵落としで倒せたのか、私はそっちの方が疑問だよ桜花。」

「小型の鬼、其れも雑魚中の雑魚である餓鬼だったからじゃないか?
 鬼の襲撃を受けた里の子供が、襲って来た餓鬼に対して石を投げ、其れが当たって怯んだ所を何とか逃げ果せたという話を聞いた事もある。
 大型の鬼は無理だろうが、小型の鬼ならば、我等モノノフの武器でなくともある程度の打撃を与える事が可能なのかも知れない。
 と言うか、踵落としの衝撃で地面が凹んだのを見る限り、相当な威力だったのは間違いないだろうからね?……アレなら餓鬼も滅されるさ。」



……咄嗟の事で手加減が出来なかったからね。
魔法が使えない以外は、全盛期の力を取り戻してるとは言え、只の踵落としの衝撃で、直径1メートル近いクレーターが出来るとは思わなかった
からな。しかも、硬い石の地面にだ。



「君は剣術だけでなく、体術の方も強い様だな。
 と言うか、ふと思ったんだが、若しかしたら君は腕や足を振るうだけで衝撃波や鎌鼬を発生させる事くらい出来るんじゃないか?」

「まさかそんな……烈風拳!!



――バシュン!!



「……出来たな。冗談の心算だったんだけれど……」

「出来たね……私だって驚きだよ。」

まぁ、鬼には有効かもしれないが、同じ事は刀でも出来るから使う事はないだろうな――と、こんな雑談をしている内に、里に到着したらしい。
これで、任務達成だな桜花。



「ふふ、『里に帰るまでが任務だ』と言ったから、其の通りだな。
 お頭への報告は私がしておくから、君はゆっくりしていると良い梓。任務達成で報酬も出るから、ミタマの力を引き出して貰ったりしたらどうだ?
 たたらに防具を新調して貰うのも良いんじゃないか?」

「そうだな、そうしてみるよ。」

私の装備は、嘗ての戦闘装備のままだからね。
服は兎も角、グローブと靴はたたらに同じデザインで作り直して貰った方が良いかもしれない。対鬼用の防具を纏った拳や蹴りならば、大型の鬼
に対しても効果があるかも知れないからね。

そうと決まれば善は急げだな。

「オヤッさん。」

「オメェか……任務から戻ったばかりでワリィんだが、ちいと野暮用を頼まれてくれねぇか?」

「野暮用?」

「あぁ、ちと『鉄鉱石』を切らしちまってな……鍛冶には欠かせねぇ素材だ。外で取って来てくれりゃあ、助かる。」



鉄鉱石か、其れはグッドタイミングだったオヤッさん。
さっき任務から帰って来る途中で何個か拾ったよ。桜花も『此れは、鍛冶には欠かせないモノだから、見つけたら拾っておくと良い』と言ってた。
取り敢えず10個ほどだが、此れだけあれば足りるだろうか?



「おぉ、充分だ。ありがとうよ、若ぇの。
 所でお前さん、俺に何か用があったんだろ?……こっちの頼みを先に言っちまったけどよ。」

「あぁ、私のグローブと靴を、対鬼用の装備で作ってくれないか?
 服の方は充分に防具としての機能を果たしてるから良いとして、グローブと靴を対鬼用の装備にしておけば、咄嗟の体術で大型の鬼にも有効
 打を与える事が出来るかも知れないからね。」

「ほう?そいつは、確かにそうだな。
 オメェさんの使ってる打ち刀は、他の武器と違って居合を使う時じゃ無ければ片手は空くから、剣術と体術を併せて戦う事も出来るってぇ訳だ。
 よし、ワシに任せときな。
 改めて作る必要もねぇ、今お前さんが使ってる奴を打ち直した方が早いし、使い慣れた物の方がオメェだって身体に馴染むだろ。」



其れはそうだな……では頼む。
あ、でも靴が無いと里を周る事が出来ないな……まぁ出来るのを待って居れば良いか。打ち直しなら、大して時間もかからないだろうし、オヤッさ
んの仕事を、間近で見るのも楽しいしな。



「梓、たたらの所に居たのか。」

「桜花、報告は終わったのか?」

「恙無くな。
 君の活躍を報告したら、お頭も驚いていたぞ?『たった1人の増援だったが、俺達は途轍もないアタリを引き当てた様だ』と言ってな。
 其れについては、私も同感だが……其れは兎も角、着任したばかりだが、此処での暮らしはやっていけそうか梓?」



其れについては問題ないよ桜花。
此処は本当にいい里だ。里に来て二日目だが、それにも拘わらずスッカリ里の魅力に取りつかれてしまったよ。
風は澄んで、水も清らかで、此処に住んでいる人々は暖かい――オヤッさんや樒の様に、個性的な人もいるが、其れもこの里の良い所だしな。



