Side:梓
速鳥からの狼煙が上がり、大和の命を受け、息吹と那木を連れて『乱』の領域にやって来たのだが……この瘴気の濃さは、ゴウエン
マの其れを上回るモノだ……結界を張った『鬼』は相当の力の持ち主なのだろうね。
ならば、確実にその『鬼』を狩らねばなのだが、領域に到着した私達を待っていたのは速鳥?……如何した、件の『鬼』はこの先に居
るのだろう?
――ザッ
って、跪いた?
「謝罪と、贖罪の機会を頂きたい――今一度、仲間と自分自身を信じる為に……自分も、貴殿と飛ぶ事を許して貰えるだろうか?」
「だとよ、如何する隊長?」
態々確認するまでもないだろ息吹?
是非もないさ速鳥、お前の力はオオマガドキを防ぐためにも絶対に必要になる物だ――寧ろ私からお願いしよう、お前の力を貸して
くれ速鳥!結界を解き、オオマガドキを防ぐために!
「承知した……!」
「って、オイオイ、言った傍から1人で行こうとするなよ?」
「……すまぬ。」
とは言え、流石に簡単にクセは抜けないか。
だが、この先に結界を張った『鬼』が居ると言うのならば其れを打ち倒すだけの事……オオマガドキなどと言う物は、絶対にこの世界
に齎してはならない物だからな!
討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務34
『影が信ずるもの』
そして、速鳥の案内で件の『鬼』が居る場所までやって来たのだが……成程、コイツはゴウエンマ以上の強敵である事は間違いなさ
そうだな。
秋水がまとめた資料によれば、この『鬼』はクナトサエ……動きは重鈍だが、其れを補って有り余る防御力を有している大型の『鬼』。
確かに、あの分厚い甲羅を叩き割るのは骨が折れそうだ……此れは、ある程度の長期戦を覚悟していた方が良いかも知れないな。
「そんじゃまぁ、力を合わせて鬼退治と行きますか!」
「油断は禁物だが、過度な緊張も良くない――油断せず、しかし緊張せずにこの『鬼』を打ち倒そう!
少なくとも、コイツを倒せば、『鬼』の張った結界の力は半減するだろうから、突破は容易になるし、打ち倒せばウタカタの里に攻め
込まれる事もなくなるからね。」
「自分は飛ぶ、仲間と共に。」
あぁ、共に行こう!
あの甲羅は厄介そうだが、堅い甲羅を持っていると言う事は、同時に重量がかさんで動きが重くなり、加えてどうしても動きは直線的
で単調になりがちだ。
更に、甲羅を背負っていると言う事は防御は甲羅頼みであり、甲羅に覆われていない四肢や尾、頭は其処まで防御が高くない筈だ
から、其処を中心に攻め立てるぞ!
「了解した。
が、奴は其れだけでなく、巨大な角から雷を放ち、尾を振って竜巻を起こし、口からは眠気を誘う息を吐く……気をつけられよ。」
「意外と芸達者って訳か?だが、何とかなるさ。」
何とかするしな。
だが、そう言う事ならば……那木、お前は兎に角奴の頭を集中攻撃してくれ。致命傷は狙わなくて良いから、雷と息を放つ暇を与え
いようにしてくれるか?
「了解でございます。」
「息吹と速鳥は、尾を切り落としてくれ。
内部生命力は残っていても、切り落としてしまえば竜巻は発生させる事が出来なくなるはずだ。」
「カゼキリも、尾を切っちまえば鎌鼬を発生させる事は出来なくなったからな。了解、任せときな!」
「了解した。して貴殿は?」
私は背中の巨大な角?……爪?いや、角が正しいか?……とにかくアレを砕き折る!
オヤッさんが作ってくれた最高の業物を、私の魔力でコーティングすれば、恐らくはダイヤモンド――金剛石ですら両断出来る筈だか
らね?所詮はカルシウムの集合体である角など、ドレだけ高密度でも折れない筈がない!
「成程な……アンタなら、そんな事しなくても、普通に殴ってアレを折る事が出来るだろうけどな。」
「出来なくないが、幾ら私でも堅い物を殴れば指が痛いんだよ。だからやりたくないんだ。」
いっその事、オヤッさんに格闘用の籠手でも作って貰うか?だが、そうなると六爪流は使えないから…うん、六爪流と蹴撃で行こう。
『ガァァァァァァァァァァァァァァァ!』
と、此方が話してるのを見て先制攻撃か、クナトサエ。
その巨体によるボディプレスは、下手をしたら戦車や装甲車ですらペチャンコのおせんべいになってしまうかも知れないが、私達はそ
んなスローな攻撃を喰らってやるほどお人好しではない。
各員散開!夫々の役割を果たせ!!
「「「了解!」」」
祝福の風の前に、平伏して貰うぞクナトサエよ――さぁ、狩りの時間だ!!
