Side:梓


まさかお前がミタマになっているとは、予想外も良い所だ――なぜお前がミタマになっているんだ、ベルカの聖王、オリヴィエ・ゼーゲ
ブレヒトよ?
私が知る限り、聖王が鬼に喰われたと言う記録は残っていない筈だし、あの世界は『鬼』と言う存在は居なかった筈だろう?



『貴女と同じです。貴女とは少々事情が異なりますがね闇の書の管制人格――今は梓でしたか。
 ゆりかごを起動し、己の命が尽きるまで戦った私は、ゆりかごの玉座で誰にも見とられる事なく生涯を終えたのですが……輪廻の
 輪に加わる刹那に鬼に喰われたのです。』


「それで、この世界に来たと言う事か……合縁奇縁と言う言葉があるが、正にその通りだ――まさか、この世界でオリヴィエと再会す
 とは夢にも思っていなかったかな。」

とは言え、お前が力を貸してくれるのならば有り難い。
私が戦ってきた相手で最強を上げるとするならば、お前と、私を救ってくれた小さき勇者だからな。――改めて宜しく頼むオリヴィエ。



『はい、此方こそ。』



マッタク妙なものだ。
私もオリヴィエも、元の世界では世界を終わらせる力を持っていたのに、其れがこっちの世界では、世界を終わらせる力を持った鬼
から人々を守っているのだからな。



『確かに奇妙ですね。
 でも、オオマガドキが訪れるまで、もう時間はない――この世界を、如何か守って下さい梓。』


「言われずともその心算だ。」

私がこの世界に来たのは、『鬼』を打ち倒して、人々に平穏を齎す為だろうからな――ならば、その務めを果たすまでの事だ!!












討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務35
『災禍の足音~其の壱~』











とは言え、モノノフとしての任務をもなさなければならないな――大将の鬼でなくとも、鬼が出たっていう報を聞いたら黙ってられない
物だからね。
だから、何か御役目がないかと思って本部に来たんだけど……如何した、大和?何かあったのか?



「お前か。
 残る『鬼』は1体……何としてでも見つけ出さねばならん――各地に物見を放っている。お前も引き続き探索に当たれ。
 オオマガドキが起きる前に『塔』への道をこじ開けるぞ!」

「成程な……了解した。」

クナトサエは撃破したが、もう1体の結界を張った鬼の行方は未だ不明だからな……御役目を熟しつつ、探索していくのがベターな
方法と言えるだろうね。

ならば早速だが……新たな御役目が結構出ているな?オオマガドキが近いからだろうか?まぁ、影響がゼロとは言えんだろうな。
カゼキリとアマキリを討伐する御役目は、既に息吹と富嶽と速鳥が受けてしまっていたか――なら、私はこのゴウエンマの討伐任務
を受注しようかな。

力を貸して貰うぞ、桜花、初穂、那木。



「分かった。行こう、我等鬼を討つ鬼とならんだな。」

「君となら、何処まででも行けるわ!」

「いざ、参りましょう。」



マッタク持って頼りになる物だな。
ウタカタの里の仲間となら、どんな奴が相手として現れても負ける気が全くしない――それが、例え指揮官級の『鬼』であったとして
もだ。
場所は『戦』の領域だ――相手が相手だけに、気を引き締めて行くぞ。



「無論、全員その心算だ梓。」

「そうだったな……では、改めて行くぞ!『戦』の領域に現れたゴウエンマを討つ!!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



という訳で『戦』の領域なんだが……塔が組み立てられている領域と言う事だけあって瘴気が濃いな?あまり長時間いるのは、モノ
ノフとは言え危険か。
其れを考えると、行き成り出会えたのは僥倖と言う所かな、ゴウエンマ!!



「相変わらず凄まじい力を感じさせる鬼だ……瘴気の影響で力を増しているようにも見えるぞ?」

「既に倒した事のある鬼とは言え、油断禁物でございます。」

「そうね。……でもアイツ、なんか様子おかしくない?」

「そうか?特にオカシイ所は無いように見えるが……」


――ギュィィィィィィィン……!


『ガァァァァァァァァァァァァァァァ!!』




馬鹿な、行き成りタマハミ化しただと!?
まさか、瘴気の影響で、危機的状況になるまで抑えられている『鬼』本来の凶暴性が、最初から解放されているとでも言うのか?
……だとしたら、厄介だな。
特にゴウエンマは、タマハミで四つん這い状態となると、剛力に機動力が加わり可成り強力な『鬼』となる上に、攻撃方法も通常時よ
リ多彩になるからね……だが、負けはせん!