「ならば良かった。着任して貰った以上は、この里を好きになって貰わねばと思っていたんだ。
 私には妹が居てね、共にこの里で暮らしている――それだけに、この里を『鬼』に蹂躙させるわけにはいかない。
 幾ら高い実力を有しているとは言え、まだ経験の浅い君を、最前線で戦わせてスマナイと思っている――ただ、そうする以外に、私達には生き
 残る術がない。
 どこも人手不足でな。八年前の戦で、多くの仲間を失ってから……君には期待している。里の人々をその手で守ってやってくれ。」

「言われずともその心算だよ桜花。もっと言うなら、お前の妹もこの里に居るなら尚更だ。
 妹君に危険が及ばないようにするのは当然だが、戦場でお前が死なないようにしなくてはだ……お前が死んだら、妹君は悲しむだろうしね。」

「そうかも知れないが、あの子を守るためならば、この命は惜しくない。咲いて散るのが、花の誉れだ。
 っとそうだ、言い忘れていたが……此れから私は別の任務で、暫く里を留守にする。その間、他の者と任務に当たってほしい。
 此れが問題児達なんだが……まぁ、君なら大丈夫だろう。――よろしく頼む。」



別の任務ならば仕方ないし、その間に別の仲間と言うのも納得だが……其れが問題児と来たか。
何とも一筋縄では行かない連中と一緒に任務をこなす事になりそうだが、何とかななるだろう。少なくとも、私を救ってくれた小さな勇者の片割れ
の栗毛の少女と一緒に事に当たるよりは楽そうだ。

あの子も悪い子ではないんだが、如何せん全力全壊過ぎて、一度戦い始めると本気で星を砕きかねない一撃をぶっ放してくれるからね……其
れと比べたら、多少の問題児程度大した事はないさ。
だから、安心してお前はお前のすべき事をしてくれ桜花。私は私で、頑張ってみるから。



「そう言ってくれると助かる。――私の留守中、君に任せた。」

「任された。安心して行って来てくれ。」

「何でぇ、随分と仲が良いじゃねぇかオメェ等。
 まだ出会ったばかりだってのに……モノノフ同士、何か通じ合うもんでもあったのか?――ま、仲が良いのは良い事だけどよぉ?お前さん達が
 揃うと『華』もあるからなぁ?」



オヤッさん。……まぁ、確かに出会ったばかりかも知れないが、桜花は思ったよりも人当たりが良くてね。
加えて、私の知り合いに雰囲気が似ているから、その辺もあって仲が深まっているのかも知れない――こう言っては何だが、既に背中を任せて
も良いと思えるくらいには信頼しているからな。



「其れは光栄だが、私もだ梓。
 君ならば、安心して背中を預ける事が出来るよ。」

「か~~~、てぇしたもんだなぁオイ!
 だが、背中を任せられる仲間ってのは早々居るもんじゃねぇ……オメェさん達も、互いを大事にしな。――さて、ちょいと説教染みちまったが、出
 来たぜ梓。コイツで如何だ?」



出来たのか!?恐るべき仕事の速さだな……流石はオヤッさんだ。
見た目には大きく変わってはいないが……此れは、前よりも肌に馴染む。グローブも靴も、まるで自分の身体の一部であるかのような装着感に
加え、其処に宿る大きな力を感じる――此れならば、大型の鬼に対しても体術で有効打がとれそうだ。
見事な仕事に、感謝するよオヤッさん。



「此れくれぇは朝飯前よ。
 其れに、鍛冶屋が中途半端じゃあ、オメェさん達モノノフだって力を発揮することが出来ねぇだろ?ワシは、戦場に出れない代わりに、せめてオ
 メェさん達の武器や防具を鍛えてやるだけだ。」



だとしても、此れは見事だよ。おかげで私の戦いの幅は広がったからな。
何よりもちょうどいいタイミングだ……桜花が別任務で暫く里を離れるという事は、その間に熟さねばならない任務があるという事だからね。
鬼の襲撃を知らせる警鐘は鳴って居ないが、里に緊急の影響がないだけで、鬼が跋扈する領域での討伐任務は掃いて捨てる程だろうからな。

折角オヤッさんが作ってくれたんだ、此れの力を試すのも悪くないな。



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という訳で、新たな任務を受注して、新たな仲間とは現地で合流したのだが……成程、此れは確かに問題児の様だな桜花。



「よ、アンタが噂の新人か?成程いい顔をしてるな……此れは負けてられないな初穂?」

「負けてません!
 私の方が先輩で、ずっとお姉さんなんだから。」

「はは、まぁ、仲良く行こう。」



長身で金髪の男と、ポニーテールの少女……どちらも一筋縄では行かない相手だと言うのは良く分かる……桜花が『問題児』と言うのも納得だ。
だが、この少女が私よりも年上とは思えないのだが……まさか、見た目以上に歳をくっているとでも言うのだろうか?だとしたら恐ろしいな。

