Side:梓


秋水曰く、速鳥もまた過去の因縁に捕らわれているとの事だったが、一体速鳥はどんな過去を背負っていると言うのだろうか?
速鳥もまだまだ年若いが、それだけにその若さで重い過去を背負ったと言うのは気になるな――先ずは、速鳥と会って話をきいてみ
るのが一番だな。

打ち明ける事で楽になると言う事もあるからね。


で、こんな所にいたのか速鳥――神木の前で、何をしているんだ?



「梓殿……不躾な質問とは思うが、貴殿は悩む事が有るか?
 自分のした事が正しかったか否か。」

「……うん、本当に唐突だな速鳥よ。
 だが、その問いに関する答えは『ある』だよ――此れは仕方のない事だと自分に言い聞かせて来た事でも、それが本当に正しかっ
 たのかと問われれば、諸手を上げて『是』とする事も出来ない。」

「そうか――自分は……ずっと悩んでいる。」



ずっと悩んでいるとは、相当だな速鳥――もしよければ、一体何に悩んでいるのか教えてくれないか?
場合によっては、力になれるかも知れないからね。












討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務33
『結界を解け!』











「かたじけない。では、話させて頂く。
 先も言ったが、自分はずっと悩んでいる……あの日、仲間を斬ったのが正しかったのか。」

「!?」

仲間を斬っただと?如何言う事だ速鳥!



「…………自分は……忍の隠れ里の出身。
 十の頃から忍びとして働いていた――子供と見れば、誰もが油断する……自分は、優秀な暗殺者だった。
 ある時、重要人物を殺せと司令を受けた。理由は知らぬ。指令があれば果たす、其れが忍。
 だが……行った先で待っていたのは子供だった。自分とさほど年の変わらない童女――自分は、殺せなかった……
 しかし、仲間達は承服しなかった。だから自分は……」

「仲間を斬って、その子供を助けた……か。」

「如何にも……そして、仲間を斬って、自分は逃げた。
 以来、抜け忍として追われる身――お頭に拾って貰わねば、何処かで野垂れ死んでいただろう…自分は1人だ、仲間は居ない。
 いや……仲間を持つ資格がない。仲間を裏切り、殺したのだから……故に、どんな任務も、己の力で果たさねばならぬ。
 それが、自分の贖い……」



バカを言うな、仲間なら居るだろう!



「……貴殿は強い。そう信じられる事が、羨ましい。
 貴殿には教えられてばかりだ。己の責任と向き合う事を……」

「己の責任……だと?」

まさか、速鳥!!――何もかも自分1人で背負う心算か!!
自分1人で背負うなど、そんな物は仲間を蔑ろにした自己満足に過ぎないんだぞ!!大体、今回の事で一体お前に何の責がある!



「………」


――シュン!


消えた?……初めて見たが、まさか忍術か!?……マッタク頑固だな!
だが、己の責任と向き合い、其れを果たすと言うのならば、行先は本部しかない……見事な忍術だったが、私にも魔法が有るのだ。
行先さえ分かれば、追うのは容易さ。

「速鳥!」

「!……梓殿……」

「また1人で行くのか?」

「……結界を張った『鬼』を探し出す。――失態は、己の手で償う。」



成程、良い心掛けだ。賞賛に値する――其れが、ウタカタのモノノフと言う組織に打撃を与える可能性がないのであったならばな。
自分が正しいと思った行動をするのは良いが、もっと仲間を頼れ。私達は、ウタカタのモノノフと言う仲間だろう!違うのか、速鳥!!



「梓殿……確かに自分は、ウタカタに来てから誰も信じていなかった――仲間を……自分自身すらも。
 だが……信じねば、開けぬ道もあるか。……貴殿の好意に感謝する。
 今度こそ、仲間を……己を失わぬために果たさねばならん役目がある。故に、自分は行く。……御免。」

「速鳥……」

私1人で追っても良いが、其れでは速鳥は納得しないだろう。――ならば、もっと大勢で押し掛けるのみだ!!
そうと決まれば善は急げだ。確か、本部の武具箪笥に……あった、何処から持って来たか分からないが面白いからよろず屋で購入
したメガホン。

此れを使って……

「緊急招集!緊急招集!
 ウタカタのモノノフは本部に集合せよ!」


「な、何事だ梓!!」

「テメ、人の耳ぶっ壊す気か!」

「凄まじい声量でございます……」

「いやぁ、アンタの声は良く通るな?」

「一体何なのよ梓?」



おぉ、集合速いな?
あまり時間がないから、簡単に言うぞ?……速鳥が、結界を張った『鬼』を探しに1人で出て行った。



「速鳥が……?」

「あいつ……また1人で……!」

「あぁ、1人で行ってしまったんだ――私としては速鳥の後を追うのが最善だと思う。
 如何に速鳥が手練れとは言え、結界を張る程の力を持った『鬼』を1人で討ち果たすのは難しいだろう……大和は、如何考える?」

「…………梓、お前は速鳥を信じるか?」



愚問だな、信じるに決まっている。
仲間を信じずに何が出来る?何よりも、私はウタカタの隊長だ。隊長が仲間を信じないで如何しろと言うんだ。



「奴は、必ず役目を果たす――其れまで待っていてやってくれ。」

「だが…!!」

「奴は『鬼を探す』と言ったのだろう?……ならば、探しても無理に討ち果たそうとはしない筈だ。
 此れまで速鳥は、1人で任を果たす事が多かったが、しかし相手との力量差を見極められない馬鹿ではない――もしも、そうであっ
 たのならば、先の『塔』の一件で件の鬼に挑み、討ち死にしていただろうからな。」



それは……確かにそうかも知れないが――いや、信じると言ったのは私だ。
ならばウタカタで、誰よりも速鳥との付き合いが長い大和の言葉を信じるさ。……だが、『鬼』の捜索を速鳥1人に任せて良いと言う事
でもないだろう?
探し物をする場合、人手は多い方が良いし、速鳥の話では『鬼』は2体居た筈だから、何方か1体でも見つけられれば御の字だ。



「あぁ、俺達は、速鳥とは別の方角を探るぞ。」

「了解だ。」

幾つか新しい御役目も出ていたから、其れを熟しながら件の鬼を探すとしよう。
運が良ければ、出撃した先で、件の『鬼』のどちらかと遭遇するかもしれないしね……って、そう言えば速鳥から、どんな『鬼』だった
のか聞いていなかったな?