「行き成りタマハミ状態になるとは……!」

「厄介だが、逆に言うのならば最初から内部生命力が剥き出しになっている状態とも言える。部位破壊をせずとも生命力を削る事が
 出来ると言う事にもなる。」

「って事は、部位破壊を狙わずに、何処でも思いっきりやっちゃって良いって事よね!」

「極論ですがそうでございますね。――参りましょう!」



言うが早いか、那木が呪矢を使い、ゴウエンマの全ての部位に矢を放っての先制攻撃!毎度思うんだが、アレだけの量の矢を一体
どうやって一度に別々の方向に飛ばしているのだろうか?
……まさかとは思うが、誘導魔力弾の類ではないよな?此れもまた、モノノフが持つ力なのかも知れないな。

更に桜花が、斬心を発動して斬って斬って斬りまくって、いい加減斬った所で斬心開放!何度見ても見事な剣技だ。
で、私と初穂は、ゴウエンマの周囲を飛び回って(私は魔法で、初穂は飛びかかり攻撃を駆使して。)攻撃を加えゴウエンマの生命
力を削る。

心底鬱陶しそうだが、その気持ちは分かるぞゴウエンマ?己の周りを飛び回る、ハエやアブは鬱陶しい事この上ないからな。
だが、私と初穂は、アブやハエのように生易しい存在ではない――例えるならば、刺した相手を死に至らしめる事もあるスズメバチと
と言った所かな!



『ガァァァァァァァァ!!』


――ドガァァァァァァン!!



と、此処で叩きつけ大爆発か。
私は即時離脱したし、桜花も天岩戸を発動し、那木はそもそも射程圏外だから大丈夫だとして、初穂は無事か?真面に喰らってしま
ったように見えたが……



「あ、危なかった~~~!あと一瞬、空蝉を発動するのが遅れていたら、丸焼きになる所だったわよ!」

「あのギリギリで空蝉を発動するとは、中々見事だよ初穂。」

お陰で全員無事だが、如何やらゴウエンマは此方の攻撃が中断されたのを見て攻勢に出るつもりのようだな?
口元に集まって居る熱エネルギー……タマハミ状態での最強技である火炎放射を放つ心算か。確かにアレならば、私達を焼き尽く
す事が出来るかも知れないからな。
だが、そうはさせん!


――チャキン!

――バッ!!




「梓?刀を全て納刀して、両手を広げて何をしている?アレを喰らったら幾ら君でも只では済まないぞ!……って、此れは魔力か?」

「ご名答だ桜花。
 納刀したのは、納刀せねばこの技は使えないからだ。――喰らえゴウエンマ!響け終焉の笛、ラグナロク!!」

広げた両手を前に突き出して、魔力砲発射だ!
お前の火炎放射と激突したが、ラグナロクは古代ベルカ式の魔法の中でも最強の純粋魔力砲撃故、お前の火炎放射に押し負ける
程柔ではない!私が使っているのならば尚更だ!
このまま消え去れ!!


――ドゴォォォォン!!


「すご……ゴウエンマが跡形もなく吹っ飛んじゃった……!」

「正に、消滅でございます…!」

「君には限界と言う物はないのか?一体何処まで強くなる心算だ梓?」



可能な限り何処までも強くなるさ。強くなければ、『鬼』が跋扈するこの世界で生きる事は出来ないだろうからね。
ともあれ、此れで目的は果たしたんだが、少し寄り道をして行くか――塔が作られている現場に。結界の力で中に入る事は出来ない
だろうが、外から塔を見る事くらいは出来るだろうからな。



「そうだな……どれ程の物か、確認しておいた方が良いかも知れない。」

「なら決まりだな。」

という訳で、『戦』の領域の最深部近くに来たのだが……矢張り結界の影響でこれ以上進む事は出来ないか。試しに触ってみたら、
オヤッさん製のグローブの上からでも手に火傷を負ってしまったから、無理矢理突入するのは自殺行為か。
だが、外からでも件の塔は見て取れた。

「想像以上に巨大だな此れは……」

「此れで、まだ完成していないと言うのだから、完成した暁にはどれだけの物になるのか。そして其処から呼び出される『鬼』は果た
 してドレだけの力を持っているのか、想像も出来ないな。」

「確かなのは、あそこから現れるであろう『鬼』を討たねば、人の世に未来はないと言う事でございます。」

「絶対に、オオマガドキの『鬼』を倒さないとよね。」



そうだ、必ず倒さねばな。
塔の完成度は恐らく8割5分と言った所だろうから、もう時間はないな――早急に残る結界の『鬼』を見つけ出して、其れを討たねば
だな。








――――――








Side:橘花


う……く……はぁ、はぁ……此れは、少しずつ、でも確実に干渉が増している……梓さんの結界もあるのに、どうして……



「少し休まれてはいかがですか、橘花さん?」

「……!秋水さん……」

「オオマガドキの扉が、開きかけているようですね。
 梓さんの結界があってもなお、貴女が張った結界にかかる負担も増しているのではないですか?」



何故……分かるのですか……?