まぁ、其れは其れとして……この度、ウタカタの里に着任したリインフォース梓だ。梓と呼んでくれ。



「梓か……良い名前だねぇ?
 俺は息吹、そんでもってこっちは初穂だ。さて、お子様と一緒に行きますか。」

「ふん、勝手に言ってなさい。
 ちょっと君、私の方が先輩なんだからね?その辺をキッチリ弁えるように。」

「やれやれ……初穂は確かにアンタの先輩だが、ここに来てからは日が浅いから、どっちかって言うと同期みたいなもんだ。
 とは言え、お子様は競争相手の出現に燃えてるからな……気を付けろよ?」



了解したよ息吹。
では、役目を果たそうとしようか?……相手は餓鬼と鬼火の集団だ、恐れる相手ではないからな。纏めて、深き闇に沈むがいい!!



――ズバァァァァァァァァ!!!



「一瞬で間合いを詰めての居合で……いいねぇ、コイツは楽できそうだ。」

「ふ、ふん!私だって其れくらい出来るわ……見てなさい、私だって強いんだから。」



誰も、君が弱いとは言ってないよ初穂。
現実に、私の討ち漏らしを見事に掃討してくれた訳だからね。……少々粗削りな所はあるが、君は強いぞ初穂。私が保証する、折り紙付きでな。



「そ、そう?私も結構やるでしょう?」

「あぁ、見事なものだ。
 其れに息吹の槍捌きも見事なものだ……まるで負ける気がしない――このまま一気に制圧するぞ、息吹、初穂!!」

「「了解!!」」



っと、此れはまたわんさか出て来たな?……大掃除と行くか!!
深き闇に沈め……そして知れ、神をも超えた力と言うモノをな……散れ、人に仇なす敵よ!!!



――バキィィィィィィィィン!!



「ひゅ~~、コイツは驚きだ。
 如何に小型の鬼が相手とは言え、此処まで簡単にやっちまうとはね……噂以上の腕だなアンタ、次も期待してるぜ相棒!!」



一緒に戦って即相棒とは、悪くないな息吹。
お前が私を相棒と言ってくれるのならば、私にとってもお前は相棒だ……此れから先、任務を共にする事も多いだろうから宜しくな、息吹、初穂。



「ま、まぁ、考えといてあげるわ。」

「どうにも素直じゃないね、このお子様は……」



確かに。
以前に主はやてが仰っていた『ツンデレ』とは、初穂みたいな子の事を言うんだろうな……いや、良く分からないが。…取り敢えず、里に戻るか。



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という訳で戻ってきました。矢張り里は落ち着くな。



「お帰り梓。任務ご苦労だったな。」



桜花、戻って来てたのか……いや、大した事は無かったよ、初穂と息吹が良くやってくれたからね。



「ならば良かった。其方の首尾は如何だ?」

「上々さ、頼もしい仲間が増えたからな。――なぁ、初穂?」

「一々、私に振らないでよ。……す、少しは戦力になっていたかもね。」

「本当に少しか?自分で言うのもなんだが、梓の実力は私と同等かそれ以上だ……それで、少しなのか初穂?」

「む~~~………桜花の意地悪!」



はは、仲が良いな。
初穂としては少し不満があるかも知れないが、こう言った軽口は心を許した相手でなくて叩くことが出来ないモノだから、その辺を考えてくれ。



「ふふ、その様子なら心配なさそうだ。
 君には苦労をかけたな、梓。問題児二人の相手は大変だっただろう?」

「俺まで、問題児扱いかよ。」



なに、如何という事は無かったよ桜花。
いざいっしょに戦ってみると、息吹も初穂も個性が強いが、さして『問題児』と言うモノでもなかったからね?……と言うか、この2人が問題児なの
なら、私の世界の騎士達は『大問題児』であり、栗毛の小さな勇者は『超問題児』だからな。



「問題がないのならばいいさ。
 一人で戦っても『鬼』には勝てない。仲間を信じ、頼る事を覚えて欲しい――その意味でも、暫くは2人と行動を共にすると良い。」

「そう来たか。だが、アンタが言うなら異論はないぜ桜花――改めて、宜しくな相棒。」

「もう、しょうがないなぁ……でも仕方ないか。改めて、宜しくね梓。」



此方こそ宜しくな、息吹、初穂。
桜花とは違うが、頼れる仲間が増えたな――マッタク持って喜ばしい事だ。……鬼を討つ仲間は多い方が良いからね!!











 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場


Side:梓


さて、任務での穢れを落とす為に禊場にやって来たのだが……



「き、君は……その、脱いでも凄いんだな?」

「其れは、私のセリフだ桜花。なんだ其の2つのメロンは。

そう言う訳で、2人で禊をした。


――スキル『心技体・大』が発動した。


加えて何やら力が増したようだ……次の任務も此れで盤石だな!!