――――――
No Side
そうして始まったのは、戦闘と言うのも疑問が残る光景だった。
神業的な速度で次々と矢を放つ那木の攻撃にさらされたクナトサエは、頭を守るべく防御姿勢を取り、そのせいで雷攻撃や睡眠効果
のある息を吐く事が出来なくなっている。
更に息吹と速鳥が、竜巻を発生させる尾を集中攻撃。
梓の読み通り、甲羅に覆われていない分だけ防御力は低いが、其れでもその強靭さはゴウエンマの尾に匹敵する――だがしかし、
其処は百戦錬磨の息吹と速鳥だ。
「打ち倒す。」
「これでも喰らいな!」
速鳥が『穏』のタマフリである『秘針』をクナトサエの尾に放って防御力を低下させると、間髪入れずに息吹が連塵突を放ち、目にも留
まらぬ連続突きでクナトサエの尾を切り落とす!
そしてその尾は、事前に梓が発動していた『空』のタマフリの祓殿の効果で鬼祓いされて浄化。此れで尾が再生する事はなくなった。
「おぉぉぉぉぉ……闇に沈め!!」
そして、今回の戦闘に於いても圧倒的な強さを発揮しているのは梓だ。
己の魔力でコーティングした事で、闇色に輝いている6本の刀を六爪流剣術で見事に操り、クナトサエの背部に存在している巨大な
角とも爪とも言えない部位を、まるでレーザーメスで切ったかの如く見事に両断!
確りと『壊』のタマフリである『断祓』を発動して、部位破壊と同時に浄化もしてしまうのは流石と言える。
更にそれだけではなく、クナトサエの前に降り立つと……
「人間を舐めるな!!」
――ドガァァァァァァァァァァァァァァ!!!
気合一発、踵落とし一閃!
人体で最も堅い部位の一つである踵を力任せに、更に踵に金属コーティングがされている靴を履いた状態で叩きつけられては如何
に『鬼』と言えども堪った物ではなく、クナトサエの頭部の角が一撃で粉砕!
恐らく、鬼に踵落とし――ネリチャギを喰らわせたモノノフなど、世界の何処を探しても此れが初めてなのは間違いないだろうが。
「おぉ、相変わらずやるなぁ隊長?」
「貴殿を見て居ると、強さに限界はないのだと思い知らされる。」
だが、そんな非常識な攻撃ですら、ウタカタのモノノフ達には士気を上げるためのモノでしかないらしく、息吹も速鳥も梓に乗せられる
形で猛攻を加え、右前足と左後ろ足を破壊する。
尤も、こんな事が出来たのも、那木が並みの弓使いでは到底出来ないような高速射撃を行っていた事も大きいだろう。
クナトサエの最大の武器である雷撃と睡眠吐息を使わせないように、常に攻撃していた事が、結果として完全に流れを此方に引き寄
せる要因になっていたのだ。
とは言え、クナトサエとて簡単にやられる鬼ではない。
――キィィィィィィン!
『グガァァァァァァァァァァァァァァァ!!』
形勢不利と見るや否や、タマハミ状態となり、己の凶暴性を解放する。
そしてタマハミ化した事で、甲羅にフジツボの様に張り付いていた突起が肥大化し、甲羅から生じる砲塔の如く形を変える。
「此れは……危険な状態でございます。」
「今一度信じてみよう、仲間を。」
其れでも恐れる事は何もない。
確かにクナトサエは初めて戦う鬼だが、追い詰められた鬼がタマハミ状態となって凶暴化するなど、モノノフにとっては日常茶飯事で
あり、こんな事で一々驚いてはいられないのだ。
とは言え、タマハミ状態で姿を変化させる大型の『鬼』は、総じて強力である場合が多く、クナトサエもタマハミ前と比べたら、相当に
力を増しているのだが……
「往生際が悪いぞ。」
――ひょい
――ズデェェェェェェェェェン!!
梓がクナトサエの甲羅を掴んで、まさかの甲羅返し発動!
亀にとって死刑執行とも言える裏返し攻撃は、甲羅を背負ったクナトサエにも有効であり、タマハミ化で変化した砲塔が支柱の役目を
果たして、クナトサエは物の見事に完全無防備状態。四肢をばたつかせたところで起きるのは不可能に近い。
「此れで終いだ……不動金縛!」
其処にダメ押しとばかりに速鳥が不動金縛を発動し、引っ繰り返されたクナトサエの動きを完全封殺!