「貴女の力は本質的に『鬼』の対極にある力。
 一方の力が強くなれば、他方が弱まるのは必然と言う物です……梓さんが結界を重ね掛けしていたとしてもです。
 この里は扉に近すぎる……貴女の力との干渉は避けられないでしょう――北の地でも、真っ先に巫女が倒れました。」

「…………」

「あまり無理はなさらない事です。でないと……本当に、死んでしまいますよ。」

「…………!」

「梓さんの結界が有れば、貴女が少しくらい力を使う事を止めても大丈夫ではないかと思います。あくまで推測ですがね。
 如何か、御自愛を――では、僕は此れで……」



私が……死ぬ……?
…………おかしい……そんな筈は無い――姉さま、梓さん……どうして、私は……こんなに死ぬのが恐ろしいのですか……?








――――――








Side:梓


取り敢えず出ていた御役目を全て消化したんだが、結界の『鬼』を見つけるには至らなかったか……本音を言うのならば見つけるま
で探したかったのだが、日がとっぷりと落ちた上に、大和から『今日はもう休め。』と言われては仕方がないな。
風呂に入って、風呂上りに一杯頂いて眠りについた訳だが……



『始まりは何だったのか。』(源頼光)

『今となっては、もう分らぬ。』(平将門)



もう何度も見たミタマとの夢での邂逅か――一体何なんだ今度は?



『誰かが扉を開き、奴等がやって来た。』(平清盛)

『戦の最中に現れ、ワシの兵を喰い散らかして。』(武田信玄)

『時の因果を解き、過去も現在も失わせて。』(安倍晴明)

『ある時、私達は気付いた。』(卑弥呼)

『我等が『鬼』に食われる度に、歴史が少しずつ歪んでいく事に。』(武蔵坊弁慶)

『少しずつ、時の因果が解けていく事に。』(天草四郎時貞)

『矛盾の積み重ねが、やがてオオマガドキになる事に』(卑弥呼)

『ワシらは考えた。』(武田信玄)

『あぁ、考えた。』(平清盛)

『我等を人の手に取り戻し、時の因果を結び直す担い手が居ないかと。』(平将門)

『百万の過去を、未来に受け渡す者が居ないかと。』(安倍晴明)



此れは、何やらいろいろな事が分かって来たな?
お前達の言いぶりだと、何処かの誰かがオオマガドキの扉を開いた事で『鬼』が現れ、お前達を喰らう事で歴史を歪ませ、その歪み
を積み重ねる事でオオマガドキが起きると言う事か。
そして、それに対抗すべくお前達を取り戻す者が必要だった――それが、私だったと言う事か。



『そう。だから、貴女を選んだの。』(卑弥呼)



ならば、私を選んでくれたと言う事に応えねばな。
夜天の魔導書としての役目を終え、涅槃に渡るだけだったのに、お前達のお陰でこの世界で新たな生と役目を得る事が出来たのだ
からね。



――と、朝か。
夢の中でミタマと邂逅して話もしていると言うのに、確りと体の疲労が取れていると言うのだから、妙なものだ。
其れは兎も角として、安心しろミタマと化した英雄達よ――絶対にオオマガドキは防いで見せる!壊す事しか出来なかった私が、こ
の世界では護る事が出来るのだからね。

結界の『鬼』を見つけ出して討ち、そしてオオマガドキの『鬼』も討つ!――それが、私のこの世界での成すべき事だからな。











 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場



さて、任務の前に禊は基本だ。任務の後にも禊は基本だが……


『きゅい~~~♪』

「又お前か、超巨大天狐。――取り敢えず、この天狐を如何思う速鳥?」

「……モフモフしているな。」

「お前に聞いた私がバカだった……」

此れを見ても其れで済ますとは、速鳥の天狐愛は恐るべしだ。
実害はないから、この超巨大天狐は放置するが、今度禊場に現れたら問答無用で捕獲して、ペットにしてしまうか?なはととりひとも
喜びそうだからな。

そんな訳で速鳥と禊をした。――気力が大幅に上がったようだな。