まぁ、此れまで戦ってきた大型の『鬼』とは違うだろうから、見た事のない『鬼』を見つけたら、一度本部に戻って来る事にしよう。
出ている御役目は、『雅』『武』『安』『古』の計4つか……ならば部隊を2つに分けよう。
戦力配分を考えると、桜花は私と一緒に『古』と『武』の領域を、初穂と息吹と富嶽と那木は『安』と『雅』の方を頼む。



「分かった。共に行こう!」


「了解!任せておきなさい梓♪」

「しゃーねーな?一暴れするぜ伊達男!!」

「良いねぇ?アンタとなら大暴れも面白そうだ。」

「此方はお任せ下さい梓様。」



あぁ、任せた。

私達は私達で結界を張った『鬼』を追うから、お前も無理だけはするなよ速鳥?――お前はもう1人じゃないんだ、私達を、仲間を頼
ってくれ!!






で、私達は私達で鬼の探索なんだが……



――『古』の領域


「結界を張った『鬼』は居なかったが、まさかコイツが居るとは思わなかった……此れで、都合3度目の戦いだなタケイクサとは。」

「だが、これ程の鬼が現れるとは、鬼が作っている塔の影響はあるみたいだな。
 とは言え、結界を張った『鬼』ではないが見過ごす事も出来ないし、里に近付かせる訳にも行かない……此処で討つぞ梓!!」

「是非もない。
 結界を張った『鬼』の探索が主とは言え、その最中に出会った『鬼』を討ってはいけないとは言われていないからね……滅する!」

『古』の領域ではタケイクサと遭遇して、此れと交戦。
『雅』の領域で出会った個体よりも幾分強かったが、ハッキリ言って私と桜花の敵ではない。
桜花の太刀筋は相変わらず鋭いし、六爪流を会得した私の攻撃は、片腕で3つの斬撃が襲い掛かるのだから単純計算で攻撃力は
双刀の3倍!大型の鬼とは言え堪った物ではない筈だ。

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……此れで消えろ!!」


――ズガァァァァン!!!


4本の腕と角と腰回りの何かの全てを破壊した後は、六爪流で細切れにした所にナイトメアハウルを発射して完全滅殺!!!





――『武』の領域


続く『武』の領域では……


『ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!』

「な、ゴウエンマ!?」

「指揮官は1体ではなかったと言う事か?
 或は、このゴウエンマは指揮官ではないのか…何れにしても、このレベルの鬼を野放しにする事は出来ん――討ち倒すだけだ。」

『鬼』の指揮官だったゴウエンマが再び登場。
指揮官のゴウエンマと比べると攻撃力は高いみたいだが、だからと言って、苦戦するとかと問われれば其れは否だ。

「封縛!!」



――ガキィィィン!!!



「此れは……」

「拘束魔法の一種『封縛』。
 我が魔力の鎖に捕らえられたら最後、逃げる術はない。腕力か、封縛の拘束に勝る魔力で拘束を破壊しない限りな。」

そして、四肢を完全に拘束しているので動く事は出来ない。
だから此れで終わりだ!!合わせろ桜花!!

深き闇に沈め!!

華と散れ!橘花繚乱!!



ダブル鬼千切りで一撃粉滅!
如何に指揮官級の『鬼』であるとは言え、ウタカタ最強とウタカタのエースの前では、そんな物は塵芥に等しいモノだ――精々地獄で
己の愚行を悔いるが良い。

「我が六爪流に討たれた事を誇りに思うが良い。」

「よし、勝ったな!」



と言う感じでマッタク持って楽勝だ。――件の『鬼』を見つける事は出来なかったがね。
領域全部をくまなく探して何処にも居なかったのだから『古』と『武』の領域には存在していないのかもしれん――一先ず、本部に戻
って大和の指示を仰ぐか。
若しかしたら初穂達の方で発見して居るかも知れないからね。



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で、里に帰還したのだが、初穂達は既に戻ってきていたのか……その顔を見る限り、成果は上がらなかったと言う所か。だとしたら
あまりいいモノではないのだが――



「皆集まって居るな?……速鳥からの狼煙が上がった。」



此処で速鳥が!!と言う事はまさか!!



「結界を張っている『鬼』を見つけたぞ。」



矢張りか!!やってくれたんだな、速鳥……!!お前は立派に己の責を果たした……素晴らしい事だ!更には狼煙を上げたと言う
事は発見の報であると同時に強大な敵がいる証でもあるからな。
大和の言う通りだた、速鳥は必ず役目を果たす――大したモノだが、さて、誰が行った物かな?



「梓、息吹、那木、急ぎ合流して『鬼』を討て!絶対に逃すな!」

「あぁ、分かっている!行くぞ那木、息吹!!」

「お任せを!」

「また1人で突っ込むなよ、速鳥……」



息吹の言う通りだ、絶対に1人で立ち向かうなよ?
お前はもう1人じゃないし、苦楽を共にする仲間が居るんだ――その仲間が今から向かう!くれぐれも先走った真似だけはしてくれる
なよ速鳥!!


待っていろ、直ぐに行くからな!











 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場