故に、この時点でクナトサエの運命は決定したと言えるのだ。
「オオマガドキを是とするために現れたのだろうが、相手が悪かったなクナトサエよ。
我はリインフォース・梓……ウタカタを守護する最強のモノノフだ……貴様は此処で討ち倒す!精々、地獄での余生を楽しめ!!」
完全に動く事が出来なくなったクナトサエに対して、梓が突撃し、目にも留まらぬ六爪流の連続攻撃を繰り出し、最後にX字状に相手
を斬りつける。
普通なら、此れだけでも戦闘不能になりそうなものだが、しかしクナトサエは持ち前の防御力で何とか耐えていたのである。
しかし其れも此処までだ。
「決めちまってくれ、隊長。」
「無論だ!刃持って血に染めよ……穿て、ブラッディダガー!!」
トドメに放たれた梓のブラッディダガーが的確に命中し、凶暴化していたクナトサエの生命力を刈り取る。
速鳥1人では対処できなかった『鬼』も、ウタカタのモノノフが力を合わせれば倒す事の出来る相手でしかなかった様だ――クナトサ
エとの戦いは、其れを証明する物であった。
「……また自分が、仲間を信ずる事が出来ようとはな……」
同時にこの勝利は、速鳥の心の中で燻っていた問題にも、一先ずの決着を齎したようだった。
――キィィィィン……バシュン!
『全ての民が平穏に暮らせるように。』
――ミタマ:???を手に入れた。
梓が、新たなミタマを宿した結果を持ってして。
――――――
Side:梓
ふぅ、中々に頑丈な相手だったが、引っ繰り返してしまえば思いのほか脆かったな……まさか、甲羅を持つ者共通の弱点が有効であ
ったのは予想外だったがな――ともあれ、無事帰還だ。
「皆、お帰り!」
「初穂、待っていてくれたのか。」
「速鳥、よく『鬼』を見つけてくれた。皆も良く戦ったな。」
桜花……なに、速鳥が『鬼』を見つけてくれたお陰さ――そうでなかったら、もっと結界の鬼を倒すのには時間が掛かって居ただろう
からね。
此度の功績は、速鳥のものさ。
「……自分は、ただ……」
「……自分の任を果たしたまで、だろ?」
「……貴殿に言われる筋合いはない。」
「オイオイ、此処は友情を確かめ合う場面じゃないのかい?」
かも知れないが、此れで速鳥らしさが戻って来たと言う所だろう――だが、クナトサエを討ったとは言え、結界が解けるかは分からな
いと言う所だな?結界を張った鬼はもう1体居る訳だから。
「大丈夫です。」
「「橘花?」」
桜花と被ったが、大丈夫とは?
「塔の周囲に張られた結界が、確かに弱まるのを感じました――私達は、確実に前に進んでいる筈です。」
「っし、上出来じゃねぇか!」
橘花が言うのならば間違いないな。
何にしても、速鳥……良くやってくれた。お前がクナトサエを見つけてくれなかったらウタカタは窮地に陥って居ただろうからね。
「隊長……しかし、まだ自分の失態を補うには足りない……」
「お前が、何時失態を犯した速鳥?」
「は……?」
塔を見つけたのはお前だ。其れを功績と言わずに何と言うんだ?――私は、お前が失態を犯したとは思って居ないぞ?
お前もそうだろう大和?
「うむ、そうだな。
何やら思い詰めている様だったが、放っておいたのは正解だったな――かえって、いい仕事をした。」
「知っていて放置していたのかお前は……中々良い性格をしているな。
だが、残る敵はあと1体……何時までも喜んでいる訳にも行かないだろう――次の『鬼』を見つけ出す為に動かねばな。」
「その通りだ梓……だが、俺のセリフを取るな。」
ふふ、其れは悪かったな大和。
だが、残る1体の鬼を探し出すのが急務なのは間違いない――発見の報があるまで、各員待機せよ。何時でも出撃できるように準
備をしておいてくれ。
「「「「「「了解!!」」」」」」
頼むぞ。
で、皆が本部から出て行ったのだが……何か用か速鳥?
「梓殿……貴殿が自分を、迷いの中から連れ出してくれた――だから、自分は貴殿の為に飛ぼう。」
「そうか……宜しく頼む。」
「信じて頼ってこその信頼か……不思議だな。
すぐ側に、友は居たと言うのに気づかないものだ。」
――カッ!!
――バシュン!!
『我、来たり。』
――ミタマ『児雷也』を手に入れた。
って、此れは分霊?――速鳥との絆が深まった証と言う所かな此れは。
「ミタマが……?
……託すに不足なし。自分の心、貴殿に預けよう――どうか、宜しくお願いする。」
あぁ、確かに受け取ったよお前の心をな。
予期せぬ分霊で新たなミタマを宿す事が出来たが……クナトサエから手に入れたミタマは一体何者なのだ?――歴史上の人物で
有るのは間違いないが、私はあのミタマの波動に覚えがある。
遠い昔に、拳を交えた記憶が……アレは一体――
『また、会いましたね。闇の書の意志よ。』
「!!!」
此れは……この声はまさか!!
あり得ない事だが、クナトサエから取り戻したミタマは、まさかお前なのか?戦乱期のベルカを生きた悲劇の聖王――オリヴィエ!!
こんな事があるとは、マッタク持って予想もしていなかったよ……
To Be Continued…
おまけ:本日の禊場
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